川崎汽船、商船三井、日本郵船の3社が立ち上げたコンテナ船事業会社オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)は7日、新たな成長戦略に取り組むと発表した。ジェレミー・ニクソン最高経営責任者(CEO)が事業運営会社を置くシンガポールで開いた記者会見で明らかにした。海運業界の脱炭素化を積極的に進めるほか、コンテナ船の輸送需要に対応するため、船舶投資を加速させる。【清水美雪】
成長戦略について説明するONEのジェレミー・ニクソン最高経営責任者(CEO)=7日、シンガポール中心部(NNA撮影)
ニクソンCEOは7日、2017年の会社設立以来の経営を振り返るとともに、今後の経営戦略を示した。22年までの5年間は成長段階の「フェーズ1(事業統合・確立)」だったが、23年以降は「フェーズ2(持続的な成長)」とする。
ONEは18年に事業を開始。同年度の決算は5億8,600万米ドル(約840億円)の赤字だったが、19年度は10億米ドル(約1,430億円)のコスト削減を実現したこともあり、黒字化を達成。20年度、21年度、22年度も黒字を確保した。22年度は新型コロナウイルス禍の影響で前期比10%減の149億9,700万米ドルにとどまったが、20年度比では4.3倍の純利益だった。
現在は世界7位のコンテナ会社として152万9,000TEU(20フィートコンテナ換算)、200隻超のコンテナ船隊を運航している。
ニクソンCEOはフェーズ1では「スケールメリット」「効率的なオペレーション」を通じた競争力強化、収益力確保を目標にしていたが、フェーズ2では「サステナビリティー」を加え、脱炭素化の加速や財務面の安定性を維持しながら持続的な成長、持続的な競争力維持を目指すと明らかにした。
■グリーン戦略で脱炭素化
ニクソンCEOによると、フェーズ2では具体的に、「グリーン」「デジタル」「人材」「ファイナンス」「グローバル」の5つの戦略を推進する。
グリーン戦略では、25年から26年にかけてアンモニアやメタノールなど環境負荷の低い代替燃料に対応するコンテナ船20隻を導入。今年4月にはONEのサービスを利用した際の二酸化炭素(CO2)排出量を算出する「ONEエコカルキュレーター」の導入を発表しており、海運業界の脱炭素化に向けた取り組みを今後も強化する。
温室効果ガスの排出原単位(特定の活動量当たりのCO2排出量)は、30年までにTEU・キロメートル当たりのスコープ1(温室効果ガスの自社排出量)を08年実績比で7割削減。50年までにはスコープ2(電力使用などに伴う間接的な温室効果ガス排出量)、スコープ3(調達・供給網全体の排出量)を含めて絶対排出量で「ネットゼロ」を目指す。
こうした目標の達成に向け、30年までに最初の代替燃料船舶を就航させ、35年までには排出を実質ゼロにする「ゼロエミッション船」が全船隊の2割超となるようにする。
デジタル戦略では、他社との協業、最新トレンドの把握、新たな価値創造を重視し、デジタル化による事業変革を目指す。6月に発表したリーファーコンテナ(冷凍・冷蔵貨物の輸送に使うコンテナ)へのテレマティクス(車両に搭載する情報通信技術)機器の搭載もこの一環となる。人材戦略では多様な人材をひきつけながら社員の成長を促す。
ファイナンス戦略では、健全な財務体質を維持する。グローバル戦略では、世界的なトレンドと多様化する顧客のニーズに対応するため、ネットワークを強化するほか、効率性、サービスの質をさらに高める。
■船隊規模の拡大で輸送需要に対応
中長期的な船隊整備計画では船舶投資を加速させる。今後は世界的な人口増加やインフラ開発などを受けてコンテナ船の輸送需要がさらに伸びると見込んでいる。
既存投資で23年度から26年度にかけて完成する船舶は計46隻。環境性能に優れた新造船の導入を加速し、環境性能が劣る老齢船を順次入れ替えて脱炭素化を推進する。
従来はオーナーから船を借りるチャーター(用船)に専念していたが、自社保有を進めることで輸送需要の拡大に対応する。今年3月には最新鋭大型コンテナ船10隻を発注したと発表。25~26年に完成する予定だ。
メタノールやアンモニアといった代替燃料に対応する境負荷低減技術を導入する。22年5月にも大型コンテナ船10隻を発注したと発表していた。
