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動き出すスバン県の工業団地西ジャワ新経済地域を創生(2)

インドネシア西ジャワ州スバン県が、次世代の成長地域として注目されつつある。同県は日系企業が集積する工業地帯がある同州カラワン県に隣接し、2021年12月にパティンバン新港の自動車ターミナルが本格稼働したほか、23年に全面供用を開始したクルタジャティ空港(同州マジャレンカ県)にも近い。こうしたスバン県の地理的利点を生かし、地場不動産開発スルヤチプタ・スワダヤは、新興都市「スバン・スマートポリタン」の開発を始めている。現在、工業団地を中心とした第1フェーズの建設を進めており、今年12月に開業を予定する。

スバン・スマートポリタンで建設が進む三和無線の工場(同社提供)

工業団地を中心とするスバン・スマートポリタンは、マスタープラン(基本計画)で計2,717ヘクタールの開発が計画されている。第1~6フェーズに分かれた計画のうち、第1フェーズ(約400ヘクタール)の用地の引き渡しは既に始まっており、12月の開業に向けて、水インフラなどの整備も進められている。
最初の入居企業となるのは電子接続部品製造の三和無線(大阪府高槻市)で、工場建設が進んでいる。ほか、年内に台湾企業1社が着工する見込みだ。また現在、複数の中国系企業から投資の意向表明書が提出されており、用地売買の交渉が進められている。中には、自動車部品メーカーが含まれているという。

スバン・スマートポリタンの利点は、スバン県の地理的利点と併せて最低賃金や土地価格の低さなどにある。スルヤチプタの販売・テナント関係部門の責任者を務めるデウィ氏によると、同社がカラワン県で運営する工業団地から高速道路で約35キロメートルしか離れていないものの、スバン県は24年の最低賃金(UMK)が月329万4,485ルピア(約3万1,000円)で、525万ルピアを超えるカラワン県と比較すると4割弱低い。
スバン・スマートポリタンの工業向け用地価格は、1平方メートル当たり約125米ドル(約1万9,290円)。スルヤチプタがカラワン県で運営するスルヤチプタ工業団地と比較しても約15%安い水準という。
スバン・スマートポリタンの第1フェーズでは、敷地面積の60%以上を占める工業用地を優先的に開発し、その後に商業地区、一戸建て住宅地区の開発を進める計画だ。24年に新たに工業用地45ヘクタール、商業地区向けに3ヘクタールを販売する目標を設定している。商業地区ではすでに、ホテル開発、医療施設、教育機関の関係者と接触している。

建設中の排水処理場。処理能力は日量5,000立方メートル=3月19日、西ジャワ州(NNA撮影)

スバン・スマートポリタンの第1フェーズの敷地=3月19日、西ジャワ州(NNA撮影)

第2フェーズ以降の具体的な開発タイムラインや投資総額については明らかにしておらず、デウィ氏は「市場ニーズを踏まえながら中長期で進めていく」と述べた。
また、名称の一部になっているように、モノのインターネット(IoT)といったスマート技術の利用をマスタープランの段階で計画しており、第5世代(5G)移動通信システム、センサーなどデジタルを活用したモニタリングシステムなどを整備する。25年には敷地内に大規模な太陽光発電所「ソーラーファーム」を建設する計画もあり、工業団地に再生可能エネルギーを供給する体制を整える。
■待たれるアクセス道の完工
スバン・スマートポリタンの利便性を高める上で重要となるのが、約40キロ離れたパティンバン港と接続する、パティンバン・アクセス高速道路の完工だ。アクセス高速道はスバン・スマートポリタンの中心を通る設計で、スバン・スマートポリタンの旗艦インフラとなる。
アクセス高速道は、公共事業・国民住宅省による建設区間と、民間企業が参画する区間の2つに分かれ、官製区間は23年12月から建設工事が始まっている。民間区間は、スルヤチプタと同じスルヤ・インテルヌサ・グループの子会社、道路公団ジャサ・マルガなどが参画するコンソーシアム(企業連合)であるジャサマルガ・アクセス・パティンバンが建設を担う。第2四半期(4~6月)の着工を見込み、25年内の完工を目標とする。
スバン・スマートポリタンへのアクセスは、アクセス高速道の完成によって、既存高速道と直結する出入り口が建設される。一方、現在は、スバン・スマートポリタンのある地点から約10キロ先にある西ジャワ州チコポ—パリマナン(チパリ)高速道路のカリジャティ出入り口を利用し、その後、一般道を約30分通る必要がある。
デウィ氏は、アクセス道とパティンバン港の拡張工事が完了し、コンテナターミナルと自動車ターミナルの能力が拡大するとみられる25年以降が、スバン・スマートポリタンにとっても重要なポイントの一つになるとの考えを示した。

