ベトナムの国産車メーカー、ビンファストは25日、北部ハイフォン市から電気自動車(EV)「VF8」を米国向けに初出荷した。輸出第1弾を祝う式典にはファム・ミン・チン首相が出席し、ベトナム企業にとって初めてのEVの輸出を「歴史的節目」とたたえた。同社は北米や欧州からEV6万5,000台の受注を確保しており、来年3月までに順次納車する。
ビンファストはVF8の輸出開始を祝う式典を開催した。壇上の右から5人目はチン首相=25日、ハイフォン市
ディンブー・カットハイ経済区内のMCP港では同日、999台のVF8が船積みされた。約20日かけて米西岸カリフォルニア州の港に到着後、年内に同国の顧客に納車される予定だ。
VF8は5人乗りのスポーツタイプ多目的車(SUV)で、上位車種の最高出力は300キロワット。1回の充電で約400キロメートルの走行が可能という。
ビンファストは海外市場でVF8と7人乗りのSUV「VF9」の2車種で6万5,000台の予約を確保している。25日の第1弾に続き、近くカナダや欧州にもVF8を輸出し、2023年初頭に納車する。VF9は23年1~3月に国内外で引き渡しを開始する。
■党・政府の支援鮮明
ビンファストは設立翌年の18年、米ゼネラル・モーターズ(GM)の主力ブランド「シボレー」のベトナムでの生産販売事業を買収。同年に電動スクーターを発売し、19年にガソリン車の販売を開始した。21年末に国内自動車メーカーとして初めてEVを投入後、今年に入ってガソリン車の生産を停止することを決め、EVに特化している。
チン首相は式典で、ビンファストの親会社であるベトナム投資グループ(ビングループ)が「ゼロから自動車を製造することを決意した」と評価。EV輸出の開始について「歴史上初めて、ベトナムで製造されたEVがベトナムのブランドを冠して世界の自動車市場に参入する重要な節目だ」と万感を込めた。
式典にはグエン・チー・ズン計画投資相らほかの閣僚だけでなく、共産党の元政治局員で書記局常務だったチャン・クオック・ブオン氏や、現政治局員のチャン・トゥアン・アイン中央経済委員長が参加した。公の場に出ることがまれなビングループのファム・ニャット・ブオン会長も式典に参加し、党・政府の要人を迎えた。
■米工場建設、近く最終認可
式典にはビングループのブオン会長(中央)が出席した。ブオン氏の右はチン首相、左はズン計画投資相=25日、ハイフォン市
ビンファストは11月中旬、カナダでショールーム1号店を開設し、同国での店舗を年内に8店に広げる計画だ。欧州でも50店余りの開設を予定している。
小型から中型モデルの「VF5」「VF6」「VF7」も近く予約を開始する予定だが、世界中の自動車大手やIT企業などがEVを一斉に開発する中で、製造業の経験が浅く、基幹技術を持たないビンファストの海外での挑戦には懐疑的な見方も根強い。
VF8の米国での販売価格は、バッテリーを定額課金(サブスクリプション)でレンタルする場合は4万2,200米ドル(約587万円、バッテリー課金除く)からで、バッテリーを購入する形式では5万7,000米ドルから。VF8と同じセグメントの米EV大手テスラのSUV「モデルY」の5万8,190米ドルからと、ほぼ同等となる。
ビンファストが米国市場開拓の切り札としているのが、20億米ドルを投じて同国南東部ノースカロライナ州に建設するEV工場だ。25日付のロイターによれば、工場建設の認可手続きは最終段階にあり、24年7月に稼働を予定している。ビンファストのレ・ティ・トゥ・トゥイ社長は「工場が稼働すれば、購入者は7,500米ドルの税制優遇を受けることができる」と現地生産による価格競争力の強化に期待を託した。
「シルバー・クイーン号」で米国へ出荷されるVF8=25日、ハイフォン市
■持続的な受注と資金調達が課題
今後の焦点は、持続的な受注の確保と、資金調達の行方だ。
ビングループの今年1~9月の自動車を含む製造事業の税引き前損益は24兆3,000億ドン(約9億8,000万米ドル、1,365億円)の赤字で、事業開始以来の累積損失は膨らむ一方だ、
