建材大手YKK AP(東京都千代田区)は、インドネシアで中間層の需要取り込みを強化する。これまで高級住宅向けの完成品窓枠で高いシェアを確立してきたが、昨今活況な上位中間層(アッパーミドル)向けの住宅市場に照準を合わせて、ノックダウン(組み立て)式商品を手頃な価格で提供し、市場シェア5割を目指す。現地に研究・開発拠点を持つ強みを生かしながら、インドネシアでは他社にないというアルミと木材のハイブリッド玄関ドアや、アルミ製のカーポートなどの商材を新たに投入。雨漏りや音漏れなどを防ぎ、住環境の課題解決につなげる。
YKK APインドネシアのショールーム外観。玄関ドアは今年発売したアルミと木材を使用した新商品=ジャカルタ特別州(NNA撮影)
現地法人YKK APインドネシアは、国内の高級分譲住宅向けの窓枠では約7割の市場シェアを持つ。一方で昨今、中間層の拡大を背景にアッパーミドル向け住宅市場が活況となっている。4月に就任した同社の黒崎信哉社長は「今年からはアッパーミドル市場でさらなる拡販を進めていく」と述べ、同市場でもシェア5割を狙うと意気込みを語った。
これまで国内のアッパーミドル向け物件で使われてきた窓枠は、アルミ製のバー材を現地の建材加工店が独自に加工した製品が主流となっており、漏水や音漏れのする質の低い窓も少なくなかったという。これに対し、YKK APインドネシアは2021年に、建設現場で施工業者が容易に組み立てられる新製品「MADELA」(窓=MADO=と、インドネシア語の窓「JENDELA」を組み合わせた商品名)を投入した。
「MADELA」を施工した一戸建て住宅(YKK APインドネシア提供)
中間層に照準を合わせた住宅物件向けに価格とスペックを抑えた窓枠「MADELA」=ジャカルタ特別州(NNA撮影)
MADELAは、従来の高級物件向け製品よりも商品ラインアップを減らし、機能面ではアッパーミドル向け物件に求められている標準性能に合わせており、自社工場で性能試験まで手がけることで屋内への雨水や音の浸入を防ぐ一定水準を確保している。また業者からの注文をオンラインで受け付けることで事務作業を簡略化しコスト削減につなげた。
■R&D拠点で開発、新商品も
YKK APインドネシアは18年に、バンテン州タンゲラン県の社内敷地に研究開発(R&D)拠点を開設した。富山県、ドイツに続き世界で3カ所目の拠点だ。インドネシア政府や日インドネシアの大学と官民学連携で、住環境の快適化などの研究を行っている。
開発成果を商品化した第1弾として、新型コロナウイルス下で効率的に換気ができる窓枠を発売した。今後は、エアコンの使用量を減らすための快適な換気ができる新製品の投入を予定している。
今年はこの他にも、アルミ製のカーポートや、木材とアルミを使用したハイブリッド玄関ドアを投入した。インドネシアではこれまで鉄製のカーポートが大半で、アルミ製は他にないという。
ショールーム裏手の駐車場に、試験的に設置したアルミ製のカーポート=ジャカルタ特別州(NNA撮影)
両製品は、8月に首都ジャカルタ郊外で行われる国内最大級の建材・建築・インテリアの展示会「インド・ビルドテック」に出展する。カーポートは、鉄製からアルミ製に切り替えることで錆(さび)による腐食といった課題を解決できる強みを売り込む。重量も軽く、施工が短期間で済む点も特徴で、黒崎氏は「デベロッパーからの反応は上々で、手応えを得ている」と話した。
■新首都はじめ地方でも拡販
地方都市での拡販にも力を入れている。昨年は、新規のディストリビューターを積極的に開拓して取引先を5社増やし、販売額を約5%伸ばした。インドネシア政府が東カリマンタン州で整備を進めている新首都「ヌサンタラ」では、大統領府を含む政府施設向けの商材を受注したほか、職員向けの建物などでも採用が決まっている。
近年、住宅開発が進むスラウェシ島では南部のマカッサル市を中心に、分譲住宅向けの販売が多くなっている。またスマトラ島でも既存のディストリビューターを通じて、北スマトラ州メダンやリアウ州プカンバルを中心に販売を強化していく計画だ。
■東南アジアで最重要拠点
ジャカルタで今月8日に開かれたYKK APインドネシアの社長交代式に出席したYKK APの海老原功一副社長は、「インドネシアは東南アジアの最重要拠点と位置付けている」と表明。今後10年で大きく成長できる市場だとの認識を示し、現在の売り上げ規模を「何倍にも拡大できる」と期待を寄せた。
インドネシアとインドでは今年、ある程度の設備投資をしようと考えていると明らかにした上で、「今後は中間層向けの商品を開発しながら、YKK APブランドを浸透させていきたい」と語った。
