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トヨタ基金、電動交通を実証バリ島、直面する渋滞問題(上)

インドネシア有数の観光地のバリ島で交通渋滞が深刻化している。渋滞問題の解決につながるビジネスモデルを模索するため、トヨタ自動車が設立した一般財団法人トヨタ・モビリティ基金(TMF、東京都文京区)は、電動車を使った乗り合いシャトルサービスの実証実験を、準備期間を含めて約21カ月にわたり実施した。実証では渋滞の緩和に加え、持続的なモビリティーサービスとしての電動車の効果を検証。伝統文化を重んじるバリの地域性も尊重しながらビジネスモデルを構築した。現在はサービスを継承し商用化するため当局と協議を進めている。

実証試験の成果報告会に出席した、トヨタ・モーター・マニュファクチャリング・インドネシア(TMMIN)のナンディ社長(右から3人目)、 トヨタ・モビリティ基金のプラス氏(右端)ら=6月19日、バリ州(NNA撮影)

バリ島内陸部にある人気観光地の一つ、ウブド地区。平日も多くの国内外からの観光客でにぎわうこのエリアは、交通量に対して道路が狭く、路上駐車による道路幅の減少などもあって渋滞問題が慢性化している。
トヨタ・モビリティ基金は、米会計事務所大手デロイトの「フューチャー・オブ・モビリティー・ソリューション・センター」と共同で、実証実験「SMART@ウブド プログラム」を2022年から始動。6月19日にウブドで成果報告会が開催された。プログラムの主な取り組みとしては、電動車シャトルサービスの運用と、既存の公共バス「トランスデワタ」の停留所に運行状況をリアルタイムで確認できる電子案内板を設置することでの利便性の向上を検証した。実証期間は23年9月~24年5月で、複数のフェーズに分けて行った。
限られた既存の道路インフラを観光客と地域住民の両方が利用する中、いかに観光客の輸送を含めた個人車両の運行を減らして渋滞を緩和するかが課題だった。

平日の昼の時間帯も混雑するウブド地区=6月19日、バリ州(NNA撮影)

電動車シャトルサービスは、利用者が専用アプリから配車し停留所で乗車するオンデマンド形式。乗り合いのための最適なルートをアプリで割り出し、効率的に車両をシェアした。トヨタの多目的車(MPV)「キジャン・イノーバ・ゼニックス」のハイブリッド車(HV)5台と、中国・東風小康汽車(DFSK)の7~9人乗りの電気自動車(EV)「グロラE」5台の計10台を使用。停留所は観光地や地元の主要スポットの近くに設置した。
電動シャトルサービスの実施に当たっては、ウブド地区のホテルにパートナーとなってもらった。宿泊客にサービスを案内してもらったほか、ホテルなどで利用できるバウチャーをシャトルの乗客に配布するなどして連携した。
約9カ月の期間中に計2万人がサービスを利用。68%が外国人、32%がインドネシア人だった。運行車両のうち、8割以上のケースでほかの乗客との乗り合いを実現し、道路上から年間で7,000台の車を減らす効果があることが明らかになった。

ウブド地区の人気観光地「モンキー・フォレスト」の駐車場に設けられた電動車シャトルサービスの停留所=6月19日、バリ州(NNA撮影)

■混雑した道路にはハイブリッド車の利点も
EVとHVの2種類の電動車を利用したことで、稼働効率についても知見が得られたという。EVでは急速充電器を使用した場合、低速充電器を使うよりも1週間当たり約40時間多く稼働できることが分かった。
一方、HVは充電を必要としないため、稼働時間を最も多く確保できたほか、混雑するウブドの道路では低速で運転することが多かったため、バッテリーのみで走行するEVモードの時間が長く、HVでも排出ガス削減効果が大きかったことが判明した。
シャトルサービスの運行結果は、配車注文後の待ち時間は平均7分で、注文した利用者によるキャンセル率は配車サービス業界の平均を下回る11%と、効率的な運用が実現できたという。利用者からの評価は5段階のうち4.8だった。

公共バス「トランスデワタ」の予測到着時間が確認できる電子案内板(写真右の青い看板)を設置。案内板の上部に付いている太陽光パネルで発電した電力で稼働する=6月19日、バリ州(NNA撮影)

