アジア太平洋地域に進出する日系企業の駐在員らに聞いた「2023年のアジアで最も有望な投資先」(22年12月6~12日にアンケート実施、有効回答数781、日本からの回答12人を含む)は、今回もベトナムが最多となり、16年の初調査から8年連続で1位となった。若年人口が多く、中間層も育ちつつあることから消費市場のさらなる成長を見込むほか、中国の生産現場がゼロコロナ政策で混乱し、これに代わる拠点として評価する声も多数寄せられた。2位はインドで支持率は初めて2割を突破。こちらも中国に代わる巨大市場として期待する声が多かった。
ベトナムを選んだのは、回答者全体の41.0%。回答者のうち製造業は44.0%、非製造業は50.9%で、どちらの業種からも有望とみられている。理由(複数回答)としては、今回も22年と同じく「市場に成長性があるから」(回答者の63.4%、以下同)、「生産拠点として有望だから」(52.2%)、「労働コストが安いから」(49.1%)の順に多かった。
ベトナムの魅力は、過去の調査でも繰り返し言及されているように「生産年齢人口が若いことがもたらす成長性」(香港/運搬・倉庫)。近年は「中流世帯の数も増え、消費が旺盛になっている」(ベトナム/繊維)と所得水準も上がっており、その結果「市場の成長が長期的、持続的に期待される」(タイ/食品・飲料)という。
中国が22年に厳しいゼロコロナ政策をとり続け、サプライチェーン(供給網)が混乱したことも、ベトナムへの注目度が高まる要因となった。「中国リスクの退避先として最有力」(台湾/貿易・商社)、「取引先が購入先を中国からシフトした」(中国/石油・化学・エネルギー)はもちろん、「中国の製造業が拠点としている」(中国/機械・機械部品)と、当の中国企業の間でもベトナムは今や重要な生産拠点となっている。
もちろん、ベトナムにも課題はある。「これまで優位だった労働コストは昨今賃金が急上昇しており、優位性は薄まってくると思われる」(タイ/運搬・倉庫)のは確実であるし、「部材・物流のサプライチェーンはまだ不安定」(中国/電機・電子・半導体)な点は否めない。
それでも上記で挙げた要因に加え、「政治、政策が他の国に比べ安定」(ベトナム/サービス)、「政府のコントロールがうまくいっている」(ベトナム/サービス)と政治の安定、さらには「地盤沈下や地震、噴火など災害の影響が少ない」(マレーシア/電機・電子・半導体)、「真面目な国民性で日本人と波長が合う」(フィリピン/四輪・二輪車・部品)と、ベトナムを評価するポイントは多岐にわたる。インフラや医療設備などの整備の遅れからかつては他の東南アジア諸国に比べると劣るとされた生活環境も、今では「駐在員の生活環境(が利点)」(ベトナム/四輪・二輪車・部品)とする声も。しばらくは有望な投資先1位の座を維持しそうだ。
■「中国に代わる」インド
22年に続いて2位となったインド。全体の21.5%でベトナムとは大きな差があるものの、初めて2割を超える支持を集めた。理由は前回同様、「市場に成長性があるから」(91.7%)が群を抜いて多く、次いで「労働コストが安いから」(29.2%)、「生産拠点として有望だから」(23.8%)の順だった。
インドの強みは何といっても人口。23年中にも中国を抜いて世界1位になるとみられているだけに「世界一の人口、人口ボーナスが大きい」(インド/機械・機械部品)と、巨大な人口がもたらす成長市場に期待する声が多い。中国は経済成長率が鈍化し、かつゼロコロナ政策などで混乱したため、「発展に限界を感じている」(中国/サービス)とみられるようになっていることもあり、「中国に代わる成長市場になり得る」(中国/機械・機械部品)と位置付ける見方も少なくない。加えて「自由主義経済圏で、市場の公平性も高い」(中国/貿易・商社)、「ポストチャイナとして最適な上、中東産油国に近い」(インド/石油・化学・エネルギー)といった点も、中国より優位性があるとみられているようだ。
3位は22年から順位を1つ上げたインドネシア。全体の10.4%と2桁台に乗せ、こちらも理由のトップは「市場に成長性があるから」(88.9%)。「人口が多く、公共交通機関の整備による都市の変革や、首都移転によるビジネス環境の変化も大きい」(インドネシア/建設・不動産)と、依然として人口ボーナスとそれに伴う成長への期待が大きい。加えて「石炭・パーム油・ニッケルの原産国である」(インドネシア/四輪・二輪車・部品)など資源国としてのポテンシャルを評価する声もある。
