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岡山大、留学促進で拠点開設インドネシア人材に脚光(2)

人口減少が進む日本で新たな労働力としてインドネシア人材への注目が高まる中、働き手の確保にとどまらない高度人材の育成や誘致の動きも加速している。岡山大学は文部科学省から受託した日本への留学促進を図る事業の一環で、首都ジャカルタに拠点事務所を開設した。技能実習や特定技能に人材が多く流れる傾向が続いている中、現地に根ざして留学需要を掘り起こし、優秀な人材を呼び込む。
日本政府は昨年、2033年までに外国人留学生の受け入れ数を40万人に引き上げる目標を掲げた。新型コロナウイルス禍前の19年実績の約31万人と比較し、3割増やす計算だ。
政府は目標達成に向け、奨学金などの情報提供といった留学の入り口から日本での就職相談支援などの出口まで、一貫したサポート体制の構築を強化するとしている。

日本学生支援機構(JASSO)によると、23年5月時点の日本の高等教育機関に在籍する留学生の割合は中国(46.6%)とベトナム(11.9%)で半数以上を占め、インドネシアは2.6%で6位、東南アジア地域では2位だった。総数で見るとインドネシア人の留学生は少ないが、伸び率は14年から19年までに約2倍増と拡大している。
岡山大学は24年度、文部科学省から「日本留学促進のための海外ネットワーク機能強化事業(東南アジア地域)」を受託。同事業では今後5年間、官民協力のオールジャパンで、インドネシアを含む東南アジアからの留学生を2.7倍(10万3,861人)に引き上げることを目指す。
特にインドネシアとマレーシアは最重点国になっており、まずは9月下旬にジャカルタと東ジャワ州スラバヤで事務所を開設した。インドネシアからの留学生は今後5年で、倍以上の1万人にすることを目指し、学生のほか博士号を取得していない若手の大学教員らの誘致も見込む。

ジャカルタの事務所は、元日本留学生たちが中心となって設立した歴史を持つ私立ダルマ・プルサダ大学内に設けた。
事務所では、学内外を問わず奨学金や大学プログラムなど日本留学に関する相談を受け付けるほか、留学フェアの開催、ソーシャルメディアを活用した情報発信などを手がける。また、模擬講義を実施し学生と大学側のマッチングを促すといった大学組織ならではのリソースも活用しながら留学促進に取り組む。
岡山大やダルマ・プルサダ大の関係者によると、インドネシアでは日本語がある程度できる人材は、短期間で収入を得られる技能実習や特定技能制度へ流れる傾向が強いという。
インドネシアでの留学生誘致は一筋縄ではいかないとの認識を示した上で、同制度を巡っては日本文化などの学習が足りないまま就労し問題が起きている例もあることから修学の重要性を強調する。

ジャカルタ事務所の開設式であいさつをする岡山大学の鈴木副学長=9月24日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

式典には同事業の連携機関となる国立六大学連携コンソーシアムの関係者らも出席した=9月24日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)

岡山大はこれまで、14年度に文部科学省から受託した「留学コーディネーター配置事業」でミャンマーからの留学生数を5年間で約3倍に増加させたほか、19年度に受託した「日本留学海外拠点連携推進事業(東南アジア)」ではコロナ禍でも他機関に先駆けてオンライン活動を展開するなどしてきた。過去10年のノウハウを生かしながらインドネシアでも留学促進を図る。
岡山大の鈴木孝義副学長は「日本政府としては、留学後も高度人材に残ってもらいたいという思いがある。今回のわれわれのような留学生を誘致して数を増やしていく活動と、また別にある留学後の定着を促す事業を、今後うまく連携させながら包括的に取り組んでいくことが重要だ」との考えを示した。
■日本企業との連携も
日本語・文化を学ぶ学生が多いダルマ・プルサダ大学では、日本の企業と連携した取り組みを進めている。同大学は昨年11月、交通や観光・レジャー関連事業を展開するアルピコホールディングス(長野県松本市)と包括連携協定を締結。今年4月には、日本語・文化学科の卒業生が新卒で正社員として採用された。
また同月から、アルピコグループで宿泊観光事業を手がけるアルピコホテルズでのインターンシップも開始している。同グループとダルマ・プルサダ大学の取り組みはこのほど、海外産業人材育成協会(AOTS)の国庫補助事業に認定され、9月にはアルピコグループがダルマ・プルサダ大学で、将来の採用を目的とした「海外寄付講座」などを開いた。
おもてなしとホスピタリティーについて講義した、アルピコホテルズの重山敬太郎専務取締役は「当社は日本人の生産年齢人口が減っていく中での単なる労働力として外国から人に来てもらうわけではない」と強調する。「出身国の誇れる自国文化をしっかりと日本の中で発信していける人材、そしてこれから管理職や役員になりたいという覚悟を持った人たちに来ていただきたい」と語った。同社にはインドネシアのほか、ネパールやミャンマー、韓国などからの人材が働いている。
AOTSジャカルタ事務所の斎藤和子所長によると、今回の寄付講座で活用された、国庫補助事業はこれまで理工学系の学生に限られていたが、本年度から文系の学生にも対象が広がったことから適用に至った。日本企業が海外の高度人材を採用するのに役立ててもらえればと話した。(本特集は上村夏美が担当しました)

