中国のコスメティック市場で、国内の新興ブランドが存在感を増している。国産ブランドを重視する「国潮」のトレンドに乗り、強い世界観を打ち出したカラーコスメブランドが台頭。近年は研究開発(R&D)に力を入れるブランドの存在も目立ち、「中国勢は確実に質でも力をつけている」との声が出ている。【畠沢優子】
パーフェクトダイアリーのアイシャドーパレット。野生動物や中国の国土に着想を得たパッケージデザインが「映える」として、若い消費者の心をつかむ=9月、広州市
5年前は中国でカラーコスメブランドが次々に立ち上がり、これまでのコスメブランドとは異なる販売戦略で中国のコスメ業界に変化が生まれていた。それが今や新興ブランドは「定番」といっても過言でもないレベルに成長している——。中国の新興ブランドをこう表現するのは、美容系総合ポータルサイト「アットコスメ」を運営するアイスタイル(東京都港区)の子会社Over The Border(オーバーザボーダー)代表取締役の倉島應介氏だ。倉島氏が中国事業の立ち上げメンバーとして上海市に滞在していた2014~19年は、ちょうど中国の新興コスメブランドが生まれたころだった。
中国では16~18年に「完美日記(パーフェクトダイアリー)」、「花西子(フローラシス)」、「橘朶(ジュディードール)」、「珂拉キ(キ==王へんに其、カラーキー)」、「花知暁(フラワーノーズ)」などの新たなブランドが次々に誕生。新興ブランドは交流サイト(SNS)の「微信(ウィーチャット)」を使った販促などで購入者層を増やし、阿里巴巴集団(アリババグループ)の電子商取引(EC)サイト「天猫(Tモール)」や動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の中国版「抖音(ドウイン)」などで存在感を高めた。
従来も中国のコスメブランドはあったものの、倉島氏は「16年以降に出てきた新興ブランドはかなり強い世界観を持つのが特徴だ」と違いを指摘する。例えば、パーフェクトダイアリーのアイシャドーパレットは、野生動物や中国の国土に着想を得たパッケージデザインが「映える」として、若い消費者の心をつかむ。
花西子は中国の伝統文化と古典美学をパッケージデザインに取り入れている。繊細な模様が彫られた口紅やフェースパウダーはZ世代(1990年代後半~2000年代前半に生まれた若者層)を中心に人気だ。
倉島氏は、「中国の消費者は越境(クロスボーダー)ECを通じて、世界中の商品にリーチできるようになった。その先にある選択肢として国潮(ナショナリズム)を訴求するブランドが消費者に受け入れられている」と説明する。中国のコスメ市場では、欧米日ブランドが「憧れの存在」として1つのポジションを確立。一方、リーズナブルかつ「国潮推し」で国内ブランドがシェアを拡大しているとの見方だ。
中国の新興カラーコスメブランドの商品が並ぶ店舗。コスパの良さで中国のZ世代から絶大な支持を得る=9月、広州市
■ネット販売が主戦場
新興ブランドの台頭で、中国カラーコスメ市場の勢力図も変化を遂げている。
シンクタンクの華経産業研究院によると、21年の中国カラーコスメ市場では中国ブランドが28.8%のシェアを占めた。フランスブランド(30.1%)を下回ったものの、米国(16.2%)、韓国(8.3%)、日本(4.3%)を超えた。
実店舗で消費者にアプローチしていた従来のブランドとは異なり、新興ブランドはネット販売が主戦場で、Z世代を中心とする若い消費者層を取り込んでいる。
倉島氏によると、天猫と越境ECサイト「天猫国際(Tモールグローバル)」の21年1月10日~2月9日の約1カ月の販売ランキング(個数ベース)を切り取っても、アイシャドーとリップの販売は、中国新興ブランドが50%を占めた。コスメブランドのブランディング戦略サービスなどを手がけるMoldBreaking(東京都港区、モールドブレイキング)の郭兮若・最高経営責任者(CEO)も、中国の新興カラーコスメブランドは「小紅書(レッド)」や抖音などのSNSでの販売戦略を重視し、売り上げの約8割をオンライン販売で稼ぐと指摘する。
新興勢は人気インフルエンサーを活用したライブコマース(ライブ配信型インターネット通販)に重きを置き、マーケティングに多額の資金を投じる傾向がある。郭氏は、「中国人はストーリーを作るのが上手。ネーミングで新しいジャンルを作り、1つの商品をとことん売り込んでいく」と強調する。
例えば、19年に誕生した「INTO YOU(イントゥーユー、心慕与ニ、ニ=にんべんに尓)」は、「泥リップ」という新たなジャンルを作り出した。「マット(光沢感がない)を超えたマッド(泥)な質感で、ふんわりとした付け心地」とうたい、消費者からの人気を集めた。22年のインターネット通販の年央セール「618」では、天猫のリップ部門でイントゥーユーの製品が売上高1位を獲得した。
