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クーリングオフの立法化も議論再燃、舒適堡の営業停止で

香港で美容やフィットネスの業界を対象に、クーリングオフ制度を立法化すべきだとの議論が再燃している。フィットネスクラブチェーン大手の「舒適堡(フィジカル)」が今月に突然営業を停止し、総額1億3,500万HKドル(約24億円)もの被害が発生したことがきっかけ。政府は5年前にいったんは立法化へ動いていた経緯があり、行き過ぎた前払い方式のビジネスモデルを規制していく構えだ。

視察を終えて地元メディアの質問に答える李行政長官(中)。前払い契約のクーリングオフに言及した=14日、黄大仙(香港政府提供)

政府トップの李家超(ジョン・リー)行政長官は14日、地元メディアからの質問に答える形でクーリングオフ制度に言及。舒適堡の事件に対する調査結果や足元の経済状況などを踏まえ、商務・経済発展局が今後の方向性を検討すると述べた。
香港では消費者の権利保護に取り組む法定機関の消費者委員会が2018年、フィットネスサービスや美容サービスの契約に対し、強制力のあるクーリングオフ制度を導入するよう提言。政府は翌19年に両サービスに関する3,000HKドル以上の契約を対象としたクーリングオフを立法化すべく、商務・経済発展局が意見公募(パブリックコメント)を行った。
ただ、当時は反政府デモによる社会の混乱とその後の新型コロナウイルス禍に伴う景気の悪化に見舞われたため、立法化計画は立ち消えとなっていた。李氏はこうした経緯を踏まえ、いったんは政府がまとめた立法草案をベースに「当時と現在との状況の違いなどを商務・経済発展局が検証する」と説明した。
■被害額1.35億HKドルに
官営メディアRTHK、地上波テレビ局の電視広播(TVB)などによると、舒適堡の営業停止を受けて消費者委員会に寄せられた消費者からの被害通報は、16日午前9時までに4,064件に達した。回収不能となる恐れのある前払い金の総額は1億3,500万HKドルに上っている。1件当たりの平均被害額は約3万3,000HKドルで、182万HKドルを筆頭に3件が100万HKドルを超える契約だった。
同委の黄鳳嫺(ジリー・ウォン)総幹事(事務局長)は、契約の中には営業停止の1~3日前に結ばれたものが数十件あることや、50年までの長期契約が含まれていることを明らかにし、舒適堡の販促に問題が多かったことを強調した。被害者には65歳以上の高齢者も多く、インストラクターが情に訴えて契約の更新や追加を迫る手法が常態化していたようだ。
香港最大の親中派政党である民主建港協進聯盟(民建聯)に所属する梁熙(エドワード・リョン)立法会(議会)議員はフェイスブックへの投稿で、政府は速やかにクーリングオフ制度の検討を行い、今立法会での可決を目指すよう求めた。このほか、複数の議員がクーリングオフの立法化や消費者保護の強化を主張している。
一方で星島日報などによると、卸・小売業界選出の邵家輝(ピーター・シウ)立法会議員は、消費者が無条件で契約をキャンセルできるようになれば企業への負担が大きいとして、クーリングオフの立法化には否定的な立場だ。
消費者委員会の黄氏は16日、クーリングオフ制度の必要性を強調しつつ、立法作業には時間がかかることを指摘。業界が自主的にクーリングオフ期間を設けるのが最も速い方法であり、消費者の信頼回復にもつながるとの見解を示した。
■従業員670人が訴え
舒適堡の営業停止は、従業員にも大きな被害を与えた。労働・福祉局の孫玉カン(クリス・スン、カン=くさかんむりに函)局長は15日、約670人から給与未払いの救済などを求める訴えが労工処に届いていることを明らかにした。政府は、企業が倒産した場合に未払い賃金を立て替え払いする「破産賃金保障基金」を使って救済する方向だ。
同チェーンを巡っては今月1日、強制退職年金基金「強制性公積金計画(MPF)」制度を監督する強制退職年金基金管理局(MPFA)が、6~7月分の積立金約300万HKドルが未払いであることを指摘していた。従業員らへの給与は8月以前から遅配が発生していたという。

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香港では消費者の権利保護に取り組む法定機関の消費者委員会が2018年、フィットネスサービスや美容サービスの契約に対し、強制力のあるクーリングオフ制度を導入するよう提言。政府は翌19年に両サービスに関する3,000HKドル以上の契約を対象としたクーリングオフを立法化すべく、商務・経済発展局が意見公募(パブリックコメント)を行った。
ただ、当時は反政府デモによる社会の混乱とその後の新型コロナウイルス禍に伴う景気の悪化に見舞われたため、立法化計画は立ち消えとなっていた。李氏はこうした経緯を踏まえ、いったんは政府がまとめた立法草案をベースに「当時と現在との状況の違いなどを商務・経済発展局が検証する」と説明した。
■被害額1.35億HKドルに
官営メディアRTHK、地上波テレビ局の電視広播(TVB)などによると、舒適堡の営業停止を受けて消費者委員会に寄せられた消費者からの被害通報は、16日午前9時までに4,064件に達した。回収不能となる恐れのある前払い金の総額は1億3,500万HKドルに上っている。1件当たりの平均被害額は約3万3,000HKドルで、182万HKドルを筆頭に3件が100万HKドルを超える契約だった。
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香港最大の親中派政党である民主建港協進聯盟(民建聯)に所属する梁熙(エドワード・リョン)立法会(議会)議員はフェイスブックへの投稿で、政府は速やかにクーリングオフ制度の検討を行い、今立法会での可決を目指すよう求めた。このほか、複数の議員がクーリングオフの立法化や消費者保護の強化を主張している。
一方で星島日報などによると、卸・小売業界選出の邵家輝(ピーター・シウ)立法会議員は、消費者が無条件で契約をキャンセルできるようになれば企業への負担が大きいとして、クーリングオフの立法化には否定的な立場だ。
消費者委員会の黄氏は16日、クーリングオフ制度の必要性を強調しつつ、立法作業には時間がかかることを指摘。業界が自主的にクーリングオフ期間を設けるのが最も速い方法であり、消費者の信頼回復にもつながるとの見解を示した。
■従業員670人が訴え
舒適堡の営業停止は、従業員にも大きな被害を与えた。労働・福祉局の孫玉カン(クリス・スン、カン=くさかんむりに函)局長は15日、約670人から給与未払いの救済などを求める訴えが労工処に届いていることを明らかにした。政府は、企業が倒産した場合に未払い賃金を立て替え払いする「破産賃金保障基金」を使って救済する方向だ。
同チェーンを巡っては今月1日、強制退職年金基金「強制性公積金計画(MPF)」制度を監督する強制退職年金基金管理局(MPFA)が、6~7月分の積立金約300万HKドルが未払いであることを指摘していた。従業員らへの給与は8月以前から遅配が発生していたという。" ["post_title"]=> string(78) "クーリングオフの立法化も議論再燃、舒適堡の営業停止で" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(198) "%e3%82%af%e3%83%bc%e3%83%aa%e3%83%b3%e3%82%b0%e3%82%aa%e3%83%95%e3%81%ae%e7%ab%8b%e6%b3%95%e5%8c%96%e3%82%82%e8%ad%b0%e8%ab%96%e5%86%8d%e7%87%83%e3%80%81%e8%88%92%e9%81%a9%e5%a0%a1%e3%81%ae%e5%96%b6" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2024-09-17 04:00:08" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2024-09-16 19:00:08" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=22202" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
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