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【24年の10大ニュース】中国の関与強化で軍政選挙へ国軍劣勢、市民にしわ寄せ

中国のミャンマー政治への影響力が際立った1年だった。同国は「平和と安定」をうたい、対立する軍事政権と少数民族武装勢力に停戦を迫った。軍政は中国への迎合色を強めつつ、トップの訪中で国際社会への復帰を演出。同国から来年の選挙実施を迫られる中、体制転換に向けた準備も進めた。軍政支配が4年目に入り、ほころびも目立つ。経済面では自国通貨安の進行や統制強化、国境貿易の停滞などとして表れる。少数民族武装勢力との戦いで劣勢となる中での徴兵制実施、日本人を含むビジネス関係者の拘束など、各方面における軍政の失敗の責任が市民や民間企業に転嫁されるリスクが顕在化した。一方、情勢が混迷を深める中、国内では武力で国軍を打倒して民政復帰を達成することへの期待もしぼみつつある。祖国に見切りをつけた若者の国外流出は加速し、日本の人気も高まる。今後は国軍主導の選挙の行方が焦点で、クーデター後から停滞気味の局面が変わる可能性がある。
■【第1位】軍政トップ訪中、協力アピール

ミャンマーのミンアウンフライン総司令官(左)が中国を訪問し、同国の李強首相と会談した=11月6日、中国・昆明(ミャンマー国軍公式サイトより)

軍政の最高指導者ミンアウンフライン総司令官は11月6日、中国南部雲南省の昆明で同国の李強(り・きょう)首相と会談した。同国を訪れたのは2021年2月のクーデター後で初めて。タイやベトナムなども含む大メコン圏(GMS)首脳会議にも出席し、中国との協力関係や「外交デビュー」をアピールした。
ミンアウンフライン氏によるクーデター後の「トップ外交」は限定的だっただけに、国際的な衝撃が大きかった。ミャンマーが加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議からは締め出され、22年9月にロシアの国際会議に参加してプーチン大統領と会談した後は大きな動きがなかった。
中国はミャンマーの政変直後から内政不干渉を唱え、しばらくは静観する姿勢だった。23年ごろから軍政や少数民族武装勢力との会合が増えた。ミャンマー側からは今年、国軍出身のテインセイン元大統領ら重鎮の中国入りが相次いだ。
中国は国軍を含む各勢力に対し、国境地帯での停戦や同国による巨大事業の保護や推進を求める。国軍への攻撃を強めていた3勢力のうち2勢力は「政治対話」路線に切り替えた。軍政には選挙の実施を要求し、中国が描く「民政復帰」は物議を醸す。
■【第2位】国勢調査を実施、来年の選挙視野に
軍政が来年11月にも総選挙を実施する方針を掲げた。今年10月1日には、その準備として国勢調査を開始。クーデターによってアウンサンスーチー氏が率いた政権を転覆させた後、軍政は「非常事態」が続いているとして選挙の先送りを続けてきたが、中国をはじめとする近隣国が求める体制転換にかじを切った。

軍政による国勢調査開始を知らせる看板=9月17日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA)

クーデター後はミンアウンフライン氏に権力が集中する独裁体制で、軍政の最高意思決定機関「国家統治評議会(SAC)」のトップも同氏が務める。7月下旬からは暫定大統領も兼務し、政変から3年半がたった8月1日には国軍トップに絶大な権力を委ねる非常事態宣言を6カ月間延長した。
選挙は憲法規定上、同宣言を取り消して国防治安評議会(NDSC)が実権を引き継いだ上で6カ月以内に実施しなければならない。宣言がいつ解除されるかが今後の焦点となる。
ただ、内戦状態が続き、拘束されているスーチー氏や抵抗する民主派が弾圧される中での選挙となれば、公正なものとはなりそうもない。武力による国軍打倒で民主化を達成しようとする勢力の反発が強まる可能性も高く、選挙を巡り混迷が深まる恐れがある。
■【第3位】徴兵制実施、市民の不安膨らむ

