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日本産たまごに付加価値を全農が工場、飲食店需要に対応

全国農業協同組合連合会(JA全農)が日本産の鶏卵を使った食品の工場を香港に立ち上げた。卵焼きや温泉卵などを生産し、現地飲食店の需要に応える。香港は日本にとって最大の鶏卵輸出先であり、スーパーマーケットなどでは日本の卵が消費者に高い人気を誇っているが、現地加工で付加価値を付けることによりさらなる市場の拡大を図る。【福地大介】

自動で焼き上がっていく卵焼き。香港は水が柔らかく、火力の決め手となるガスも高品質で調理に適しているという=24日、葵涌(NNA撮影)

だしなどを加えて攪拌(かくはん)された液状の卵が、適温に熱せられたプレートに薄く流し込まれる。ほどよく火が通った頃合いで隣り合ったプレートが覆いかぶさるように重なって、半熟卵の上に半熟卵が乗っかった。しばらくするとまた半熟卵と半熟卵が合体し、最終的に6層から成る厚焼き卵が完成した。
見事なきつね色に適度な焦げ目。圧倒的に食欲をそそるビジュアル。JA全農の香港法人、全農インターナショナル香港(全農国際香港)が新界地区・葵涌に設立し、今年1月から運転を開始した鶏卵加工工場の主力商品だ。
JA全農が海外に食品工場を設立するのは初めて。全農グループは日本国内で鶏卵の加工品を生産しており、香港にも同じ設備とノウハウを導入した。卵の殻を割るところから焼き上げの工程まで、全て自動で行える。
卵焼きを量産する場合、卵の中身を取り出して攪拌済みの状態で納品される液卵を使えば効率的だが、味にこだわる顧客の要望に応え、あえて殻付きの卵を割って使用している。卵はもちろん全て日本産。卵焼きは層が多いほど食感がいいが難易度は高く、6層で焼き上げる技術は同工場の自慢だ。
全農国際香港の金築道弘マネジングディレクターによると、香港のすしチェーンなどはこれまで、主に冷凍の卵焼きを日本から輸入して消費者に提供していた。ただ、冷凍品を解凍すると水分とともにだしが流出し、食感がやや落ちてしまう欠点があったという。
「顧客から教えられ、実際に食べ比べて実感した」という金築氏。日本食の人気が高く、品質への要求がどんどん高まっている香港市場のニーズを満たすため、現地生産を手がけることを決めた。
■1日2千本を生産
卵焼きは店によって求める味が異なることから、顧客ごとにレシピを変えている。工程は自動化されている一方、うなぎを中に入れて作るう巻きなどは機械では難しく、手焼きにも対応できる態勢を整えた。協力工場から食品加工のベテランを派遣してもらっており、従業員らが習得した職人の技も品質への自信を支えている。
卵焼きの生産能力は1日2,000本。すしネタの場合、1本から24枚が取れる。1週間に約1トンの卵を使うが、日本産を安定的に仕入れられるのは全農グループならではの強みだ。
現在は卵焼きが主力だが、温泉卵や煮卵、茶わん蒸し、卵サンドイッチなどさまざまな鶏卵加工品を生産する。これらは飲食店が自前で調理すると出来上がりにむらが生じやすく、品質を安定させて手間とコストを削減したいチェーン店などからの需要が見込める。

きれいに焼き上がった完成品=24日、葵涌(NNA撮影)

■本土への輸出も視野
日本養鶏協会が公開している統計資料によると、2022年に日本から香港へ輸出された鶏卵は前年比30.8%増の2万8,247トン、金額ベースでは37.3%増の78億5,184万円に上った。それぞれ日本の鶏卵輸出全体の92.5%、93.5%を占めている。
全農国際香港が自前の工場設置に踏み切ったのは、香港市場でそれだけ日本産の鶏卵や鶏卵加工食品への需要が高まっているからだが、金築氏には日本の生産者に向けた思いもある。「私たちJAグループは、いかに生産者の利益を増やしていくかを考えた時、素材に付加価値を付けなければならない。日本の素材を使い、おいしさを追求した商品を現地で作ることで付加価値を高められる」
18年に全農国際香港を立ち上げてから5年にわたり香港市場を見続けてきた金築氏は、日本の農産物にはもっと大きな将来性があると確信している。「いろいろな食べ方を提案すれば、今よりも普及できる。香港の食のベースは中華料理だが、いかに現地の食に素材として入っていけるかが鍵。素材を加工した商品であればもっと日本の農産物を使ってもらえるのではないか」と語った。
中国本土の市場も見据える。鶏卵などほとんどの農産物は日本から直接輸出できないが、「メード・イン・ホンコン」の加工品であれば本土への出荷が視野に入る。広東省、香港、マカオの一大経済圏を構築する中国の国家プロジェクト「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)」構想を踏まえた香港生産の強みを生かす。既に引き合いも来ているといい、広東省の深センや広州に向けた輸出の可能性を探っている。

