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自動車・食品・鉱業に日本商機パキスタン、カーン商業相に聞く

5月下旬に訪日したパキスタンのジャム・カマル・カーン商業相が東京都内でNNAのインタビューに応じ、「自動車や食品産業で日本のアドバンテージを生かしてほしい」と語った。中国のインフラ投資が進むバロチスタン州首相を務めたカーン氏は、同州の鉱山開発で、日本との共同開発を提案する。【遠藤堂太】
■自動車は輸出志向へ、EVシフトも

大阪・関西万博のイベントに合わせて訪日したジャム・カマル・カーン商業相=5月29日、東京都内(NNA撮影)

パキスタンの2024年の新車販売台数は13万台弱で、輸出入は限定的であるため、生産台数とほぼ合致する。このうちスズキ、トヨタ自動車、ホンダの3社で8割のシェアを占める。韓国(現代自動車と起亜)や中国(長城汽車や奇瑞汽車など)ブランド車が19年以降、相次ぎ現地生産を開始したが、「まだまだ街を走る車の多くは日本ブランド車」であり、このアドバンテージを生かして日本メーカーは事業を拡大してほしいと語った。

アフガニスタン・イランと国境を接し国土の4割を占めるバロチスタン州。州都クエッタ出身のカーン氏は昨年3月に商業相に就任した。クエッタのほかパキスタン最大都市カラチ、首都イスラマバードに家を持つが、家族用を含め10台近い車全てがトヨタ車で、「国土が広く、コンディションの悪い道路が多いパキスタンでも快適に走る」と日本ブランド車に全面的な信頼を寄せる。
カーン氏は現在の自動車産業について、生産能力が過剰であると述べたうえで、「シャバーズ・シャリフ首相は、内需だけではなく輸出型への転換を目指している」と語った。
昨年は日本からパキスタンに約4万台、製造5年以内の中古車が輸出されている。このことが、パキスタン国内の自動車工場の稼働率を押し下げ、産業の成長を阻害しているのでは、との質問に対しては「中古車の流入は大きな問題ではない」と語った。
一方、パキスタンでの電力不足は長期的には解消されつつあることから、電気自動車(EV)化が進む可能性があることを示唆。中国EV最大手の比亜迪(BYD)が現地生産の準備を進めているが、19年に生産を開始した起亜もEV生産を計画しているという。
■食品の付加価値化に期待
日本に期待しているのは農業・食品産業の高度化・付加価値化だ。水産業も未発達のため、ポテンシャルが大きく、「輸出が可能な品質までレベルを高めたい」という。ジュースや菓子類、デーツなどの農産・食品加工技術だけではなく、低温物流や食品の製造機械なども日本企業にとってチャンスがあると話す。
カーン氏は、自動車や食品を含め、「ポテンシャルの高い中央アジアへの輸出拠点として、パキスタンを活用してほしい」と述べた。パキスタンは中央アジアのウズベキスタンと鉄道で連結する構想を持っている。
■首相が訪日へ、資源開発を日パ官民で
カーン氏はシャリフ首相が訪日を計画していることを明らかにした。実現すれば、パキスタンの首相が訪日するのは20年ぶり。訪日時には両国案件として、バロチスタンでの鉱山開発を挙げる計画だ。バロチスタンは金・銅やレアアースの埋蔵が注目されている。
「日本は半導体材料などで(川上の)資源が必要」であり、両国の協力案件として実現させたいカーン氏。パキスタン政府が資源開発世界大手バリック・マイニングと進めるバロチスタンでの鉱山開発ではコマツの建機やダンプカーが導入されていると話した。政府機関の関係者によると、バロチスタンと鉱脈がつながるアフガニスタンでは資源が豊富で21年にタリバンが復権する前は日本企業も開発の可能性を探っていたほど有望だという。
しかし、バロチスタンでは中国企業がすでに資源開発を進めているほか治安が悪く、日本企業は躊躇(ちゅうちょ)するのでは、との質問に対しては「国境を接するイランなどをはじめ歴史的に微妙なバランスの地域だったことを理解してほしい」と語った。
■中国よりも息長い日本支援
中国は、巨大経済圏構想「一帯一路」の旗艦プロジェクト「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」を通じて、アラビア海への玄関口となるグワダル港や道路・電力インフラをバロチスタン州で整備した。

