中国に進出する日系企業でつくる中国日本商会は10日、中国政府にビジネス環境の改善を求める意見書「中国経済と日本企業2024年白書」を発表した。政府調達や標準の策定で国内企業と外資企業が公平に扱われるよう要望した。日本人が中国を訪問する際に査証(ビザ)を免除する措置の再開も引き続き強く求めた。
中国日本商会や中国各地の商工会組織に加盟する日系企業8,312社から意見を募り、569件の要望を取りまとめた。
中国日本商会の本間哲朗会長(パナソニックホールディングス副社長)は北京市で行った会見で、「米中間の経済貿易摩擦の影響などで、日系企業がビジネス上の意思決定を行うに当たって不確実性が高まっている」と述べ、公平性、予見性、透明性の向上によるビジネス機会の確保を要望した。
具体的には、公平競争の阻害となっている各種制度の見直し、政府調達や標準の策定での国内企業と外資企業の公平な待遇、知的財産権制度の一層の改革を求めた。
政府調達では、なお国産製品に限定する状況が継続的に見られており、医療など多くの業界では輸入製品が入札に参加できない現状があると指摘。国産製品と対等な方法で競争に参加できる環境の整備を要望した。
国家標準や業界標準などの策定プロセスでは、内資・外資で区別されることがあり、運営方法が透明性に欠けると指摘。外資企業が標準策定プロセスの運営に参画する条件を中国企業と同等にすることを求めた。
今年の白書では、中国政府が新たに導入した輸出入に関する規制の改善、撤廃も求めている。
中国商務省は23年8月に半導体材料となるレアメタル(希少金属)のガリウムとゲルマニウム、同年12月に電気自動車(EV)向けリチウムイオン電池の材料に使われる一部の黒鉛(グラファイト)の輸出規制をそれぞれ発動。このため輸出許可の申請が停滞するケースが見られるという。白書はこれを念頭に、申請の円滑化と認可所要時間の短縮を求めた。
中国はまた、昨年8月の東京電力福島第1原発処理水の海洋放出を受け、日本産水産物の輸入を全面的に停止している。白書は、科学的な根拠に基づき、輸入停止措置の撤廃を求めると同時に、停止措置が始まって以降、水産物以外の日本産食品の輸入でも各港や担当者ごとに追加の証明書を要請されるケースがあるとして、改善を求めた。
このほか、製造・サービス業分野での外資参入規制の一層の開放、行政手続きの簡素化・迅速化や制度の運用・解釈の統一に関する要望も盛り込んだ。
■ビザなし渡航再開を
22年版、23年版の白書で建議していた、日本人が中国を訪問する際に滞在日数が15日以内であればビザを免除する措置の再開も引き続き要望した。
短期出張などで中国を訪れる日本人は現在、事前にビザの手続きが必要な状態で、一定の時間がかかるため急な出張などの突発事態に対応するのが難しくなっている。
本間氏は「日本国内と中国では情報の認識にギャップがあり、実際に現場へ足を運んで自ら目で見て対話を行うことが重要だ」と述べ、ビザ免除措置の再開を強く求めた。
データの越境移転・管理に関する問題も継続して挙げた。
中国は今年3月に個人情報やデータの越境移転に関する規定を施行し、手続きの条件が明記されたことで企業の負担は軽減された。ただ依然として定義があいまいで前例もないことから、企業にとっては不透明な点も多いと指摘。運用に際して事前ガイダンスの提供や政府部門間の調整・連携を求めたほか、内資・外資を平等に取り扱うよう要望した。
一方で、外国籍人員に適用される個人所得税の一部免税が延長されたほか、中国のデータ統制三法についても過度な規制が回避されるなど、23年版の白書で要望した項目について一部改善が見られたと評価した。
■ウィンウィンの関係構築
本間氏は、日系企業が長年中国に根付き、独自にサプライチェーン(供給網)やバリューチェーンを築いていることに触れ、中国政府が重視する「強靱(きょうじん)なサプライチェーン」の一部として位置づけてほしいと訴えた。
中国市場では、現地企業と日系企業との競争が広がるが、本間氏は「ウィンウィンの関係ができると考えている」と指摘。高齢化や環境への対応など、日系企業が持つノウハウを中国社会に提案することができるとの考えを示した。日本社会が直面する人材不足など人的資源の面でも、日本と中国がお互いに補い合うことができると強調した。
本間氏はまた、江蘇省蘇州市で先月、日本人母子らが中国人の男に切り付けられた事件を受けて、中国政府に対して「外資企業が安心して事業活動ができる環境づくりに向け、安全確保をお願いしたい」と要請した。
中国日本商会は中国に進出する大手商社やメガバンク、自動車メーカーなどからなり、会員数は2023年時点で550社。白書は10年から毎年発行しており、中央政府の主要部門や地方各政府との対話に活用し、意見交換を行っている。
2024年版の白書を発表する中国日本商会の本間哲朗会長(左)=10日、北京市
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今年の白書では、中国政府が新たに導入した輸出入に関する規制の改善、撤廃も求めている。
中国商務省は23年8月に半導体材料となるレアメタル(希少金属)のガリウムとゲルマニウム、同年12月に電気自動車(EV)向けリチウムイオン電池の材料に使われる一部の黒鉛(グラファイト)の輸出規制をそれぞれ発動。このため輸出許可の申請が停滞するケースが見られるという。白書はこれを念頭に、申請の円滑化と認可所要時間の短縮を求めた。
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このほか、製造・サービス業分野での外資参入規制の一層の開放、行政手続きの簡素化・迅速化や制度の運用・解釈の統一に関する要望も盛り込んだ。
■ビザなし渡航再開を
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短期出張などで中国を訪れる日本人は現在、事前にビザの手続きが必要な状態で、一定の時間がかかるため急な出張などの突発事態に対応するのが難しくなっている。
本間氏は「日本国内と中国では情報の認識にギャップがあり、実際に現場へ足を運んで自ら目で見て対話を行うことが重要だ」と述べ、ビザ免除措置の再開を強く求めた。
データの越境移転・管理に関する問題も継続して挙げた。
中国は今年3月に個人情報やデータの越境移転に関する規定を施行し、手続きの条件が明記されたことで企業の負担は軽減された。ただ依然として定義があいまいで前例もないことから、企業にとっては不透明な点も多いと指摘。運用に際して事前ガイダンスの提供や政府部門間の調整・連携を求めたほか、内資・外資を平等に取り扱うよう要望した。
一方で、外国籍人員に適用される個人所得税の一部免税が延長されたほか、中国のデータ統制三法についても過度な規制が回避されるなど、23年版の白書で要望した項目について一部改善が見られたと評価した。
■ウィンウィンの関係構築
本間氏は、日系企業が長年中国に根付き、独自にサプライチェーン(供給網)やバリューチェーンを築いていることに触れ、中国政府が重視する「強靱(きょうじん)なサプライチェーン」の一部として位置づけてほしいと訴えた。
中国市場では、現地企業と日系企業との競争が広がるが、本間氏は「ウィンウィンの関係ができると考えている」と指摘。高齢化や環境への対応など、日系企業が持つノウハウを中国社会に提案することができるとの考えを示した。日本社会が直面する人材不足など人的資源の面でも、日本と中国がお互いに補い合うことができると強調した。
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