中国で事業展開する日系自動車各社が今月から来月にかけて、中国市場に対応した電気自動車(EV)を相次いで投入する。中国の「新エネルギー車(NEV)」市場では近年、スマート化の分野で先行する中国勢がシェアを伸ばし、外資系が後れを取る展開が続いていたが、今回日系が投入するEVは中国地場メーカーの一般的なEVと同程度の水準に到達したとみられる。【広州・川杉宏行】
広汽トヨタのSUV「ハク智3X」(左)と東風ホンダのSUV「イエS7」
NEVは主にEVやプラグインハイブリッド車(PHV)を指す概念。
日系大手3社が計4車種を投入する。トヨタ自動車と広州汽車集団の合弁メーカー、広汽豊田汽車(広汽トヨタ)は6日、スポーツタイプ多目的車(SUV)の新型EV「ハク智3X(bZ3X)」(ハク=金へんに白)を発売した。内外装やスマート化の度合いなどを含め、地場系EVに引けを取らないクルマに仕上げた。
ハク智3Xは7グレードあり、価格は10万9,800~15万9,800元(約220万~330万円)。うち高度運転支援システム対応モデル「智駕版」は14万9,800元と15万9,800元の2グレードある。
ハク智3Xの高度運転支援システムは、自動運転技術の開発を手がける北京初速度科技(モメンタ)の最新版「モメンタ5.0」を採用。智駕版はレーザーを使って周囲を認識するセンサー「LiDAR(ライダー)」1個、ミリ波レーダー3個、超音波センサー12個、車載カメラ11個を搭載し、高度な運転支援を実現した。
広州汽車集団によると、ライダーを標準装備した14万元台の高度運転支援システム搭載車は業界で初めて。
こうした先端を行くEVに対し、市場は素早く反応した。ハク智3Xは発売後1時間で、受注台数が1万台を突破。中国新車市場では月間販売1万台が人気車種の一つの目安とされており、滑り出しは上々だ。
日系には苦い思い出がある。各社は2022年、中国で新型EVを相次いで投入したが、市場のトレンドを取り込まなかったため、消費者に受け入れられなかった。「(投入したEVが)見向きもされない」(日系大手の関係者)当時の経験を経て、ハク智3Xが登場し、「日の丸EV」の展開が新たな局面に入ったようだ。

■ホンダは2車種投入
ホンダも6日、東風汽車集団股フンとの合弁、東風本田汽車(東風ホンダ)から「イエ」シリーズ(イエ=火へんに華)の新型EV「イエS7」を発売した。同車はSUVで、価格は25万9,900~30万9,900元。イエS7も中国地場系EVと比べて遜色ない水準に仕上げた。来月には広州汽車集団との合弁、広汽本田汽車(広汽ホンダ)から姉妹車となる「イエP7」も発売する予定だ。
イエS7とイエP7はイエシリーズの第1弾との位置付け。ホンダは25年度(25年4月~26年3月)に第2弾となるセダンの新型EVを発売する計画で、中国市場での攻勢を強める。
日産自動車は来月、東風汽車集団股フンとの合弁メーカー、東風汽車(DFL)の乗用車部門である東風日産乗用車から、セダンの新型EV「N7」を投入する。N7もモメンタの高度運転支援システムを採用し、スマート化を推し進めた。
トヨタ、ホンダ、日産が今回投入する新型EVは中国地場系EVの水準に到達しただけでなく、中国でまだ採用車種が限定的なフルフラットシート(トヨタ)や電子サイドミラー(ホンダ)、セダンへの冷温庫の標準装備(日産)など業界の先端を行く機能を随所にちりばめた。
日系各社のEVはこれまで中国地場系EVと比べて機能や装備で後れがちだったことを考えると、部分的ながら一部先行し始めたことは画期的だ。
■塗り替わった勢力図
中国自動車市場では18年、新しいトレンドが沸き起こった。複数の新興NEVメーカーが頭角を現し、EV大手の米テスラを源流とする車体の設計思想を中国に呼び込んだ。
この新たなトレンドは、内燃機関をモーターに置き換える電動化と車体のデジタル制御を強めるスマート化を同時に進行させ、内外装のデザインを一新し、中国の消費者に「新しいクルマの形」を提示した。内燃機関車(ICEV)に強みを持つ日系やドイツ系などの外資系メーカーは、こうしたNEV市場のトレンドから距離を置いたことで、シェアを大きく落としていった。
中国自動車工業協会によると、国内乗用車販売台数に占める20年の国別シェアは、中国系38.4%、ドイツ系23.9%、日系23.1%だったのが、24年は中国系65.2%、ドイツ系14.6%、日系11.2%となり、勢力図が塗り替わった。NEVへの対応の差が明暗を分けたことは明らかだ。
日系の24年の中国での新車販売台数はトヨタが前年比6.9%減、ホンダが30.9%減、日産が12.2%減。ここ数年落ち込みが続いていたが、中国地場系EVに対抗できる新型EVという“武器”を手にしたことで今後は反撃に転じるとみられる。
ただ中国NEV市場は供給が過剰気味で、コモディティー化(商品の市場価値が下がり一般化してしまう現象)も進んでおり、日系の新型EVが消費者にどれだけ受け入れられるか見通せない部分もある。日系各社のEVが中国NEV市場の勢力図に変化をもたらすか、今後の売れ行きに注目が集まる。