■質重視にシフト
19年に広東省広州市で誕生したスキンケアブランドの「渓木源(シンプケア)」。近年はメンズのスキンケアにも注力する(同社ウェブサイトから)
近年は、R&Dに大きく投資する“質”重視の動きが新興ブランドの間でみられる。
倉島氏によると、これまでの新興ブランドは調達した資金をマーケティングにつぎ込むケースが多かった。だが、最近はモノの質を高めることを重視し、マーケティングよりR&Dに資金を投じる企業が生まれているという。
倉島氏が代表格に挙げるのは、スキンケアブランドの「渓木源(シンプケア)」だ。19年に広東省広州市で生まれたブランドで、22年末時点までに6回の資金調達を行い累計で6,000万米ドル(約90億円)以上を獲得した。企業の評価額は約40億元(約830億円)とされる。天猫の全スキンケアブランドの売上高ランキングではトップ20位以内につける。
シンプケアは21年8月に中国の国立遺伝子工学薬物研究センター(中国基因工程薬物国家工程研究中心)と共同でラボを設立。同年末までに約6,000万元をR&Dに投じたとされる。SKU(最小管理単位)は100近くあるが、マーケティング費は毎年1ラインの商品のみに投下と決めている。
「新興ブランドはカラーコスメのほか、スキンケア分野でも力をつけている」と倉島氏。シンプケアが今最も注力しているのはメンズのスキンケアだといい、中国勢はこういった新しい領域でも着々と力をつけていると強調する。
倉島氏は、「豊富な資金力を背景に、R&Dに力を入れているのを見ると、中国コスメブランドが今後さらに世界で存在感を増していく可能性は高い」とみる。
<メモ>
日本の経済産業省所管の独立行政法人、製品評価技術基盤機構(NITE)によると、中国(19年)の化粧品市場は約572億米ドルの規模で、米国(約777億米ドル)に次いで世界2位。日本は3位の約350億米ドルだった。
中国の市場調査会社、観研天下によると、中国の1人当たりの化粧品消費額(20年)は58米ドル。米国(277米ドル)、日本(272米ドル)、韓国(263米ドル)に比べそれぞれ4倍以上の開きがあった。観研天下は「中間層の拡大とともに、中国の化粧品市場は今後の伸びしろが大きい」との見方を示した。
中でも近年は中国のカラーコスメ市場の伸びが顕著だ。市場調査会社の艾媒諮詢(IIメディアリサーチ)によると、中国の21年のカラーコスメ市場は449億1,000万元で、15年から約8割増えた。15~21年の年平均成長率は10.1%となり、同期の中国スキンケア市場の年平均成長率(6.2%)を上回った。今年のカラーコスメ市場は584億6,000万元となる見通しだ。
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中国では16~18年に「完美日記(パーフェクトダイアリー)」、「花西子(フローラシス)」、「橘朶(ジュディードール)」、「珂拉キ(キ==王へんに其、カラーキー)」、「花知暁(フラワーノーズ)」などの新たなブランドが次々に誕生。新興ブランドは交流サイト(SNS)の「微信(ウィーチャット)」を使った販促などで購入者層を増やし、阿里巴巴集団(アリババグループ)の電子商取引(EC)サイト「天猫(Tモール)」や動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」の中国版「抖音(ドウイン)」などで存在感を高めた。
従来も中国のコスメブランドはあったものの、倉島氏は「16年以降に出てきた新興ブランドはかなり強い世界観を持つのが特徴だ」と違いを指摘する。例えば、パーフェクトダイアリーのアイシャドーパレットは、野生動物や中国の国土に着想を得たパッケージデザインが「映える」として、若い消費者の心をつかむ。
花西子は中国の伝統文化と古典美学をパッケージデザインに取り入れている。繊細な模様が彫られた口紅やフェースパウダーはZ世代(1990年代後半~2000年代前半に生まれた若者層)を中心に人気だ。
倉島氏は、「中国の消費者は越境(クロスボーダー)ECを通じて、世界中の商品にリーチできるようになった。その先にある選択肢として国潮(ナショナリズム)を訴求するブランドが消費者に受け入れられている」と説明する。中国のコスメ市場では、欧米日ブランドが「憧れの存在」として1つのポジションを確立。一方、リーズナブルかつ「国潮推し」で国内ブランドがシェアを拡大しているとの見方だ。