グワダル港周辺の様子=グワダル開発庁ホームページより

グワダル港についてカーン氏は、1980年代から計画があり、それが2013年からのCPECで実現できたとした。地域発着の貨物や積み替え需要はまだなく、事業採算性は厳しいが、カラチの港湾も稼働率は50%以下であることを例に挙げ、今後の成長に期待を示す。
CPECについてカーン氏は、1日12時間以上に及ぶ停電が解消されるなど大きなメリットがあったと述べたうえで、「短期的なプロジェクトではない。中国との2国間の長期的なアプローチによる投資だ」と話す。一方で、日本とは70年以上にわたり関係を構築してきたことも強調。1950年代の紡績・繊維業を皮切りに国際協力機構(JICA)のインフラや人材育成支援、衛生改善などはパキスタンの礎を構築しており、中国の支援よりもはるかに大きかったことも強調した。
■インドとの紛争、経済に影響なし
22~23年頃、パキスタンは外貨準備高不足や年率30%近いインフレに見舞われた。現在は最悪期は脱し、安定しつつある。
直近のインドとパキスタンの紛争で貿易や人の往来が禁じられたが、「経済的な影響は、ほとんどない」とカーン氏。パキスタンからインドへは農産品、インドからパキスタンへは薬品など貿易は限定的だったためだ。
一方、バングラデシュとの関係は「この4~5カ月間で大きく改善している」という。バングラデシュは昨年8月の政変で親インドのハシナ前首相がインドに亡命。暫定政権とインドの関係は悪化し、陸路輸送や人の往来に規制がある。カーン氏は、「元は1つの国であり、親族がいる人も多いパキスタンにとって、バングラデシュはアプローチしやすくなった」として経済面の活発な交流に期待を示す。

日本は初めての訪問というジャム・カマル・カーン商業相。ハイテクと伝統文化の融合、人々の規律正しさが印象的だという=5月29日、東京都内(NNA撮影)
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■自動車は輸出志向へ、EVシフトも
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パキスタンの2024年の新車販売台数は13万台弱で、輸出入は限定的であるため、生産台数とほぼ合致する。このうちスズキ、トヨタ自動車、ホンダの3社で8割のシェアを占める。韓国(現代自動車と起亜)や中国(長城汽車や奇瑞汽車など)ブランド車が19年以降、相次ぎ現地生産を開始したが、「まだまだ街を走る車の多くは日本ブランド車」であり、このアドバンテージを生かして日本メーカーは事業を拡大してほしいと語った。

