日用品大手サンスターは歯みがき剤などのオーラルケア製品で知られるが、同製品を含む消費財事業とともに中核を担うのが生産財事業だ。7カ国の生産拠点を含め世界8カ国、25カ所に事業拠点を持つ生産財事業の本社機能はシンガポールにあり、同国工場では金属部品の部材、接着剤・シーリング材といった化学品の中間体(最終製品になる前の段階の製品・物質)の両方を生産している。東南アジア地域や中国の幅広い顧客ネットワークを生かし、同地域に進出する中国の自動車メーカーの需要取り込みを狙う。【清水美雪】
サンスターは1932年、自転車の部品やパンク修理に使うゴムのりなど、金属部品や接着剤の製造・卸売りを手がける会社として創業。その後、当時粉歯みがき剤が主流だった46年にゴムのりを入れていた金属チューブ容器の製造技術を応用し、チューブ入り練り歯みがき剤を発売。オーラルケア産業に参入した。現在はオーラルケア製品大手として知られるが、サンスターの起源は接着剤や金属部品関連の事業だ。
サンスター・グループは現在、オーラルケア製品を中心とした企業・消費者間取引(BtoC)の消費財事業と、金属部品や接着剤といった工業製品扱う企業間取引(BtoB)の生産財事業の2つを主軸とする。以前は大阪府高槻市に本社を置いていたが、現在は生産財事業がシンガポール、消費財事業がスイスにそれぞれ本社機能を置き、サンスター・グループ全体としての本社はスイスにある。売上比率は約6割が消費財、残りの約4割が生産財だ。
■2009年にシンガポールで生産開始
シンガポールには東南アジアの製造統括拠点として1992年に進出。2009年から生産を開始した。同国の金属部品事業は二輪車用を対象としており、ブレーキディスクやスプロケット(エンジンの動力を後輪に伝える歯車)といった部品を加工する前の部材(金属円盤)を生産している。これをタイ現地法人サンスター・エンジニアリング・タイやインドネシア現地法人サンスター・エンジニアリング・インドネシアに輸出。現地で最終製品化する。
接着剤・シーリング材といった化学品事業では、グループ子会社向けに中間体を生産。中間体は自動車窓ガラス向け接着剤や建築用シーリング材、液状ガスケット(液体状のシーリング材)に用いられる。三国間貿易としてグループ子会社向けの原材料調達も行っている。
日本市場では自動車用接着剤の品種・バリエーションで業界トップレベル。日本で国内自動車メーカー向けの接着剤や、高層ビル建築向けのシーリング材でシェア1位を誇る。シンガポールで生産した建築用シーリング材の中間体は、日本市場だけに輸出している。日本で新築住宅の需要が低迷する中、リノベーション需要の拡大に期待している。
シンガポールを工場開設先に選んだのは、税制面での優位性や整備された港湾施設、安定した供給網などが理由だ。
現地法人サンスター・シンガポール(旧サンスター・エンジニアリング)のディレクター、クエック・クワンペン氏はNNAに対し、「(物流ハブで輸入がしやすいことや税制面などのメリットから)東南アジアを中心に世界各地から原材料を調達しやすいことがシンガポールに工場を置くメリットだ」と説明した。
シンガポール西部のトゥアス工場で生産した製品(中間体)は世界各地へ仕向ける。金属部品の部材はタイやインドネシアなど、化学品の中間体はタイのほか日本、米国、ドイツにあるグループの量産工場に輸送し、最終製品に仕上げる。中国の委託先工場にも出荷しており、同国向けが圧倒的に多い。シンガポール拠点から顧客への製品の直接販売は行っていない。
生産数量は金属部品の部材が多い。このほかシンガポールには金属部品部門の研究開発(R&D)部署もあり、製品の設計や品質評価などを手がける。
化学品はシンガポール工場で途中まで化学反応をさせて、海外の現地工場ですぐに最終製品に仕上げる体制を整えている。接着剤やシーリング材の重要な原料であるプレポリマーについては、自動車窓ガラス向け接着剤に使われるもののうち中国向けを全てシンガポールで生産。中国以外の自社工場では大半を現地の各工場で生産している。
サンスター・シンガポールのディレクター、クエック・クワンペン氏(左)とマニュファクチャリング・エンジニアリング(ケミカル)部門ゼネラルマネジャー、片寄哲也氏=シンガポール西部(NNA撮影)