取り組み施策の2つ目である、公共バスの到着予測時間が確認できる電子案内板の設置は、バスの利用意識を高めることにつながる調査結果が得られた。ただ、実際の利用者数の増加は調査には含まれておらず、正確な数値は得られていない。
■「ヒューマンセントリック」でデータ活用を
実証実験の責任者を務めた、TMFのプラス・ガネシュ・エグゼクティブ・プログラム・ディレクターはNNAに「紙の上で考えていることと、実行に移して実現させられるかは全く別のことだった」と振り返り、想定外の事態に対応しながらビジネスモデルの構築を図ろうとしてきたと語った。
例えば、データに基づいてアルゴリズムで最適な走行ルートを設定することがポイントの一つだったが、急な天候の変化や、バリで多く実施される地域の伝統行事によって突然道路が封鎖されるなど、アルゴリズムで対応できない問題が発生したと指摘。そのたびにバリ州政府や地域組織の協力を得て解決につなげてきたという。
一方、プラス氏は、「データを用いなければ推測で物事を進めるしかなく、十分な効果は期待できない」と指摘。だからこそデータを「ヒューマンセントリック(人間主体)」に活用することが重要だと強調した。

実証プログラムの責任を務めた、トヨタ・モビリティ基金のプラス・ガネシュ・エグゼクティブ・プログラム・ディレクターは、22年から準備を進め、バリ州政府や地域組織との会合を約80回重ねてきたと説明した=6月19日、バリ州(NNA撮影)

観光が主要産業のバリ島では、観光客を送迎するドライバーとして生計を立てている人も多く、当初はシャトルサービスの実施への反発もあったという。これに対し、州政府や地域組織の協力を得て、「限定的なエリアしか走行しない」ことを伝えた。空港までの長距離送迎をするドライバーの仕事を奪うものではなく、むしろ渋滞緩和によって地域の利便性が高まることが、さらなる観光客の増加につながるということを示しながら理解を求めてきたという。
成果報告会に出席した、ウブド地区を管轄するギアニャル県陸運局のマデ局長は、過去に巡回ミニバスを導入したこともあったが、巡回バスは多大なコストがかかり継続できなかったと説明。「今回、TMFはイニシアチブを取ってくれた。ただ、最も責任を持つべきは行政であり、継続に向けて準備をしなければならない」と述べた。公共交通の利用者を増やすために、専用レーンの設置や区域内の通行制限などの具体策を検討しなくてはならないとし、実証で得たデータを活用してサービスの商用化を進めることに意欲を示した。

トヨタ・モビリティ基金とデロイトの「フューチャー・オブ・モビリティー・ソリューション・センター」は共同で、実証実験「SMART@ウブド プログラム」について成果報告会を行った=6月19日、バリ州(NNA撮影)

