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福岡のまちづくりをアジアで西鉄、4カ国で不動産開発を推進

西日本鉄道(福岡市)がアジアでの不動産開発を加速させている。2015年にベトナムでの住宅開発事業を発表して以来、次々とプロジェクトを打ち出し、直近では今月、フィリピンで2件のプロジェクトを発表した。開発件数はこれまでに東南アジア4カ国で計16件に上る。将来は、同社が福岡で実績を積んできた「まちづくり」をアジアで展開していきたい考え。アジア事業を精力的に展開する西鉄海外開発事業部の香山太郎部長に、今後の計画について聞いた。

西鉄海外開発事業部の香山部長(NNA撮影)

——西鉄は米国のほか、ベトナム、インドネシア、タイ、フィリピンの東南アジア4カ国に進出している。国選びの決め手は。
2015年にベトナムに進出したが、日系デベロッパーとしては後発だった。先発の日系企業は富裕層向けが多く、当社は中間層の実需向けをターゲットにした。福岡県を中心に展開している分譲マンション「サンリヤン」(平均販売価格5,000万円程度)はアッパーミドル向け。東南アジアも同様のコンセプトと言える。
進出先を選ぶ決め手は、中間層の伸びと経済成長の高さ。国民が親日的なこと、西鉄グループの国際物流拠点があるなど、ビジネスのやりやすさも大事だ。

「フジ・レジデンス」(ベトナム・ホーチミン市)の外観(西鉄提供)

——アジア事業で最も大変なことは。
アジア各国とも不動産開発に関する外資規制があり、外資を認めている開発条件も複雑だ。継続的な土地の仕入れ、開発許可の取得などを考えれば、日系単独で事業を進めるのは難しい。
事業を成功させるには、現地のパートナー選びが最も大切だ。さまざまなチャンネルを通じて候補を探して面談を重ね、当社と同じ企業文化や価値観を持つ企業と手を組む。ベトナムのパートナーであるナムロン・インベストメントとは、すでに8件のプロジェクトを一緒に進めている。
各国とも、プロジェクトごとに地場と合弁会社を設立し、相談を重ねながら詳細を決めていく。間取りなど設計については現地の実情に合ったものを尊重しつつ、施工方法、現場の安全基準などの技術面、販売方法について助言している。
■マンションから戸建てに
——新型コロナウイルス感染症の影響はあったか。
コロナの影響は大きかった。厳しい移動制限で作業員を集めることもままならず、やむなく工期が延びた。最終的に事業費が膨らんだが、大きな赤字にはならずに済んだ。コロナ前は販売開始と同時に完売するほど好調だったのが、行動制限中に販売事務所を閉めたことや、大幅な景気の落ち込みで、販売が計画通り進まなくなった。
コロナの次は急激な金利上昇だ。米国に追随して東南アジア諸国も昨年年央から次々と利上げに踏み切り、住宅ローン金利も上昇した。不動産市場は一気に様子見ムードが広がり、特にベトナムは非常に厳しい状況だ。
——今後の開発計画に変更は。
東南アジアでは都心部で取得できる土地は年々限られ、価格も高騰している。一方でコロナを機にリモートワークが広がったことで、郊外の戸建て需要は増えている。マンションに比べて戸建ては工期が短く、多額の初期資金がいらないため「回転が速い」。世界的に経済状況が不安定な中、今後は戸建てにも力を入れていく計画だ。
インドネシアで昨年、ジャカルタ周辺で一戸建て住宅開発を手がけているデベロッパーのプレミア・クオリタス・インドネシアに出資したのも、マンションだけでなく戸建て住宅にも力をいれていくための布石だ。東南アジアでは日系企業の間で現地パートナーの獲得競争が激しくなっている。現地企業に出資することで、この問題もクリアできる。
フィリピンでも同様に、現地パートナーと協力して、戸建て住宅および低層マンションを開発し、より幅広くお客さまのニーズに応えていきたい。
■都市開発へと飛躍
——アジア不動産市場の今後の見通しは。
世界的な金利上昇は今年半ばにはピークを迎えると言われており、後半からは回復に向かうのではないか。コロナ禍で一部の投資需要は減退したものの、実需は比較的安定しており、需要自体は根強くあると考えている。
——今後も海外不動産開発は成長エンジンの役割を担う。
日本の人口が減少していく中、海外の需要を取り込むことでグループ全体の成長を支える柱に成長させていきたい。23~25年度の3年間で東南アジア4カ国、米国で合わせて計200億円規模の投資を計画している。
もともと海外開発事業部は、当社が福岡で培ってきた総合的な「まちづくり」の経験を海外へ広げることを目標にしている。現在はコロナの影響で中断しているが、将来的には都市開発にも参画していきたい。当社が165ヘクタールの開発を進めている「ウオーターポイント」(ベトナム・ロンアン省)では、パートナー企業がホーチミン市までバスを試験的に運行しており、西鉄は運行補助、乗務員教育などの面で支援している。ウオーターポイントは住宅、学校、病院、商業施設を備えた大規模開発事業であり、当社も積極的に関与していきたいと考えている。(聞き手=吉岡由夏)

