マツダは14日、タイの電動車(EV)市場に参入すると発表した。向こう3年間で5車種を導入する計画だ。50億バーツ(約220億円)を投じ、タイを新型スポーツタイプ多目的車(SUV)の生産ハブとして整備する。日系自動車メーカーが次々と生産縮小を発表する中、車両組み立てやエンジン生産、バッテリーの現地化など主要分野に資金を充て、年間の生産台数を10万台規模とする方針を示した。
マツダの毛籠社長(左)は13日、タイのペートンタン首相との会談でSUV生産を強化するために50億バーツ投資すると表明した=タイ・バンコク(同社提供)
5車種の内訳は、バッテリー式電気自動車(BEV)が2車種、ハイブリッド車(HV)が2車種、プラグインハイブリッド車(PHV)が1車種となる。このうち3車種がグローバル展開していない、新型車両になる予定。年内にも新型BEVのセダン「マツダ6e」の発表を予定している。中国自動車大手の重慶長安汽車との合弁会社である長安マツダが製造したものを輸入販売する。その後、26年にBEVとPHVを投入したのち、27年以降にタイでHVの生産を開始し、電動車のラインアップを拡充する計画だ。
マツダの毛籠勝弘(もろ・まさひろ)社長は、「タイでは70年にわたり国内だけでなく輸出に向けた強固な事業基盤を築いてきた」と強調。「この資産を活性化させるため、車両の組み立てや、エンジンやトランスミッションの生産体制の強化と、現地でのバッテリー調達に重点を置いた追加投資を決めた」と述べた。
毛籠氏は13日、タイのペートンタン首相との会談で投資を拡大する意思を示した。これに対しペートンタン氏は「マツダの投資を歓迎する。タイ政府は、自動車生産拠点としての地位を維持するためにも、電動化への移行に向けた支援をする用意がある」とコメントした。
■現地化による資本形成
AATの組み立てラインで、車体にエンジン・トランスミッション・足回り部品を搭載する工程=20日、タイ・ラヨーン県(NNA撮影)
マツダは、タイ東部ラヨーン県とチョンブリ県にそれぞれ自動車製造とパワートレイン製造拠点を構えている。1995年に設立した自動車製造は米フォード・モーターとの合弁会社オートアライアンス・タイランド(AAT)が運営する工場で、敷地面積は93万8,057平方メートル、従業員数は約5,000人となる。年産能力は22万台。
同工場ではマツダブランドの乗用車4車種、フォードブランドのピックアップトラックと乗用ピックアップ(PPV)それぞれ1車種の計6車種を生産する。マツダの完成車は、国内向けのほか、日本やオーストラリア、東南アジア諸国連合(ASEAN)向けにも輸出している。
2016~19年のマツダの年間生産台数は約13万台だったものの、国内市場での販売減少に伴い、24年は約6万台に縮小した。
「長年にわたり現地での人材育成に力を入れてきた。約5,000人の従業員のうち、日本人は3人のみ」と話すAATの猿渡社長=20日、タイ・ラヨーン県(NNA撮影)
AATでは、マツダとフォード両社の技術やノウハウを蓄積しつつ、現地化された製造ラインを構築している。AATの猿渡健一郎社長は、「完成車工場で、ここまで現地化させているところはほとんどない。約30年にわたり人材育成をしてきたことに加え、現地企業との信頼関係を構築してきたおかげだ」とコメントした。
組立工場の生産ラインは、乗用車とピックアップで分けてはいるが、1つのラインで複数の車種を製造する「混流生産」となる。ロボットによる自動化の比率は、乗用車ラインとピックアップラインでそれぞれ50%と80%。需要に合わせて柔軟に人材を配置し、車種ごとの生産量を調節できるのもAATの強みだ。
混流生産では、複数車種のあらゆる仕様に対応できる体制を構築している。このため、新型車種を導入する際は、車体プレスの金型などを調達するだけで、新たにラインを確保する必要はない。
このような背景からマツダはAATに資金を投じ、SUVの生産拠点とすることを決めた。新たに生産を始める予定のマイルドHVなどは、AATでのみ生産をするとしている。
猿渡氏は、新型車種の生産を通じた年間生産台数10万台達成に向け、「強固な関係性を築き上げてきた現地企業と共に、優れた技術と人的資産を有するAATの底力を発揮していきたい」と意気込みを語った。
最終過程でチェックを終えた完成車は車庫や出荷用のモータープールまで移動させる。中央の車種は「マツダ2」=20日、タイ・ラヨーン県(NNA撮影)
■向こう3年で電動車は5割以上
24年の国内でのマツダの新車販売台数は前年比44%減の9,220台だった。マツダセールス(タイランド)が販売している8車種のうち、小型車「マツダ2」とSUV「CX—3」の2車種が全体の65%を占める。
マツダセールス(タイランド)のティー社長は、マツダの高効率なエンジン技術を活用すると言及した上で、25年末のBEV投入を皮切りに、向こう3年でHVを含む電動車の割合は半数以上になるとの見通しを示した。
マツダ全体としては、30年までに100%電動車とする目標を掲げており、このうちの25~40%がBEVになるとみている。毛籠氏は、世界的にBEVが鈍化する一方、各国の電動化政策や市況は異なるものの、HVの需要が高まってきていると指摘した。
■25年の自動車販売は60万台
マツダは、25年のタイの新車販売台数は前年から横ばいの57万台から前年比5.3%増の60万台に回復すると予測した。新型コロナウイルス感染症の流行以前の90万台には届かないものの、家計債務の高止まりやローンの引き締めに左右はされるが、電動車を中心に段階的に増加していく見通しだという。