オンデマンドシャトルサービスで使用した、東風小康汽車(DFSK)のEV「グロラE」=6月19日、バリ州(NNA撮影)
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バリ島内陸部にある人気観光地の一つ、ウブド地区。平日も多くの国内外からの観光客でにぎわうこのエリアは、交通量に対して道路が狭く、路上駐車による道路幅の減少などもあって渋滞問題が慢性化している。
トヨタ・モビリティ基金は、米会計事務所大手デロイトの「フューチャー・オブ・モビリティー・ソリューション・センター」と共同で、実証実験「SMART@ウブド プログラム」を2022年から始動。6月19日にウブドで成果報告会が開催された。プログラムの主な取り組みとしては、電動車シャトルサービスの運用と、既存の公共バス「トランスデワタ」の停留所に運行状況をリアルタイムで確認できる電子案内板を設置することでの利便性の向上を検証した。実証期間は23年9月~24年5月で、複数のフェーズに分けて行った。
限られた既存の道路インフラを観光客と地域住民の両方が利用する中、いかに観光客の輸送を含めた個人車両の運行を減らして渋滞を緩和するかが課題だった。
[caption id="attachment_21003" align="aligncenter" width="620"]平日の昼の時間帯も混雑するウブド地区=6月19日、バリ州(NNA撮影)[/caption]
電動車シャトルサービスは、利用者が専用アプリから配車し停留所で乗車するオンデマンド形式。乗り合いのための最適なルートをアプリで割り出し、効率的に車両をシェアした。トヨタの多目的車(MPV)「キジャン・イノーバ・ゼニックス」のハイブリッド車(HV)5台と、中国・東風小康汽車(DFSK)の7~9人乗りの電気自動車(EV)「グロラE」5台の計10台を使用。停留所は観光地や地元の主要スポットの近くに設置した。
電動シャトルサービスの実施に当たっては、ウブド地区のホテルにパートナーとなってもらった。宿泊客にサービスを案内してもらったほか、ホテルなどで利用できるバウチャーをシャトルの乗客に配布するなどして連携した。
約9カ月の期間中に計2万人がサービスを利用。68%が外国人、32%がインドネシア人だった。運行車両のうち、8割以上のケースでほかの乗客との乗り合いを実現し、道路上から年間で7,000台の車を減らす効果があることが明らかになった。
[caption id="attachment_21000" align="aligncenter" width="620"]ウブド地区の人気観光地「モンキー・フォレスト」の駐車場に設けられた電動車シャトルサービスの停留所=6月19日、バリ州(NNA撮影)[/caption]
■混雑した道路にはハイブリッド車の利点も
EVとHVの2種類の電動車を利用したことで、稼働効率についても知見が得られたという。EVでは急速充電器を使用した場合、低速充電器を使うよりも1週間当たり約40時間多く稼働できることが分かった。
一方、HVは充電を必要としないため、稼働時間を最も多く確保できたほか、混雑するウブドの道路では低速で運転することが多かったため、バッテリーのみで走行するEVモードの時間が長く、HVでも排出ガス削減効果が大きかったことが判明した。
シャトルサービスの運行結果は、配車注文後の待ち時間は平均7分で、注文した利用者によるキャンセル率は配車サービス業界の平均を下回る11%と、効率的な運用が実現できたという。利用者からの評価は5段階のうち4.8だった。
[caption id="attachment_21002" align="aligncenter" width="620"]公共バス「トランスデワタ」の予測到着時間が確認できる電子案内板(写真右の青い看板)を設置。案内板の上部に付いている太陽光パネルで発電した電力で稼働する=6月19日、バリ州(NNA撮影)[/caption]
取り組み施策の2つ目である、公共バスの到着予測時間が確認できる電子案内板の設置は、バスの利用意識を高めることにつながる調査結果が得られた。ただ、実際の利用者数の増加は調査には含まれておらず、正確な数値は得られていない。
■「ヒューマンセントリック」でデータ活用を
実証実験の責任者を務めた、TMFのプラス・ガネシュ・エグゼクティブ・プログラム・ディレクターはNNAに「紙の上で考えていることと、実行に移して実現させられるかは全く別のことだった」と振り返り、想定外の事態に対応しながらビジネスモデルの構築を図ろうとしてきたと語った。
例えば、データに基づいてアルゴリズムで最適な走行ルートを設定することがポイントの一つだったが、急な天候の変化や、バリで多く実施される地域の伝統行事によって突然道路が封鎖されるなど、アルゴリズムで対応できない問題が発生したと指摘。そのたびにバリ州政府や地域組織の協力を得て解決につなげてきたという。
一方、プラス氏は、「データを用いなければ推測で物事を進めるしかなく、十分な効果は期待できない」と指摘。だからこそデータを「ヒューマンセントリック(人間主体)」に活用することが重要だと強調した。
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観光が主要産業のバリ島では、観光客を送迎するドライバーとして生計を立てている人も多く、当初はシャトルサービスの実施への反発もあったという。これに対し、州政府や地域組織の協力を得て、「限定的なエリアしか走行しない」ことを伝えた。空港までの長距離送迎をするドライバーの仕事を奪うものではなく、むしろ渋滞緩和によって地域の利便性が高まることが、さらなる観光客の増加につながるということを示しながら理解を求めてきたという。
成果報告会に出席した、ウブド地区を管轄するギアニャル県陸運局のマデ局長は、過去に巡回ミニバスを導入したこともあったが、巡回バスは多大なコストがかかり継続できなかったと説明。「今回、TMFはイニシアチブを取ってくれた。ただ、最も責任を持つべきは行政であり、継続に向けて準備をしなければならない」と述べた。公共交通の利用者を増やすために、専用レーンの設置や区域内の通行制限などの具体策を検討しなくてはならないとし、実証で得たデータを活用してサービスの商用化を進めることに意欲を示した。
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