チコポ—パリマナン高速道路で、スバン・スマートポリタンが位置する場所には、看板が設置されている=3月19日、西ジャワ州(NNA撮影)

模型を使いながらプロジェクトについて説明する、スルヤチプタ・スワダヤの販売・テナント関係部門の責任者を務めるデウィ氏(左)=3月19日、西ジャワ州(NNA撮影)

■新興経済地域「ルバナ」、JICAも支援
スバン・スマートポリタンやパティンバン港が位置するスバン県は、政府が新興経済地域としてマスタープランを策定した、「ルバナ(レバナ)地域」の一部に当たる。西ジャワ州の22年の統計によると、同州の4,900万人の人口のうち、約20%に当たる990万人がルバナ地域に住む。その旗艦開発地の一つとして、パティンバン港が指定されている。23年10月に全面運用が開始されたクルタジャティ空港も同地域の大型インフラだ。


こうした中で、国際協力機構(JICA)は、パティンバン港周辺におけるルバナ地域開発の技術協力として、同地域の総合開発計画のレビュー、優先事業の選定などを支援し、策定済みのロードマップ(行程表)の内容を補強する。
広域にわたるルバナ地域開発は、調整機関となる西ジャワ州プロジェクトマネジメントオフィス・ルバナ地域管理局(RMMA)が昨年立ち上がったばかりで、開発実施に向けた、中央政府、地方政府、民間事業者の調整メカニズムの構築も支援する。JICAは、4~5月にも専門家の派遣を開始したい意向だ。
クルタジャティ空港では、隣接する商業エリアに当たる「エアロシティー」の開発が計画されており、25年に着工が予定されている。開発運営を担う、西ジャワ州営企業傘下のBIJBエアロシティー・デベロップメントのスリ社長によれば、国営建設プンバングナン・プルマハン(PP)の傘下企業が事業に参画することが決定しているほか、中国系企業で秘密保持契約の段階に進んでいる企業があるという。日系企業とも太陽光パネル関連事業で協議を始めていると明らかにした。
ルバナ地域が、ジャカルタ首都圏の過密状態を緩和させつつ成長を促す、未来の経済センターとなるか、日系企業を含めた外資企業にとっても有力な選択肢となりうるか、中長期的な開発動向が注目される。(本特集は和田純一が担当しました)

スバン・スマートポリタンの第1フェーズの開発地では、作業トラックが行き交っていた=3月19日、西ジャワ州(NNA撮影)

2024年12月の開業に向けてスバン・スマートポリタンの基礎インフラ工事が進む=3月19日、西ジャワ州(NNA撮影)
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工業団地を中心とするスバン・スマートポリタンは、マスタープラン(基本計画)で計2,717ヘクタールの開発が計画されている。第1~6フェーズに分かれた計画のうち、第1フェーズ(約400ヘクタール)の用地の引き渡しは既に始まっており、12月の開業に向けて、水インフラなどの整備も進められている。
最初の入居企業となるのは電子接続部品製造の三和無線(大阪府高槻市)で、工場建設が進んでいる。ほか、年内に台湾企業1社が着工する見込みだ。また現在、複数の中国系企業から投資の意向表明書が提出されており、用地売買の交渉が進められている。中には、自動車部品メーカーが含まれているという。

