丸紅は、マレーシアでカナダの大手コーヒーチェーン「ティム・ホートンズ」を展開していく。丸紅によるティム・ホートンズの出店は、シンガポールに続き2カ国目。拡大する中間層を主なターゲットとし、人口の6割以上を占めるイスラム教徒(ムスリム)向けにハラル(イスラム教の戒律で許されたもの)にも対応する。インドネシアへの出店も予定しており、2030年までに東南アジア3カ国で数百店舗の展開を目指す。【本田香織】
「ティム・ホートンズ」のマレーシア1号店の開業式典でテープカットする丸紅の福村執行役員(左から5人目)、丸紅マレーシアの藤原毅社長(同4人目)ら=15日、プトラジャヤ(NNA撮影)
丸紅は今月15日、シンガポールの事業会社MGCAカフェを通じて、行政都市プトラジャヤの商業施設「IOIシティーモール」でマレーシア1号店を開業。続けて同17日には、首都クアラルンプールの「サンウエー・ベロシティー・モール」で2号店を開業した。現在、首都圏スランゴール州クランの「イオンモール・ブキティンギ」、同州プタリンジャヤの「サンウエー・ピラミッド」でも開業準備を進めている。
マレー系、中華系、インド系など多民族が暮らすマレーシアでは、民族ごとの消費動向や嗜好(しこう)を探るため、首都圏の別々の地域に出店している。丸紅の執行役員である福村俊宏・次世代コーポレートディベロップメント本部長によると、1~2年かけて首都圏に15~20店舗を出店する計画。まずは首都圏を中心とするマレー半島部の商業施設で店舗網を拡大し、将来的には東マレーシアへの出店や、路面店、ドライブスルー店の展開も視野に入れている。
コーヒー豆は高級品種アラビカ種を100%使用している=13日、クアラルンプール(NNA撮影)
民族を問わず、10代後半~40代半ばを中心に中間層を主なターゲットとする。コーヒーなどの飲み物と合わせて看板メニューのドーナツや軽食の注文を見込み、客単価は25~30リンギ(約830~1,000円)を想定している。
福村氏は「マレーシアには、安くコーヒーを提供するコピティアム(伝統的なコーヒーショップ)から高級カフェまであるが、中価格帯のコーヒーショップが少なく、商機があると見ている」と話す。価格帯の開きはコーヒーチェーンの間にも存在する。米スターバックスなど外資系チェーンでは飲み物1杯15~20リンギほどであるのに対し、店舗網を急拡大しているZUSコーヒーといった地場チェーンは7~10リンギ前後で提供している。ティム・ホートンズは13~16リンギ前後で提供し、中間層が日常的に利用できるコーヒーチェーンを目指す。
■国ごとのオリジナルメニュー開発
コーヒー豆は高級品種アラビカ種を100%使用し、大半をマレーシア国内で焙煎(ばいせん)している。丸紅はティム・ホートンズの展開に当たり、東南アジアに精通したシェフを起用。本場カナダでも提供されているメニューに加え、国ごとのオリジナルメニューを開発・提供している。
マレーシアでは、餅菓子「オンデオンデ」やテタレ(ミルクティー)風味のフローズン飲料、パイナップルジャムやカヤ(ココナツミルクと卵などを使用したペースト)が入ったドーナツ、マレー料理に欠かせないサンバル(辛み調味料)を使ったホットサンドイッチなどのオリジナルメニューを提供している。
また、マレーシアでは、シンガポールに先駆け、北米メニュー「パスタベーク」(マカロニに具材やチーズをのせて焼いた料理)を提供するなど、フードメニューも充実させている。丸紅が事前に実施した調査で、「カフェで食事をとる」と答えた消費者が約8割に上ったためだ。
各店舗に厨房(ちゅうぼう)を備え、ドーナツはその場で揚げ、軽食は注文を受けてから調理する。「出来合いのものを提供するのではなく、その場で作った出来たてのものを提供することで競合他社と差別化を図る」(福村氏)
イスラム教徒に禁忌の豚肉やラード、アルコールは使わず、原料は全てハラル認証を取得したサプライヤーから調達している。ハラル認証は店舗ごとの取得が必要で、出店とともに取得手続きも進めていく。
フードメニューも充実させ、マレーシア限定のオリジナルメニューも提供する=13日、クアラルンプール(NNA撮影)
■不買運動は心配なし
シンガポール、マレーシアに続き、来年初めまでにはインドネシア進出を予定。30年までに3カ国で数百店舗の展開を目指す。福村氏は「シンガポールは国が小さく、出店場所も限られているが、ブランド確立のために重要。規模拡大という観点では、マレーシアとインドネシアに期待している」と話す。国民の所得水準が比較的高く、中間層が拡大するマレーシアは特に有望だという。