■グローバル企業の多様なニーズに対応
サンスターは生産財事業の本社機能を担うシンガポール法人を軸に、各国に広がる顧客ネットワークを生かした戦略を立てている。生産財事業の主要拠点はタイ、インドネシア、日本、中国、米国、ドイツ、メキシコにある。
生産財事業のうち日本の拠点は同国市場を中心に見ている一方、シンガポールからは日本以外の英語圏、欧州を広く管轄する。独BMWや米ハーレーダビッドソンなど大手自動車・二輪車メーカーを多く顧客に抱えており、日本と同等かそれ以上の品質という要求水準が高い欧米の顧客に対応する実績を積んでいる。シンガポール拠点は、アジア地域の社員向け研修機能も担う。
自動車・二輪車業界は金属部品、接着剤ともに重要なターゲット分野だ。いずれも自社工場があるタイやインドネシアといった東南アジア市場で特に強みを持つ。中国には委託先工場があるため、同国での顧客ネットワークも構築している。
世界で存在感を増す中国の自動車メーカーが東南アジア地域に生産工場を構える動きが広がる中、サンスターは中国やタイなどの強固な既存顧客ネットワークを生かし、域内に拠点を置く中国メーカーから金属部品、化学品を受注する機会の拡大を目指す。
中国国内での自動車産業、自動車メーカーの動きにも注目している。同国の自動車市場では以前、日系メーカーの方が中国メーカーよりも生産台数が多かった。サンスターも同国では自動車用接着剤などで日系メーカーとの付き合いの方が濃かった。ただ現在は状況が逆転し、中国メーカーの生産の勢いが増している。今後はいかに中国で現地メーカーに自社製品を売り込むかが課題だ。
タイ、インドネシアについては市場動向に違いがある。タイでは経済成長が進めば二輪車から自動車に買い替える人が増えるが、インドネシアでは二輪車は生活必需品で経済状況にかかわらず継続的な需要が見込まれる。両国の動向には違いがあるものの、全体として自動車・二輪車市場は安定的に推移するとみている。
<会社概要>
サンスター・シンガポール(旧サンスター・エンジニアリング)
シンガポール現地法人。西部トゥアスで工場を運営し、金属部品の部材や化学品の中間体の生産を手がける。またサンスター・グループ全体の生産財事業の本社機能を担い、統合基幹業務システム(ERP)などITシステムの管理や財務、為替リスク管理、人事、販売、調達などの部門が集まる。
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サンスターは1932年、自転車の部品やパンク修理に使うゴムのりなど、金属部品や接着剤の製造・卸売りを手がける会社として創業。その後、当時粉歯みがき剤が主流だった46年にゴムのりを入れていた金属チューブ容器の製造技術を応用し、チューブ入り練り歯みがき剤を発売。オーラルケア産業に参入した。現在はオーラルケア製品大手として知られるが、サンスターの起源は接着剤や金属部品関連の事業だ。
サンスター・グループは現在、オーラルケア製品を中心とした企業・消費者間取引(BtoC)の消費財事業と、金属部品や接着剤といった工業製品扱う企業間取引(BtoB)の生産財事業の2つを主軸とする。以前は大阪府高槻市に本社を置いていたが、現在は生産財事業がシンガポール、消費財事業がスイスにそれぞれ本社機能を置き、サンスター・グループ全体としての本社はスイスにある。売上比率は約6割が消費財、残りの約4割が生産財だ。
■2009年にシンガポールで生産開始
シンガポールには東南アジアの製造統括拠点として1992年に進出。2009年から生産を開始した。同国の金属部品事業は二輪車用を対象としており、ブレーキディスクやスプロケット(エンジンの動力を後輪に伝える歯車)といった部品を加工する前の部材(金属円盤)を生産している。これをタイ現地法人サンスター・エンジニアリング・タイやインドネシア現地法人サンスター・エンジニアリング・インドネシアに輸出。現地で最終製品化する。
接着剤・シーリング材といった化学品事業では、グループ子会社向けに中間体を生産。中間体は自動車窓ガラス向け接着剤や建築用シーリング材、液状ガスケット(液体状のシーリング材)に用いられる。三国間貿易としてグループ子会社向けの原材料調達も行っている。