世界最大のコンテナ船主シースパンを傘下に持つ米アトラスについては、自社が参画するコンソーシアム(企業連合)を通じて先ごろ買収を完了した。シースパンは船舶を所有し、海運会社に対して長期契約を中心に一定期間貸し出す船主業を展開。ONEはシースパンからコンテナ船をチャーターしている。ニクソンCEOは「長期チャーターと船舶保有のバランスを取っていく必要がある」と述べた。
ONEはターミナル事業も進めている。昨年12月に発表した日本郵船傘下のユウセンターミナルズの株式51%取得は年内に完了する予定だ。
ニクソンCEOは「米中対立の影響で両国間の貨物輸送量は限定されているが、他の航路で減少をカバーできる」と説明。市場変動の影響を抑制しながら安定的な事業ポートフォリオ(資産構成)を強化すると付け加えた。
object(WP_Post)#9817 (24) {
["ID"]=>
int(14336)
["post_author"]=>
string(1) "3"
["post_date"]=>
string(19) "2023-07-10 00:00:00"
["post_date_gmt"]=>
string(19) "2023-07-09 15:00:00"
["post_content"]=>
string(6666) "川崎汽船、商船三井、日本郵船の3社が立ち上げたコンテナ船事業会社オーシャン・ネットワーク・エクスプレス(ONE)は7日、新たな成長戦略に取り組むと発表した。ジェレミー・ニクソン最高経営責任者(CEO)が事業運営会社を置くシンガポールで開いた記者会見で明らかにした。海運業界の脱炭素化を積極的に進めるほか、コンテナ船の輸送需要に対応するため、船舶投資を加速させる。【清水美雪】[caption id="attachment_14337" align="aligncenter" width="620"]成長戦略について説明するONEのジェレミー・ニクソン最高経営責任者(CEO)=7日、シンガポール中心部(NNA撮影)[/caption]
ニクソンCEOは7日、2017年の会社設立以来の経営を振り返るとともに、今後の経営戦略を示した。22年までの5年間は成長段階の「フェーズ1(事業統合・確立)」だったが、23年以降は「フェーズ2(持続的な成長)」とする。
ONEは18年に事業を開始。同年度の決算は5億8,600万米ドル(約840億円)の赤字だったが、19年度は10億米ドル(約1,430億円)のコスト削減を実現したこともあり、黒字化を達成。20年度、21年度、22年度も黒字を確保した。22年度は新型コロナウイルス禍の影響で前期比10%減の149億9,700万米ドルにとどまったが、20年度比では4.3倍の純利益だった。
現在は世界7位のコンテナ会社として152万9,000TEU(20フィートコンテナ換算)、200隻超のコンテナ船隊を運航している。
ニクソンCEOはフェーズ1では「スケールメリット」「効率的なオペレーション」を通じた競争力強化、収益力確保を目標にしていたが、フェーズ2では「サステナビリティー」を加え、脱炭素化の加速や財務面の安定性を維持しながら持続的な成長、持続的な競争力維持を目指すと明らかにした。
■グリーン戦略で脱炭素化
ニクソンCEOによると、フェーズ2では具体的に、「グリーン」「デジタル」「人材」「ファイナンス」「グローバル」の5つの戦略を推進する。
グリーン戦略では、25年から26年にかけてアンモニアやメタノールなど環境負荷の低い代替燃料に対応するコンテナ船20隻を導入。今年4月にはONEのサービスを利用した際の二酸化炭素(CO2)排出量を算出する「ONEエコカルキュレーター」の導入を発表しており、海運業界の脱炭素化に向けた取り組みを今後も強化する。
温室効果ガスの排出原単位(特定の活動量当たりのCO2排出量)は、30年までにTEU・キロメートル当たりのスコープ1(温室効果ガスの自社排出量)を08年実績比で7割削減。50年までにはスコープ2(電力使用などに伴う間接的な温室効果ガス排出量)、スコープ3(調達・供給網全体の排出量)を含めて絶対排出量で「ネットゼロ」を目指す。
こうした目標の達成に向け、30年までに最初の代替燃料船舶を就航させ、35年までには排出を実質ゼロにする「ゼロエミッション船」が全船隊の2割超となるようにする。