■在住者からは依然有望視の中国
中国は前年の3位から一つランクを落とした。回答者全体に占める比率は6.8%と1桁台に落ち込んだ。ベトナムやインドを有望とする理由で「中国からの移転」「中国に代わる市場」が目立ったことからも分かるように、この2国への評価が高まったことで、相対的に中国への期待値が下がったとも言える。
ただ、中国在住の回答者からは依然、有望な市場との指摘が多く寄せられた。「消費地としては米国に次ぐ市場」(機械・機械部品)であることは間違いなく、「地方の都市などではまだまだ所得向上と消費拡大の余地がある」(金融・保険・証券)、「内陸部への進出が可能」(小売り・卸売り)、「まだ低所得者も多く、成長の余地がある」(貿易・商社)と、地域的にも階層的にも伸びしろはまだあるとみられている。「優秀な人材が多く、決断も速い。日本より(事業の)スピードが速く投資の価値がある」(繊維)、「長寿となって、医療関係の産業が成長する」(その他の製造業)など、日本に比べると新しいビジネスチャンスの機会が多いのは確か。ウィズコロナ政策へとかじを切った23年以降の変化に注目したい。
■今後はバングラに注目?
その他の国・地域を見ると、22年に続き5位(6.0%)のタイは、「生産拠点として有望だから」(48.9%)が「市場に成長性があるから」(55.3%)と拮抗(きっこう)し、生産拠点としての評価が依然高いことがうかがえた。「アジアの製造ハブとして安定している。立地的にも中国・ベトナムから海でシンガポールを経由せずに陸路でインド洋に抜けるルートが確立すれば、大きな物流拠点になりうる」(マレーシア/運搬・倉庫)など、地の利を評価する声もいくつかあった。
6位のフィリピン(3.2%)は、「人口ボーナスが大きく、若年人口も多く、英語が通じ、経済発展性が高いと感じる」(韓国/その他の製造業)、「他の東南アジア諸国と比べて賃金上昇率が緩やか」(フィリピン/電機・電子・半導体)など、英語が通じることや労働コストの上昇がまだ抑えられていることを指摘する声が複数あった。
かつては2位に食い込んだこともあるミャンマーは今回、全体の0.5%(12位)と1%を割り込んだ。21年2月のクーデターを境に、投資先としての魅力が失われたのは明らかで、数少ない評価の声も「世間が政情に不安を持っているので、(コスト的に)最も割安になった」(ミャンマー/サービス)という、一種逆張り的な要素だった。
一方、22年に13位(0.7%)だったバングラデシュは今回9位(1.4%)に浮上。「実際に成長しており、人口も多い」(ミャンマー/その他の非製造業)、「現時点で労働コストは低い」(フィリピン/その他の製造業)と、1億6,000万人を超える人口、そして人件費の安さが魅力と映っているようだ。
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ベトナムの魅力は、過去の調査でも繰り返し言及されているように「生産年齢人口が若いことがもたらす成長性」(香港/運搬・倉庫)。近年は「中流世帯の数も増え、消費が旺盛になっている」(ベトナム/繊維)と所得水準も上がっており、その結果「市場の成長が長期的、持続的に期待される」(タイ/食品・飲料)という。
中国が22年に厳しいゼロコロナ政策をとり続け、サプライチェーン(供給網)が混乱したことも、ベトナムへの注目度が高まる要因となった。「中国リスクの退避先として最有力」(台湾/貿易・商社)、「取引先が購入先を中国からシフトした」(中国/石油・化学・エネルギー)はもちろん、「中国の製造業が拠点としている」(中国/機械・機械部品)と、当の中国企業の間でもベトナムは今や重要な生産拠点となっている。
もちろん、ベトナムにも課題はある。「これまで優位だった労働コストは昨今賃金が急上昇しており、優位性は薄まってくると思われる」(タイ/運搬・倉庫)のは確実であるし、「部材・物流のサプライチェーンはまだ不安定」(中国/電機・電子・半導体)な点は否めない。
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■「中国に代わる」インド
