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配車台頭で苦境、大手に明暗変革迫られるタクシー業界(上)

インドネシアのタクシー各社が変革を迫られている。ITを駆使した配車サービスの台頭で業績が圧迫され、最近は電気自動車(EV)を売りとする新興タクシー会社も出てきた。インドネシア証券取引所(IDX)に上場する大手2社では、最大手ブルーバードとかつての業界2位エクスプレス・トランシンド・ウタマの明暗が鮮明。業績は両極端だが、それぞれ事業構造の再設計が必要なことは共通する。

乗客を待つタクシー「ブルーバード」の車両=5月31日、ジャカルタ(NNA撮影)

ブルーバードのアドリアント社長はNNAのインタビューに応じ、「昨年の売上高は9年ぶりに5兆ルピア(約443億円)台に上り、過去2番目の高水準を達成した」と話した。過去最大を記録したのは2015年。10年代後半は業績低迷が続き、新型コロナウイルス禍の打撃も大きかったが復調した。
成長エンジンは中核事業のタクシーではなく、バスやミニバンによる乗客輸送、物品の宅配など「非タクシー」事業だ。昨年にはグループ初となる都市間の長距離路線バス「シティトランス・バスライン」の運行を開始。EVを含むレンタカー事業も強化した。
昨年の売上高に占める非タクシーの割合は前年の27.7%から29.0%に上昇。15年の13.0%と比べると2倍以上となっており、「われわれはもはやタクシー会社ではない」(アドリアント氏)。今後、ヒトとモノを運ぶ「モビリティーサービス企業」へと飛翔していく構想だ。
一方、エクスプレスは深刻な経営難に陥っている。配車サービスの台頭で減収が続いた後、新型コロナ禍の打撃から立ち直れず過去3年は主軸だったタクシー事業の収入がゼロだった。
立て直しが急務の同社は今年3月、配車・配送アプリ「ゴジェック」などを展開するIT大手GoToグループと協業してEVタクシー事業に乗り出したと発表。個人事業主らが登録する配車サービス「ゴーカー」を利用。車両は中国のEV最大手、比亜迪(BYD)の多目的車(MPV)を運用する。

■IT大手と共存かつ対抗
GoToグループはブルーバードとも17年から業務提携しており、「ゴーカー」の中で専用の「ゴーブルーバード」が選べるようになっている。配車サービス、タクシー両業界の「共存」を可能とする取り組みとされるが、運転手や客の確保で競合関係にあることは否定できない。
インドネシアでは10年代半ばに配車サービス大手の参入が本格化。現在は現地発のGoToグループのゴジェックとシンガポール系のグラブが2強で、両社のアプリを使う運転手はバイク配車なども合わせて数百万人に上る。

一方、ブルーバードの保有台数は昨年時点で非タクシーを含め計2万4,000台強。3万台を超えていた10年代半ばの水準には戻っていない。
同社のアドリアント氏は配車サービスとの違いを、「ITを事業の中核ではなく、目標を実現させる『イネーブラー』として捉えていることだ」と説明する。「脱タクシー会社」を図るが、運転手や車両の管理を徹底して質の高いサービスを提供することを続け、顧客の信頼を得ていく。
IT導入にも力を入れる。16年には現行の予約アプリ「マイブルーバード」を投入。インドネシアで絶大な人気があった「ブラックベリー」ブランドの携帯電話向けアプリの提供開始から5年後のことだった。現在、IT開発の95%は内製化しており、IT部門は本社ビルの2フロアを占めているという。

ブルーバードのアプリ「マイブルーバード」(同社提供)

■ブルーバードは復調続く
ブルーバードの復調は今年も続いており、1~3月決算は売上高が前年同期比16.2%増の1兆3,017億ルピア、純利益が42.8%増の1,654億ルピア。IDXに上場する道路運送8社のうち、最も稼いでいる企業としての地位を維持した。同社の売上高に占めるタクシー事業の割合は、前年同期の71.6%から70.0%に低下した。
8社のうち、レンタカー大手アディ・サラナ・アルマダ(ASSA)も2桁の増収増益。同社の売上高に占めるレンタカー、シェアカー事業の割合は35.3%にとどまっており、近年新たな収益源として強化してきた物流部門が41.7%と最大。電子商取引(EC)市場の拡大に伴う小口宅配需要を取り込む「物流会社」として業績を伸ばしている。
一方、エクスプレスは収益が「ほぼゼロ」の状態が続いている。ITサービス、EV大手との提携で事業を立て直せるか、今後が正念場となる。

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昨年の売上高に占める非タクシーの割合は前年の27.7%から29.0%に上昇。15年の13.0%と比べると2倍以上となっており、「われわれはもはやタクシー会社ではない」(アドリアント氏)。今後、ヒトとモノを運ぶ「モビリティーサービス企業」へと飛翔していく構想だ。
一方、エクスプレスは深刻な経営難に陥っている。配車サービスの台頭で減収が続いた後、新型コロナ禍の打撃から立ち直れず過去3年は主軸だったタクシー事業の収入がゼロだった。
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■IT大手と共存かつ対抗
GoToグループはブルーバードとも17年から業務提携しており、「ゴーカー」の中で専用の「ゴーブルーバード」が選べるようになっている。配車サービス、タクシー両業界の「共存」を可能とする取り組みとされるが、運転手や客の確保で競合関係にあることは否定できない。
インドネシアでは10年代半ばに配車サービス大手の参入が本格化。現在は現地発のGoToグループのゴジェックとシンガポール系のグラブが2強で、両社のアプリを使う運転手はバイク配車なども合わせて数百万人に上る。

一方、ブルーバードの保有台数は昨年時点で非タクシーを含め計2万4,000台強。3万台を超えていた10年代半ばの水準には戻っていない。
同社のアドリアント氏は配車サービスとの違いを、「ITを事業の中核ではなく、目標を実現させる『イネーブラー』として捉えていることだ」と説明する。「脱タクシー会社」を図るが、運転手や車両の管理を徹底して質の高いサービスを提供することを続け、顧客の信頼を得ていく。
IT導入にも力を入れる。16年には現行の予約アプリ「マイブルーバード」を投入。インドネシアで絶大な人気があった「ブラックベリー」ブランドの携帯電話向けアプリの提供開始から5年後のことだった。現在、IT開発の95%は内製化しており、IT部門は本社ビルの2フロアを占めているという。
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■ブルーバードは復調続く
ブルーバードの復調は今年も続いており、1~3月決算は売上高が前年同期比16.2%増の1兆3,017億ルピア、純利益が42.8%増の1,654億ルピア。IDXに上場する道路運送8社のうち、最も稼いでいる企業としての地位を維持した。同社の売上高に占めるタクシー事業の割合は、前年同期の71.6%から70.0%に低下した。
8社のうち、レンタカー大手アディ・サラナ・アルマダ(ASSA)も2桁の増収増益。同社の売上高に占めるレンタカー、シェアカー事業の割合は35.3%にとどまっており、近年新たな収益源として強化してきた物流部門が41.7%と最大。電子商取引(EC)市場の拡大に伴う小口宅配需要を取り込む「物流会社」として業績を伸ばしている。
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