日本市場では自動車用接着剤の品種・バリエーションで業界トップレベル。日本で国内自動車メーカー向けの接着剤や、高層ビル建築向けのシーリング材でシェア1位を誇る。シンガポールで生産した建築用シーリング材の中間体は、日本市場だけに輸出している。日本で新築住宅の需要が低迷する中、リノベーション需要の拡大に期待している。
シンガポールを工場開設先に選んだのは、税制面での優位性や整備された港湾施設、安定した供給網などが理由だ。
現地法人サンスター・シンガポール(旧サンスター・エンジニアリング)のディレクター、クエック・クワンペン氏はNNAに対し、「(物流ハブで輸入がしやすいことや税制面などのメリットから)東南アジアを中心に世界各地から原材料を調達しやすいことがシンガポールに工場を置くメリットだ」と説明した。
シンガポール西部のトゥアス工場で生産した製品(中間体)は世界各地へ仕向ける。金属部品の部材はタイやインドネシアなど、化学品の中間体はタイのほか日本、米国、ドイツにあるグループの量産工場に輸送し、最終製品に仕上げる。中国の委託先工場にも出荷しており、同国向けが圧倒的に多い。シンガポール拠点から顧客への製品の直接販売は行っていない。
生産数量は金属部品の部材が多い。このほかシンガポールには金属部品部門の研究開発(R&D)部署もあり、製品の設計や品質評価などを手がける。
化学品はシンガポール工場で途中まで化学反応をさせて、海外の現地工場ですぐに最終製品に仕上げる体制を整えている。接着剤やシーリング材の重要な原料であるプレポリマーについては、自動車窓ガラス向け接着剤に使われるもののうち中国向けを全てシンガポールで生産。中国以外の自社工場では大半を現地の各工場で生産している。[caption id="attachment_27330" align="aligncenter" width="620"]
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サンスターは生産財事業の本社機能を担うシンガポール法人を軸に、各国に広がる顧客ネットワークを生かした戦略を立てている。生産財事業の主要拠点はタイ、インドネシア、日本、中国、米国、ドイツ、メキシコにある。
生産財事業のうち日本の拠点は同国市場を中心に見ている一方、シンガポールからは日本以外の英語圏、欧州を広く管轄する。独BMWや米ハーレーダビッドソンなど大手自動車・二輪車メーカーを多く顧客に抱えており、日本と同等かそれ以上の品質という要求水準が高い欧米の顧客に対応する実績を積んでいる。シンガポール拠点は、アジア地域の社員向け研修機能も担う。
自動車・二輪車業界は金属部品、接着剤ともに重要なターゲット分野だ。いずれも自社工場があるタイやインドネシアといった東南アジア市場で特に強みを持つ。中国には委託先工場があるため、同国での顧客ネットワークも構築している。
世界で存在感を増す中国の自動車メーカーが東南アジア地域に生産工場を構える動きが広がる中、サンスターは中国やタイなどの強固な既存顧客ネットワークを生かし、域内に拠点を置く中国メーカーから金属部品、化学品を受注する機会の拡大を目指す。
中国国内での自動車産業、自動車メーカーの動きにも注目している。同国の自動車市場では以前、日系メーカーの方が中国メーカーよりも生産台数が多かった。サンスターも同国では自動車用接着剤などで日系メーカーとの付き合いの方が濃かった。ただ現在は状況が逆転し、中国メーカーの生産の勢いが増している。今後はいかに中国で現地メーカーに自社製品を売り込むかが課題だ。
タイ、インドネシアについては市場動向に違いがある。タイでは経済成長が進めば二輪車から自動車に買い替える人が増えるが、インドネシアでは二輪車は生活必需品で経済状況にかかわらず継続的な需要が見込まれる。両国の動向には違いがあるものの、全体として自動車・二輪車市場は安定的に推移するとみている。
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