軍事パレードにおけるミンアウンフライン総司令官=3月27日、ミャンマー・ネピドー(NNA)

軍政は少数民族武装勢力などとの戦いで劣勢に立たされる中、徴兵制の実施に踏み切った。2月に人民兵役法を施行し、4月から招集した「志願者」の訓練を順次開始。市民の不安が膨張して若者の国外脱出を加速させ、現地で操業する企業は若手人材の流出に苦心する。現地からは「クーデター以上の衝撃」との声が上がった。
人民兵役法は旧軍政末期の10年に成立していたが発効が長年見送られていた。軍政は対象が年間6万人規模で「若い男性の1%程度にとどまる」(ゾーミントゥン報道官)として市民に協力を求めたが、旅券(パスポート)や査証(ビザ)を入手しようと人々が各機関に殺到。徴兵対象となることを避けるために適齢の家族を他地域に移住させたり、当局担当者の買収を図ったりする家庭が相次いだ。
表面上は混乱が収束に向かったものの、若者は将来への不安を募らせる。現地のビジネス関係者らは従業員の保護に奔走。若者に出国を思いとどまらせることは難しく、人材の送り出し機関関係者からは「国外脱出を急ぐためタイなどへの密入国を図る人が増えてしまう」との懸念の声が出た。
■【第4位】国軍の要衝陥落、群雄割拠の内戦
国軍の北東部司令部が8月、少数民族武装勢力「ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)」に占拠された。全国に14ある司令部の一つで、陥落は異例。クーデター後には各地で民主派武装組織「国民防衛隊(PDF)」が生まれたが、独立以来続く民族紛争が根深く、現在進行形のミャンマー危機が群雄割拠の内戦であることを印象付けた。
MNDAAは昨年10月、中国国境近くで国軍への一斉攻撃「作戦1027」を開始した3勢力「兄弟同盟」の一角。他の2勢力(タアン民族解放軍=TNLA、アラカン軍=AA)もそれぞれ支配地域を広げ、国軍を劣勢に立たせた。中国の圧力で北東部シャン州北部では「政治対話」を求める動きがあるが、AAは西部ラカイン州全土の掌握に向けて攻撃を続けている。
「影の政府」として国軍に対抗しようとする挙国一致政府(NUG)をはじめとする民主派は対国軍での団結をアピールするものの、現地支援力に乏しく武装闘争を統率できていない。新興の武装組織間でも衝突が発生し、「打倒軍政」には温度差がある。
タイ国境沿いでは4月、民主派に協力的とされるカレン民族同盟(KNU)が要衝ミャワディの国軍基地を一時的に占拠したが撤退。各民族に複数の武装グループが存在し、利権を巡った各勢力間の摩擦も生じている。
■【第5位】邦人含むビジネス関係者拘束
軍政は経済混乱に苦しむ中、価格統制に違反したなどとしてビジネス関係者を相次ぎ拘束した。イオンの現地法人「イオンオレンジ」の商品本部長だった笠松洋(かさまつ・ひろし)さんも有罪判決を受け、8月12日に解放されるまで約1カ月半かかった。クーデター後初めて、日本の企業関係者がビジネス活動の内容を理由に有罪とされた。
軍政は笠松さんを6月30日に拘束。コメの統制価格に従っていなかったと主張している。軍政は自国通貨チャットの実勢レートが対米ドルで下落する中、為替管理や金や食用油などの価格統制を強めていた。統制が強まり対象が拡大する中、ミャンマー人ビジネス関係者の拘束も相次いだ。
駐在員らからは日本の対ミャンマー外交との関連を指摘する声も上がった。今年は6月に政府開発援助(ODA)の円借款による新橋が開通した一方、在任期間が長かった日本大使が9月に離任。地場のビジネス関係者ですら軍政の方針をつかみ切れない中、拘束リスク回避に向けて慎重になる必要があるとの見方が出た。
■【第6位】物価高で市民に打撃、通貨安一段と

