タイで7月の消費者物価指数(CPI)が発表され、インフレの懸念がいったん和らいだ一方、観光や輸出の回復が想定よりも遅く、景気減速の懸念が強まっている。また、物価については干ばつによる食品価格の上昇や、燃料価格が再び上昇するとの予想も出ており、タイ中央銀行(BOT)や当局は警戒を解いていない。観光や輸出については早期の中国経済の復調が待たれるところで、景気回復と利上げの兼ね合いも今後の焦点となる。
タイでは景気が下振れする懸念があるとともに、干ばつによる物価上昇のリスクも抱えている(NNA撮影)
7日に発表された7月の消費者物価指数(CPI)は前年同月比0.38%上昇と、ロイター通信による予想値0.64%を下回った。1~7月のCPI上昇率は前年同期比2.19%で、中銀が目標とする1~3%の範囲に収まっている。7月単月のCPI上昇率は「食品・飲料」が1.49%にとどまったほか、「エネルギー」は3.12%のマイナスとなった。商務省は、通年のCPI上昇率を1~2%との従来の予想を据え置いた。
三井住友銀行市場営業統括部の鈴木浩史氏(チーフ・為替ストラテジスト)は「7月単月のCPIは大きく下振れ、前月比では横ばいとなった」とし、「どちらかというと物価上昇の圧力よりも押し下げるリスクが懸念される状況だ」と指摘した。世界的に原油価格はやや上昇傾向にあり、食品価格についても押し上げ圧力が根強い。これらはリスクとなる一方で、中国の景気回復が遅れて観光や輸出が頭打ちとなれば、タイ経済への影響も懸念される。同氏は通年のCPI上昇率を1.9%と予想している。
2019年にタイを訪れる中国人観光客は1,000万人を超え、支出額は5,300億バーツ(約2兆1,600億円)にのぼったとされる。今年1~7月の中国人観光客は184万人で通年では400万人ほどになる見通し。支出額は2,500億バーツほどと、官民が期待した水準には達していない。1~6月の輸出は中国向けだけでなく、米国や日本向けなど主要な市場向けが軒並み前年同期比で減少。単月では6月まで9カ月連続で前年割れとなっている。
中国では労働者の給与引き下げや雇用調整が実施されており、多くの国民が収入減に直面しているとみられる。一方、中国政府は景気刺激策として都市部で670万人、地方で1億8,000万人の雇用創出を実施しており、通年の経済成長率は5%に達すると強気の見方を示す。
■干ばつと燃料価格を注視
国内の物価はいったん落ち着いた印象があるが、中銀や商務省は今後の動向について警戒を完全には解いていないようだ。国内では干ばつが続いており、今年1~6月の平均降水量は69ミリと、前年の6割程度にとどまる。国内でのコメ生産は3%減ると予想され、世界最大のコメ生産国であるインドが7月に輸出禁止を発表したことで、国際価格は大きく上昇している。タイ地元紙の報道によると、1トンあたりの白米(5%破砕米入り)の国内での販売価格は1万9,500バーツと、先週の1万7,000バーツから上昇している。商務省は7日、干ばつの影響について対策を協議すると発表している。
また、交通量が増えていることで、燃料の消費量も増加傾向にある。エネルギー省は今年1~6月の燃料消費量は前年同期比2.7%増の283億7,000万リットルと発表。ガソリンの消費量は5.9%増の57億8,410万リットル、ジェット燃料は78.5%増の24億7,500万トンと急増している。原油の輸入額は、世界的に燃料価格が高かった前年より15%縮小しているものの、輸入量は3.1%上昇している。7日の会見で商務省は「食糧とともに、燃料価格も上昇する可能性がある」とし、今後の動向を注視するとしている。