日本の素材をもっとおいしく提供したいと語る金築氏=24日、葵涌(NNA撮影)
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見事なきつね色に適度な焦げ目。圧倒的に食欲をそそるビジュアル。JA全農の香港法人、全農インターナショナル香港(全農国際香港)が新界地区・葵涌に設立し、今年1月から運転を開始した鶏卵加工工場の主力商品だ。
JA全農が海外に食品工場を設立するのは初めて。全農グループは日本国内で鶏卵の加工品を生産しており、香港にも同じ設備とノウハウを導入した。卵の殻を割るところから焼き上げの工程まで、全て自動で行える。
卵焼きを量産する場合、卵の中身を取り出して攪拌済みの状態で納品される液卵を使えば効率的だが、味にこだわる顧客の要望に応え、あえて殻付きの卵を割って使用している。卵はもちろん全て日本産。卵焼きは層が多いほど食感がいいが難易度は高く、6層で焼き上げる技術は同工場の自慢だ。
全農国際香港の金築道弘マネジングディレクターによると、香港のすしチェーンなどはこれまで、主に冷凍の卵焼きを日本から輸入して消費者に提供していた。ただ、冷凍品を解凍すると水分とともにだしが流出し、食感がやや落ちてしまう欠点があったという。
「顧客から教えられ、実際に食べ比べて実感した」という金築氏。日本食の人気が高く、品質への要求がどんどん高まっている香港市場のニーズを満たすため、現地生産を手がけることを決めた。
■1日2千本を生産
卵焼きは店によって求める味が異なることから、顧客ごとにレシピを変えている。工程は自動化されている一方、うなぎを中に入れて作るう巻きなどは機械では難しく、手焼きにも対応できる態勢を整えた。協力工場から食品加工のベテランを派遣してもらっており、従業員らが習得した職人の技も品質への自信を支えている。
卵焼きの生産能力は1日2,000本。すしネタの場合、1本から24枚が取れる。1週間に約1トンの卵を使うが、日本産を安定的に仕入れられるのは全農グループならではの強みだ。
現在は卵焼きが主力だが、温泉卵や煮卵、茶わん蒸し、卵サンドイッチなどさまざまな鶏卵加工品を生産する。これらは飲食店が自前で調理すると出来上がりにむらが生じやすく、品質を安定させて手間とコストを削減したいチェーン店などからの需要が見込める。
[caption id="attachment_12504" align="aligncenter" width="620"]きれいに焼き上がった完成品=24日、葵涌(NNA撮影)[/caption]
■本土への輸出も視野
日本養鶏協会が公開している統計資料によると、2022年に日本から香港へ輸出された鶏卵は前年比30.8%増の2万8,247トン、金額ベースでは37.3%増の78億5,184万円に上った。それぞれ日本の鶏卵輸出全体の92.5%、93.5%を占めている。
全農国際香港が自前の工場設置に踏み切ったのは、香港市場でそれだけ日本産の鶏卵や鶏卵加工食品への需要が高まっているからだが、金築氏には日本の生産者に向けた思いもある。「私たちJAグループは、いかに生産者の利益を増やしていくかを考えた時、素材に付加価値を付けなければならない。日本の素材を使い、おいしさを追求した商品を現地で作ることで付加価値を高められる」
18年に全農国際香港を立ち上げてから5年にわたり香港市場を見続けてきた金築氏は、日本の農産物にはもっと大きな将来性があると確信している。「いろいろな食べ方を提案すれば、今よりも普及できる。香港の食のベースは中華料理だが、いかに現地の食に素材として入っていけるかが鍵。素材を加工した商品であればもっと日本の農産物を使ってもらえるのではないか」と語った。
中国本土の市場も見据える。鶏卵などほとんどの農産物は日本から直接輸出できないが、「メード・イン・ホンコン」の加工品であれば本土への出荷が視野に入る。広東省、香港、マカオの一大経済圏を構築する中国の国家プロジェクト「粤港澳大湾区(グレーターベイエリア)」構想を踏まえた香港生産の強みを生かす。既に引き合いも来ているといい、広東省の深センや広州に向けた輸出の可能性を探っている。
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