おもてなしとホスピタリティーについて講義したアルピコホテルズの重山氏。講座には学生およそ35人が参加し、熱心に耳を傾けた=9月10日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)
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日本政府は昨年、2033年までに外国人留学生の受け入れ数を40万人に引き上げる目標を掲げた。新型コロナウイルス禍前の19年実績の約31万人と比較し、3割増やす計算だ。
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日本学生支援機構(JASSO)によると、23年5月時点の日本の高等教育機関に在籍する留学生の割合は中国(46.6%)とベトナム(11.9%)で半数以上を占め、インドネシアは2.6%で6位、東南アジア地域では2位だった。総数で見るとインドネシア人の留学生は少ないが、伸び率は14年から19年までに約2倍増と拡大している。
岡山大学は24年度、文部科学省から「日本留学促進のための海外ネットワーク機能強化事業(東南アジア地域)」を受託。同事業では今後5年間、官民協力のオールジャパンで、インドネシアを含む東南アジアからの留学生を2.7倍(10万3,861人)に引き上げることを目指す。
特にインドネシアとマレーシアは最重点国になっており、まずは9月下旬にジャカルタと東ジャワ州スラバヤで事務所を開設した。インドネシアからの留学生は今後5年で、倍以上の1万人にすることを目指し、学生のほか博士号を取得していない若手の大学教員らの誘致も見込む。

ジャカルタの事務所は、元日本留学生たちが中心となって設立した歴史を持つ私立ダルマ・プルサダ大学内に設けた。
事務所では、学内外を問わず奨学金や大学プログラムなど日本留学に関する相談を受け付けるほか、留学フェアの開催、ソーシャルメディアを活用した情報発信などを手がける。また、模擬講義を実施し学生と大学側のマッチングを促すといった大学組織ならではのリソースも活用しながら留学促進に取り組む。
岡山大やダルマ・プルサダ大の関係者によると、インドネシアでは日本語がある程度できる人材は、短期間で収入を得られる技能実習や特定技能制度へ流れる傾向が強いという。
インドネシアでの留学生誘致は一筋縄ではいかないとの認識を示した上で、同制度を巡っては日本文化などの学習が足りないまま就労し問題が起きている例もあることから修学の重要性を強調する。
[caption id="attachment_23262" align="aligncenter" width="620"]ジャカルタ事務所の開設式であいさつをする岡山大学の鈴木副学長=9月24日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)[/caption]
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岡山大はこれまで、14年度に文部科学省から受託した「留学コーディネーター配置事業」でミャンマーからの留学生数を5年間で約3倍に増加させたほか、19年度に受託した「日本留学海外拠点連携推進事業(東南アジア)」ではコロナ禍でも他機関に先駆けてオンライン活動を展開するなどしてきた。過去10年のノウハウを生かしながらインドネシアでも留学促進を図る。
岡山大の鈴木孝義副学長は「日本政府としては、留学後も高度人材に残ってもらいたいという思いがある。今回のわれわれのような留学生を誘致して数を増やしていく活動と、また別にある留学後の定着を促す事業を、今後うまく連携させながら包括的に取り組んでいくことが重要だ」との考えを示した。
■日本企業との連携も
日本語・文化を学ぶ学生が多いダルマ・プルサダ大学では、日本の企業と連携した取り組みを進めている。同大学は昨年11月、交通や観光・レジャー関連事業を展開するアルピコホールディングス(長野県松本市)と包括連携協定を締結。今年4月には、日本語・文化学科の卒業生が新卒で正社員として採用された。
また同月から、アルピコグループで宿泊観光事業を手がけるアルピコホテルズでのインターンシップも開始している。同グループとダルマ・プルサダ大学の取り組みはこのほど、海外産業人材育成協会(AOTS)の国庫補助事業に認定され、9月にはアルピコグループがダルマ・プルサダ大学で、将来の採用を目的とした「海外寄付講座」などを開いた。
おもてなしとホスピタリティーについて講義した、アルピコホテルズの重山敬太郎専務取締役は「当社は日本人の生産年齢人口が減っていく中での単なる労働力として外国から人に来てもらうわけではない」と強調する。「出身国の誇れる自国文化をしっかりと日本の中で発信していける人材、そしてこれから管理職や役員になりたいという覚悟を持った人たちに来ていただきたい」と語った。同社にはインドネシアのほか、ネパールやミャンマー、韓国などからの人材が働いている。
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