NNAグローバルナビ アジア専門情報ブログ

日本支援の新港、拡張進む西ジャワ新経済地域を創生(1)

日本政府が開発を支援するインドネシアの西ジャワ州スバン県にあるパティンバン港(自動車・コンテナターミナル)で、日系企業が自動車ターミナルの運営を開始して2年以上が経過した。同港は現在、円借款による拡張工事が進行中で、来年予定する完工後の自動車ターミナルの取り扱い能力は現在の1.5倍の年60万台以上と、国内最大の首都港湾とほぼ同等になる。日系企業が多く操業する工業地帯に近接するスバン県と周辺自治体は「ルバナ(レバナ)地域」と呼ばれ、新たな経済成長を創出するための開発計画が進められており、同港はその中核施設となることが期待されている。

輸出車両の積み込み作業の様子。現在は、パティンバン港を出発した後、ブルネイ、フィリピンを経由して日本に到着する国際船が運航している=2月26日、西ジャワ州(NNA撮影)


パティンバン港は、経済成長に伴う国全体の取扱貨物量が増加傾向にある中で、首都ジャカルタのタンジュンプリオク港に集中する貨物量を分散し、首都圏の物流を円滑化することを目的に、2018年から円借款事業で自動車ターミナルとコンテナターミナルが段階的に建設されてきた。ジャカルタ東郊から西ジャワ州カラワンにかけては日系製造企業の拠点が集積しており、首都圏の慢性的な渋滞を回避してアクセスできる新港には日系企業も期待を寄せてきた。
パティンバン港の自動車ターミナルは、21年12月に豊田通商グループの100%出資会社パティンバン・インターナショナル・カーターミナル(PICT)が、同港の運営会社プラブハン・パティンバン・インターナショナル(PPI)から運営を受託。その後、23年6月に、トヨフジ海運、日本郵船、上組が株主に参画した。
23年の完成車(CBU)取り扱い実績は、前年比12%増の22万6,065台。このうち、輸出台数が12万4,594台だった。23年の国内全体の完成車輸出台数は50万5,134台で、25%がパティンバン港から輸出された計算になる。この割合は22年の22%から上昇した。

現在、パティンバン港には、トヨフジ海運の国際船が週1回、国内船が週2~3回寄港している。
PICTは、23年4月に港内の未利用の敷地をヤードとして活用したことで、拡張前の段階で取り扱い能力を年40万台に拡大。拡張完了後は60万台以上にまで引き上げられる。
PICTの矢澤弘之社長は、ヤード整備によって十分な余力が生まれているとし、港湾運営の管理面での向上に継続して取り組みつつ、新規顧客を開拓していく考えを述べた。

NNAのインタビューに応じた、パティンバン・インターナショナル・カーターミナル(PICT)の矢澤弘之社長=2月26日、西ジャワ州(NNA撮影)

一方で矢澤氏は、港の利便性を向上させ、取扱量や港湾運営の効率を最大化させるには、港と既存の高速道路をつなぐパティンバン・アクセス高速道路(総延長37キロメートル)と、港の拡張が完工することが待ち望まれると述べた。「拡張工事により、岸壁の水深がすべての大型船に対応できる12.5メートルになるほか、自動車ターミナルのバースが追加され、大型船が2隻同時に停泊できるようになる」(矢澤氏)という。
港の拡張(パッケージ5とパッケージ6)とアクセス高速道路の建設は、いずれも25年内の完工を予定している。

自動車ターミナルの拡張工事の様子=2月26日、西ジャワ州スバン県(NNA撮影)


■コンテナターミナル、委託事業者を最終選考中
パティンバン港には、自動車ターミナルと同時に敷地整備が行われたコンテナターミナルもある。ただ、現在のコンテナターミナルの設備や機能は限定的で、PPIが穀物や資材輸入、政府の輸送プログラムに対応するための多目的港として運営するにとどまっている。
PPIのゼネラルマネジャー(オペレーション担当)を務めるバスティアン氏は、「現在、コンテナターミナルを本格稼働させるために運営委託者の選定を進めている」とし、日本企業などが参画するコンソーシアム(企業連合)とアラブ首長国連邦(UAE)の港湾運営ADポーツ・グループ傘下のアブダビ・ポーツのコンソーシアムの2者が最終協議に残っていると明かした。第2四半期(4~6月)中にも決定する予定という。
コンテナターミナルとして本格的に稼働するのは、26年になると見通している。大型設備の導入などに時間を要すため、約24カ月間の準備期間を見込んでいるという。

