インドネシアの新車市場でシェア1位のトヨタ自動車。現地販売会社トヨタ・アストラ・モーター(TAM)は、2024年の市場が90万台を割り込み、中国系を中心に電気自動車(EV)ブランドの参入が相次ぐ中、シェアを23年の32.6%から33.0%に上積みした。TAMの上田裕之社長はNNAに「既存市場での競争は何とか守り切った」と語った。今後はEVの販売割合が10%まで拡大する可能性もあると見る一方、低価格帯のハイブリッド車(HV)を含めた電動車の拡充に向け検討を重ねている。25年は市場全体で「前年超え」を期待する。
NNAの単独インタビューに応じたトヨタ・アストラ・モーター(TAM)の上田社長=1月22日、ジャカルタ特別州(NNA撮影)
——24年の市場全体の小売り販売台数は前年比11%減の約89万台に大きく落ち込んだ。
いくつかの要因が重なったと見ている。まず昨年は2月に大統領選挙、11月には統一地方首長選があるなど選挙の年だった。国内の政治体制の見通しが不透明であったため、法人需要を含めて買い控えムードが広がった。また、自動車ローンを組む金融機関で不良債権が増えたことで、年後半は与信審査の厳格化が顕著になった。その上に全体的な消費の弱含みなどが影響した。
インドネシアは今後さらに成長するポテンシャルのある市場だけに、停滞が続いたインパクトは大きかったとは思う。ただトヨタとしては市場が厳しい時こそ、新車販売後のバリューチェーン含めてお客さまとの接点の強化に努めた。結果として、小売りでシェアを伸ばすことができたのだと思う。
——トヨタにとってのインドネシア市場の位置付けは。
東南アジア市場の中でもタイとインドネシアは、トップクラスで重要なマーケットであることに変わりはない。販売台数でいえば、インドネシアでトヨタの小売り販売台数は約29万台。グローバル販売台数においても米国、中国、日本、インドに次いで5番目となり、インドネシアは将来のポテンシャルの高さからも重要な市場だ。
——インドネシアの新車市場は過去10年間、年100万台前後にとどまっている。市場拡大のブレークスルー(困難の突破)ができていない要因は。
購買力がだんだん弱くなってきていることが挙げられると思う。市場をセグメント別(価格帯や車体の大きさによる区別)で見た場合、トヨタでは小型多目的車(MPV)「アバンザ」や小型スポーツタイプ多目的車(SUV)「ヤリス・クロス」などが当てはまる「Bセグメント」が、インドネシアの新車販売のボリュームゾーンを形成している。
ただ、ここ数年で最も安価なセグメントであるローコスト・グリーンカー(LCGC)の構成比が上がる傾向が見られているほか、中古車の購入層が広がっていると認識している。
よりマクロの視点で見ると、中間層人口がこの5、6年で1,000万人近く減っているというデータがある。中間層の税負担が増加しているというデータもある一方、自動車の販売価格も機能の高度化や原材料価格の上昇に合わせて上がっており、家計の経済力とのアンマッチを生んでいる。首都ジャカルタに富が集中し、地方との所得格差が依然大きいことも要因としてあるだろう。
新車販売台数のうち、ジャカルタの割合は約2割。ジャカルタ以外の地域では、ラダーフレーム付きの頑丈な車やディーゼル車、低価格なLCGCが好まれるなど需要や経済事情は異なる。

——24年は中国EV大手比亜迪(BYD)の進出もあり、EVが新車販売のうち7%となる月もあった。今後のEV市場の見方は。
電動化で先行するタイや米国の例を参考にすると、新車販売のうちEVの割合は10%程度まで上がると見ているが、その後の進展についてはインドネシアのユーザーの反応を注意深く見ていかなくてはならない。25年はさらにEVの割合は上昇すると思うが、将来的にはEV、プラグインハイブリッド車(PHV)、HVの三つどもえで電動車市場は伸びていくと思う。
自動車市場が伸び悩む中で、EVメーカーをはじめ競合が増えることは脅威だ。ただ24年のデータで見ると、EV販売の半数以上を占めると言われるジャカルタで、トヨタは販売シェアを落としておらず、むしろ少し増えた。新たに市場参入するブランドがある中でも、既存市場での競争は何とか守り切ったと評価している。当然、トヨタからEVブランドに流れたアウトフロー(流出)もあったと思うが、他ブランドからのインフロー(流入)もあったと分析している。競合が増える中でも、アフターサービスを含めた総合力で対応していきたい。