パーム油を購入する人々の行列=8月30日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA)

今年も物価高が進んだ。紛争に伴う物流網の寸断で製品の流通が滞り需給が逼迫(ひっぱく)したり、通貨安が輸入品の価格を押し上げたりしたためだ。軍政は労働者の「特別手当」を倍増させるなどの対策を打ったが、物価上昇を補うには不十分で、市民生活への影響が広がった。
世界銀行が12月に入って発表したミャンマーの24年通年のインフレ率予測値は26.0%。3年連続で20%台という高い水準で推移している。国際通貨基金(IMF)が11月に発表したミャンマーの24年度(23年10月~24年9月)のインフレ率予測値も22.0%と20%を上回る水準となっている。
物価高の背景にある現地通貨チャットの実勢レートは8月中旬に1米ドル(約157円)=7,000チャット近くと過去最安値をつけた。以降は高値に振れて年末にかけて安定的に推移したが、輸入に依存する燃油などの価格は高止まりした。
軍政は、医薬品や食品などを「適正価格」で販売するという手段を講じ、物価安定化を図っているとアピールしたが、実際に恩恵を受けた市民は限定的だった。中央銀行は輸出企業に対する「強制両替」の緩和による輸出振興や政策金利の引き上げなどでチャット相場の安定化を図ったが、目立った効果はなかった。
軍政下では輸入制限が続き、多重相場も発生。輸入に依存する食用油では今年、社会主義的な「配給制」が強まった。統制の裏では実勢価格による取引が増えており、ビジネス関係者は「(1980年代の社会主義政権の崩壊から)軍政は何も学んでいない」とこぼした。
■【第7位】若者の出国制限、訪日にも影響
労働省は5月、一部年齢の男性を対象に、移民労働者として海外で働くために必要な国内手続きの新規受け付けを停止した。徴兵制が実施されたこともあり、不安に駆られた若者の間では「出国制限」だとの不安が募っている。若者の海外就労意欲の高まりとともに日本で働きたい人が急増しているが、海外就労者への課税や自国への送金の義務化も含む一連の新規制が冷や水となった格好だ。
国内手続き制限の対象は23~31歳の男性。技能実習生や特定技能労働者として働くのに必要なデマンドレター(求人票)に関し、当局からの承認が得られなくなった。日本で働こうとするミャンマー人の3割強を男性が占めていたが、その割合は8月以降にやや低下している。
ミャンマーでは海外就労者からの仕送りに頼る家庭が少なくない。ただ、違法な国際送金ネットワークが存在しており、軍政は正規化を促す新規定を設けた。昨年導入した在外国民への所得税の納付義務化と合わせ、外貨獲得源とする狙いがあるとされる。ヤンゴンの人材の送り出し機関関係者からは、外貨獲得のためにも国内手続き制限は長引かないとの見方も出ている。
■【第8位】紛争波及、印タイも警戒
ミャンマーが内戦状態となる中、インドやタイなど周辺国で警戒感が強まった。インドはミャンマーとの自由移動制度(FMR)を廃止し、5,000億円以上を投じて国境にフェンスを設置する方針を打ち出した。タイは、不法移民の大量流入を避けるべく、ミャンマー国内の避難民に支援物資を送るための「人道回廊」の構築に踏み出した。

査証(ビザ)を求めタイ大使館前に並ぶミャンマー人=2月19日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA)