■港湾周辺や広域地域でも日本が協力
バスティアン氏は、コンテナターミナルとして機能を十分に果たすには、同港の後背地(約365ヘクタール)に当たるエリアの開発が進むことが重要だと指摘した。後背地にデポ(物流基地)や製造拠点などが設けられることで、利便性を向上できるという。
ただ、後背地開発については土地収用が完了しているものの、建造物の建設などが具体的に動き出すのはこれからだ。現在、国際協力機構(JICA)が、パティンバン港の管理能力の強化の一環として、後背地開発に向けた技術支援に取り組んでいる。民間投資を誘致するための事業スキームなどの調査・検討が進められており、25年12月までに終了を予定する。JICAによると、なるべく早くインフラ開発に取りかかれるよう、運輸省など関係各所と協議を進めているという。
パティンバン港の位置するスバン県は、インドネシア政府がすでにマスタープランを策定している西ジャワ州ルバナ地域内に位置する。ルバナ地域開発は西ジャワ州7県・市が含まれ、国家戦略事業にも指定されている。このマスタープランの補強や優先プロジェクトの選定についても、JICAが支援をしていく。日本政府が支援し、すでに日系企業が運営に参画しているパティンバン港、その周辺地域からさらに広域にかけて、中長期的な開発が進むことが期待されている。

パティンバン港までは、最寄りの高速道路の出入り口から約60キロメートル国道を利用する。利便性の向上には、既存の高速道路と直接つながるアクセス高速道路の完成が必須となる=2月26日、西ジャワ州スバン県(NNA撮影)

拡張が進むコンテナターミナルの建設現場=2月26日、西ジャワ州スバン県(NNA撮影)
object(WP_Post)#9817 (24) {
  ["ID"]=>
  int(19304)
  ["post_author"]=>
  string(1) "3"
  ["post_date"]=>
  string(19) "2024-04-05 00:00:00"
  ["post_date_gmt"]=>
  string(19) "2024-04-04 15:00:00"
  ["post_content"]=>
  string(10480) "日本政府が開発を支援するインドネシアの西ジャワ州スバン県にあるパティンバン港(自動車・コンテナターミナル)で、日系企業が自動車ターミナルの運営を開始して2年以上が経過した。同港は現在、円借款による拡張工事が進行中で、来年予定する完工後の自動車ターミナルの取り扱い能力は現在の1.5倍の年60万台以上と、国内最大の首都港湾とほぼ同等になる。日系企業が多く操業する工業地帯に近接するスバン県と周辺自治体は「ルバナ(レバナ)地域」と呼ばれ、新たな経済成長を創出するための開発計画が進められており、同港はその中核施設となることが期待されている。[caption id="attachment_19308" align="aligncenter" width="620"]輸出車両の積み込み作業の様子。現在は、パティンバン港を出発した後、ブルネイ、フィリピンを経由して日本に到着する国際船が運航している=2月26日、西ジャワ州(NNA撮影)[/caption]

パティンバン港は、経済成長に伴う国全体の取扱貨物量が増加傾向にある中で、首都ジャカルタのタンジュンプリオク港に集中する貨物量を分散し、首都圏の物流を円滑化することを目的に、2018年から円借款事業で自動車ターミナルとコンテナターミナルが段階的に建設されてきた。ジャカルタ東郊から西ジャワ州カラワンにかけては日系製造企業の拠点が集積しており、首都圏の慢性的な渋滞を回避してアクセスできる新港には日系企業も期待を寄せてきた。
パティンバン港の自動車ターミナルは、21年12月に豊田通商グループの100%出資会社パティンバン・インターナショナル・カーターミナル(PICT)が、同港の運営会社プラブハン・パティンバン・インターナショナル(PPI)から運営を受託。その後、23年6月に、トヨフジ海運、日本郵船、上組が株主に参画した。
23年の完成車(CBU)取り扱い実績は、前年比12%増の22万6,065台。このうち、輸出台数が12万4,594台だった。23年の国内全体の完成車輸出台数は50万5,134台で、25%がパティンバン港から輸出された計算になる。この割合は22年の22%から上昇した。

現在、パティンバン港には、トヨフジ海運の国際船が週1回、国内船が週2~3回寄港している。
PICTは、23年4月に港内の未利用の敷地をヤードとして活用したことで、拡張前の段階で取り扱い能力を年40万台に拡大。拡張完了後は60万台以上にまで引き上げられる。
PICTの矢澤弘之社長は、ヤード整備によって十分な余力が生まれているとし、港湾運営の管理面での向上に継続して取り組みつつ、新規顧客を開拓していく考えを述べた。[caption id="attachment_19314" align="aligncenter" width="620"]NNAのインタビューに応じた、パティンバン・インターナショナル・カーターミナル(PICT)の矢澤弘之社長=2月26日、西ジャワ州(NNA撮影)[/caption]
一方で矢澤氏は、港の利便性を向上させ、取扱量や港湾運営の効率を最大化させるには、港と既存の高速道路をつなぐパティンバン・アクセス高速道路(総延長37キロメートル)と、港の拡張が完工することが待ち望まれると述べた。「拡張工事により、岸壁の水深がすべての大型船に対応できる12.5メートルになるほか、自動車ターミナルのバースが追加され、大型船が2隻同時に停泊できるようになる」(矢澤氏)という。
港の拡張(パッケージ5とパッケージ6)とアクセス高速道路の建設は、いずれも25年内の完工を予定している。
[caption id="attachment_19306" align="aligncenter" width="620"]自動車ターミナルの拡張工事の様子=2月26日、西ジャワ州スバン県(NNA撮影)[/caption]