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新興ブランドの台頭で、中国カラーコスメ市場の勢力図も変化を遂げている。
シンクタンクの華経産業研究院によると、21年の中国カラーコスメ市場では中国ブランドが28.8%のシェアを占めた。フランスブランド(30.1%)を下回ったものの、米国(16.2%)、韓国(8.3%)、日本(4.3%)を超えた。
実店舗で消費者にアプローチしていた従来のブランドとは異なり、新興ブランドはネット販売が主戦場で、Z世代を中心とする若い消費者層を取り込んでいる。
倉島氏によると、天猫と越境ECサイト「天猫国際(Tモールグローバル)」の21年1月10日~2月9日の約1カ月の販売ランキング(個数ベース)を切り取っても、アイシャドーとリップの販売は、中国新興ブランドが50%を占めた。コスメブランドのブランディング戦略サービスなどを手がけるMoldBreaking(東京都港区、モールドブレイキング)の郭兮若・最高経営責任者(CEO)も、中国の新興カラーコスメブランドは「小紅書(レッド)」や抖音などのSNSでの販売戦略を重視し、売り上げの約8割をオンライン販売で稼ぐと指摘する。
新興勢は人気インフルエンサーを活用したライブコマース(ライブ配信型インターネット通販)に重きを置き、マーケティングに多額の資金を投じる傾向がある。郭氏は、「中国人はストーリーを作るのが上手。ネーミングで新しいジャンルを作り、1つの商品をとことん売り込んでいく」と強調する。
例えば、19年に誕生した「INTO YOU(イントゥーユー、心慕与ニ、ニ=にんべんに尓)」は、「泥リップ」という新たなジャンルを作り出した。「マット(光沢感がない)を超えたマッド(泥)な質感で、ふんわりとした付け心地」とうたい、消費者からの人気を集めた。22年のインターネット通販の年央セール「618」では、天猫のリップ部門でイントゥーユーの製品が売上高1位を獲得した。
■質重視にシフト
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近年は、R&Dに大きく投資する“質”重視の動きが新興ブランドの間でみられる。
倉島氏によると、これまでの新興ブランドは調達した資金をマーケティングにつぎ込むケースが多かった。だが、最近はモノの質を高めることを重視し、マーケティングよりR&Dに資金を投じる企業が生まれているという。
倉島氏が代表格に挙げるのは、スキンケアブランドの「渓木源(シンプケア)」だ。19年に広東省広州市で生まれたブランドで、22年末時点までに6回の資金調達を行い累計で6,000万米ドル(約90億円)以上を獲得した。企業の評価額は約40億元(約830億円)とされる。天猫の全スキンケアブランドの売上高ランキングではトップ20位以内につける。
シンプケアは21年8月に中国の国立遺伝子工学薬物研究センター(中国基因工程薬物国家工程研究中心)と共同でラボを設立。同年末までに約6,000万元をR&Dに投じたとされる。SKU(最小管理単位)は100近くあるが、マーケティング費は毎年1ラインの商品のみに投下と決めている。
「新興ブランドはカラーコスメのほか、スキンケア分野でも力をつけている」と倉島氏。シンプケアが今最も注力しているのはメンズのスキンケアだといい、中国勢はこういった新しい領域でも着々と力をつけていると強調する。
倉島氏は、「豊富な資金力を背景に、R&Dに力を入れているのを見ると、中国コスメブランドが今後さらに世界で存在感を増していく可能性は高い」とみる。
<メモ>
日本の経済産業省所管の独立行政法人、製品評価技術基盤機構(NITE)によると、中国(19年)の化粧品市場は約572億米ドルの規模で、米国(約777億米ドル)に次いで世界2位。日本は3位の約350億米ドルだった。
中国の市場調査会社、観研天下によると、中国の1人当たりの化粧品消費額(20年)は58米ドル。米国(277米ドル)、日本(272米ドル)、韓国(263米ドル)に比べそれぞれ4倍以上の開きがあった。観研天下は「中間層の拡大とともに、中国の化粧品市場は今後の伸びしろが大きい」との見方を示した。
中でも近年は中国のカラーコスメ市場の伸びが顕著だ。市場調査会社の艾媒諮詢(IIメディアリサーチ)によると、中国の21年のカラーコスメ市場は449億1,000万元で、15年から約8割増えた。15~21年の年平均成長率は10.1%となり、同期の中国スキンケア市場の年平均成長率(6.2%)を上回った。今年のカラーコスメ市場は584億6,000万元となる見通しだ。"
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