マツダセールス(タイランド)のショールームは、バンコク首都圏に19カ所、地方に65カ所の計84カ所に展開している。ティー氏は、「タイではディーラー網の再構築中でシェアを維持するのは難しい状況だ」と説明。同氏は、シェア2%を維持しながら、今後もディーラーが質の高いサービスを提供できる体制を整え、顧客満足度を向上させていく意向を示した。

■市場低迷の中で反転攻勢
24年通年のタイでの自動車生産台数は147万台。245万台を生産した12~13年のピーク時からは40%減少した。市場の低迷を受け、昨年、スズキは25年末をめどに完成車生産から撤退を発表。ホンダは第1工場での生産を年内に終了し、第2工場に集約する方針で、日産自動車も、ホンダと似た形式をとると報じられている。タイの自動車業界で日系メーカーに逆風が強まる中、マツダは反転攻勢に向けた追加投資で生産体制を強化する動きを見せた。
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マツダの毛籠勝弘(もろ・まさひろ)社長は、「タイでは70年にわたり国内だけでなく輸出に向けた強固な事業基盤を築いてきた」と強調。「この資産を活性化させるため、車両の組み立てや、エンジンやトランスミッションの生産体制の強化と、現地でのバッテリー調達に重点を置いた追加投資を決めた」と述べた。
毛籠氏は13日、タイのペートンタン首相との会談で投資を拡大する意思を示した。これに対しペートンタン氏は「マツダの投資を歓迎する。タイ政府は、自動車生産拠点としての地位を維持するためにも、電動化への移行に向けた支援をする用意がある」とコメントした。
■現地化による資本形成
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AATの組み立てラインで、車体にエンジン・トランスミッション・足回り部品を搭載する工程=20日、タイ・ラヨーン県(NNA撮影) [/caption]
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同工場ではマツダブランドの乗用車4車種、フォードブランドのピックアップトラックと乗用ピックアップ(PPV)それぞれ1車種の計6車種を生産する。マツダの完成車は、国内向けのほか、日本やオーストラリア、東南アジア諸国連合(ASEAN)向けにも輸出している。
2016~19年のマツダの年間生産台数は約13万台だったものの、国内市場での販売減少に伴い、24年は約6万台に縮小した。
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組立工場の生産ラインは、乗用車とピックアップで分けてはいるが、1つのラインで複数の車種を製造する「混流生産」となる。ロボットによる自動化の比率は、乗用車ラインとピックアップラインでそれぞれ50%と80%。需要に合わせて柔軟に人材を配置し、車種ごとの生産量を調節できるのもAATの強みだ。
混流生産では、複数車種のあらゆる仕様に対応できる体制を構築している。このため、新型車種を導入する際は、車体プレスの金型などを調達するだけで、新たにラインを確保する必要はない。
このような背景からマツダはAATに資金を投じ、SUVの生産拠点とすることを決めた。新たに生産を始める予定のマイルドHVなどは、AATでのみ生産をするとしている。
猿渡氏は、新型車種の生産を通じた年間生産台数10万台達成に向け、「強固な関係性を築き上げてきた現地企業と共に、優れた技術と人的資産を有するAATの底力を発揮していきたい」と意気込みを語った。
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■向こう3年で電動車は5割以上
24年の国内でのマツダの新車販売台数は前年比44%減の9,220台だった。マツダセールス(タイランド)が販売している8車種のうち、小型車「マツダ2」とSUV「CX—3」の2車種が全体の65%を占める。
マツダセールス(タイランド)のティー社長は、マツダの高効率なエンジン技術を活用すると言及した上で、25年末のBEV投入を皮切りに、向こう3年でHVを含む電動車の割合は半数以上になるとの見通しを示した。
マツダ全体としては、30年までに100%電動車とする目標を掲げており、このうちの25~40%がBEVになるとみている。毛籠氏は、世界的にBEVが鈍化する一方、各国の電動化政策や市況は異なるものの、HVの需要が高まってきていると指摘した。
■25年の自動車販売は60万台
マツダは、25年のタイの新車販売台数は前年から横ばいの57万台から前年比5.3%増の60万台に回復すると予測した。新型コロナウイルス感染症の流行以前の90万台には届かないものの、家計債務の高止まりやローンの引き締めに左右はされるが、電動車を中心に段階的に増加していく見通しだという。
マツダセールス(タイランド)のショールームは、バンコク首都圏に19カ所、地方に65カ所の計84カ所に展開している。ティー氏は、「タイではディーラー網の再構築中でシェアを維持するのは難しい状況だ」と説明。同氏は、シェア2%を維持しながら、今後もディーラーが質の高いサービスを提供できる体制を整え、顧客満足度を向上させていく意向を示した。

■市場低迷の中で反転攻勢
24年通年のタイでの自動車生産台数は147万台。245万台を生産した12~13年のピーク時からは40%減少した。市場の低迷を受け、昨年、スズキは25年末をめどに完成車生産から撤退を発表。ホンダは第1工場での生産を年内に終了し、第2工場に集約する方針で、日産自動車も、ホンダと似た形式をとると報じられている。タイの自動車業界で日系メーカーに逆風が強まる中、マツダは反転攻勢に向けた追加投資で生産体制を強化する動きを見せた。"
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