——今後の電動車戦略について、既存の「キジャン・イノーバ・ゼニックス」「ヤリス・クロス」よりも一段低い価格帯でHVを展開する予定は。
そのように(より低い価格帯でHV投入)したいのでさまざまな検討を続けている。ただ現状、投入の可否や詳細な時期については明らかにできない。TAMとしては、今後もHVからEVまで電動車のラインアップを拡充していきたいと考えている。
今年の電動車販売では、現地生産HVの奢侈(しゃし)税が3%減税されることは朗報だ。新車を購入する人がHVを検討するきっかけになると期待している。
——25年の新車市場の見通しは。
市場が回復してきたという実感はまだない。ただ、懸念していた自動車税(PKB)と自動車名義変更税(BBNKB)に対する追加課税(Opsen)に関し、多くの州で税負担を軽減するための補助金が出されるなど実質的な適用が見送られたため、今のところ影響は軽微にとどまっている。
一方で、3カ月や6カ月後にOpsenの適用について見直しをすると表明している州もあり、通年での影響がはっきりと見通せない。Opsenが全面的に導入された場合には約2割販売台数が減少するという試算もあり、振れ幅が大きく予測が難しいが、年80万~90万台で収まるのではないか。せめて前年は超えてほしいと強く思っている。
昨年開催された自動車展示・販売会「ガイキンド・ジャカルタ・オート・ウイーク(GJAW)」で、バイオ燃料とHVの組み合わせについて説明する上田社長=24年11月、バンテン州(NNA撮影)
——プラボウォ・スビアント政権はバイオ燃料を積極的に活用する方針だ。トヨタが掲げる「マルチパスウェイ」との相性は。
2年前の展示会の時からバイオエタノールに対応したフレックス燃料車(FFV)を出展してきた。バイオ燃料については「いつでも来てください」と思っている。
トヨタとしてはブラジルでバイオエタノール100%の燃料に対応するモデルを導入済みだ。インドネシアですでに販売している車種もバイオエタノールを10%混合したガソリン「E10」まで対応できるようになっている。一方、ディーゼル燃料については必要な基準を満たしていれば、軽油にバイオディーゼルを40%配合した「B40」にも対応は技術的に可能だ。
今年はすでに国営石油プルタミナのグループ会社とE10を使用した実証実験を開始した。
バイオ燃料は通常の化石燃料よりも燃費が落ちるという性質があるが、HV技術と組み合わせることで、燃費を補完することができるなどHVとの相性は非常に良い。さまざまな技術を組み合わせることも、脱炭素化に向けたマルチパスウェイの1つだ。インドネシアの強みを生かした「カーボンニュートラル」に貢献できるよう、実証実験を通じて可能性を追求してきたい。(聞き手=和田純一)
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——24年の市場全体の小売り販売台数は前年比11%減の約89万台に大きく落ち込んだ。
いくつかの要因が重なったと見ている。まず昨年は2月に大統領選挙、11月には統一地方首長選があるなど選挙の年だった。国内の政治体制の見通しが不透明であったため、法人需要を含めて買い控えムードが広がった。また、自動車ローンを組む金融機関で不良債権が増えたことで、年後半は与信審査の厳格化が顕著になった。その上に全体的な消費の弱含みなどが影響した。
インドネシアは今後さらに成長するポテンシャルのある市場だけに、停滞が続いたインパクトは大きかったとは思う。ただトヨタとしては市場が厳しい時こそ、新車販売後のバリューチェーン含めてお客さまとの接点の強化に努めた。結果として、小売りでシェアを伸ばすことができたのだと思う。
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東南アジア市場の中でもタイとインドネシアは、トップクラスで重要なマーケットであることに変わりはない。販売台数でいえば、インドネシアでトヨタの小売り販売台数は約29万台。グローバル販売台数においても米国、中国、日本、インドに次いで5番目となり、インドネシアは将来のポテンシャルの高さからも重要な市場だ。
——インドネシアの新車市場は過去10年間、年100万台前後にとどまっている。市場拡大のブレークスルー(困難の突破)ができていない要因は。
