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養鶏農家の生産最適化を支援1年半でIoT導入600軒、Pitik

モノのインターネット(IoT)デバイスなどを活用し、養鶏農家の生産の最適化を支援するインドネシアのスタートアップ企業Pitik(ピティック)は、2021年6月からおよそ1年半で、同社顧客へのIoTシステムの導入件数を約600軒に伸ばしている。中小零細農家では、効果的な管理がなされておらず、鶏の死亡率は世界標準と比較しても高いなど、農家の低収入を招いている現状をIoTで解決する。【和田純一、Anita Fildzah】

西ジャワ州ボゴール県にあるピティックの顧客農家の施設(ピティック提供)

ピティックは、養鶏施設内の温度、湿度、光の強度、鶏のふん尿から発生するアンモニアの濃度を測定し、環境を管理する「スマート・クライメート・IoTシステム」を提供する。導入前の点検で、既存の設備面などの条件を満たした農家に無料で導入する。同システムは、養鶏場内の温度が上がり過ぎるなど数値の異常を感知すると、スマートフォンアプリを通じて、農家に知らせる仕組みになっている。収集した日々のデータを基に、農家への改善提案も行う。
施設へのIoT設備の導入のほか、ひな鳥の仕入れから、飼料やワクチンなどの薬品の調達、育てた鶏の買い取りまで、養鶏農家に必要な物資やサービスを一気通貫で提供する。食肉用鶏の出荷までの一連のサイクルは約35日。こうした一貫したビジネスモデルを構築したのは同社がインドネシアで初という。
ピティックは、ひよこや飼料の仕入れにかかる費用を、全て後払いで農家に請求するのが特長の一つ。農家から育てた鶏を買い取り、飼料代などの費用を差し引いて営業日7日以内に代金を農家に支払う。飼料の仕入れ手数料のほか、市場や小売業者への鶏の販売価格に一定額を上乗せするマージンが、ピティックの収益となる。
一連のサイクルを担うことで、データで記録を残し、使用している飼料や薬品、生育期間、出荷先などのトレーサビリティー(生産履歴の追跡)を確保することができる。
農家から買い取った食肉用鶏は、市場や電子商取引(EC)運営業者、レストランやスーパーマーケットの小売り販売業者に卸す。
ピティックが取り扱う食肉用鶏の数は、22年1月の月100万羽程度から、現在は同400万羽程度にまで増えている。ピティックの売上高も22年初めと比べて約6倍に拡大した。
■死亡率を国内平均から半減
ピティックによると、国内の食肉用養鶏農家の数は推計で2万6,000軒。うち、85%程度が中小零細の個人農家とみられている。インドネシアの養鶏場の鶏の死亡率は8~10%。施設内の温度や湿度などが適切に管理されていないために、生産効率が上がらず、養鶏農家の収入が低いままであることが問題視されている。農家がせっかく育てた鶏を出荷しても、買い取り業者による支払いが滞るケースもあり、農家を取り巻く環境は課題が多かった。
ピティックのシステムを導入した農家では、鶏の死亡率を国内平均の半分の5%程度に改善できている。飼料消費量も12%程度効率化できており、農家の収入は導入前よりも約30%増加する効果があるという。
ピティックのリマックス最高執行責任者(COO)は、当初は慣れないIoTの導入に懸念を示す農家もいたが、「導入効果を実感してもらうことで、近隣コミュニティーにも評判が広がり、現在は引き合いが非常に増えている」と話した。

世界的な穀物価格の上昇は、飼料の仕入れなどのコスト上昇に影響を与えているものの、23年も事業を拡大していくと述べた。今年は温度管理など機器の制御を自動で行うシステムを追加導入する予定で、既存の顧客農家には有料で提供する計画だ。現在、顧客農家はジャワ島内に限られているが、ジャワ島外にも拡大する。併せて、鶏肉の加工や小売り販売でもパートナー企業を増やしていく。

ピティックの共同創業者・最高経営責任者(CEO)のアリフ氏(左)と共同創業者・最高執行責任者(COO)のリマックス氏(同社提供)

<会社概要>
正式社名は、Pitik Digital Indonesia(ピティック・ディジタル・インドネシア)。本社はバンテン州タンゲラン。従業員数は約250人。ジャワ島全域の14カ所に支店があり、スタッフが顧客農家を定期的に巡回する。2019年に設立したが、活動を本格化させたのは21年6月。22年5月にクローズした事業初期段階の投資ラウンド「シリーズA」は、1,400万米ドル(約18億2,000万円)を調達した。

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施設へのIoT設備の導入のほか、ひな鳥の仕入れから、飼料やワクチンなどの薬品の調達、育てた鶏の買い取りまで、養鶏農家に必要な物資やサービスを一気通貫で提供する。食肉用鶏の出荷までの一連のサイクルは約35日。こうした一貫したビジネスモデルを構築したのは同社がインドネシアで初という。
ピティックは、ひよこや飼料の仕入れにかかる費用を、全て後払いで農家に請求するのが特長の一つ。農家から育てた鶏を買い取り、飼料代などの費用を差し引いて営業日7日以内に代金を農家に支払う。飼料の仕入れ手数料のほか、市場や小売業者への鶏の販売価格に一定額を上乗せするマージンが、ピティックの収益となる。
一連のサイクルを担うことで、データで記録を残し、使用している飼料や薬品、生育期間、出荷先などのトレーサビリティー(生産履歴の追跡)を確保することができる。
農家から買い取った食肉用鶏は、市場や電子商取引(EC)運営業者、レストランやスーパーマーケットの小売り販売業者に卸す。
ピティックが取り扱う食肉用鶏の数は、22年1月の月100万羽程度から、現在は同400万羽程度にまで増えている。ピティックの売上高も22年初めと比べて約6倍に拡大した。
■死亡率を国内平均から半減
ピティックによると、国内の食肉用養鶏農家の数は推計で2万6,000軒。うち、85%程度が中小零細の個人農家とみられている。インドネシアの養鶏場の鶏の死亡率は8~10%。施設内の温度や湿度などが適切に管理されていないために、生産効率が上がらず、養鶏農家の収入が低いままであることが問題視されている。農家がせっかく育てた鶏を出荷しても、買い取り業者による支払いが滞るケースもあり、農家を取り巻く環境は課題が多かった。
ピティックのシステムを導入した農家では、鶏の死亡率を国内平均の半分の5%程度に改善できている。飼料消費量も12%程度効率化できており、農家の収入は導入前よりも約30%増加する効果があるという。
ピティックのリマックス最高執行責任者(COO)は、当初は慣れないIoTの導入に懸念を示す農家もいたが、「導入効果を実感してもらうことで、近隣コミュニティーにも評判が広がり、現在は引き合いが非常に増えている」と話した。

世界的な穀物価格の上昇は、飼料の仕入れなどのコスト上昇に影響を与えているものの、23年も事業を拡大していくと述べた。今年は温度管理など機器の制御を自動で行うシステムを追加導入する予定で、既存の顧客農家には有料で提供する計画だ。現在、顧客農家はジャワ島内に限られているが、ジャワ島外にも拡大する。併せて、鶏肉の加工や小売り販売でもパートナー企業を増やしていく。
[caption id="attachment_11365" align="aligncenter" width="620"]ピティックの共同創業者・最高経営責任者(CEO)のアリフ氏(左)と共同創業者・最高執行責任者(COO)のリマックス氏(同社提供)[/caption]
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