国際社会がミャンマー危機対処でまとまらず、東南アジア諸国連合(ASEAN)主導の外交も行き詰まり感が出ている。こうした中で周辺国は、それぞれが軍政や少数民族武装勢力などと対話しつつ、紛争の波及を避けようと動いている状況だ。
軍政に対して米欧は制裁などで厳しく接しており、融和的な姿勢の近隣国に民主派からは批判の声も出る。ただ、国軍と抵抗勢力の戦闘で国内避難民が350万人以上に膨れ上がるなど、支援を必要とする人は増加の一途をたどる。
同国からバングラデシュへとイスラム教徒少数民族ロヒンギャが大量脱出してから7年以上がたったが、西部では国軍とアラカン軍との戦闘が激化。国内にとどまるロヒンギャらの生活が脅かされるようになった。人道危機が深まる中、各勢力の対立は国際支援の障害にもなっている。
■【第9位】資産防衛、国外逃避が加速
政情不安と経済混乱が続く中、富裕層の資産防衛の動きが顕著になった。通貨安を見越した不動産や自動車、金などの取引が活発化。ミャンマー人によるタイのコンドミニアム(分譲マンション)購入数が1~9月に1,000戸を超えて国籍別で2位に浮上するなど、キャピタルフライト(資産逃避)の流れも加速した。
チャットの価値はクーデター前と比べて大きく目減りしており、マネーは不動産などに向かった。ヤンゴンをはじめとする主要都市の土地や建物の価格が数倍に上昇。中古車価格も高騰しており、軍政の関税免除措置で追い風を受ける電気自動車(EV)の需要も押し上げている。

タイなどの物件を売り込む仲介会社=2月25日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA)

不動産売買が増える中で軍政は7月、民間銀行7行などに「法的措置」を講じると発表。不動産開発を主軸とする財閥ヨマ・グループも影響を受け、同月にはサージ・パン会長が退任した。
■【第10位】大洪水発生、死者数百人に

洪水の被災者救助の様子=ミャンマー(国軍公式サイトより)

9月の台風11号(ヤギ)などによる水害で、ミャンマーで多数の死者・行方不明者が出た。軍政の発表では計520人以上。内戦に天災が加わり苦境に立たされる人々が増え、国際機関や市民団体などが被災者支援に追われた。
軍政によると、9地域・州で100万人超が大洪水で被害を受けた。軍政に厳しい目を向ける各国も国際機関経由などで緊急支援を実施。ただ、内戦状態で軍政と抵抗勢力それぞれの都合が人道支援を左右しかねない状況で、支援の在り方も問われた。
抵抗勢力からは、国軍経由の支援が行き届かない地域があるという批判の声が上がった。
■【番外編】日常に戻る市民、かすむ抵抗

クーデターから3年がたち「沈黙のストライキ」が呼びかけられた日ににぎわう市場=2月1日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA)

ミャンマーで、軍政打倒を呼びかける民主派勢力とヤンゴンなど都市部の市民の温度差が顕在化した。クーデターから3年がたった2月1日に「沈黙のストライキ」の実施が呼びかけられたが、路上にあったのは日常を過ごす人々の姿。6月にはサッカー日本代表戦が開かれ、ミャンマー代表のサポーター2万人以上が来場した。
4月のティンジャン(ミャンマー正月)や10月のタディンジュ祭など連休時には、イベントや国内観光を楽しむ人々の姿もあった。クーデター直後は市民不服従運動(CDM)が巻き起こったものの、軍政支配が長引くとともに武装闘争への期待がしぼんできた。
国軍への反感は依然として根強いものの、家族らとの生活を優先する人々は少なくない。CDMに参加した元教員は、軍政打倒を掲げる挙国一致政府への不信感をあらわにした。
子どもの公立校への通学や大規模イベントへの参加を政治と切り離して考える人もいる。政情不安に対する人々の思いは交錯し、将来への不安に対するはけ口を模索しているようにも映る。