ビングループは業界首位の不動産事業の黒字を自動車事業につぎ込み、ベトナム発自動車ブランドの確立に執念を燃やしてきた。しかし、ベトナムでは不動産事業の先行きにも不透明感が高まっており、同社の1~9月の不動産販売事業の税引き前利益は11兆ドンにとどまった。
ビンファストは4月に米証券取引委員会(SEC)に米国での新規株式公開(IPO)を申請しているが、米連邦準備制度理事会(FRB)による相次ぐ利上げで株式市場の地合いは悪化しており、当初の計画が大幅にずれ込む可能性もありそうだ。
object(WP_Post)#9816 (24) {
["ID"]=>
int(10372)
["post_author"]=>
string(1) "3"
["post_date"]=>
string(19) "2022-11-28 00:00:00"
["post_date_gmt"]=>
string(19) "2022-11-27 15:00:00"
["post_content"]=>
string(6746) "ベトナムの国産車メーカー、ビンファストは25日、北部ハイフォン市から電気自動車(EV)「VF8」を米国向けに初出荷した。輸出第1弾を祝う式典にはファム・ミン・チン首相が出席し、ベトナム企業にとって初めてのEVの輸出を「歴史的節目」とたたえた。同社は北米や欧州からEV6万5,000台の受注を確保しており、来年3月までに順次納車する。[caption id="attachment_10374" align="aligncenter" width="620"]ビンファストはVF8の輸出開始を祝う式典を開催した。壇上の右から5人目はチン首相=25日、ハイフォン市[/caption]
ディンブー・カットハイ経済区内のMCP港では同日、999台のVF8が船積みされた。約20日かけて米西岸カリフォルニア州の港に到着後、年内に同国の顧客に納車される予定だ。
VF8は5人乗りのスポーツタイプ多目的車(SUV)で、上位車種の最高出力は300キロワット。1回の充電で約400キロメートルの走行が可能という。
ビンファストは海外市場でVF8と7人乗りのSUV「VF9」の2車種で6万5,000台の予約を確保している。25日の第1弾に続き、近くカナダや欧州にもVF8を輸出し、2023年初頭に納車する。VF9は23年1~3月に国内外で引き渡しを開始する。
■党・政府の支援鮮明
ビンファストは設立翌年の18年、米ゼネラル・モーターズ(GM)の主力ブランド「シボレー」のベトナムでの生産販売事業を買収。同年に電動スクーターを発売し、19年にガソリン車の販売を開始した。21年末に国内自動車メーカーとして初めてEVを投入後、今年に入ってガソリン車の生産を停止することを決め、EVに特化している。
チン首相は式典で、ビンファストの親会社であるベトナム投資グループ(ビングループ)が「ゼロから自動車を製造することを決意した」と評価。EV輸出の開始について「歴史上初めて、ベトナムで製造されたEVがベトナムのブランドを冠して世界の自動車市場に参入する重要な節目だ」と万感を込めた。
式典にはグエン・チー・ズン計画投資相らほかの閣僚だけでなく、共産党の元政治局員で書記局常務だったチャン・クオック・ブオン氏や、現政治局員のチャン・トゥアン・アイン中央経済委員長が参加した。公の場に出ることがまれなビングループのファム・ニャット・ブオン会長も式典に参加し、党・政府の要人を迎えた。
■米工場建設、近く最終認可[caption id="attachment_10373" align="aligncenter" width="620"]式典にはビングループのブオン会長(中央)が出席した。ブオン氏の右はチン首相、左はズン計画投資相=25日、ハイフォン市[/caption]
ビンファストは11月中旬、カナダでショールーム1号店を開設し、同国での店舗を年内に8店に広げる計画だ。欧州でも50店余りの開設を予定している。
小型から中型モデルの「VF5」「VF6」「VF7」も近く予約を開始する予定だが、世界中の自動車大手やIT企業などがEVを一斉に開発する中で、製造業の経験が浅く、基幹技術を持たないビンファストの海外での挑戦には懐疑的な見方も根強い。
