インドネシアのプラボウォ大統領は19日、訪問先のロシア北西部サンクトペテルブルクで同国のプーチン大統領と会談した。両首脳は会談後、経済や貿易・投資を中心に協力拡大をうたった「戦略的パートナーシップ宣言」を採択した。プラボウォ氏は、主要新興国で構成するBRICSへのインドネシアの加盟に対するロシアの支援にも謝意を表明。一方、両首脳は国際情勢について、「紛争の平和的解決」を支持するとの立場の共有にとどめた。
首脳会談に臨むインドネシアのプラボウォ大統領(左)とロシアのプーチン大統領=19日、ロシア・サンクトペテルブルク(インドネシア大統領府提供)
プラボウォ氏は会談後の共同発表で、両国にとって今年は外交樹立75周年の節目だとした上で「ロシアは戦略的に重要なパートナーで、友好国であり続けてきた」と強調。経済、技術協力、貿易、投資、農業など分野で着実に有意義な進展を遂げてきたと述べた。
これまでの成果として具体的に、◇ロシアの首都モスクワ—バリ島の直行便の運航再開◇インドネシアとユーラシア経済同盟(EAEU)の自由貿易協定(FTA)の協議進展◇ロシアの後押しによるインドネシアのBRICS加盟——などに言及した。
両国は戦略的関係を強化するための4つの協力文書にも署名。高等教育、運輸、デジタル開発・マスメディア分野での協力覚書や、インドネシア政府系投資会社ダヤ・アナガタ・ヌサンタラ投資運用庁(BPIダナンタラ)とロシア直接投資基金(RDIF)の了解覚書を締結した。
プラボウォ氏は、高等教育に関し「奨学金プログラムでロシア留学するインドネシア人を増やしたい」と語った。ダナンタラとRDIFに関しては、覚書に20億ユーロ(約3,360億円)規模の投資プラットフォームを創設することを盛り込んだ。
一方、プーチン氏は、インドネシアを「アジア太平洋地域の重要なパートナー国の1つ」と強調。その上で、1月からインドネシアがBRICS加盟国になったことを歓迎し、「大きな付加価値をもたらす」と述べた。
また、ロシアはインドネシアへの石油・液化天然ガス(LNG)の供給拡大の用意があるとし、東ジャワ州で製油所と石油化学コンプレックスの建設計画が進んでいると強調した。原子力技術の活用でも協力の可能性があると表明した。
インドネシア中央統計局によると、両国の今年1~4月の貿易額は前年同期比83%増の18億8,700万米ドル(約2,750億円)。貿易収支は5億1,800万米ドルの赤字。インドネシアの品目別輸入額は自動車用軽油が最大、輸出額は酸化アルミニウムやパーム油で全体の4割を占めている。

日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の水野祐地氏は、プラボウォ氏のロシア訪問について、NNAに「プラボウォ氏は、全ての国々との友好な関係を構築・強化することを目指す、いわば『全方位緊密外交』とも呼べるスタンスを取っている。非同盟主義を外交原則とするインドネシアにとって、ロシアのような大国との関係を強化することは、経済発展への寄与や軍事力の近代化などの観点からさまざまなメリットがあると考えられている」と解説した。
また、ロシア側の対応には、「米国が関税障壁を高めたり、イスラエル支援を維持したりして『近寄りがたい』存在となっている一方で、プーチン氏はプラボウォ氏を公式に招待するなどし、プラボウォ氏の望みに応えるような外交的アプローチを上手に行っている点もポイントではないか」と指摘した。
■国際情勢「両国の立場は近い」
両首脳は国際情勢についても協議した。プーチン氏は共同発表で「両国の立場は一致または極めて近いことを確認した」と述べた。また、国際法の支配と主権の原則を堅持し、アジア太平洋地域の平和的で持続可能な発展を推進するとした。
サンクトペテルブルク国際経済フォーラムで演説するプラボウォ大統領=20日、ロシア(インドネシア大統領府提供)
プラボウォ氏も「両国は多くの重要な国際問題で同様の立場を共有している」とした上で「国家主権の原則を堅持し、紛争の平和的な解決を訴える」と語った。両首脳ともウクライナ戦争や中東情勢への具体的な言及は避けた。
プラボウォ氏は、昨年2月の大統領選で当選した後の同年7月に国防相(当時)としてロシアを訪問して、プーチン氏と会談。今年4月にはロシアのデニス・マントゥロフ第1副首相がインドネシアを訪問し、プラボウォ氏と面会している。
■「G7を尊重していないわけではない」
プラボウォ氏は20日に開かれたサンクトペテルブルク国際経済フォーラムでも講演。ロシア訪問と同時期にカナダで開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)にも招かれていたが、参加を見送った理由について、「G7を尊重していないからではなく、先にフォーラムから招待を受けていたためだ」と説明した。
プラボウォ氏は内政では、食料とエネルギー自給の達成、教育水準の向上、産業化の加速を進めていると主張。外交は伝統的な非同盟主義を強調し、「1,000人の友人でも少なすぎる、1人の敵でも多すぎる」と外交方針を語った。