購買力がだんだん弱くなってきていることが挙げられると思う。市場をセグメント別(価格帯や車体の大きさによる区別)で見た場合、トヨタでは小型多目的車(MPV)「アバンザ」や小型スポーツタイプ多目的車(SUV)「ヤリス・クロス」などが当てはまる「Bセグメント」が、インドネシアの新車販売のボリュームゾーンを形成している。
ただ、ここ数年で最も安価なセグメントであるローコスト・グリーンカー(LCGC)の構成比が上がる傾向が見られているほか、中古車の購入層が広がっていると認識している。
よりマクロの視点で見ると、中間層人口がこの5、6年で1,000万人近く減っているというデータがある。中間層の税負担が増加しているというデータもある一方、自動車の販売価格も機能の高度化や原材料価格の上昇に合わせて上がっており、家計の経済力とのアンマッチを生んでいる。首都ジャカルタに富が集中し、地方との所得格差が依然大きいことも要因としてあるだろう。
新車販売台数のうち、ジャカルタの割合は約2割。ジャカルタ以外の地域では、ラダーフレーム付きの頑丈な車やディーゼル車、低価格なLCGCが好まれるなど需要や経済事情は異なる。

——24年は中国EV大手比亜迪(BYD)の進出もあり、EVが新車販売のうち7%となる月もあった。今後のEV市場の見方は。
電動化で先行するタイや米国の例を参考にすると、新車販売のうちEVの割合は10%程度まで上がると見ているが、その後の進展についてはインドネシアのユーザーの反応を注意深く見ていかなくてはならない。25年はさらにEVの割合は上昇すると思うが、将来的にはEV、プラグインハイブリッド車(PHV)、HVの三つどもえで電動車市場は伸びていくと思う。
自動車市場が伸び悩む中で、EVメーカーをはじめ競合が増えることは脅威だ。ただ24年のデータで見ると、EV販売の半数以上を占めると言われるジャカルタで、トヨタは販売シェアを落としておらず、むしろ少し増えた。新たに市場参入するブランドがある中でも、既存市場での競争は何とか守り切ったと評価している。当然、トヨタからEVブランドに流れたアウトフロー(流出)もあったと思うが、他ブランドからのインフロー(流入)もあったと分析している。競合が増える中でも、アフターサービスを含めた総合力で対応していきたい。
——今後の電動車戦略について、既存の「キジャン・イノーバ・ゼニックス」「ヤリス・クロス」よりも一段低い価格帯でHVを展開する予定は。
そのように(より低い価格帯でHV投入)したいのでさまざまな検討を続けている。ただ現状、投入の可否や詳細な時期については明らかにできない。TAMとしては、今後もHVからEVまで電動車のラインアップを拡充していきたいと考えている。
今年の電動車販売では、現地生産HVの奢侈(しゃし)税が3%減税されることは朗報だ。新車を購入する人がHVを検討するきっかけになると期待している。
——25年の新車市場の見通しは。
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一方で、3カ月や6カ月後にOpsenの適用について見直しをすると表明している州もあり、通年での影響がはっきりと見通せない。Opsenが全面的に導入された場合には約2割販売台数が減少するという試算もあり、振れ幅が大きく予測が難しいが、年80万~90万台で収まるのではないか。せめて前年は超えてほしいと強く思っている。
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——プラボウォ・スビアント政権はバイオ燃料を積極的に活用する方針だ。トヨタが掲げる「マルチパスウェイ」との相性は。
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トヨタとしてはブラジルでバイオエタノール100%の燃料に対応するモデルを導入済みだ。インドネシアですでに販売している車種もバイオエタノールを10%混合したガソリン「E10」まで対応できるようになっている。一方、ディーゼル燃料については必要な基準を満たしていれば、軽油にバイオディーゼルを40%配合した「B40」にも対応は技術的に可能だ。
今年はすでに国営石油プルタミナのグループ会社とE10を使用した実証実験を開始した。
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