■コンテナターミナル、委託事業者を最終選考中
パティンバン港には、自動車ターミナルと同時に敷地整備が行われたコンテナターミナルもある。ただ、現在のコンテナターミナルの設備や機能は限定的で、PPIが穀物や資材輸入、政府の輸送プログラムに対応するための多目的港として運営するにとどまっている。
PPIのゼネラルマネジャー(オペレーション担当)を務めるバスティアン氏は、「現在、コンテナターミナルを本格稼働させるために運営委託者の選定を進めている」とし、日本企業などが参画するコンソーシアム(企業連合)とアラブ首長国連邦(UAE)の港湾運営ADポーツ・グループ傘下のアブダビ・ポーツのコンソーシアムの2者が最終協議に残っていると明かした。第2四半期(4~6月)中にも決定する予定という。
コンテナターミナルとして本格的に稼働するのは、26年になると見通している。大型設備の導入などに時間を要すため、約24カ月間の準備期間を見込んでいるという。

■港湾周辺や広域地域でも日本が協力
バスティアン氏は、コンテナターミナルとして機能を十分に果たすには、同港の後背地(約365ヘクタール)に当たるエリアの開発が進むことが重要だと指摘した。後背地にデポ(物流基地)や製造拠点などが設けられることで、利便性を向上できるという。
ただ、後背地開発については土地収用が完了しているものの、建造物の建設などが具体的に動き出すのはこれからだ。現在、国際協力機構(JICA)が、パティンバン港の管理能力の強化の一環として、後背地開発に向けた技術支援に取り組んでいる。民間投資を誘致するための事業スキームなどの調査・検討が進められており、25年12月までに終了を予定する。JICAによると、なるべく早くインフラ開発に取りかかれるよう、運輸省など関係各所と協議を進めているという。
パティンバン港の位置するスバン県は、インドネシア政府がすでにマスタープランを策定している西ジャワ州ルバナ地域内に位置する。ルバナ地域開発は西ジャワ州7県・市が含まれ、国家戦略事業にも指定されている。このマスタープランの補強や優先プロジェクトの選定についても、JICAが支援をしていく。日本政府が支援し、すでに日系企業が運営に参画しているパティンバン港、その周辺地域からさらに広域にかけて、中長期的な開発が進むことが期待されている。

[caption id="attachment_19305" align="aligncenter" width="620"]パティンバン港までは、最寄りの高速道路の出入り口から約60キロメートル国道を利用する。利便性の向上には、既存の高速道路と直接つながるアクセス高速道路の完成が必須となる=2月26日、西ジャワ州スバン県(NNA撮影)[/caption]
[caption id="attachment_19307" align="aligncenter" width="620"]拡張が進むコンテナターミナルの建設現場=2月26日、西ジャワ州スバン県(NNA撮影)[/caption]" ["post_title"]=> string(81) "日本支援の新港、拡張進む西ジャワ新経済地域を創生(1)" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(198) "%e6%97%a5%e6%9c%ac%e6%94%af%e6%8f%b4%e3%81%ae%e6%96%b0%e6%b8%af%e3%80%81%e6%8b%a1%e5%bc%b5%e9%80%b2%e3%82%80%e8%a5%bf%e3%82%b8%e3%83%a3%e3%83%af%e6%96%b0%e7%b5%8c%e6%b8%88%e5%9c%b0%e5%9f%9f%e3%82%92" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2024-04-05 04:00:08" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2024-04-04 19:00:08" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=19304" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
 NNA
エヌエヌエー NNA
アジアの経済ニュース・ビジネス情報 - NNA ASIA

アジア経済の詳細やビジネスに直結する新着ニュースを掲載。
現地の最新動向を一目で把握できます。
法律、会計、労務などの特集も多数掲載しています。

【東京本社】
105-7209 東京都港区東新橋1丁目7番1号汐留メディアタワー9階
Tel:81-3-6218-4330
Fax:81-3-6218-4337
E-mail:sales_jp@nna.asia
HP:https://www.nna.jp/

国・地域別
インドネシア情報
内容別
ビジネス全般人事労務

コメントを書く

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

※がついている欄は必須項目です。

コメント※:

お名前:

CAPTCHA


このサイトはスパムを低減するために Akismet を使っています。コメントデータの処理方法の詳細はこちらをご覧ください