中銀は2日の金融政策委員会(MPC)で、政策金利(翌日物レポ金利)を0.25%引き上げ2.25%とすることを決定した。政策金利の引き上げは2022年8月以降で7会合連続となり、過去9年で最高の水準に設定した。クルンタイ銀行は9月に追加の利上げが実施される可能性について「経済と政治の状況次第」としたものの、「23~24年にかけて経済が拡大してインフレ率が2%を超えれば、政策金利は2.25%を超えて2.5%に達する可能性がある」としている。鈴木氏は「利上げを続ける場合には、物価の上振れや観光業の回復、中国景気の回復などが確認されることが条件と考えられるが、いずれも可能性は高くない」とし、9月のMPCでは金利は据え置かれると予想した。
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三井住友銀行市場営業統括部の鈴木浩史氏(チーフ・為替ストラテジスト)は「7月単月のCPIは大きく下振れ、前月比では横ばいとなった」とし、「どちらかというと物価上昇の圧力よりも押し下げるリスクが懸念される状況だ」と指摘した。世界的に原油価格はやや上昇傾向にあり、食品価格についても押し上げ圧力が根強い。これらはリスクとなる一方で、中国の景気回復が遅れて観光や輸出が頭打ちとなれば、タイ経済への影響も懸念される。同氏は通年のCPI上昇率を1.9%と予想している。
2019年にタイを訪れる中国人観光客は1,000万人を超え、支出額は5,300億バーツ(約2兆1,600億円)にのぼったとされる。今年1~7月の中国人観光客は184万人で通年では400万人ほどになる見通し。支出額は2,500億バーツほどと、官民が期待した水準には達していない。1~6月の輸出は中国向けだけでなく、米国や日本向けなど主要な市場向けが軒並み前年同期比で減少。単月では6月まで9カ月連続で前年割れとなっている。
中国では労働者の給与引き下げや雇用調整が実施されており、多くの国民が収入減に直面しているとみられる。一方、中国政府は景気刺激策として都市部で670万人、地方で1億8,000万人の雇用創出を実施しており、通年の経済成長率は5%に達すると強気の見方を示す。
■干ばつと燃料価格を注視
国内の物価はいったん落ち着いた印象があるが、中銀や商務省は今後の動向について警戒を完全には解いていないようだ。国内では干ばつが続いており、今年1~6月の平均降水量は69ミリと、前年の6割程度にとどまる。国内でのコメ生産は3%減ると予想され、世界最大のコメ生産国であるインドが7月に輸出禁止を発表したことで、国際価格は大きく上昇している。タイ地元紙の報道によると、1トンあたりの白米(5%破砕米入り)の国内での販売価格は1万9,500バーツと、先週の1万7,000バーツから上昇している。商務省は7日、干ばつの影響について対策を協議すると発表している。
また、交通量が増えていることで、燃料の消費量も増加傾向にある。エネルギー省は今年1~6月の燃料消費量は前年同期比2.7%増の283億7,000万リットルと発表。ガソリンの消費量は5.9%増の57億8,410万リットル、ジェット燃料は78.5%増の24億7,500万トンと急増している。原油の輸入額は、世界的に燃料価格が高かった前年より15%縮小しているものの、輸入量は3.1%上昇している。7日の会見で商務省は「食糧とともに、燃料価格も上昇する可能性がある」とし、今後の動向を注視するとしている。
中銀は2日の金融政策委員会(MPC)で、政策金利(翌日物レポ金利)を0.25%引き上げ2.25%とすることを決定した。政策金利の引き上げは2022年8月以降で7会合連続となり、過去9年で最高の水準に設定した。クルンタイ銀行は9月に追加の利上げが実施される可能性について「経済と政治の状況次第」としたものの、「23~24年にかけて経済が拡大してインフレ率が2%を超えれば、政策金利は2.25%を超えて2.5%に達する可能性がある」としている。鈴木氏は「利上げを続ける場合には、物価の上振れや観光業の回復、中国景気の回復などが確認されることが条件と考えられるが、いずれも可能性は高くない」とし、9月のMPCでは金利は据え置かれると予想した。"
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