香港経済貿易代表部(HKETO)と香港政府投資促進署(インベスト香港)は4月24~27日、日本の外食・食品企業の香港視察ミッションを開催した。香港での事業展開を検討する日本企業19社が参加。新型コロナウイルス禍が落ち着いたことを機に、各企業が海外事業の再始動を計画する中、香港の飲食店運営企業とのビジネスマッチングや飲食店の視察などを通じて香港の経営環境への理解を深めた。【菅原真央、蘇子善】
香港経済貿易代表部(HKETO)と香港政府投資促進署(インベスト香港)が日本の外食・食品企業の香港視察ミッションを開催した。写真はビジネスマッチングの様子=26日(NNA撮影)
ミッションは4日間のプログラムで、飲食店や商業施設の視察、業界関係者との交流、セミナー、ビジネスマッチングなどで構成。和食、洋食、ラーメン、焼き肉、スイーツなどの飲食ブランドを展開する日本企業が参加した。
インベスト香港によると、外食・食品企業のビジネスマッチングはコロナ禍の間もオンラインで行っていたが、対面での開催はコロナ禍後初めてとなる。インベスト香港接客サービス・旅行産業部の黄思敏(シンディー・ウォン)部長は「香港の飲食企業との会議では、日本のブランドを引き入れたいという声がよく上がる」と説明。一方、「日本は新型コロナの影響で円安環境が続いており、経済状況も振るわない。彼らに必要なのは香港でのビジネスチャンスとパートナーだ」と強調した。
■既存店との差別化必要
プログラムのメインであるビジネスマッチングでは、日本ブランドのフランチャイズ(FC)経営などを検討する香港の飲食店運営企業19社が来場し、日本側の各企業と面談を行った。既に多くの日本食レストランがある香港では、新たなブランドを選ぶに当たり、既存店との差別化が重要なポイントとなるようだ。
香港の叙福楼集団(LHグループ)傘下で焼き肉の「牛角」や鍋料理「しゃぶしゃぶ温野菜」をFC経営する「株式会社」は、新たにすしやカフェ、ベーカリーカフェなどのブランドの運営を検討中。譚卓凌(シャーリーン・タム)企業発展コーディネーター(ブランディング)は「香港では日本食レストランは既に飽和状態」と指摘し、香港人の好奇心をいかにつかみ、新鮮さを見つけていくかが課題になるとの見方を示した。
香港の景楽集団(キング・パロット・グループ)傘下で日本式焼き肉店などを経営するKPコンセプトのエミリー・ロー・マーケティングオフィサーは「内装に力を入れていたり、若い女性をターゲットにしたりしている日本企業を見つけたい」とコメントした。若年層に照準を合わせ、交流サイト(SNS)に投稿する写真撮影を意識した内装を重視する考えだ。そうすることで、観光スポットの一つとして中国本土からの旅行客を呼び込むこともできるとみている。
■賃料・人件費は売価でカバー
参加した日本企業も手応えを感じている。香港での飲食店経営で懸念材料となる高い店舗賃料や人件費は、日本より価格を高く設定できたり、他のコストを抑えたりすることで賄えるとの見方だ。
お好み焼きチェーン「千房」を展開する千房ホールディングス(大阪市)は、2018年にオープンした香港の店舗が反政府デモや新型コロナの影響で閉業。新たなFCオーナーを探して再出店を目指す。
事業統括本部グローバル事業部の堀内昭宏課長によると、ビジネスマッチングでは、ベーシックなお好み焼き店ではなく、同社が展開する高級業態のステーキハウスに興味を持つ企業が多かったという。高級業態を海外で展開したことはないが、「ニーズがあるならば、高級業態もチャレンジの一つ」と前向きだ。香港では日本人が想像する以上の価格を設定することができるとし、「賃料をカバーできるだけの売り上げは取れるだろう」と自信を示した。
大分唐揚げ専門店「ジョニーのからあげ」を展開するアスハレコーポレーション(大阪市)は、シンガポール、タイに続く3店目の海外店舗として香港を検討している。執行役員(店舗開発事業部)の森嶋勇次氏によると、海外店舗では調味料のみをパッケージで送り、肉は現地で調達するため、味付けした生肉を全国に手配する日本国内の店舗より原材料コストが抑えられる。香港では、その分を賃料や人件費に回すことになるとみている。
森嶋氏は「唐揚げ単体で店舗を出すのは日本では当たり前だが、香港ではまだまだ。焼き鳥店などとのコラボレーションで出店する形が反応が良さそうだ」と感触を語った。
■関係者が経験を共有
セミナーには香港の飲食業界関係者が登壇し、業界を取り巻く環境や事例について紹介した。
インベスト香港の黄氏は「香港の外食・食品業界の概要とトレンド」というテーマで講演。22年度に香港に拠点を構える域外企業8,978社のうち、日本企業は1,388社に上る。香港の税負担の低さや45カ国・地域と二重課税防止協定(CDTA)を締結していることなどを紹介し、利益を生み出す拠点として最適だと説明した。
また香港の業界トレンドとして◇メニューに気候変動への影響の度合いを示すラベルを記載するなど「食の低炭素化」◇小型店やポップアップショップの増加◇海外からのゲストシェフの訪問再開——などを挙げた。