スバン・スマートポリタンの利点は、スバン県の地理的利点と併せて最低賃金や土地価格の低さなどにある。スルヤチプタの販売・テナント関係部門の責任者を務めるデウィ氏によると、同社がカラワン県で運営する工業団地から高速道路で約35キロメートルしか離れていないものの、スバン県は24年の最低賃金(UMK)が月329万4,485ルピア(約3万1,000円)で、525万ルピアを超えるカラワン県と比較すると4割弱低い。
スバン・スマートポリタンの工業向け用地価格は、1平方メートル当たり約125米ドル(約1万9,290円)。スルヤチプタがカラワン県で運営するスルヤチプタ工業団地と比較しても約15%安い水準という。
スバン・スマートポリタンの第1フェーズでは、敷地面積の60%以上を占める工業用地を優先的に開発し、その後に商業地区、一戸建て住宅地区の開発を進める計画だ。24年に新たに工業用地45ヘクタール、商業地区向けに3ヘクタールを販売する目標を設定している。商業地区ではすでに、ホテル開発、医療施設、教育機関の関係者と接触している。
[caption id="attachment_19494" align="aligncenter" width="620"]建設中の排水処理場。処理能力は日量5,000立方メートル=3月19日、西ジャワ州(NNA撮影)[/caption]
[caption id="attachment_19492" align="aligncenter" width="620"]スバン・スマートポリタンの第1フェーズの敷地=3月19日、西ジャワ州(NNA撮影)[/caption]
第2フェーズ以降の具体的な開発タイムラインや投資総額については明らかにしておらず、デウィ氏は「市場ニーズを踏まえながら中長期で進めていく」と述べた。
また、名称の一部になっているように、モノのインターネット(IoT)といったスマート技術の利用をマスタープランの段階で計画しており、第5世代(5G)移動通信システム、センサーなどデジタルを活用したモニタリングシステムなどを整備する。25年には敷地内に大規模な太陽光発電所「ソーラーファーム」を建設する計画もあり、工業団地に再生可能エネルギーを供給する体制を整える。
■待たれるアクセス道の完工
スバン・スマートポリタンの利便性を高める上で重要となるのが、約40キロ離れたパティンバン港と接続する、パティンバン・アクセス高速道路の完工だ。アクセス高速道はスバン・スマートポリタンの中心を通る設計で、スバン・スマートポリタンの旗艦インフラとなる。
アクセス高速道は、公共事業・国民住宅省による建設区間と、民間企業が参画する区間の2つに分かれ、官製区間は23年12月から建設工事が始まっている。民間区間は、スルヤチプタと同じスルヤ・インテルヌサ・グループの子会社、道路公団ジャサ・マルガなどが参画するコンソーシアム(企業連合)であるジャサマルガ・アクセス・パティンバンが建設を担う。第2四半期(4~6月)の着工を見込み、25年内の完工を目標とする。
スバン・スマートポリタンへのアクセスは、アクセス高速道の完成によって、既存高速道と直結する出入り口が建設される。一方、現在は、スバン・スマートポリタンのある地点から約10キロ先にある西ジャワ州チコポ—パリマナン(チパリ)高速道路のカリジャティ出入り口を利用し、その後、一般道を約30分通る必要がある。
デウィ氏は、アクセス道とパティンバン港の拡張工事が完了し、コンテナターミナルと自動車ターミナルの能力が拡大するとみられる25年以降が、スバン・スマートポリタンにとっても重要なポイントの一つになるとの考えを示した。
[caption id="attachment_19495" align="aligncenter" width="620"]チコポ—パリマナン高速道路で、スバン・スマートポリタンが位置する場所には、看板が設置されている=3月19日、西ジャワ州(NNA撮影)[/caption]
[caption id="attachment_19491" align="aligncenter" width="620"]模型を使いながらプロジェクトについて説明する、スルヤチプタ・スワダヤの販売・テナント関係部門の責任者を務めるデウィ氏(左)=3月19日、西ジャワ州(NNA撮影)[/caption]
■新興経済地域「ルバナ」、JICAも支援
スバン・スマートポリタンやパティンバン港が位置するスバン県は、政府が新興経済地域としてマスタープランを策定した、「ルバナ(レバナ)地域」の一部に当たる。西ジャワ州の22年の統計によると、同州の4,900万人の人口のうち、約20%に当たる990万人がルバナ地域に住む。その旗艦開発地の一つとして、パティンバン港が指定されている。23年10月に全面運用が開始されたクルタジャティ空港も同地域の大型インフラだ。


こうした中で、国際協力機構(JICA)は、パティンバン港周辺におけるルバナ地域開発の技術協力として、同地域の総合開発計画のレビュー、優先事業の選定などを支援し、策定済みのロードマップ(行程表)の内容を補強する。
広域にわたるルバナ地域開発は、調整機関となる西ジャワ州プロジェクトマネジメントオフィス・ルバナ地域管理局(RMMA)が昨年立ち上がったばかりで、開発実施に向けた、中央政府、地方政府、民間事業者の調整メカニズムの構築も支援する。JICAは、4~5月にも専門家の派遣を開始したい意向だ。
クルタジャティ空港では、隣接する商業エリアに当たる「エアロシティー」の開発が計画されており、25年に着工が予定されている。開発運営を担う、西ジャワ州営企業傘下のBIJBエアロシティー・デベロップメントのスリ社長によれば、国営建設プンバングナン・プルマハン(PP)の傘下企業が事業に参画することが決定しているほか、中国系企業で秘密保持契約の段階に進んでいる企業があるという。日系企業とも太陽光パネル関連事業で協議を始めていると明らかにした。
ルバナ地域が、ジャカルタ首都圏の過密状態を緩和させつつ成長を促す、未来の経済センターとなるか、日系企業を含めた外資企業にとっても有力な選択肢となりうるか、中長期的な開発動向が注目される。(本特集は和田純一が担当しました)
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