サッカー日本代表を観客席から応援するサポーターら=6月6日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA)
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■【第1位】軍政トップ訪中、協力アピール
[caption id="attachment_24071" align="aligncenter" width="620"]ミャンマーのミンアウンフライン総司令官(左)が中国を訪問し、同国の李強首相と会談した=11月6日、中国・昆明(ミャンマー国軍公式サイトより)[/caption]
軍政の最高指導者ミンアウンフライン総司令官は11月6日、中国南部雲南省の昆明で同国の李強(り・きょう)首相と会談した。同国を訪れたのは2021年2月のクーデター後で初めて。タイやベトナムなども含む大メコン圏(GMS)首脳会議にも出席し、中国との協力関係や「外交デビュー」をアピールした。
ミンアウンフライン氏によるクーデター後の「トップ外交」は限定的だっただけに、国際的な衝撃が大きかった。ミャンマーが加盟する東南アジア諸国連合(ASEAN)首脳会議からは締め出され、22年9月にロシアの国際会議に参加してプーチン大統領と会談した後は大きな動きがなかった。
中国はミャンマーの政変直後から内政不干渉を唱え、しばらくは静観する姿勢だった。23年ごろから軍政や少数民族武装勢力との会合が増えた。ミャンマー側からは今年、国軍出身のテインセイン元大統領ら重鎮の中国入りが相次いだ。
中国は国軍を含む各勢力に対し、国境地帯での停戦や同国による巨大事業の保護や推進を求める。国軍への攻撃を強めていた3勢力のうち2勢力は「政治対話」路線に切り替えた。軍政には選挙の実施を要求し、中国が描く「民政復帰」は物議を醸す。
■【第2位】国勢調査を実施、来年の選挙視野に
軍政が来年11月にも総選挙を実施する方針を掲げた。今年10月1日には、その準備として国勢調査を開始。クーデターによってアウンサンスーチー氏が率いた政権を転覆させた後、軍政は「非常事態」が続いているとして選挙の先送りを続けてきたが、中国をはじめとする近隣国が求める体制転換にかじを切った。
[caption id="attachment_24072" align="aligncenter" width="620"]軍政による国勢調査開始を知らせる看板=9月17日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA)[/caption]
クーデター後はミンアウンフライン氏に権力が集中する独裁体制で、軍政の最高意思決定機関「国家統治評議会(SAC)」のトップも同氏が務める。7月下旬からは暫定大統領も兼務し、政変から3年半がたった8月1日には国軍トップに絶大な権力を委ねる非常事態宣言を6カ月間延長した。
選挙は憲法規定上、同宣言を取り消して国防治安評議会(NDSC)が実権を引き継いだ上で6カ月以内に実施しなければならない。宣言がいつ解除されるかが今後の焦点となる。
ただ、内戦状態が続き、拘束されているスーチー氏や抵抗する民主派が弾圧される中での選挙となれば、公正なものとはなりそうもない。武力による国軍打倒で民主化を達成しようとする勢力の反発が強まる可能性も高く、選挙を巡り混迷が深まる恐れがある。
■【第3位】徴兵制実施、市民の不安膨らむ
[caption id="attachment_24073" align="aligncenter" width="620"]軍事パレードにおけるミンアウンフライン総司令官=3月27日、ミャンマー・ネピドー(NNA)[/caption]
軍政は少数民族武装勢力などとの戦いで劣勢に立たされる中、徴兵制の実施に踏み切った。2月に人民兵役法を施行し、4月から招集した「志願者」の訓練を順次開始。市民の不安が膨張して若者の国外脱出を加速させ、現地で操業する企業は若手人材の流出に苦心する。現地からは「クーデター以上の衝撃」との声が上がった。
人民兵役法は旧軍政末期の10年に成立していたが発効が長年見送られていた。軍政は対象が年間6万人規模で「若い男性の1%程度にとどまる」(ゾーミントゥン報道官)として市民に協力を求めたが、旅券(パスポート)や査証(ビザ)を入手しようと人々が各機関に殺到。徴兵対象となることを避けるために適齢の家族を他地域に移住させたり、当局担当者の買収を図ったりする家庭が相次いだ。