22年に続いて2位となったインド。全体の21.5%でベトナムとは大きな差があるものの、初めて2割を超える支持を集めた。理由は前回同様、「市場に成長性があるから」(91.7%)が群を抜いて多く、次いで「労働コストが安いから」(29.2%)、「生産拠点として有望だから」(23.8%)の順だった。
インドの強みは何といっても人口。23年中にも中国を抜いて世界1位になるとみられているだけに「世界一の人口、人口ボーナスが大きい」(インド/機械・機械部品)と、巨大な人口がもたらす成長市場に期待する声が多い。中国は経済成長率が鈍化し、かつゼロコロナ政策などで混乱したため、「発展に限界を感じている」(中国/サービス)とみられるようになっていることもあり、「中国に代わる成長市場になり得る」(中国/機械・機械部品)と位置付ける見方も少なくない。加えて「自由主義経済圏で、市場の公平性も高い」(中国/貿易・商社)、「ポストチャイナとして最適な上、中東産油国に近い」(インド/石油・化学・エネルギー)といった点も、中国より優位性があるとみられているようだ。
3位は22年から順位を1つ上げたインドネシア。全体の10.4%と2桁台に乗せ、こちらも理由のトップは「市場に成長性があるから」(88.9%)。「人口が多く、公共交通機関の整備による都市の変革や、首都移転によるビジネス環境の変化も大きい」(インドネシア/建設・不動産)と、依然として人口ボーナスとそれに伴う成長への期待が大きい。加えて「石炭・パーム油・ニッケルの原産国である」(インドネシア/四輪・二輪車・部品)など資源国としてのポテンシャルを評価する声もある。
■在住者からは依然有望視の中国
中国は前年の3位から一つランクを落とした。回答者全体に占める比率は6.8%と1桁台に落ち込んだ。ベトナムやインドを有望とする理由で「中国からの移転」「中国に代わる市場」が目立ったことからも分かるように、この2国への評価が高まったことで、相対的に中国への期待値が下がったとも言える。
ただ、中国在住の回答者からは依然、有望な市場との指摘が多く寄せられた。「消費地としては米国に次ぐ市場」(機械・機械部品)であることは間違いなく、「地方の都市などではまだまだ所得向上と消費拡大の余地がある」(金融・保険・証券)、「内陸部への進出が可能」(小売り・卸売り)、「まだ低所得者も多く、成長の余地がある」(貿易・商社)と、地域的にも階層的にも伸びしろはまだあるとみられている。「優秀な人材が多く、決断も速い。日本より(事業の)スピードが速く投資の価値がある」(繊維)、「長寿となって、医療関係の産業が成長する」(その他の製造業)など、日本に比べると新しいビジネスチャンスの機会が多いのは確か。ウィズコロナ政策へとかじを切った23年以降の変化に注目したい。
■今後はバングラに注目?
その他の国・地域を見ると、22年に続き5位(6.0%)のタイは、「生産拠点として有望だから」(48.9%)が「市場に成長性があるから」(55.3%)と拮抗(きっこう)し、生産拠点としての評価が依然高いことがうかがえた。「アジアの製造ハブとして安定している。立地的にも中国・ベトナムから海でシンガポールを経由せずに陸路でインド洋に抜けるルートが確立すれば、大きな物流拠点になりうる」(マレーシア/運搬・倉庫)など、地の利を評価する声もいくつかあった。
6位のフィリピン(3.2%)は、「人口ボーナスが大きく、若年人口も多く、英語が通じ、経済発展性が高いと感じる」(韓国/その他の製造業)、「他の東南アジア諸国と比べて賃金上昇率が緩やか」(フィリピン/電機・電子・半導体)など、英語が通じることや労働コストの上昇がまだ抑えられていることを指摘する声が複数あった。
かつては2位に食い込んだこともあるミャンマーは今回、全体の0.5%(12位)と1%を割り込んだ。21年2月のクーデターを境に、投資先としての魅力が失われたのは明らかで、数少ない評価の声も「世間が政情に不安を持っているので、(コスト的に)最も割安になった」(ミャンマー/サービス)という、一種逆張り的な要素だった。
一方、22年に13位(0.7%)だったバングラデシュは今回9位(1.4%)に浮上。「実際に成長しており、人口も多い」(ミャンマー/その他の非製造業)、「現時点で労働コストは低い」(フィリピン/その他の製造業)と、1億6,000万人を超える人口、そして人件費の安さが魅力と映っているようだ。"
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