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医療目的限定で闇市場出現も激変!タイの大麻事情(上)

2022年にアジアで最初に麻薬として禁止するリストから大麻を除外したタイ。ところが、大麻の利用を医療目的に限定する政策方針を掲げたセーター政権の発足で、タイの大麻事情が激変している。タイ保健省は早ければ今月中にも、法案を内閣に提出する見通しだ。ただ、娯楽を目的とする大麻販売の根絶は難しく、ブラックマーケット(闇市場)が出現する可能性が指摘されている。

「いつでもクリニックを開業する準備はできている」と話すアムステルダムカフェのオーナー、ブルースさん=11日、タイ・バンコク(NNA撮影)

法案は何があっても国会に提出する——。タイのチョンラナン保健相は今月12日、大麻業界関係者から新法に関する意見を聞くための対話集会の冒頭でこう発言した。
タイメディアで報道されたチョンラナン保健相のこれまでの発言をまとめると、法案は、高揚感をもたらす成分である「テトラヒドロカンナビノール(THC)」の含有率が0.2%を超えるヘンプやマリフアナを改めて「麻薬」と明確にしている。違反者は罰せられるもよう。法案が国会を通過すれば、大麻が合法化された22年6月以来の方針転換となる。
■販売店はクリニックに
タイでは、THC含有率が1%未満のものはヘンプ、1%以上のものはマリフアナと区別されている。ヘンプとマリフアナはいずれもカンナビス科に分類される大麻草だが、マリフアナの用途は法律で厳しく制限している。
タイ政府は大麻の家庭栽培や医療目的での使用を解禁した後も娯楽目的での吸引は引き続き禁止していたものの、大麻が規制薬物のリストから除外されたことから、業界からは「事実上のマリフアナ解禁」として受け取られた。
取り締まる法整備が追いつかず、ディスペンサリーと呼ばれる娯楽を目的とした販売店が雨後の竹の子のように出現した。業界関係者は「事業ライセンスなしで出店できるなど、無法状態に近い」と話す。THCの含有率が30%近い製品なども販売されており、中毒者も急増した。
ヘンプ業界関係者によると、急速にTHCが流行した背景の1つに、カンナビジオール(CBD)に対する失望もあるという。CBDはヘンプから抽出される向精神作用はない合法成分の1つで、炎症の沈静化や不眠症の改善などに効果があるとされる。タイでは21年にタイ保健省食品・医薬品局(FDA)への申請を条件に、民間によるヘンプ草の栽培とヘンプ草から抽出されるCBDが合法化された。しかし、消費者の間では「価格が高い割には期待していたほど効果は大きくない」と認識され、CBDオイル離れが進んでいるという。
チョンラナン保健相は販売店についても、タイメディアとのインタビューで、政府から事業ライセンスを取得していれば存続を認めるとしながらも、娯楽目的とした販売は違法であるとし、不眠症などに悩む患者に医師が大麻オイルを処方するクリニックに転換するように求めた。

大麻業界関係者を集めた対話集会であいさつするチョンラナン保健相(タイ政府提供)

