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【現場で語る2023年】ANA、貨物の拡大継続期待生産移管で、23年も専用機投入

全日本空輸(ANA)の三ツ井慶英ベトナム総代表は、ベトナム—日本間の航空輸送について、旅客需要は徐々に増加しており、好調な貨物輸送に支えられて2023年の業績改善傾向は続くと見通しを示した。22年3月にベトナム路線に投入した貨物専用機は今年も継続する方針で、中国からの生産移管で増加傾向が続く需要を取り込む。

ANAの三ツ井慶英ベトナム総代表=ベトナム・ハノイ市

■旅客需要、10月からは回復
——ベトナムでは22年3月15日に外国人観光客の受け入れを全面的に再開した。
当社は入国制限の緩和を受けて、22年5月からコロナ禍前と同じ運航便数に戻した。しかし日本側の水際対策の緩和が10月までずれ込んだことや、旅行会社の海外旅行促進事業が回復していないことから、日本人観光客の利用はまだ少ない。ビジネス客の利用は増えており、4~11月のベトナム路線の累計旅客者数はコロナ前の19年と同じ水準まで急回復した。
——貨物輸送はどうか。
22年は前年に続き好調だった。昨年6月ごろまでは海運市況の混乱で航空貨物輸送の需要が高まった。ピークの21年第4四半期(10~12月)には貨物の単価がコロナ前の3~5倍にまで上昇した。コロナ禍で厳しい水際対策が両国でとられていた時期は、貨物がコロナ禍の救世主だった。
貨物需要は中国からベトナムへの生産移管の動きを受けて伸びており、22年夏ダイヤ(3月27日~10月29日)からは、当社が全世界で11機保有する貨物専用機のうち1機をベトナム路線に投入した。
旅客機ボーイング787の貨物積載容量は最大20トンだが、導入した貨物専用機ボーイング767Fでは2.5倍の約50トンを輸送できる。現在は成田—ホーチミン間で週3便、成田—ハノイ間で週4便を運航しており、貨物輸送能力の向上に貢献している。
輸送品目は、北部では電子部品・機器や自動車用ワイヤハーネス、南部は衣料品が多い。ハノイ発の航空便では貨物の30%以上を電機メーカーの製品が占めている。
■日本経由北米行きの需要大
——ベトナム人の日本便の利用は伸びているか。
ベトナム人の日本入国には査証(ビザ)の制限があるため日本便の利用は限られており、技能実習生や留学生、ビジネス客が多い。
このほか特徴的なのは、米国行きの経由便としてホーチミン—日本間の航空需要の高さだ。主に米国に暮らすベトナム系住民による親族訪問などを目的とした利用で、ホーチミン発では米国行きの乗客が8割を占めるときもある。
当社は米ユナイテッド航空と共同航空便を運航しており、日本経由でワシントンやニューヨークなど米国の複数の路線を持っていることや、ベトナム—米国間の直行便がベトナム航空のホーチミン—サンフランシスコ線しかないことなどが要因とみられる。
最近ではベトナム政府高官やビジネス客が米国やメキシコに行く際に当社の運航便を利用する機会も増えている。
——ベトナムの内需をどう取り込んでいくか。
ベトナムは鉄道が発達していないこともあり、ハノイ—ホーチミン間の航空輸送量は非常に多く世界でも5本の指に入る。地場航空会社が保有する航空機も約240機と東南アジアでも島国のインドネシアに次いで多く、世界有数の飛行機が身近な国だ。航空業界の伸びが期待できる市場だと思っている。
当社は国内線には就航できないが、16年からベトナム航空との提携を通じて、日本発のハノイ—ホーチミン間や中部ダナン市への輸送も案内している。
地場旅行会社や日本政府観光局(JNTO)と協力して日本の魅力をプロモーションしたり、フェイスブック上でベトナム語の記事を発信したりしながら、英国格付け機関から10年連続で世界最高評価を獲得したANAに乗ってみたいと思えるようなイメージ作りをしている。
■空港の容量不足が直近の課題
——ベトナムの航空業界の課題は。
空港が小さく、航空会社が増便したくても発着枠や駐機スペースがなく、旅客カウンターも狭いことが市場の伸びに歯止めをかけかねない。空港の利用者数はコロナ前で設計容量の110%を超えており、旅客需要が回復しきっていない22年通年でも95%になる見込みだ。増加する航空輸送需要に応えるため、計画通りインフラを整えるよう、さまざまな機会に政府に働きかけていくことが必要だ。
——23年以降の見通しについて。
ベトナムの航空貨物需要は、「チャイナプラスワン」の動きを背景に、今後も伸びていくとみている。22年11月には独ルフトハンザグループの貨物航空会社がフランクフルト—ハノイ間の定期貨物便を就航させた。
当社も、昨年から投入した貨物専用機を23年も継続して利用するために、本社に働きかけているところだ。貨物専用機は一部の航空会社しか保有しておらず、ベトナム航空やライバルの日本航空(JAL)は保有していない。この点で当社は有利だ。
旅客でも回復が進むとみており、23年通年の売り上げは貨物便の特需があった22年以上を確保していきたい。ベトナムは今後10年で中間所得層が2,500万人増えるとの予測もあり、観光ビザの取得要件が緩和されれば、日本への渡航需要が飛躍的に伸びると期待している。(聞き手=石黒咲紀)
<会社概要>
ANAのベトナム事業
01年に成田—タンソンニャット(ホーチミン)に就航しベトナム事業を開始した。14年にはノイバイ空港(ハノイ)に参入。16年からはベトナム航空と提携し、国内線・国際線の共同運航やマイレージ・プログラムの連携などを実施している。
主に旅客輸送と貨物輸送を行っており、現在はベトナム—日本間で旅客便21便、貨物7便の週28便を運航している。