イスラム教徒が多数派のマレーシアやインドネシアでは、イスラエルのパレスチナ自治区ガザ侵攻に対する抗議の不買運動が起きている。パレスチナへの同情論が強く、イスラエルを支援していると見なされた米欧企業が標的となっている。
マレーシア1号店の壁には地元アーティストによる絵が描かれている=15日、プトラジャヤ(NNA撮影)
福村氏は「ティム・ホートンズはカナダのブランドであり、米欧のブランドではない。また、マレーシアでの不買運動を見ても、全ての米欧企業が標的とされているわけではなく、標的とされている企業は積極的にイスラエルを支援していたなど理由がある」と指摘。不買運動の動向は注視していく必要があるとしながらも、「慎重に調査を実施した上で、ティム・ホートンズの展開には問題ないと判断した」と話し、東南アジア3カ国での事業展開に自信を示した。
※関連記事:「丸紅、加コーヒーチェーンを3カ国で展開」<https://www.nna.jp/news/2487617>
「丸紅がコーヒーチェーン1号店 国内外初、数億Sドルの売上目標」<https://www.nna.jp/news/2592219>
<メモ>
ティム・ホートンズ
1964年にカナダで創業したコーヒーチェーン。運営元はバーガーキングやポパイズなど世界的なファストフードチェーンも運営するカナダの外食大手レストラン・ブランズ・インターナショナルで、世界で約5,800店舗を展開している。東南アジアでは、シンガポールとマレーシアのほか、フィリピン、タイに出店している。
丸紅は昨年2月、シンガポールで投資や企業の合併・買収(M&A)を手がける子会社の丸紅グロース・キャピタル・アジアを通じて、レストラン・ブランズ・インターナショナルと東南アジア3カ国(シンガポール、マレーシア、インドネシア)でのティム・ホートンズの店舗開発や運営に関わるマスターフランチャイズ契約を締結。3カ国での事業展開に当たり、丸紅グロース・キャピタル・アジアの子会社としてシンガポールにMGCAカフェを設立した。昨年11月に展開を始めたシンガポールでは7店舗を出店している。
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丸紅は今月15日、シンガポールの事業会社MGCAカフェを通じて、行政都市プトラジャヤの商業施設「IOIシティーモール」でマレーシア1号店を開業。続けて同17日には、首都クアラルンプールの「サンウエー・ベロシティー・モール」で2号店を開業した。現在、首都圏スランゴール州クランの「イオンモール・ブキティンギ」、同州プタリンジャヤの「サンウエー・ピラミッド」でも開業準備を進めている。
マレー系、中華系、インド系など多民族が暮らすマレーシアでは、民族ごとの消費動向や嗜好(しこう)を探るため、首都圏の別々の地域に出店している。丸紅の執行役員である福村俊宏・次世代コーポレートディベロップメント本部長によると、1~2年かけて首都圏に15~20店舗を出店する計画。まずは首都圏を中心とするマレー半島部の商業施設で店舗網を拡大し、将来的には東マレーシアへの出店や、路面店、ドライブスルー店の展開も視野に入れている。[caption id="attachment_21749" align="aligncenter" width="620"]コーヒー豆は高級品種アラビカ種を100%使用している=13日、クアラルンプール(NNA撮影)[/caption]
民族を問わず、10代後半~40代半ばを中心に中間層を主なターゲットとする。コーヒーなどの飲み物と合わせて看板メニューのドーナツや軽食の注文を見込み、客単価は25~30リンギ(約830~1,000円)を想定している。
福村氏は「マレーシアには、安くコーヒーを提供するコピティアム(伝統的なコーヒーショップ)から高級カフェまであるが、中価格帯のコーヒーショップが少なく、商機があると見ている」と話す。価格帯の開きはコーヒーチェーンの間にも存在する。米スターバックスなど外資系チェーンでは飲み物1杯15~20リンギほどであるのに対し、店舗網を急拡大しているZUSコーヒーといった地場チェーンは7~10リンギ前後で提供している。ティム・ホートンズは13~16リンギ前後で提供し、中間層が日常的に利用できるコーヒーチェーンを目指す。
■国ごとのオリジナルメニュー開発