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——西鉄は米国のほか、ベトナム、インドネシア、タイ、フィリピンの東南アジア4カ国に進出している。国選びの決め手は。
2015年にベトナムに進出したが、日系デベロッパーとしては後発だった。先発の日系企業は富裕層向けが多く、当社は中間層の実需向けをターゲットにした。福岡県を中心に展開している分譲マンション「サンリヤン」(平均販売価格5,000万円程度)はアッパーミドル向け。東南アジアも同様のコンセプトと言える。
進出先を選ぶ決め手は、中間層の伸びと経済成長の高さ。国民が親日的なこと、西鉄グループの国際物流拠点があるなど、ビジネスのやりやすさも大事だ。
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——アジア事業で最も大変なことは。
アジア各国とも不動産開発に関する外資規制があり、外資を認めている開発条件も複雑だ。継続的な土地の仕入れ、開発許可の取得などを考えれば、日系単独で事業を進めるのは難しい。
事業を成功させるには、現地のパートナー選びが最も大切だ。さまざまなチャンネルを通じて候補を探して面談を重ね、当社と同じ企業文化や価値観を持つ企業と手を組む。ベトナムのパートナーであるナムロン・インベストメントとは、すでに8件のプロジェクトを一緒に進めている。
各国とも、プロジェクトごとに地場と合弁会社を設立し、相談を重ねながら詳細を決めていく。間取りなど設計については現地の実情に合ったものを尊重しつつ、施工方法、現場の安全基準などの技術面、販売方法について助言している。
■マンションから戸建てに
——新型コロナウイルス感染症の影響はあったか。
コロナの影響は大きかった。厳しい移動制限で作業員を集めることもままならず、やむなく工期が延びた。最終的に事業費が膨らんだが、大きな赤字にはならずに済んだ。コロナ前は販売開始と同時に完売するほど好調だったのが、行動制限中に販売事務所を閉めたことや、大幅な景気の落ち込みで、販売が計画通り進まなくなった。
コロナの次は急激な金利上昇だ。米国に追随して東南アジア諸国も昨年年央から次々と利上げに踏み切り、住宅ローン金利も上昇した。不動産市場は一気に様子見ムードが広がり、特にベトナムは非常に厳しい状況だ。
——今後の開発計画に変更は。
東南アジアでは都心部で取得できる土地は年々限られ、価格も高騰している。一方でコロナを機にリモートワークが広がったことで、郊外の戸建て需要は増えている。マンションに比べて戸建ては工期が短く、多額の初期資金がいらないため「回転が速い」。世界的に経済状況が不安定な中、今後は戸建てにも力を入れていく計画だ。
インドネシアで昨年、ジャカルタ周辺で一戸建て住宅開発を手がけているデベロッパーのプレミア・クオリタス・インドネシアに出資したのも、マンションだけでなく戸建て住宅にも力をいれていくための布石だ。東南アジアでは日系企業の間で現地パートナーの獲得競争が激しくなっている。現地企業に出資することで、この問題もクリアできる。
フィリピンでも同様に、現地パートナーと協力して、戸建て住宅および低層マンションを開発し、より幅広くお客さまのニーズに応えていきたい。
■都市開発へと飛躍
——アジア不動産市場の今後の見通しは。
世界的な金利上昇は今年半ばにはピークを迎えると言われており、後半からは回復に向かうのではないか。コロナ禍で一部の投資需要は減退したものの、実需は比較的安定しており、需要自体は根強くあると考えている。
——今後も海外不動産開発は成長エンジンの役割を担う。
日本の人口が減少していく中、海外の需要を取り込むことでグループ全体の成長を支える柱に成長させていきたい。23~25年度の3年間で東南アジア4カ国、米国で合わせて計200億円規模の投資を計画している。
もともと海外開発事業部は、当社が福岡で培ってきた総合的な「まちづくり」の経験を海外へ広げることを目標にしている。現在はコロナの影響で中断しているが、将来的には都市開発にも参画していきたい。当社が165ヘクタールの開発を進めている「ウオーターポイント」(ベトナム・ロンアン省)では、パートナー企業がホーチミン市までバスを試験的に運行しており、西鉄は運行補助、乗務員教育などの面で支援している。ウオーターポイントは住宅、学校、病院、商業施設を備えた大規模開発事業であり、当社も積極的に関与していきたいと考えている。(聞き手=吉岡由夏)
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