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相互関税への報復措置なし政府方針、経済押し下げは軽微か

インドネシア政府は6日、トランプ米政権が9日に「相互関税」の第2弾を発動するのを前に、報復措置は取らず外交を通じて互恵的な解決策を探る方針を決めた。インドネシアに対する相互関税は第2弾で32%に引き上げられる。政府は衣類や履物などの輸出産業への影響を注視するとしている。一方、エコノミストからは相互関税が経済成長率に与える影響はマイナス0.05~0.1ポイントとの試算が示され、内需主導型のインドネシアへの打撃は比較的軽微とみられている。

トランプ米政権の「相互関税」は輸出型の繊維産業を悪化させるとみられるが、経済全体に与える影響は比較的軽微になるとみられる=ジャカルタ特別州(NNA撮影)

米政府が2日に発表したインドネシアに対する相互関税は32%。5日にほぼ全ての国・地域を対象に一律で10%の関税を課し、9日に貿易赤字の大きい国・地域に税率を上乗せする第2弾を発動する計画だ。
これに対してインドネシア政府は6日、アイルランガ調整相(経済担当)が主宰したオンライン会議で、相互関税政策に対する報復措置は取らず、2国間貿易の長期的な利益を考慮し、投資環境や国内経済の安定を維持するために外交と交渉による互恵的な解決策を探る方針を決めた。
会議にはインドネシア中央銀行のペリー総裁、スリ財務相、ロサン投資・下流化相、ブディ貿易相、金融監督庁(OJK)のマヘンドラ長官らが出席した。
また政府は、相互関税の影響が懸念される衣類や履物などの輸出型の労働集約型産業の動向を注視し、競争力の維持と事業の継続ができるようインセンティブを提供して支援するとした。
米商務省のデータによると、2024年のインドネシアの対米輸出額は281億米ドル(約4兆1,000億円)、輸入額は約102億米ドルで、収支は179億米ドルの黒字だった。インドネシアの貿易相手国としては中国に次ぐ2位。輸出品目では「電気機器・部品」(HSコード85)、「履物」(同64)、「衣類」(同61)、「動・植物性の油脂」(同15)などが上位に入っている。

■中国経済次第で景気下振れリスクも
みずほリサーチ&テクノロジーズの西野洋平エコノミストは、相互関税のインドネシアへの影響について、同社の試算では対米輸出の減少による国内総生産(GDP)成長率への影響はマイナス0.1ポイント程度になるといい、「インドネシアは内需主導型の経済のため、相対的には軽微だとみている」と述べた。
ただ、試算には例えば高関税で中国経済が減速し、インドネシアの対中国向け輸出が減少することによる経済下押しといった米国以外の影響は織り込んでいないといい、「中国の景気減速を通じた、景気下振れのリスクは相応にある」と指摘した。
また西野氏は「輸出企業が相互関税分を価格転嫁できる可能性は低い」とした上で、「アパレル産業や電気機器産業を中心に収益が圧迫されれば、賃金の伸び悩みや労働者解雇の可能性が高まることでの内需の下押しにも留意が必要だ」とコメントした。中国やベトナムなどの対米輸出品が、一部インドネシア市場に流入しデフレ圧力や既存の繊維産業のシェア低下が起きる可能性もあると解説した。
一方、インドネシア産業省は当初、相互関税政策の実施で中国からインドネシアへの工場移転の誘致につながるとの見方をしていたが、関税が「想定外の高さ」(西野氏)だったこともあり、誘致政策の見直しも迫られそうだ。
西野氏は、「中国からの迂回(うかい)輸出を目論んでいた企業にとってはインドネシアへの進出メリットが薄れるため、投資誘致が減速する可能性は高い。政府からすれば、相互関税の高さは大きな向かい風だ」と述べた。ただ、「中長期的に見れば、データセンター需要の高まりや地政学リスクを踏まえたサプライチェーン(供給網)再編という大きな流れは変わらない」との見方を示した。

地場シンクタンクのインドネシア経済金融開発研究所(INDEF)のアフマド・ヘリ・フィルダウス氏は4日のウェビナーで、相互関税のGDP成長率への影響は0.05ポイント減だとの試算を明らかにした。試算では、ベトナムが0.84ポイント減、中国は0.61ポイント減などとなり、これらの国と比べて影響が小さいと説明。インドネシアの輸出先は中国や欧州連合(EU)、東南アジア諸国連合(ASEAN)などに分散しており、米国への輸出依存度が高くないためだと述べた。
■非関税障壁への対応も課題に
相互関税の税率を算出する式については、米通商代表部(USTR)がホームページで公表しているが、その方法を疑問視する声が相次いでいる。米政府が発表した各国・地域の関税率は、24年の貿易赤字を輸入額で割った数字に過ぎないと指摘されている。
例えば、米国の対インドネシアの貿易赤字は179億米ドルで、輸入額は281億米ドルのため、貿易赤字(179億米ドル)を輸入額(281億米ドル)で割ると、64%という数字が算出される。これは米政府が主張するインドネシアの関税率64%と一致する。そして、相互関税率はこの数字を2で割った32%という計算になる。
関税の算出根拠の妥当性に疑念が投げかけられる中、米政府が問題視する非関税障壁が相互関税率に正確に反映されているのかは明らかにされていない。だが、米政府は2日の相互関税の発表時にもインドネシアの非関税障壁自体を批判している。
具体的には◇幅広い産業分野で現地調達要件を設定◇複雑な輸入許可制度を維持◇天然資源を管理・加工する企業に対して25万米ドル以上の取引の輸出代金を国内で保有することを義務付ける政策を導入——していることを問題視していた。
また、3月31日にはUSTRが25年版の外国貿易障壁報告書を発表。6日のジャカルタ・グローブによると、これを受けてインドネシア商工会議所(カディン)は、米国に不利益となる5項目の制度の是正を政府に求めた。具体的な障壁は◇財務相令『22年第41号』で輸入時の前払い所得税の対象品が増加したこと◇輸入酒類には国産酒類よりも高い物品税率が課せられていること◇商品バランスに関する大統領令『24年第61号』で、輸入ライセンスが必要となる需給評価対象を5品目から19品目に増やしたこと——などがあるとして見直しを求めた。