コーヒー豆は高級品種アラビカ種を100%使用し、大半をマレーシア国内で焙煎(ばいせん)している。丸紅はティム・ホートンズの展開に当たり、東南アジアに精通したシェフを起用。本場カナダでも提供されているメニューに加え、国ごとのオリジナルメニューを開発・提供している。
マレーシアでは、餅菓子「オンデオンデ」やテタレ(ミルクティー)風味のフローズン飲料、パイナップルジャムやカヤ(ココナツミルクと卵などを使用したペースト)が入ったドーナツ、マレー料理に欠かせないサンバル(辛み調味料)を使ったホットサンドイッチなどのオリジナルメニューを提供している。
また、マレーシアでは、シンガポールに先駆け、北米メニュー「パスタベーク」(マカロニに具材やチーズをのせて焼いた料理)を提供するなど、フードメニューも充実させている。丸紅が事前に実施した調査で、「カフェで食事をとる」と答えた消費者が約8割に上ったためだ。
各店舗に厨房(ちゅうぼう)を備え、ドーナツはその場で揚げ、軽食は注文を受けてから調理する。「出来合いのものを提供するのではなく、その場で作った出来たてのものを提供することで競合他社と差別化を図る」(福村氏)
イスラム教徒に禁忌の豚肉やラード、アルコールは使わず、原料は全てハラル認証を取得したサプライヤーから調達している。ハラル認証は店舗ごとの取得が必要で、出店とともに取得手続きも進めていく。
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■不買運動は心配なし
シンガポール、マレーシアに続き、来年初めまでにはインドネシア進出を予定。30年までに3カ国で数百店舗の展開を目指す。福村氏は「シンガポールは国が小さく、出店場所も限られているが、ブランド確立のために重要。規模拡大という観点では、マレーシアとインドネシアに期待している」と話す。国民の所得水準が比較的高く、中間層が拡大するマレーシアは特に有望だという。
イスラム教徒が多数派のマレーシアやインドネシアでは、イスラエルのパレスチナ自治区ガザ侵攻に対する抗議の不買運動が起きている。パレスチナへの同情論が強く、イスラエルを支援していると見なされた米欧企業が標的となっている。[caption id="attachment_21750" align="aligncenter" width="620"]マレーシア1号店の壁には地元アーティストによる絵が描かれている=15日、プトラジャヤ(NNA撮影)[/caption]
福村氏は「ティム・ホートンズはカナダのブランドであり、米欧のブランドではない。また、マレーシアでの不買運動を見ても、全ての米欧企業が標的とされているわけではなく、標的とされている企業は積極的にイスラエルを支援していたなど理由がある」と指摘。不買運動の動向は注視していく必要があるとしながらも、「慎重に調査を実施した上で、ティム・ホートンズの展開には問題ないと判断した」と話し、東南アジア3カ国での事業展開に自信を示した。
※関連記事:「丸紅、加コーヒーチェーンを3カ国で展開」<https://www.nna.jp/news/2487617>
「丸紅がコーヒーチェーン1号店 国内外初、数億Sドルの売上目標」<https://www.nna.jp/news/2592219>
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ティム・ホートンズ
1964年にカナダで創業したコーヒーチェーン。運営元はバーガーキングやポパイズなど世界的なファストフードチェーンも運営するカナダの外食大手レストラン・ブランズ・インターナショナルで、世界で約5,800店舗を展開している。東南アジアでは、シンガポールとマレーシアのほか、フィリピン、タイに出店している。
丸紅は昨年2月、シンガポールで投資や企業の合併・買収(M&A)を手がける子会社の丸紅グロース・キャピタル・アジアを通じて、レストラン・ブランズ・インターナショナルと東南アジア3カ国(シンガポール、マレーシア、インドネシア)でのティム・ホートンズの店舗開発や運営に関わるマスターフランチャイズ契約を締結。3カ国での事業展開に当たり、丸紅グロース・キャピタル・アジアの子会社としてシンガポールにMGCAカフェを設立した。昨年11月に展開を始めたシンガポールでは7店舗を出店している。"
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