表面上は混乱が収束に向かったものの、若者は将来への不安を募らせる。現地のビジネス関係者らは従業員の保護に奔走。若者に出国を思いとどまらせることは難しく、人材の送り出し機関関係者からは「国外脱出を急ぐためタイなどへの密入国を図る人が増えてしまう」との懸念の声が出た。
■【第4位】国軍の要衝陥落、群雄割拠の内戦
国軍の北東部司令部が8月、少数民族武装勢力「ミャンマー民族民主同盟軍(MNDAA)」に占拠された。全国に14ある司令部の一つで、陥落は異例。クーデター後には各地で民主派武装組織「国民防衛隊(PDF)」が生まれたが、独立以来続く民族紛争が根深く、現在進行形のミャンマー危機が群雄割拠の内戦であることを印象付けた。
MNDAAは昨年10月、中国国境近くで国軍への一斉攻撃「作戦1027」を開始した3勢力「兄弟同盟」の一角。他の2勢力(タアン民族解放軍=TNLA、アラカン軍=AA)もそれぞれ支配地域を広げ、国軍を劣勢に立たせた。中国の圧力で北東部シャン州北部では「政治対話」を求める動きがあるが、AAは西部ラカイン州全土の掌握に向けて攻撃を続けている。
「影の政府」として国軍に対抗しようとする挙国一致政府(NUG)をはじめとする民主派は対国軍での団結をアピールするものの、現地支援力に乏しく武装闘争を統率できていない。新興の武装組織間でも衝突が発生し、「打倒軍政」には温度差がある。
タイ国境沿いでは4月、民主派に協力的とされるカレン民族同盟(KNU)が要衝ミャワディの国軍基地を一時的に占拠したが撤退。各民族に複数の武装グループが存在し、利権を巡った各勢力間の摩擦も生じている。
■【第5位】邦人含むビジネス関係者拘束
軍政は経済混乱に苦しむ中、価格統制に違反したなどとしてビジネス関係者を相次ぎ拘束した。イオンの現地法人「イオンオレンジ」の商品本部長だった笠松洋(かさまつ・ひろし)さんも有罪判決を受け、8月12日に解放されるまで約1カ月半かかった。クーデター後初めて、日本の企業関係者がビジネス活動の内容を理由に有罪とされた。
軍政は笠松さんを6月30日に拘束。コメの統制価格に従っていなかったと主張している。軍政は自国通貨チャットの実勢レートが対米ドルで下落する中、為替管理や金や食用油などの価格統制を強めていた。統制が強まり対象が拡大する中、ミャンマー人ビジネス関係者の拘束も相次いだ。
駐在員らからは日本の対ミャンマー外交との関連を指摘する声も上がった。今年は6月に政府開発援助(ODA)の円借款による新橋が開通した一方、在任期間が長かった日本大使が9月に離任。地場のビジネス関係者ですら軍政の方針をつかみ切れない中、拘束リスク回避に向けて慎重になる必要があるとの見方が出た。
■【第6位】物価高で市民に打撃、通貨安一段と
[caption id="attachment_24074" align="aligncenter" width="620"]パーム油を購入する人々の行列=8月30日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA)[/caption]
今年も物価高が進んだ。紛争に伴う物流網の寸断で製品の流通が滞り需給が逼迫(ひっぱく)したり、通貨安が輸入品の価格を押し上げたりしたためだ。軍政は労働者の「特別手当」を倍増させるなどの対策を打ったが、物価上昇を補うには不十分で、市民生活への影響が広がった。
世界銀行が12月に入って発表したミャンマーの24年通年のインフレ率予測値は26.0%。3年連続で20%台という高い水準で推移している。国際通貨基金(IMF)が11月に発表したミャンマーの24年度(23年10月~24年9月)のインフレ率予測値も22.0%と20%を上回る水準となっている。
物価高の背景にある現地通貨チャットの実勢レートは8月中旬に1米ドル(約157円)=7,000チャット近くと過去最安値をつけた。以降は高値に振れて年末にかけて安定的に推移したが、輸入に依存する燃油などの価格は高止まりした。
