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不買打撃の日系3社販売回復アサヒは急伸、日韓関係追い風に

日韓関係悪化による不買運動で集中砲火を浴びた日系3社の韓国での販売が急回復している。アサヒビールは新商品の大ヒットに伴い、韓国合弁会社の小売店売上高が四半期ベースでの過去最高を更新。トヨタも高級ブランド「レクサス」の販売が今年に入り過去最高水準に達し、ユニクロは売上高が不買運動前の水準に戻りつつある。日韓関係の改善が進む中、商品力を武器にさらなる巻き返しを図る。【韓国編集部】

スーパーの売り場では日本ビールの陳列が増えている=10日、ソウル市(NNA撮影)

5月に海外初の発売となった「アサヒスーパードライ生ジョッキ缶」は、先行販売された会員制量販店「コストコ」で開店直後に客が駆けつける「オープンラン」が発生し、数量限定で発売された各コンビニエンスストアでも完売が相次いだ。7月から韓国専用デザイン商品の発売を機に本格的な販売を始め、売り上げは大きく跳ね上がる。
アサヒグループホールディングスと韓国ロッテ七星飲料の合弁会社で、日本のビールの輸入販売を手がけるロッテアサヒ酒類の小売販売店における売上高(韓国農水産食品流通公社調べ)は2023年7~9月期に計852億ウォン(約93億円)と、前年同期の6.4倍に急伸した。統計をさかのぼることができる18年10~12月期以降では、四半期ベースで過去最高を記録した。
ロッテアサヒ酒類の深山清志代表理事は「(売り上げ増加は)生ジョッキ缶のご支持のたまもの。当社の予想を超える結果に、韓国消費者の購買力の強さを実感した」と語る。
■売上高ピークの1割水準に
輸出管理を厳格化した日本に対抗する韓国での日本製品の不買運動で、最も打撃を受けたのは日本のビールだろう。
韓国の輸入酒類販売会社は、コンビニやスーパーなど小売業者への供給に依存している。不買運動が高まる中、消費者の顔色をうかがう小売店がその販路を絶って、顧客に商品を届ける方法がなくなってしまった。ロッテアサヒ酒類の通期売上高はピークだった18年の1,248億ウォンに比べ、19年はその5割、20年は1割水準まで落ち込んだ。
しかし21年以降は不買運動が下火となり、販売は徐々に回復。昨年5月の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権発足による日韓関係の前進を機に、韓国消費者の日本製品に対する抵抗感も次第に薄れていった。そこで生まれた「生ジョッキ缶」の大ヒット。苦境の時期、売れ残りで大量の廃棄処分を余儀なくされたアサヒだが、新商品の力をてこに窮地を一気に脱した感がある。

■日韓雪解けで新車を積極投入
韓国トヨタの巻き返しも鮮明だ。韓国輸入自動車協会(KAIDA)によれば、高級車ブランド「レクサス」の販売は23年1~11月に1万2,191台と、不買運動前の18年同期(同1万1,815台)を上回り、過去最高を更新するまでに成長した。トヨタも同7,602台を記録し、販売が落ち込んだ20年(同5,444台)から拡大傾向にある。
自動車はビールや衣料品とは異なり、隠れて使用・購入する「シャイ(Shy)ジャパン」が難しいとされた。不買運動下では、車体やエンブレムに銀紙を張り付けて、批判を避けるドライバーが現れるほどだった。消費者の対日感情が悪化する中、新車投入も難しい時期が続いた。
日韓関係が雪解けとなったことで、韓国トヨタは市場の開拓を再始動させている。レクサスは新型「RX」、トヨタは韓国初上陸となるミニバン「アルファード」や新型「プリウス」など人気モデルを相次ぎ発売した。
高価な車体価格や充電インフラ問題で電気自動車(EV)普及が遅れる中、ハイブリッド車(HV)の再評価の進行も好材料だ。韓国トヨタの今山学社長は「今年は多くの車種を発表してブランドの進む姿を見せられた。1つ1つの商品を大切にして、中長期的に成長していければ」と意気込む。

韓国トヨタが今月発売した新型「プリウス」。右は韓国トヨタの今山社長=13日、ソウル市(NNA撮影)

■コスパ重視の消費取り込み
「高品質でコスパがいいのはやっぱり魅力」。ユニクロの印象について、ソウル市在住のイ・ヘジンさん(31歳女性)は満足顔でこう話す。長引く物価高で節約志向が高まり、コスパ重視の若者が増えている。
ユニクロ運営会社ファーストリテイリングの韓国法人FRLコリアの2022年度(22年9月~23年8月)売上高は9,219億ウォンと前年同期比で30.8%伸び、純利益も1,272億ウォンと同42.8%増加した。不買の影響を受けた19年度(19年9月~20年8月)の売上高6,297億ウォン、最終損失994億ウォンと比較すれば、業績の堅調さがうかがえる。
21年1月にはソウル明洞の一等地にあった旗艦店が閉鎖され、その撤退劇は不買運動の象徴とされた。最大187店あった店舗数は一時127店まで縮小した。しかし今年に入り新店舗のオープンが相次いでおり、現在は131店と増加傾向に転じている。

21年に閉店したユニクロの旗艦店「明洞中央店」。その撤退劇は不買運動の象徴とされた=21年1月、ソウル市(NNA撮影)