中東情勢については、「紛争の激化と拡大を心から遺憾に思う。すべての当事者ができるだけ早く平和的解決に至ることを願っている」と述べるにとどまった。
水野氏は、「プラボウォ氏は自らを『外交大統領』と位置付け、インドネシアの国際社会での発言力強化を目指している。しかし、中東情勢やウクライナ情勢などの重大な外交的課題において、インドネシアが活用できる『カード』や仲介力は現時点では極めて限定的なのが実情だ」とした。
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これまでの成果として具体的に、◇ロシアの首都モスクワ—バリ島の直行便の運航再開◇インドネシアとユーラシア経済同盟(EAEU)の自由貿易協定(FTA)の協議進展◇ロシアの後押しによるインドネシアのBRICS加盟——などに言及した。
両国は戦略的関係を強化するための4つの協力文書にも署名。高等教育、運輸、デジタル開発・マスメディア分野での協力覚書や、インドネシア政府系投資会社ダヤ・アナガタ・ヌサンタラ投資運用庁(BPIダナンタラ)とロシア直接投資基金(RDIF)の了解覚書を締結した。
プラボウォ氏は、高等教育に関し「奨学金プログラムでロシア留学するインドネシア人を増やしたい」と語った。ダナンタラとRDIFに関しては、覚書に20億ユーロ(約3,360億円)規模の投資プラットフォームを創設することを盛り込んだ。
一方、プーチン氏は、インドネシアを「アジア太平洋地域の重要なパートナー国の1つ」と強調。その上で、1月からインドネシアがBRICS加盟国になったことを歓迎し、「大きな付加価値をもたらす」と述べた。
また、ロシアはインドネシアへの石油・液化天然ガス(LNG)の供給拡大の用意があるとし、東ジャワ州で製油所と石油化学コンプレックスの建設計画が進んでいると強調した。原子力技術の活用でも協力の可能性があると表明した。
インドネシア中央統計局によると、両国の今年1~4月の貿易額は前年同期比83%増の18億8,700万米ドル(約2,750億円)。貿易収支は5億1,800万米ドルの赤字。インドネシアの品目別輸入額は自動車用軽油が最大、輸出額は酸化アルミニウムやパーム油で全体の4割を占めている。

日本貿易振興機構(ジェトロ)アジア経済研究所の水野祐地氏は、プラボウォ氏のロシア訪問について、NNAに「プラボウォ氏は、全ての国々との友好な関係を構築・強化することを目指す、いわば『全方位緊密外交』とも呼べるスタンスを取っている。非同盟主義を外交原則とするインドネシアにとって、ロシアのような大国との関係を強化することは、経済発展への寄与や軍事力の近代化などの観点からさまざまなメリットがあると考えられている」と解説した。
また、ロシア側の対応には、「米国が関税障壁を高めたり、イスラエル支援を維持したりして『近寄りがたい』存在となっている一方で、プーチン氏はプラボウォ氏を公式に招待するなどし、プラボウォ氏の望みに応えるような外交的アプローチを上手に行っている点もポイントではないか」と指摘した。
■国際情勢「両国の立場は近い」
両首脳は国際情勢についても協議した。プーチン氏は共同発表で「両国の立場は一致または極めて近いことを確認した」と述べた。また、国際法の支配と主権の原則を堅持し、アジア太平洋地域の平和的で持続可能な発展を推進するとした。
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サンクトペテルブルク国際経済フォーラムで演説するプラボウォ大統領=20日、ロシア(インドネシア大統領府提供)[/caption]
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プラボウォ氏は、昨年2月の大統領選で当選した後の同年7月に国防相(当時)としてロシアを訪問して、プーチン氏と会談。今年4月にはロシアのデニス・マントゥロフ第1副首相がインドネシアを訪問し、プラボウォ氏と面会している。
■「G7を尊重していないわけではない」
プラボウォ氏は20日に開かれたサンクトペテルブルク国際経済フォーラムでも講演。ロシア訪問と同時期にカナダで開かれた先進7カ国首脳会議(G7サミット)にも招かれていたが、参加を見送った理由について、「G7を尊重していないからではなく、先にフォーラムから招待を受けていたためだ」と説明した。
プラボウォ氏は内政では、食料とエネルギー自給の達成、教育水準の向上、産業化の加速を進めていると主張。外交は伝統的な非同盟主義を強調し、「1,000人の友人でも少なすぎる、1人の敵でも多すぎる」と外交方針を語った。
中東情勢については、「紛争の激化と拡大を心から遺憾に思う。すべての当事者ができるだけ早く平和的解決に至ることを願っている」と述べるにとどまった。
水野氏は、「プラボウォ氏は自らを『外交大統領』と位置付け、インドネシアの国際社会での発言力強化を目指している。しかし、中東情勢やウクライナ情勢などの重大な外交的課題において、インドネシアが活用できる『カード』や仲介力は現時点では極めて限定的なのが実情だ」とした。"
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