軍政は、医薬品や食品などを「適正価格」で販売するという手段を講じ、物価安定化を図っているとアピールしたが、実際に恩恵を受けた市民は限定的だった。中央銀行は輸出企業に対する「強制両替」の緩和による輸出振興や政策金利の引き上げなどでチャット相場の安定化を図ったが、目立った効果はなかった。
軍政下では輸入制限が続き、多重相場も発生。輸入に依存する食用油では今年、社会主義的な「配給制」が強まった。統制の裏では実勢価格による取引が増えており、ビジネス関係者は「(1980年代の社会主義政権の崩壊から)軍政は何も学んでいない」とこぼした。
■【第7位】若者の出国制限、訪日にも影響
労働省は5月、一部年齢の男性を対象に、移民労働者として海外で働くために必要な国内手続きの新規受け付けを停止した。徴兵制が実施されたこともあり、不安に駆られた若者の間では「出国制限」だとの不安が募っている。若者の海外就労意欲の高まりとともに日本で働きたい人が急増しているが、海外就労者への課税や自国への送金の義務化も含む一連の新規制が冷や水となった格好だ。
国内手続き制限の対象は23~31歳の男性。技能実習生や特定技能労働者として働くのに必要なデマンドレター(求人票)に関し、当局からの承認が得られなくなった。日本で働こうとするミャンマー人の3割強を男性が占めていたが、その割合は8月以降にやや低下している。
ミャンマーでは海外就労者からの仕送りに頼る家庭が少なくない。ただ、違法な国際送金ネットワークが存在しており、軍政は正規化を促す新規定を設けた。昨年導入した在外国民への所得税の納付義務化と合わせ、外貨獲得源とする狙いがあるとされる。ヤンゴンの人材の送り出し機関関係者からは、外貨獲得のためにも国内手続き制限は長引かないとの見方も出ている。
■【第8位】紛争波及、印タイも警戒
ミャンマーが内戦状態となる中、インドやタイなど周辺国で警戒感が強まった。インドはミャンマーとの自由移動制度(FMR)を廃止し、5,000億円以上を投じて国境にフェンスを設置する方針を打ち出した。タイは、不法移民の大量流入を避けるべく、ミャンマー国内の避難民に支援物資を送るための「人道回廊」の構築に踏み出した。
[caption id="attachment_24075" align="aligncenter" width="620"]査証(ビザ)を求めタイ大使館前に並ぶミャンマー人=2月19日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA)[/caption]
国際社会がミャンマー危機対処でまとまらず、東南アジア諸国連合(ASEAN)主導の外交も行き詰まり感が出ている。こうした中で周辺国は、それぞれが軍政や少数民族武装勢力などと対話しつつ、紛争の波及を避けようと動いている状況だ。
軍政に対して米欧は制裁などで厳しく接しており、融和的な姿勢の近隣国に民主派からは批判の声も出る。ただ、国軍と抵抗勢力の戦闘で国内避難民が350万人以上に膨れ上がるなど、支援を必要とする人は増加の一途をたどる。
同国からバングラデシュへとイスラム教徒少数民族ロヒンギャが大量脱出してから7年以上がたったが、西部では国軍とアラカン軍との戦闘が激化。国内にとどまるロヒンギャらの生活が脅かされるようになった。人道危機が深まる中、各勢力の対立は国際支援の障害にもなっている。
■【第9位】資産防衛、国外逃避が加速
政情不安と経済混乱が続く中、富裕層の資産防衛の動きが顕著になった。通貨安を見越した不動産や自動車、金などの取引が活発化。ミャンマー人によるタイのコンドミニアム(分譲マンション)購入数が1~9月に1,000戸を超えて国籍別で2位に浮上するなど、キャピタルフライト(資産逃避)の流れも加速した。
チャットの価値はクーデター前と比べて大きく目減りしており、マネーは不動産などに向かった。ヤンゴンをはじめとする主要都市の土地や建物の価格が数倍に上昇。中古車価格も高騰しており、軍政の関税免除措置で追い風を受ける電気自動車(EV)の需要も押し上げている。
[caption id="attachment_24076" align="aligncenter" width="620"]タイなどの物件を売り込む仲介会社=2月25日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA)[/caption]