デジタル戦略では、他社との協業、最新トレンドの把握、新たな価値創造を重視し、デジタル化による事業変革を目指す。6月に発表したリーファーコンテナ(冷凍・冷蔵貨物の輸送に使うコンテナ)へのテレマティクス(車両に搭載する情報通信技術)機器の搭載もこの一環となる。人材戦略では多様な人材をひきつけながら社員の成長を促す。
ファイナンス戦略では、健全な財務体質を維持する。グローバル戦略では、世界的なトレンドと多様化する顧客のニーズに対応するため、ネットワークを強化するほか、効率性、サービスの質をさらに高める。
■船隊規模の拡大で輸送需要に対応
中長期的な船隊整備計画では船舶投資を加速させる。今後は世界的な人口増加やインフラ開発などを受けてコンテナ船の輸送需要がさらに伸びると見込んでいる。
既存投資で23年度から26年度にかけて完成する船舶は計46隻。環境性能に優れた新造船の導入を加速し、環境性能が劣る老齢船を順次入れ替えて脱炭素化を推進する。
従来はオーナーから船を借りるチャーター(用船)に専念していたが、自社保有を進めることで輸送需要の拡大に対応する。今年3月には最新鋭大型コンテナ船10隻を発注したと発表。25~26年に完成する予定だ。
メタノールやアンモニアといった代替燃料に対応する境負荷低減技術を導入する。22年5月にも大型コンテナ船10隻を発注したと発表していた。
世界最大のコンテナ船主シースパンを傘下に持つ米アトラスについては、自社が参画するコンソーシアム(企業連合)を通じて先ごろ買収を完了した。シースパンは船舶を所有し、海運会社に対して長期契約を中心に一定期間貸し出す船主業を展開。ONEはシースパンからコンテナ船をチャーターしている。ニクソンCEOは「長期チャーターと船舶保有のバランスを取っていく必要がある」と述べた。
ONEはターミナル事業も進めている。昨年12月に発表した日本郵船傘下のユウセンターミナルズの株式51%取得は年内に完了する予定だ。
ニクソンCEOは「米中対立の影響で両国間の貨物輸送量は限定されているが、他の航路で減少をカバーできる」と説明。市場変動の影響を抑制しながら安定的な事業ポートフォリオ(資産構成)を強化すると付け加えた。"
["post_title"]=>
string(78) "新成長戦略で脱炭素化を推進海運ONE、船舶投資も加速"
["post_excerpt"]=>
string(0) ""
["post_status"]=>
string(7) "publish"
["comment_status"]=>
string(4) "open"
["ping_status"]=>
string(4) "open"
["post_password"]=>
string(0) ""
["post_name"]=>
string(198) "%e6%96%b0%e6%88%90%e9%95%b7%e6%88%a6%e7%95%a5%e3%81%a7%e8%84%b1%e7%82%ad%e7%b4%a0%e5%8c%96%e3%82%92%e6%8e%a8%e9%80%b2%e6%b5%b7%e9%81%8b%ef%bd%8f%ef%bd%8e%ef%bd%85%e3%80%81%e8%88%b9%e8%88%b6%e6%8a%95"
["to_ping"]=>
string(0) ""
["pinged"]=>
string(0) ""
["post_modified"]=>
string(19) "2023-07-10 04:00:03"
["post_modified_gmt"]=>
string(19) "2023-07-09 19:00:03"
["post_content_filtered"]=>
string(0) ""
["post_parent"]=>
int(0)
["guid"]=>
string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=14336"
["menu_order"]=>
int(0)
["post_type"]=>
string(4) "post"
["post_mime_type"]=>
string(0) ""
["comment_count"]=>
string(1) "0"
["filter"]=>
string(3) "raw"
}
- 国・地域別
-
シンガポール情報
- 内容別
-
ビジネス全般人事労務