タイ政府の方針転換を巡り、すでに対応に乗り出している販売店も少なくない。高架鉄道(BTS)ナナ駅の近くにある「アムステルダムカフェ」もその1つ。フランス人経営者のブルース・ジオバンニさんは知り合いの弁護士を通じて医師と契約を結ぶなど、いつでもクリニックを開業できる体制を整えた。ブルースさんは「新法が成立した場合、一番得するのは医師になるだろう」とも述べた。
■娯楽目的の根絶は困難
ただ、娯楽を目的とする販売の根絶はほぼ不可能に近いのが実情だ。大麻市場では、医療目的よりも娯楽目的で購入する消費者が圧倒的に多い。新法が成立したとしても、ブラックマーケットが形成され、取り締まる側と取り締まられる側とのいたちごっこが始まるのは時間の問題だ。
業界関係者の間では、タイ政府がメンツを守るための折衷案として、販売店からクリニックへの表向きのくら替えを条件に、クリニック内での娯楽目的の大麻販売に目をつぶる可能性も指摘されている。あるいは観光地などでは、特定の販売店に外国人旅行者への販売のみを認める可能性もあるという。
前出のブルースさんもしばらくは様子をうかがう構えで、クリニックを開業しても、販売所であるアムステルダムカフェを閉じる考えはないようだ。ブルースさんは「大麻販売店はロケーションで決まる。うちには毎日150人以上の外国人旅行者や駐在員が店を訪れている」と話す。卸売りも手がける。一度に100キロ分購入していく業者もいるという。ブルースさんは間もなく、南部プーケット県に2店舗目を出店する。
一方、旅行業界では、大麻の利用を医療目的に限定しようとするセーター政権の政策について「大麻目当ての訪タイ外国人旅行者は多くない」として、歓迎ムードのようだ。
アジアで最初に麻薬として禁止するリストから大麻を除外したタイだが、1度解禁したものを再び規制するのは極度の困難が伴う。チョンラナン保健相は現場の実情を知ってか知らずか、水面下ではすでに虚々実々の駆け引きが繰り広げられている。

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■販売店はクリニックに
タイでは、THC含有率が1%未満のものはヘンプ、1%以上のものはマリフアナと区別されている。ヘンプとマリフアナはいずれもカンナビス科に分類される大麻草だが、マリフアナの用途は法律で厳しく制限している。
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取り締まる法整備が追いつかず、ディスペンサリーと呼ばれる娯楽を目的とした販売店が雨後の竹の子のように出現した。業界関係者は「事業ライセンスなしで出店できるなど、無法状態に近い」と話す。THCの含有率が30%近い製品なども販売されており、中毒者も急増した。
ヘンプ業界関係者によると、急速にTHCが流行した背景の1つに、カンナビジオール(CBD)に対する失望もあるという。CBDはヘンプから抽出される向精神作用はない合法成分の1つで、炎症の沈静化や不眠症の改善などに効果があるとされる。タイでは21年にタイ保健省食品・医薬品局(FDA)への申請を条件に、民間によるヘンプ草の栽培とヘンプ草から抽出されるCBDが合法化された。しかし、消費者の間では「価格が高い割には期待していたほど効果は大きくない」と認識され、CBDオイル離れが進んでいるという。
チョンラナン保健相は販売店についても、タイメディアとのインタビューで、政府から事業ライセンスを取得していれば存続を認めるとしながらも、娯楽目的とした販売は違法であるとし、不眠症などに悩む患者に医師が大麻オイルを処方するクリニックに転換するように求めた。[caption id="attachment_17818" align="aligncenter" width="620"]大麻業界関係者を集めた対話集会であいさつするチョンラナン保健相(タイ政府提供)[/caption]
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■娯楽目的の根絶は困難
ただ、娯楽を目的とする販売の根絶はほぼ不可能に近いのが実情だ。大麻市場では、医療目的よりも娯楽目的で購入する消費者が圧倒的に多い。新法が成立したとしても、ブラックマーケットが形成され、取り締まる側と取り締まられる側とのいたちごっこが始まるのは時間の問題だ。
業界関係者の間では、タイ政府がメンツを守るための折衷案として、販売店からクリニックへの表向きのくら替えを条件に、クリニック内での娯楽目的の大麻販売に目をつぶる可能性も指摘されている。あるいは観光地などでは、特定の販売店に外国人旅行者への販売のみを認める可能性もあるという。
前出のブルースさんもしばらくは様子をうかがう構えで、クリニックを開業しても、販売所であるアムステルダムカフェを閉じる考えはないようだ。ブルースさんは「大麻販売店はロケーションで決まる。うちには毎日150人以上の外国人旅行者や駐在員が店を訪れている」と話す。卸売りも手がける。一度に100キロ分購入していく業者もいるという。ブルースさんは間もなく、南部プーケット県に2店舗目を出店する。
一方、旅行業界では、大麻の利用を医療目的に限定しようとするセーター政権の政策について「大麻目当ての訪タイ外国人旅行者は多くない」として、歓迎ムードのようだ。
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