不動産売買が増える中で軍政は7月、民間銀行7行などに「法的措置」を講じると発表。不動産開発を主軸とする財閥ヨマ・グループも影響を受け、同月にはサージ・パン会長が退任した。
■【第10位】大洪水発生、死者数百人に
[caption id="attachment_24077" align="aligncenter" width="620"]洪水の被災者救助の様子=ミャンマー(国軍公式サイトより)[/caption]
9月の台風11号(ヤギ)などによる水害で、ミャンマーで多数の死者・行方不明者が出た。軍政の発表では計520人以上。内戦に天災が加わり苦境に立たされる人々が増え、国際機関や市民団体などが被災者支援に追われた。
軍政によると、9地域・州で100万人超が大洪水で被害を受けた。軍政に厳しい目を向ける各国も国際機関経由などで緊急支援を実施。ただ、内戦状態で軍政と抵抗勢力それぞれの都合が人道支援を左右しかねない状況で、支援の在り方も問われた。
抵抗勢力からは、国軍経由の支援が行き届かない地域があるという批判の声が上がった。
■【番外編】日常に戻る市民、かすむ抵抗
[caption id="attachment_24078" align="aligncenter" width="620"]クーデターから3年がたち「沈黙のストライキ」が呼びかけられた日ににぎわう市場=2月1日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA)[/caption]
ミャンマーで、軍政打倒を呼びかける民主派勢力とヤンゴンなど都市部の市民の温度差が顕在化した。クーデターから3年がたった2月1日に「沈黙のストライキ」の実施が呼びかけられたが、路上にあったのは日常を過ごす人々の姿。6月にはサッカー日本代表戦が開かれ、ミャンマー代表のサポーター2万人以上が来場した。
4月のティンジャン(ミャンマー正月)や10月のタディンジュ祭など連休時には、イベントや国内観光を楽しむ人々の姿もあった。クーデター直後は市民不服従運動(CDM)が巻き起こったものの、軍政支配が長引くとともに武装闘争への期待がしぼんできた。
国軍への反感は依然として根強いものの、家族らとの生活を優先する人々は少なくない。CDMに参加した元教員は、軍政打倒を掲げる挙国一致政府への不信感をあらわにした。
子どもの公立校への通学や大規模イベントへの参加を政治と切り離して考える人もいる。政情不安に対する人々の思いは交錯し、将来への不安に対するはけ口を模索しているようにも映る。
[caption id="attachment_24079" align="aligncenter" width="620"]サッカー日本代表を観客席から応援するサポーターら=6月6日、ミャンマー・ヤンゴン(NNA)[/caption]" ["post_title"]=> string(106) "【24年の10大ニュース】中国の関与強化で軍政選挙へ国軍劣勢、市民にしわ寄せ" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(193) "%e3%80%9024%e5%b9%b4%e3%81%ae10%e5%a4%a7%e3%83%8b%e3%83%a5%e3%83%bc%e3%82%b9%e3%80%91%e4%b8%ad%e5%9b%bd%e3%81%ae%e9%96%a2%e4%b8%8e%e5%bc%b7%e5%8c%96%e3%81%a7%e8%bb%8d%e6%94%bf%e9%81%b8%e6%8c%99" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2024-12-27 04:00:14" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2024-12-26 19:00:14" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=24070" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
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