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広州汽車集団によると、ライダーを標準装備した14万元台の高度運転支援システム搭載車は業界で初めて。
こうした先端を行くEVに対し、市場は素早く反応した。ハク智3Xは発売後1時間で、受注台数が1万台を突破。中国新車市場では月間販売1万台が人気車種の一つの目安とされており、滑り出しは上々だ。
日系には苦い思い出がある。各社は2022年、中国で新型EVを相次いで投入したが、市場のトレンドを取り込まなかったため、消費者に受け入れられなかった。「(投入したEVが)見向きもされない」(日系大手の関係者)当時の経験を経て、ハク智3Xが登場し、「日の丸EV」の展開が新たな局面に入ったようだ。

■ホンダは2車種投入
ホンダも6日、東風汽車集団股フンとの合弁、東風本田汽車(東風ホンダ)から「イエ」シリーズ(イエ=火へんに華)の新型EV「イエS7」を発売した。同車はSUVで、価格は25万9,900~30万9,900元。イエS7も中国地場系EVと比べて遜色ない水準に仕上げた。来月には広州汽車集団との合弁、広汽本田汽車(広汽ホンダ)から姉妹車となる「イエP7」も発売する予定だ。
イエS7とイエP7はイエシリーズの第1弾との位置付け。ホンダは25年度(25年4月~26年3月)に第2弾となるセダンの新型EVを発売する計画で、中国市場での攻勢を強める。
日産自動車は来月、東風汽車集団股フンとの合弁メーカー、東風汽車(DFL)の乗用車部門である東風日産乗用車から、セダンの新型EV「N7」を投入する。N7もモメンタの高度運転支援システムを採用し、スマート化を推し進めた。
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日系各社のEVはこれまで中国地場系EVと比べて機能や装備で後れがちだったことを考えると、部分的ながら一部先行し始めたことは画期的だ。
■塗り替わった勢力図
中国自動車市場では18年、新しいトレンドが沸き起こった。複数の新興NEVメーカーが頭角を現し、EV大手の米テスラを源流とする車体の設計思想を中国に呼び込んだ。
この新たなトレンドは、内燃機関をモーターに置き換える電動化と車体のデジタル制御を強めるスマート化を同時に進行させ、内外装のデザインを一新し、中国の消費者に「新しいクルマの形」を提示した。内燃機関車(ICEV)に強みを持つ日系やドイツ系などの外資系メーカーは、こうしたNEV市場のトレンドから距離を置いたことで、シェアを大きく落としていった。
中国自動車工業協会によると、国内乗用車販売台数に占める20年の国別シェアは、中国系38.4%、ドイツ系23.9%、日系23.1%だったのが、24年は中国系65.2%、ドイツ系14.6%、日系11.2%となり、勢力図が塗り替わった。NEVへの対応の差が明暗を分けたことは明らかだ。
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