インドで再生可能エネルギーのコーポレートPPA(電力購入契約)事業に参入する日系企業が現れ始めた。安価で環境価値のある電力を求める電力消費者が増加しており、住友商事と大阪ガスは地場企業と提携して事業を進める。
住友商事と提携するAMPINエナジートランジションが西部グジャラート州に保有する太陽光と風力発電所(インド住友商事提供)
温室効果ガスの削減などを目的に、インド政府は国内の再エネ電源に関して2030年までに累計50万メガワットを導入する目標を発表している。こうした政府の発表と呼応して、発電事業者は再エネ発電所の導入を加速化しており、24年10月には発電容量が20万メガワットを達成した。
こうした中、発電事業者から直接電力を購入するコーポレートPPAを利用する電力消費者も増え始めている。電力消費者は温室効果ガスの削減目標達成に向け、環境価値のある電力を得ることができる一方、配電公社(DISCOM)から購入する電力よりも安価に調達できる可能性があるためだ。
一般的に、インドでは太陽光や風力などの再エネ発電所は火力など化石燃料を活用する発電所と比較して均等化発電原価(LCOE)が低い。さらに、発電事業者がプロジェクトごとに組成する特別目的会社(SPV)に対し、PPAを締結する電力消費者が出資した場合、DISCOMに支払う各種サーチャージを削減できる支援制度もある。
■住商、26年度までに1,000メガワット供給目標
こうした中、日系企業がコーポレートPPA事業に参入し始めている。
住友商事は昨年9月に地場再エネ発電事業者のAMPINエナジートランジションと合弁会社を設立し、PPA事業に参入した。太陽光や風力による電力を電力消費者に長期間販売。27年3月までに総事業費1,000億円を投じて、出力計1,000メガワットの電力供給を目指している。
同事業では、電力消費者の需要地に遠隔地で開発した発電所から送配電網を通じて電力を供給する「オフサイト型」と、工場の屋根上に太陽光発電設備を設置するなど送配電網を活用しない「オンサイト型」で展開。現時点でオフサイト型のみで出力計約150メガワットの発電所を着工しており、うち75メガワット分は製造業の日系2社を含む十数社とPPAを締結した。早ければ6月末にも電力供給を開始する予定で、インド住友商事パワー&リニューアブルエネルギー部でビジネスヘッドを務める高橋直弘氏は、「事業は順調で、1,000メガワット目標は達成できそうだ」と自信を見せる。
同事業では、住友商事が資金調達や日系を含む外資系企業に対する営業を担い、AMPINは各種制度の手続きや発電所の開発、地場企業への営業を実施する。インド住友商事パワー&リニューアブルエネルギー部でゼネラルマネージャーを務める平山潤氏は、「AMPINは、17年のPPA事業開始以来、インドのすべての州でPPA事業を実施した実績を持つ。現地で発電所の建設などを手がけるEPC(設計・調達・建設)企業や運用を手がけるO&M(保守・管理)企業とのネットワークも強い」と説明する。長期的には、総合商社の強みを生かし、他部署と連携しながらデジタルトランスフォーメーション(DX)や蓄電池、エネルギーマネジメントなどの提供を検討する。
大阪ガスと合弁事業を進めるクリーンマックス・エンバイロ・エナジー・ソリューションズが南部カルナタカ州に保有する太陽光と風力発電所(大阪ガスインディア提供)
■大阪ガス、提案力強みにPPA展開
大阪ガスは今年3月に、地場再エネ開発のクリーンマックス・エンバイロ・エナジー・ソリューションズ(クリーンマックス)と合弁会社を設立し、PPA事業に参入すると発表。オフサイト型で開発する太陽光や風力による電力を販売する方式で、28年3月までに南部を中心に出力計400メガワットを開発し、電力供給を進めたい考えだ。
大阪ガスが合弁会社を通じて展開するPPA事業の強みは提案力だ。日本で再エネをはじめとするエネルギー商品を販売してきた営業社員が常駐しているほか、21年から開始した都市ガス事業の商品と併せて提案することで、幅広いエネルギー商品をそろえる。またクリーンマックスがEPCを手がけている点も強みで、発電所の建設にかかるコストを比較的低く抑えられる上、建設品質の安定化につながる。
合弁会社は近日中に設立する予定で、クリーンマックスから譲渡を受ける出力計300メガワットの稼働済み再エネ発電所の電力の大部分は、日系企業を含む10社弱とPPAを締結した。残る出力計100メガワット分に関しては、電力消費者とPPAを結び次第、開発に取りかかるという。大阪ガスインディアリニューアブルエネルギーチームでゼネラルマネジャーを務める大藪裕氏は、「事業運用の確認も含め、まずは小規模から実施する」と説明し、「現時点ではよい感触を持っている」と話した。
■日系の参入余地はあり
PPA事業には他にも、リニュー(ReNew)やブルーパイン・エナジー、ベンタス・エナジー・コンサルタンシーといった再エネ関連企業が参入する。一方、レッドオーシャン(競争の激しい市場)になってはおらず、新規参入の余地は残る。日系企業の中でも参入を狙う企業はあるようで、国際協力銀行(JBIC)ニューデリー駐在員事務所の今堀晋一良次席駐在員は、「PPA事業に関心を持つ日系企業からの問い合わせは多い」と話す。
住友商事は、インドのPPA市場は23年の1万2,000メガワットから、30年には10万メガワットに拡大すると試算する。各州でPPA事業を可能にする制度が構築しつつある中、今後日系企業の参入は拡大するかもしれない。
<メモ>
住友商事とAMPINエナジートランジションが設立した合弁会社は「AMPIN C&Iパワー」。出資比率は、住友商事が49%、AMPINが51%。
大阪ガスは、同社子会社の大阪ガスシンガポールがJBICと設立した日系コンソーシアム、DJリニューアブルズを通じて、合弁会社「クリーンマックス オオサカガス リニューアブルエナジー(CORE)」を設立する。出資比率は非公表だが、日本側の出資は過半数に満たないマイノリティー出資となる。