アフガニスタン・イランと国境を接し国土の4割を占めるバロチスタン州。州都クエッタ出身のカーン氏は昨年3月に商業相に就任した。クエッタのほかパキスタン最大都市カラチ、首都イスラマバードに家を持つが、家族用を含め10台近い車全てがトヨタ車で、「国土が広く、コンディションの悪い道路が多いパキスタンでも快適に走る」と日本ブランド車に全面的な信頼を寄せる。
カーン氏は現在の自動車産業について、生産能力が過剰であると述べたうえで、「シャバーズ・シャリフ首相は、内需だけではなく輸出型への転換を目指している」と語った。
昨年は日本からパキスタンに約4万台、製造5年以内の中古車が輸出されている。このことが、パキスタン国内の自動車工場の稼働率を押し下げ、産業の成長を阻害しているのでは、との質問に対しては「中古車の流入は大きな問題ではない」と語った。
一方、パキスタンでの電力不足は長期的には解消されつつあることから、電気自動車(EV)化が進む可能性があることを示唆。中国EV最大手の比亜迪(BYD)が現地生産の準備を進めているが、19年に生産を開始した起亜もEV生産を計画しているという。
■食品の付加価値化に期待
日本に期待しているのは農業・食品産業の高度化・付加価値化だ。水産業も未発達のため、ポテンシャルが大きく、「輸出が可能な品質までレベルを高めたい」という。ジュースや菓子類、デーツなどの農産・食品加工技術だけではなく、低温物流や食品の製造機械なども日本企業にとってチャンスがあると話す。
カーン氏は、自動車や食品を含め、「ポテンシャルの高い中央アジアへの輸出拠点として、パキスタンを活用してほしい」と述べた。パキスタンは中央アジアのウズベキスタンと鉄道で連結する構想を持っている。
■首相が訪日へ、資源開発を日パ官民で
カーン氏はシャリフ首相が訪日を計画していることを明らかにした。実現すれば、パキスタンの首相が訪日するのは20年ぶり。訪日時には両国案件として、バロチスタンでの鉱山開発を挙げる計画だ。バロチスタンは金・銅やレアアースの埋蔵が注目されている。
「日本は半導体材料などで(川上の)資源が必要」であり、両国の協力案件として実現させたいカーン氏。パキスタン政府が資源開発世界大手バリック・マイニングと進めるバロチスタンでの鉱山開発ではコマツの建機やダンプカーが導入されていると話した。政府機関の関係者によると、バロチスタンと鉱脈がつながるアフガニスタンでは資源が豊富で21年にタリバンが復権する前は日本企業も開発の可能性を探っていたほど有望だという。
しかし、バロチスタンでは中国企業がすでに資源開発を進めているほか治安が悪く、日本企業は躊躇(ちゅうちょ)するのでは、との質問に対しては「国境を接するイランなどをはじめ歴史的に微妙なバランスの地域だったことを理解してほしい」と語った。
■中国よりも息長い日本支援
中国は、巨大経済圏構想「一帯一路」の旗艦プロジェクト「中国・パキスタン経済回廊(CPEC)」を通じて、アラビア海への玄関口となるグワダル港や道路・電力インフラをバロチスタン州で整備した。
[caption id="attachment_26874" align="aligncenter" width="620"]グワダル港周辺の様子=グワダル開発庁ホームページより[/caption]
グワダル港についてカーン氏は、1980年代から計画があり、それが2013年からのCPECで実現できたとした。地域発着の貨物や積み替え需要はまだなく、事業採算性は厳しいが、カラチの港湾も稼働率は50%以下であることを例に挙げ、今後の成長に期待を示す。
CPECについてカーン氏は、1日12時間以上に及ぶ停電が解消されるなど大きなメリットがあったと述べたうえで、「短期的なプロジェクトではない。中国との2国間の長期的なアプローチによる投資だ」と話す。一方で、日本とは70年以上にわたり関係を構築してきたことも強調。1950年代の紡績・繊維業を皮切りに国際協力機構(JICA)のインフラや人材育成支援、衛生改善などはパキスタンの礎を構築しており、中国の支援よりもはるかに大きかったことも強調した。
■インドとの紛争、経済に影響なし
22~23年頃、パキスタンは外貨準備高不足や年率30%近いインフレに見舞われた。現在は最悪期は脱し、安定しつつある。
直近のインドとパキスタンの紛争で貿易や人の往来が禁じられたが、「経済的な影響は、ほとんどない」とカーン氏。パキスタンからインドへは農産品、インドからパキスタンへは薬品など貿易は限定的だったためだ。
一方、バングラデシュとの関係は「この4~5カ月間で大きく改善している」という。バングラデシュは昨年8月の政変で親インドのハシナ前首相がインドに亡命。暫定政権とインドの関係は悪化し、陸路輸送や人の往来に規制がある。カーン氏は、「元は1つの国であり、親族がいる人も多いパキスタンにとって、バングラデシュはアプローチしやすくなった」として経済面の活発な交流に期待を示す。
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