このほか、日本ブランドの飲食店をFC経営する香港のドリームチームF&Bコンセプツの石健華(ケビン・シー)最高経営責任者(CEO)が日本企業との協業で感じたことを紹介。食文化や信用の築き方に違いがあるとし、「最適なビジネスパートナーを探すことが鍵だ」と話した。
パン・洋菓子製造販売のエーワンベーカリーの楊井元伸・董事長兼CEOは、香港で38年事業を続ける中、事業環境について「進出当時と現在は様変わりしている」と指摘。「進出当時は日本の食べ物が少なかったが、今は日本ブランドが非常に多い。日本日本という考えは捨てて、香港で根付く商品を考えなければならない。マーケティングが大事だ」とアドバイスした。
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■既存店との差別化必要
プログラムのメインであるビジネスマッチングでは、日本ブランドのフランチャイズ(FC)経営などを検討する香港の飲食店運営企業19社が来場し、日本側の各企業と面談を行った。既に多くの日本食レストランがある香港では、新たなブランドを選ぶに当たり、既存店との差別化が重要なポイントとなるようだ。
香港の叙福楼集団(LHグループ)傘下で焼き肉の「牛角」や鍋料理「しゃぶしゃぶ温野菜」をFC経営する「株式会社」は、新たにすしやカフェ、ベーカリーカフェなどのブランドの運営を検討中。譚卓凌(シャーリーン・タム)企業発展コーディネーター(ブランディング)は「香港では日本食レストランは既に飽和状態」と指摘し、香港人の好奇心をいかにつかみ、新鮮さを見つけていくかが課題になるとの見方を示した。
香港の景楽集団(キング・パロット・グループ)傘下で日本式焼き肉店などを経営するKPコンセプトのエミリー・ロー・マーケティングオフィサーは「内装に力を入れていたり、若い女性をターゲットにしたりしている日本企業を見つけたい」とコメントした。若年層に照準を合わせ、交流サイト(SNS)に投稿する写真撮影を意識した内装を重視する考えだ。そうすることで、観光スポットの一つとして中国本土からの旅行客を呼び込むこともできるとみている。
■賃料・人件費は売価でカバー
参加した日本企業も手応えを感じている。香港での飲食店経営で懸念材料となる高い店舗賃料や人件費は、日本より価格を高く設定できたり、他のコストを抑えたりすることで賄えるとの見方だ。
お好み焼きチェーン「千房」を展開する千房ホールディングス(大阪市)は、2018年にオープンした香港の店舗が反政府デモや新型コロナの影響で閉業。新たなFCオーナーを探して再出店を目指す。
事業統括本部グローバル事業部の堀内昭宏課長によると、ビジネスマッチングでは、ベーシックなお好み焼き店ではなく、同社が展開する高級業態のステーキハウスに興味を持つ企業が多かったという。高級業態を海外で展開したことはないが、「ニーズがあるならば、高級業態もチャレンジの一つ」と前向きだ。香港では日本人が想像する以上の価格を設定することができるとし、「賃料をカバーできるだけの売り上げは取れるだろう」と自信を示した。
大分唐揚げ専門店「ジョニーのからあげ」を展開するアスハレコーポレーション(大阪市)は、シンガポール、タイに続く3店目の海外店舗として香港を検討している。執行役員(店舗開発事業部)の森嶋勇次氏によると、海外店舗では調味料のみをパッケージで送り、肉は現地で調達するため、味付けした生肉を全国に手配する日本国内の店舗より原材料コストが抑えられる。香港では、その分を賃料や人件費に回すことになるとみている。
森嶋氏は「唐揚げ単体で店舗を出すのは日本では当たり前だが、香港ではまだまだ。焼き鳥店などとのコラボレーションで出店する形が反応が良さそうだ」と感触を語った。
■関係者が経験を共有
セミナーには香港の飲食業界関係者が登壇し、業界を取り巻く環境や事例について紹介した。
インベスト香港の黄氏は「香港の外食・食品業界の概要とトレンド」というテーマで講演。22年度に香港に拠点を構える域外企業8,978社のうち、日本企業は1,388社に上る。香港の税負担の低さや45カ国・地域と二重課税防止協定(CDTA)を締結していることなどを紹介し、利益を生み出す拠点として最適だと説明した。
また香港の業界トレンドとして◇メニューに気候変動への影響の度合いを示すラベルを記載するなど「食の低炭素化」◇小型店やポップアップショップの増加◇海外からのゲストシェフの訪問再開——などを挙げた。
このほか、日本ブランドの飲食店をFC経営する香港のドリームチームF&Bコンセプツの石健華(ケビン・シー)最高経営責任者(CEO)が日本企業との協業で感じたことを紹介。食文化や信用の築き方に違いがあるとし、「最適なビジネスパートナーを探すことが鍵だ」と話した。
パン・洋菓子製造販売のエーワンベーカリーの楊井元伸・董事長兼CEOは、香港で38年事業を続ける中、事業環境について「進出当時と現在は様変わりしている」と指摘。「進出当時は日本の食べ物が少なかったが、今は日本ブランドが非常に多い。日本日本という考えは捨てて、香港で根付く商品を考えなければならない。マーケティングが大事だ」とアドバイスした。"
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