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公的医療機関で離職者相次ぐ過酷勤務、不正摘発が追い打ち

ベトナムの公的医療機関で職員の離職が相次いでいる。2021年以降に離職した医療従事者は9,000人を超え、南部ホーチミン市では全体の5%が職を離れた。賃金の低さや新型コロナ流行による長時間労働の慢性化に加え、コロナウイルス検査キットの調達にからむ不正の摘発が全国で展開されたことによる職場環境の悪化が原因とみられている。医療現場では人材不足が深刻化しており、死亡者の増加につながっているとの指摘も出ている。

医療従事者の離職が深刻化している(政府公式サイト提供)

首都ハノイに住む男性は今年4月、放射線技師として10年勤めた総合病院を退職した。国営放送VTCによれば、退職の理由は所得が残業代を含めて月600万ドン(256米ドル、約3万5,500円)にとどまり、「妻と3歳、1歳の子どもを養えない」からだったという。
男性は退職後にオンラインで家電や衣料品の販売を始めた。注文が次々と舞い込み「病院での1年分の稼ぎをあっという間に稼ぐこともある」と満足げに語った。
■全国では2~3%が離職か
地元メディアではこの数週間ほど、公的医療機関での職員退職に関するニュースが後を絶たない。全国の保健当局のまとめでは、21年年初から22年6月までの離職者は約9,400人に上っている。政府が14年に発表した職員総数に基づけば全体の2~3%に相当するとみられる。
地域別でみると、南部ホーチミン市では2,000人、ハノイでは600人以上が職を辞した。ホーチミン市の離職率は5%に上るという。職種は医師や看護師、薬剤師、技師、保健所職員と幅広いが、ホーチミン市では医師が退職者の24%、看護師が50%を占めた。
■若手医師、月給わずか480万ドン
離職の最も多い理由は給与への不満だ。地場医療コンサルティング会社メディジョブが公的医療機関の現役および元医療従事者500人を対象に実施した退職理由(退職希望含む)に関する緊急調査では、94%が「給与が低過ぎるから」と回答した。地元紙によれば、新卒の医師の月給は手当を含めても約480万ドンと、民間医療機関の3割前後にとどまる。
公的医療機関の低賃金は以前からで、医師らは民間診療所の副職で収入を補ってきたとされる。南部ドンナイ省の病院に勤める30代の男性医師はNNAに「待遇が見直されない限り問題は解決されない」と語った。

■保健所職員、5割が感染も
21年以降の大量離職はコロナ禍による職場環境の悪化も大きい。昨年5月ごろから急拡大した感染第4波以降は、感染リスクに絶えずさらされる医療従事者の超過勤務が常態化。ハノイの保健所では職員の感染率が5割に達したと同市保健局が公表した。
10年近く勤めた保健所を最近辞めた女性は国営放送VTCに「毎日数百件のウイルス検査をした。帰宅しても子どもたちを抱きしめることができずつらかった」と感染におびえながらの労働実態を明かしている。
追い打ちをかけたのが、新型コロナの検査キット調達に絡む不正の摘発だ。一連の事件では前保健相を含む100人規模の保健当局幹部が逮捕され、捜査対象になった医療機関は北から南まで全国各地に及んだ。
ホーチミン市の公立病院の脳神経外科に務めていた医師は地元紙に「コロナとの戦いがようやく終わったと思ったら、不正事件の影響で周囲から(監視の)圧力が増した」と語っている。医師はストレスに耐え切れず、私立病院に転職した。メディジョブの調査では、医療従事者の退職理由のうち「職場環境が悪いから」は57%に上り、給与の低さに次ぐ。
■デング熱の治療できず死者も
医療現場では、大量退職による弊害が出始めている。
VNエクスプレスによれば、ホーチミン市郊外のクチ郡の総合病院から中心部のチョーライ病院に移送された後に死亡したデング熱患者が6月までの半年間に3人に上った。クチ総合病院には、経験が浅い若手医師しかおらず、対応できなかった。院長によれば、200人いる医師のうち4割は臨床経験が5年未満という。
市保健局の次長は、市内の保健所では1~3月に400人が離職したため人材不足が深刻だと指摘しており、「感染予防のための広報や除菌のための薬剤散布などに当たる職員が足りていない」と嘆いている。

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男性は退職後にオンラインで家電や衣料品の販売を始めた。注文が次々と舞い込み「病院での1年分の稼ぎをあっという間に稼ぐこともある」と満足げに語った。
■全国では2~3%が離職か
地元メディアではこの数週間ほど、公的医療機関での職員退職に関するニュースが後を絶たない。全国の保健当局のまとめでは、21年年初から22年6月までの離職者は約9,400人に上っている。政府が14年に発表した職員総数に基づけば全体の2~3%に相当するとみられる。
地域別でみると、南部ホーチミン市では2,000人、ハノイでは600人以上が職を辞した。ホーチミン市の離職率は5%に上るという。職種は医師や看護師、薬剤師、技師、保健所職員と幅広いが、ホーチミン市では医師が退職者の24%、看護師が50%を占めた。
■若手医師、月給わずか480万ドン
離職の最も多い理由は給与への不満だ。地場医療コンサルティング会社メディジョブが公的医療機関の現役および元医療従事者500人を対象に実施した退職理由(退職希望含む)に関する緊急調査では、94%が「給与が低過ぎるから」と回答した。地元紙によれば、新卒の医師の月給は手当を含めても約480万ドンと、民間医療機関の3割前後にとどまる。
公的医療機関の低賃金は以前からで、医師らは民間診療所の副職で収入を補ってきたとされる。南部ドンナイ省の病院に勤める30代の男性医師はNNAに「待遇が見直されない限り問題は解決されない」と語った。

■保健所職員、5割が感染も
21年以降の大量離職はコロナ禍による職場環境の悪化も大きい。昨年5月ごろから急拡大した感染第4波以降は、感染リスクに絶えずさらされる医療従事者の超過勤務が常態化。ハノイの保健所では職員の感染率が5割に達したと同市保健局が公表した。
10年近く勤めた保健所を最近辞めた女性は国営放送VTCに「毎日数百件のウイルス検査をした。帰宅しても子どもたちを抱きしめることができずつらかった」と感染におびえながらの労働実態を明かしている。
追い打ちをかけたのが、新型コロナの検査キット調達に絡む不正の摘発だ。一連の事件では前保健相を含む100人規模の保健当局幹部が逮捕され、捜査対象になった医療機関は北から南まで全国各地に及んだ。
ホーチミン市の公立病院の脳神経外科に務めていた医師は地元紙に「コロナとの戦いがようやく終わったと思ったら、不正事件の影響で周囲から(監視の)圧力が増した」と語っている。医師はストレスに耐え切れず、私立病院に転職した。メディジョブの調査では、医療従事者の退職理由のうち「職場環境が悪いから」は57%に上り、給与の低さに次ぐ。
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