※特集「過熱する再エネ発電市場」(中)は、6月中旬に掲載予定です。
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こうした中、発電事業者から直接電力を購入するコーポレートPPAを利用する電力消費者も増え始めている。電力消費者は温室効果ガスの削減目標達成に向け、環境価値のある電力を得ることができる一方、配電公社(DISCOM)から購入する電力よりも安価に調達できる可能性があるためだ。
一般的に、インドでは太陽光や風力などの再エネ発電所は火力など化石燃料を活用する発電所と比較して均等化発電原価(LCOE)が低い。さらに、発電事業者がプロジェクトごとに組成する特別目的会社(SPV)に対し、PPAを締結する電力消費者が出資した場合、DISCOMに支払う各種サーチャージを削減できる支援制度もある。
■住商、26年度までに1,000メガワット供給目標
こうした中、日系企業がコーポレートPPA事業に参入し始めている。
住友商事は昨年9月に地場再エネ発電事業者のAMPINエナジートランジションと合弁会社を設立し、PPA事業に参入した。太陽光や風力による電力を電力消費者に長期間販売。27年3月までに総事業費1,000億円を投じて、出力計1,000メガワットの電力供給を目指している。
同事業では、電力消費者の需要地に遠隔地で開発した発電所から送配電網を通じて電力を供給する「オフサイト型」と、工場の屋根上に太陽光発電設備を設置するなど送配電網を活用しない「オンサイト型」で展開。現時点でオフサイト型のみで出力計約150メガワットの発電所を着工しており、うち75メガワット分は製造業の日系2社を含む十数社とPPAを締結した。早ければ6月末にも電力供給を開始する予定で、インド住友商事パワー&リニューアブルエネルギー部でビジネスヘッドを務める高橋直弘氏は、「事業は順調で、1,000メガワット目標は達成できそうだ」と自信を見せる。
同事業では、住友商事が資金調達や日系を含む外資系企業に対する営業を担い、AMPINは各種制度の手続きや発電所の開発、地場企業への営業を実施する。インド住友商事パワー&リニューアブルエネルギー部でゼネラルマネージャーを務める平山潤氏は、「AMPINは、17年のPPA事業開始以来、インドのすべての州でPPA事業を実施した実績を持つ。現地で発電所の建設などを手がけるEPC(設計・調達・建設)企業や運用を手がけるO&M(保守・管理)企業とのネットワークも強い」と説明する。長期的には、総合商社の強みを生かし、他部署と連携しながらデジタルトランスフォーメーション(DX)や蓄電池、エネルギーマネジメントなどの提供を検討する。
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■大阪ガス、提案力強みにPPA展開
大阪ガスは今年3月に、地場再エネ開発のクリーンマックス・エンバイロ・エナジー・ソリューションズ(クリーンマックス)と合弁会社を設立し、PPA事業に参入すると発表。オフサイト型で開発する太陽光や風力による電力を販売する方式で、28年3月までに南部を中心に出力計400メガワットを開発し、電力供給を進めたい考えだ。
大阪ガスが合弁会社を通じて展開するPPA事業の強みは提案力だ。日本で再エネをはじめとするエネルギー商品を販売してきた営業社員が常駐しているほか、21年から開始した都市ガス事業の商品と併せて提案することで、幅広いエネルギー商品をそろえる。またクリーンマックスがEPCを手がけている点も強みで、発電所の建設にかかるコストを比較的低く抑えられる上、建設品質の安定化につながる。
合弁会社は近日中に設立する予定で、クリーンマックスから譲渡を受ける出力計300メガワットの稼働済み再エネ発電所の電力の大部分は、日系企業を含む10社弱とPPAを締結した。残る出力計100メガワット分に関しては、電力消費者とPPAを結び次第、開発に取りかかるという。大阪ガスインディアリニューアブルエネルギーチームでゼネラルマネジャーを務める大藪裕氏は、「事業運用の確認も含め、まずは小規模から実施する」と説明し、「現時点ではよい感触を持っている」と話した。
■日系の参入余地はあり
PPA事業には他にも、リニュー(ReNew)やブルーパイン・エナジー、ベンタス・エナジー・コンサルタンシーといった再エネ関連企業が参入する。一方、レッドオーシャン(競争の激しい市場)になってはおらず、新規参入の余地は残る。日系企業の中でも参入を狙う企業はあるようで、国際協力銀行(JBIC)ニューデリー駐在員事務所の今堀晋一良次席駐在員は、「PPA事業に関心を持つ日系企業からの問い合わせは多い」と話す。
住友商事は、インドのPPA市場は23年の1万2,000メガワットから、30年には10万メガワットに拡大すると試算する。各州でPPA事業を可能にする制度が構築しつつある中、今後日系企業の参入は拡大するかもしれない。
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住友商事とAMPINエナジートランジションが設立した合弁会社は「AMPIN C&Iパワー」。出資比率は、住友商事が49%、AMPINが51%。
大阪ガスは、同社子会社の大阪ガスシンガポールがJBICと設立した日系コンソーシアム、DJリニューアブルズを通じて、合弁会社「クリーンマックス オオサカガス リニューアブルエナジー(CORE)」を設立する。出資比率は非公表だが、日本側の出資は過半数に満たないマイノリティー出資となる。
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