YKK APの24年3月期の売上高は前期比5.8%増の5,381億円(グループ内取引の消去後)。インドネシアを含む海外の売上高は3.2%増の1,195億円だった。25年3月期の海外売上高予想は1,320億円となっている。
YKK APの海老原功一副社長(左)、YKK APインドネシアの黒崎信哉社長(中央)、同社の山内康史前社長=8日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)
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現地法人YKK APインドネシアは、国内の高級分譲住宅向けの窓枠では約7割の市場シェアを持つ。一方で昨今、中間層の拡大を背景にアッパーミドル向け住宅市場が活況となっている。4月に就任した同社の黒崎信哉社長は「今年からはアッパーミドル市場でさらなる拡販を進めていく」と述べ、同市場でもシェア5割を狙うと意気込みを語った。
これまで国内のアッパーミドル向け物件で使われてきた窓枠は、アルミ製のバー材を現地の建材加工店が独自に加工した製品が主流となっており、漏水や音漏れのする質の低い窓も少なくなかったという。これに対し、YKK APインドネシアは2021年に、建設現場で施工業者が容易に組み立てられる新製品「MADELA」(窓=MADO=と、インドネシア語の窓「JENDELA」を組み合わせた商品名)を投入した。
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■R&D拠点で開発、新商品も
YKK APインドネシアは18年に、バンテン州タンゲラン県の社内敷地に研究開発(R&D)拠点を開設した。富山県、ドイツに続き世界で3カ所目の拠点だ。インドネシア政府や日インドネシアの大学と官民学連携で、住環境の快適化などの研究を行っている。
開発成果を商品化した第1弾として、新型コロナウイルス下で効率的に換気ができる窓枠を発売した。今後は、エアコンの使用量を減らすための快適な換気ができる新製品の投入を予定している。
今年はこの他にも、アルミ製のカーポートや、木材とアルミを使用したハイブリッド玄関ドアを投入した。インドネシアではこれまで鉄製のカーポートが大半で、アルミ製は他にないという。
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両製品は、8月に首都ジャカルタ郊外で行われる国内最大級の建材・建築・インテリアの展示会「インド・ビルドテック」に出展する。カーポートは、鉄製からアルミ製に切り替えることで錆(さび)による腐食といった課題を解決できる強みを売り込む。重量も軽く、施工が短期間で済む点も特徴で、黒崎氏は「デベロッパーからの反応は上々で、手応えを得ている」と話した。
■新首都はじめ地方でも拡販
地方都市での拡販にも力を入れている。昨年は、新規のディストリビューターを積極的に開拓して取引先を5社増やし、販売額を約5%伸ばした。インドネシア政府が東カリマンタン州で整備を進めている新首都「ヌサンタラ」では、大統領府を含む政府施設向けの商材を受注したほか、職員向けの建物などでも採用が決まっている。
近年、住宅開発が進むスラウェシ島では南部のマカッサル市を中心に、分譲住宅向けの販売が多くなっている。またスマトラ島でも既存のディストリビューターを通じて、北スマトラ州メダンやリアウ州プカンバルを中心に販売を強化していく計画だ。
■東南アジアで最重要拠点
ジャカルタで今月8日に開かれたYKK APインドネシアの社長交代式に出席したYKK APの海老原功一副社長は、「インドネシアは東南アジアの最重要拠点と位置付けている」と表明。今後10年で大きく成長できる市場だとの認識を示し、現在の売り上げ規模を「何倍にも拡大できる」と期待を寄せた。
インドネシアとインドでは今年、ある程度の設備投資をしようと考えていると明らかにした上で、「今後は中間層向けの商品を開発しながら、YKK APブランドを浸透させていきたい」と語った。
YKK APの24年3月期の売上高は前期比5.8%増の5,381億円(グループ内取引の消去後)。インドネシアを含む海外の売上高は3.2%増の1,195億円だった。25年3月期の海外売上高予想は1,320億円となっている。
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