VF8の米国での販売価格は、バッテリーを定額課金(サブスクリプション)でレンタルする場合は4万2,200米ドル(約587万円、バッテリー課金除く)からで、バッテリーを購入する形式では5万7,000米ドルから。VF8と同じセグメントの米EV大手テスラのSUV「モデルY」の5万8,190米ドルからと、ほぼ同等となる。
ビンファストが米国市場開拓の切り札としているのが、20億米ドルを投じて同国南東部ノースカロライナ州に建設するEV工場だ。25日付のロイターによれば、工場建設の認可手続きは最終段階にあり、24年7月に稼働を予定している。ビンファストのレ・ティ・トゥ・トゥイ社長は「工場が稼働すれば、購入者は7,500米ドルの税制優遇を受けることができる」と現地生産による価格競争力の強化に期待を託した。
[caption id="attachment_10375" align="aligncenter" width="620"]「シルバー・クイーン号」で米国へ出荷されるVF8=25日、ハイフォン市[/caption]
■持続的な受注と資金調達が課題
今後の焦点は、持続的な受注の確保と、資金調達の行方だ。
ビングループの今年1~9月の自動車を含む製造事業の税引き前損益は24兆3,000億ドン(約9億8,000万米ドル、1,365億円)の赤字で、事業開始以来の累積損失は膨らむ一方だ、
ビングループは業界首位の不動産事業の黒字を自動車事業につぎ込み、ベトナム発自動車ブランドの確立に執念を燃やしてきた。しかし、ベトナムでは不動産事業の先行きにも不透明感が高まっており、同社の1~9月の不動産販売事業の税引き前利益は11兆ドンにとどまった。
ビンファストは4月に米証券取引委員会(SEC)に米国での新規株式公開(IPO)を申請しているが、米連邦準備制度理事会(FRB)による相次ぐ利上げで株式市場の地合いは悪化しており、当初の計画が大幅にずれ込む可能性もありそうだ。"
["post_title"]=>
string(78) "ビンファストがEVを初輸出米向け999台、首相も式典参加"
["post_excerpt"]=>
string(0) ""
["post_status"]=>
string(7) "publish"
["comment_status"]=>
string(4) "open"
["ping_status"]=>
string(4) "open"
["post_password"]=>
string(0) ""
["post_name"]=>
string(192) "%e3%83%93%e3%83%b3%e3%83%95%e3%82%a1%e3%82%b9%e3%83%88%e3%81%8c%ef%bd%85%ef%bd%96%e3%82%92%e5%88%9d%e8%bc%b8%e5%87%ba%e7%b1%b3%e5%90%91%e3%81%91999%e5%8f%b0%e3%80%81%e9%a6%96%e7%9b%b8%e3%82%82"
["to_ping"]=>
string(0) ""
["pinged"]=>
string(0) ""
["post_modified"]=>
string(19) "2022-11-28 04:00:04"
["post_modified_gmt"]=>
string(19) "2022-11-27 19:00:04"
["post_content_filtered"]=>
string(0) ""
["post_parent"]=>
int(0)
["guid"]=>
string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=10372"
["menu_order"]=>
int(0)
["post_type"]=>
string(4) "post"
["post_mime_type"]=>
string(0) ""
["comment_count"]=>
string(1) "0"
["filter"]=>
string(3) "raw"
}
- 国・地域別
-
ベトナム情報
- 内容別
-
ビジネス全般人事労務