■不買再燃への警戒消えず
個人消費の動向に詳しい仁荷大学の李銀姫(イ・ウンヒ)消費者学科教授は、日本製品の販売回復について「不買運動をしても政治・歴史的に得るものはなく、『そもそも何のための運動だったのか』という自省が消費者の間で強く働いたのではないか」と分析した。
続けて「結局、商品や条件が良ければ消費者は購入する。不買運動の学習効果から再び外交摩擦が起きても、『NOジャパン』のような規模まで発展するのは難しいだろう」と述べた。
それでも日本企業としては、日韓関係の逆戻りへの警戒心が完全に消えることはない。尹政権のレームダック(死に体)化や政権交代で革新派が実権を握れば、政治や歴史問題に関する合意で韓国側の「ちゃぶ台返し」の恐れがあるためだ。
韓国は24年4月に国会議員総選挙を控えている。12月時点の尹大統領の支持率は30%台にとどまり、政党支持率でも与党は劣勢な状況だ。総選挙で野党に過半数を許して「少数与党」状態が続くようだと、日韓関係への逆風が強まる可能性もある。
■備え怠らず社会貢献も
外交的リスクに企業としてできることは限られるが、備えを怠ることはできない。韓国トヨタは地域に根ざした企業活動に積極的だ。これまで若年層や社会的弱者への支援など幅広い社会貢献活動に力を入れ、地道な取り組みで地域とのつながりを深めてきた。
今山社長は「韓国の社会で自ら汗を流して貢献していくことが重要となる。消費者に愛されて必要とされる会社になるよう努力したい」と語った。

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ロッテアサヒ酒類の深山清志代表理事は「(売り上げ増加は)生ジョッキ缶のご支持のたまもの。当社の予想を超える結果に、韓国消費者の購買力の強さを実感した」と語る。
■売上高ピークの1割水準に
輸出管理を厳格化した日本に対抗する韓国での日本製品の不買運動で、最も打撃を受けたのは日本のビールだろう。
韓国の輸入酒類販売会社は、コンビニやスーパーなど小売業者への供給に依存している。不買運動が高まる中、消費者の顔色をうかがう小売店がその販路を絶って、顧客に商品を届ける方法がなくなってしまった。ロッテアサヒ酒類の通期売上高はピークだった18年の1,248億ウォンに比べ、19年はその5割、20年は1割水準まで落ち込んだ。
しかし21年以降は不買運動が下火となり、販売は徐々に回復。昨年5月の尹錫悦(ユン・ソンニョル)政権発足による日韓関係の前進を機に、韓国消費者の日本製品に対する抵抗感も次第に薄れていった。そこで生まれた「生ジョッキ缶」の大ヒット。苦境の時期、売れ残りで大量の廃棄処分を余儀なくされたアサヒだが、新商品の力をてこに窮地を一気に脱した感がある。

■日韓雪解けで新車を積極投入
韓国トヨタの巻き返しも鮮明だ。韓国輸入自動車協会(KAIDA)によれば、高級車ブランド「レクサス」の販売は23年1~11月に1万2,191台と、不買運動前の18年同期(同1万1,815台)を上回り、過去最高を更新するまでに成長した。トヨタも同7,602台を記録し、販売が落ち込んだ20年(同5,444台)から拡大傾向にある。
自動車はビールや衣料品とは異なり、隠れて使用・購入する「シャイ(Shy)ジャパン」が難しいとされた。不買運動下では、車体やエンブレムに銀紙を張り付けて、批判を避けるドライバーが現れるほどだった。消費者の対日感情が悪化する中、新車投入も難しい時期が続いた。
日韓関係が雪解けとなったことで、韓国トヨタは市場の開拓を再始動させている。レクサスは新型「RX」、トヨタは韓国初上陸となるミニバン「アルファード」や新型「プリウス」など人気モデルを相次ぎ発売した。
高価な車体価格や充電インフラ問題で電気自動車(EV)普及が遅れる中、ハイブリッド車(HV)の再評価の進行も好材料だ。韓国トヨタの今山学社長は「今年は多くの車種を発表してブランドの進む姿を見せられた。1つ1つの商品を大切にして、中長期的に成長していければ」と意気込む。
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■コスパ重視の消費取り込み
「高品質でコスパがいいのはやっぱり魅力」。ユニクロの印象について、ソウル市在住のイ・ヘジンさん(31歳女性)は満足顔でこう話す。長引く物価高で節約志向が高まり、コスパ重視の若者が増えている。
ユニクロ運営会社ファーストリテイリングの韓国法人FRLコリアの2022年度(22年9月~23年8月)売上高は9,219億ウォンと前年同期比で30.8%伸び、純利益も1,272億ウォンと同42.8%増加した。不買の影響を受けた19年度(19年9月~20年8月)の売上高6,297億ウォン、最終損失994億ウォンと比較すれば、業績の堅調さがうかがえる。
21年1月にはソウル明洞の一等地にあった旗艦店が閉鎖され、その撤退劇は不買運動の象徴とされた。最大187店あった店舗数は一時127店まで縮小した。しかし今年に入り新店舗のオープンが相次いでおり、現在は131店と増加傾向に転じている。
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個人消費の動向に詳しい仁荷大学の李銀姫(イ・ウンヒ)消費者学科教授は、日本製品の販売回復について「不買運動をしても政治・歴史的に得るものはなく、『そもそも何のための運動だったのか』という自省が消費者の間で強く働いたのではないか」と分析した。
続けて「結局、商品や条件が良ければ消費者は購入する。不買運動の学習効果から再び外交摩擦が起きても、『NOジャパン』のような規模まで発展するのは難しいだろう」と述べた。
それでも日本企業としては、日韓関係の逆戻りへの警戒心が完全に消えることはない。尹政権のレームダック(死に体)化や政権交代で革新派が実権を握れば、政治や歴史問題に関する合意で韓国側の「ちゃぶ台返し」の恐れがあるためだ。
韓国は24年4月に国会議員総選挙を控えている。12月時点の尹大統領の支持率は30%台にとどまり、政党支持率でも与党は劣勢な状況だ。総選挙で野党に過半数を許して「少数与党」状態が続くようだと、日韓関係への逆風が強まる可能性もある。
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