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■旅客需要、10月からは回復
——ベトナムでは22年3月15日に外国人観光客の受け入れを全面的に再開した。
当社は入国制限の緩和を受けて、22年5月からコロナ禍前と同じ運航便数に戻した。しかし日本側の水際対策の緩和が10月までずれ込んだことや、旅行会社の海外旅行促進事業が回復していないことから、日本人観光客の利用はまだ少ない。ビジネス客の利用は増えており、4~11月のベトナム路線の累計旅客者数はコロナ前の19年と同じ水準まで急回復した。
——貨物輸送はどうか。
22年は前年に続き好調だった。昨年6月ごろまでは海運市況の混乱で航空貨物輸送の需要が高まった。ピークの21年第4四半期(10~12月)には貨物の単価がコロナ前の3~5倍にまで上昇した。コロナ禍で厳しい水際対策が両国でとられていた時期は、貨物がコロナ禍の救世主だった。
貨物需要は中国からベトナムへの生産移管の動きを受けて伸びており、22年夏ダイヤ(3月27日~10月29日)からは、当社が全世界で11機保有する貨物専用機のうち1機をベトナム路線に投入した。
旅客機ボーイング787の貨物積載容量は最大20トンだが、導入した貨物専用機ボーイング767Fでは2.5倍の約50トンを輸送できる。現在は成田—ホーチミン間で週3便、成田—ハノイ間で週4便を運航しており、貨物輸送能力の向上に貢献している。
輸送品目は、北部では電子部品・機器や自動車用ワイヤハーネス、南部は衣料品が多い。ハノイ発の航空便では貨物の30%以上を電機メーカーの製品が占めている。
■日本経由北米行きの需要大
——ベトナム人の日本便の利用は伸びているか。
ベトナム人の日本入国には査証(ビザ)の制限があるため日本便の利用は限られており、技能実習生や留学生、ビジネス客が多い。
このほか特徴的なのは、米国行きの経由便としてホーチミン—日本間の航空需要の高さだ。主に米国に暮らすベトナム系住民による親族訪問などを目的とした利用で、ホーチミン発では米国行きの乗客が8割を占めるときもある。
当社は米ユナイテッド航空と共同航空便を運航しており、日本経由でワシントンやニューヨークなど米国の複数の路線を持っていることや、ベトナム—米国間の直行便がベトナム航空のホーチミン—サンフランシスコ線しかないことなどが要因とみられる。
最近ではベトナム政府高官やビジネス客が米国やメキシコに行く際に当社の運航便を利用する機会も増えている。
——ベトナムの内需をどう取り込んでいくか。
ベトナムは鉄道が発達していないこともあり、ハノイ—ホーチミン間の航空輸送量は非常に多く世界でも5本の指に入る。地場航空会社が保有する航空機も約240機と東南アジアでも島国のインドネシアに次いで多く、世界有数の飛行機が身近な国だ。航空業界の伸びが期待できる市場だと思っている。
当社は国内線には就航できないが、16年からベトナム航空との提携を通じて、日本発のハノイ—ホーチミン間や中部ダナン市への輸送も案内している。
地場旅行会社や日本政府観光局(JNTO)と協力して日本の魅力をプロモーションしたり、フェイスブック上でベトナム語の記事を発信したりしながら、英国格付け機関から10年連続で世界最高評価を獲得したANAに乗ってみたいと思えるようなイメージ作りをしている。
■空港の容量不足が直近の課題
——ベトナムの航空業界の課題は。
空港が小さく、航空会社が増便したくても発着枠や駐機スペースがなく、旅客カウンターも狭いことが市場の伸びに歯止めをかけかねない。空港の利用者数はコロナ前で設計容量の110%を超えており、旅客需要が回復しきっていない22年通年でも95%になる見込みだ。増加する航空輸送需要に応えるため、計画通りインフラを整えるよう、さまざまな機会に政府に働きかけていくことが必要だ。
——23年以降の見通しについて。
ベトナムの航空貨物需要は、「チャイナプラスワン」の動きを背景に、今後も伸びていくとみている。22年11月には独ルフトハンザグループの貨物航空会社がフランクフルト—ハノイ間の定期貨物便を就航させた。
当社も、昨年から投入した貨物専用機を23年も継続して利用するために、本社に働きかけているところだ。貨物専用機は一部の航空会社しか保有しておらず、ベトナム航空やライバルの日本航空(JAL)は保有していない。この点で当社は有利だ。
旅客でも回復が進むとみており、23年通年の売り上げは貨物便の特需があった22年以上を確保していきたい。ベトナムは今後10年で中間所得層が2,500万人増えるとの予測もあり、観光ビザの取得要件が緩和されれば、日本への渡航需要が飛躍的に伸びると期待している。(聞き手=石黒咲紀)
<会社概要>
ANAのベトナム事業
01年に成田—タンソンニャット(ホーチミン)に就航しベトナム事業を開始した。14年にはノイバイ空港(ハノイ)に参入。16年からはベトナム航空と提携し、国内線・国際線の共同運航やマイレージ・プログラムの連携などを実施している。
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