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米商務省のデータによると、2024年のインドネシアの対米輸出額は281億米ドル(約4兆1,000億円)、輸入額は約102億米ドルで、収支は179億米ドルの黒字だった。インドネシアの貿易相手国としては中国に次ぐ2位。輸出品目では「電気機器・部品」(HSコード85)、「履物」(同64)、「衣類」(同61)、「動・植物性の油脂」(同15)などが上位に入っている。

■中国経済次第で景気下振れリスクも
みずほリサーチ&テクノロジーズの西野洋平エコノミストは、相互関税のインドネシアへの影響について、同社の試算では対米輸出の減少による国内総生産(GDP)成長率への影響はマイナス0.1ポイント程度になるといい、「インドネシアは内需主導型の経済のため、相対的には軽微だとみている」と述べた。
ただ、試算には例えば高関税で中国経済が減速し、インドネシアの対中国向け輸出が減少することによる経済下押しといった米国以外の影響は織り込んでいないといい、「中国の景気減速を通じた、景気下振れのリスクは相応にある」と指摘した。
また西野氏は「輸出企業が相互関税分を価格転嫁できる可能性は低い」とした上で、「アパレル産業や電気機器産業を中心に収益が圧迫されれば、賃金の伸び悩みや労働者解雇の可能性が高まることでの内需の下押しにも留意が必要だ」とコメントした。中国やベトナムなどの対米輸出品が、一部インドネシア市場に流入しデフレ圧力や既存の繊維産業のシェア低下が起きる可能性もあると解説した。
一方、インドネシア産業省は当初、相互関税政策の実施で中国からインドネシアへの工場移転の誘致につながるとの見方をしていたが、関税が「想定外の高さ」(西野氏)だったこともあり、誘致政策の見直しも迫られそうだ。
西野氏は、「中国からの迂回(うかい)輸出を目論んでいた企業にとってはインドネシアへの進出メリットが薄れるため、投資誘致が減速する可能性は高い。政府からすれば、相互関税の高さは大きな向かい風だ」と述べた。ただ、「中長期的に見れば、データセンター需要の高まりや地政学リスクを踏まえたサプライチェーン(供給網)再編という大きな流れは変わらない」との見方を示した。

地場シンクタンクのインドネシア経済金融開発研究所(INDEF)のアフマド・ヘリ・フィルダウス氏は4日のウェビナーで、相互関税のGDP成長率への影響は0.05ポイント減だとの試算を明らかにした。試算では、ベトナムが0.84ポイント減、中国は0.61ポイント減などとなり、これらの国と比べて影響が小さいと説明。インドネシアの輸出先は中国や欧州連合(EU)、東南アジア諸国連合(ASEAN)などに分散しており、米国への輸出依存度が高くないためだと述べた。
■非関税障壁への対応も課題に
相互関税の税率を算出する式については、米通商代表部(USTR)がホームページで公表しているが、その方法を疑問視する声が相次いでいる。米政府が発表した各国・地域の関税率は、24年の貿易赤字を輸入額で割った数字に過ぎないと指摘されている。
例えば、米国の対インドネシアの貿易赤字は179億米ドルで、輸入額は281億米ドルのため、貿易赤字(179億米ドル)を輸入額(281億米ドル)で割ると、64%という数字が算出される。これは米政府が主張するインドネシアの関税率64%と一致する。そして、相互関税率はこの数字を2で割った32%という計算になる。
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また、3月31日にはUSTRが25年版の外国貿易障壁報告書を発表。6日のジャカルタ・グローブによると、これを受けてインドネシア商工会議所(カディン)は、米国に不利益となる5項目の制度の是正を政府に求めた。具体的な障壁は◇財務相令『22年第41号』で輸入時の前払い所得税の対象品が増加したこと◇輸入酒類には国産酒類よりも高い物品税率が課せられていること◇商品バランスに関する大統領令『24年第61号』で、輸入ライセンスが必要となる需給評価対象を5品目から19品目に増やしたこと——などがあるとして見直しを求めた。" ["post_title"]=> string(81) "相互関税への報復措置なし政府方針、経済押し下げは軽微か" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(198) "%e7%9b%b8%e4%ba%92%e9%96%a2%e7%a8%8e%e3%81%b8%e3%81%ae%e5%a0%b1%e5%be%a9%e6%8e%aa%e7%bd%ae%e3%81%aa%e3%81%97%e6%94%bf%e5%ba%9c%e6%96%b9%e9%87%9d%e3%80%81%e7%b5%8c%e6%b8%88%e6%8a%bc%e3%81%97%e4%b8%8b" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2025-04-08 04:00:04" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2025-04-07 19:00:04" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=25762" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
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