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香港に「自販機時代」到来か駅や商業ビル、サラダチキンも

香港でここ数年、自動販売機を目にする機会が増えた。新型コロナウイルス禍を契機に無人販売への需要が高まり、公共交通機関や商業施設などへの設置が加速している。かつては飲料が主だった商品も、今では軽食や贈答品など多様性が拡大。従来型の店舗やインターネット通販を補完する新たな流通経路として商機を見いだす事業者からは「香港は自販機の新時代を迎える」との声も聞かれる。【蘇子善、福地大介】

桜川が金鐘に設置した自販機コンビニ。多くの人の目に触れることでプロモーション効果が大きい(NNA撮影)

大手企業が多く入居する香港島・金鐘(アドミラルティー)のオフィスビル。小売店や飲食店などの商業スペースとなっているフロアの一角に「自販機コンビニ」と名付けられた無人店舗がある。2台設置された自販機で売られているのは、アマタケ(岩手県大船渡市)の人気商品「サラダチキン」だ。
平日の昼時にのぞいてみると、興味深そうに足を止めて自販機を眺める人がいるかと思えば、数ある商品の中から迷わず好みの味を選び出すリピーターらしき人の姿も。客層は20~40代が中心とみられ、男性も女性も買っていく。
この店舗を手がけるのは、香港地場企業の桜川事務所(香港)。アマタケにとっては主要取引先の一つで「香港市場にアマタケサラダチキンを広めたパイオニア企業」(アマタケ)だ。
桜川の張浩賢(ジョーイ・ゾン)社長によると、同社はもともと自社サイトや大手プラットフォームでのネット通販でサラダチキンの販路を開拓してきた。香港の中心地である金鐘の高級オフィスビルに自販機を置いたのは「オフラインで消費者に見せる『顔』がほしかった」からだと説明する。
■プロモーションに威力
張氏が桜川を立ち上げたのは2020年。新型コロナ禍による健康意識の高まりと巣ごもり需要にサラダチキンの商品特性、さらにはネット主体のマーケティング戦略がマッチし、販売は急速に伸びた。一方でオンラインだけのプロモーションには限界も感じ、多くの消費者に商品の実物を見て試してもらえる場がほしいと考えていた。そこで思いついたのが、店員を置かずに商品を展示、販売できる自販機だ。
22年に設置した金鐘の自販機では、毎日約200個のサラダチキンが売れるという。販売自体は好調で、通常の実店舗に比べれば人件費がかからない強みもあるが、設置スペースの賃料が高額なため赤字運営は免れない。張氏は「自販機だけでは赤字だが、ここから通販への誘導や新たなビジネスチャンスにつながればいい」と割り切っている。
実際、金鐘の自販機は大きな商談を呼び込んだ。香港鉄路(MTR)から、駅構内での自販機設置について引き合いがあったのだ。
「こちらから声をかけても難しかっただろうが、向こうから誘われたのですぐに話が進んだ」と張氏。火炭や九龍塘、香港と中国本土を結ぶ高速鉄道「広深港高鉄」の起点となる西九龍など、MTR駅にサラダチキンの自販機が相次いで設置されている。一等地の金鐘に赤字覚悟で無人店舗を出したことが、消費者だけでなく事業者に対するプロモーションでも効果を発揮した。
■根付き始めたセルフサービス文化

西九龍駅に設置されたサラダチキンの自販機とMTRの朱GM(NNA撮影)

MTRは近年、駅構内に自販機の設置を加速している。同社の香港旅客輸送サービス部門で商務担当ゼネラルマネジャー(GM)を務める朱鳳娟(マーガレット・チュー)氏は「新型コロナ禍で市民の消費スタイルが変化し、日常にセルフサービスが浸透した」と説明する。自販機はそうした需要を前提に乗客の利便性を高めるとともに、駅のスペースを有効活用して賃料収入を増やすことができるツールだ。
同社では昨年、日本の鉄道各社を視察して自販機の設置方法について理解を深めたという。「日本を参考に、より多くの選択肢を乗客に提供したい」と朱氏は話す。
朱氏によると、MTRの施設内に設置された自販機は年初時点で220台余り。自販機で買い物をする乗客は市民、旅行者を問わず増えており、今年は10~20%の増設を目標にしている。飲料や食品といった一般的な商品だけでなく、駅限定の記念品や季節商品も充実させていく計画だ。

九龍塘駅に設置されたフラワーギフトの自販機(左)と西九龍駅にある和風弁当の自販機(NNA撮影)

■「企業の福利厚生にも」提案
桜川の張氏は「香港の自販機文化を変えたい」と話す。香港では日本に比べ自販機で販売される商品の種類が少なく、設置場所も従来は冷遇されていた。「自販機にはチープなイメージがあった」と指摘する。
MTR駅への進出もあって同社の自販機は9台に増えたが、将来は30台程度まで展開できるとみる。新型コロナ禍で学食を閉鎖してしまった学校からも、学生が食べ物を購入するための代替手段として引き合いが来ているという。
サラダチキンの購入者は健康意識が高く、比較的高所得の女性が多い。今後はターゲット層に効率的に訴求できるオフィス街への設置を増やしていきたい考えで、大手企業に福利厚生としてオフィス内への設置を働きかけるアイデアも練っている。「体に良い物を従業員に食べてもらい、健康を維持してもらうことは会社にとってもメリットがある」との考えからだ。
少子高齢化が進む香港では、飲食店や小売店の人手不足が深刻になっている。大きな実店舗を構えるには家賃負担も大きい。「これからは香港も自販機の新時代を迎えるのではないか」。張氏は自販機を活用した事業拡大の可能性を見据えている。

桜川の張社長。ネット通販と自販機でサラダチキンの市場を開拓する(NNA撮影)
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平日の昼時にのぞいてみると、興味深そうに足を止めて自販機を眺める人がいるかと思えば、数ある商品の中から迷わず好みの味を選び出すリピーターらしき人の姿も。客層は20~40代が中心とみられ、男性も女性も買っていく。
この店舗を手がけるのは、香港地場企業の桜川事務所(香港)。アマタケにとっては主要取引先の一つで「香港市場にアマタケサラダチキンを広めたパイオニア企業」(アマタケ)だ。
桜川の張浩賢(ジョーイ・ゾン)社長によると、同社はもともと自社サイトや大手プラットフォームでのネット通販でサラダチキンの販路を開拓してきた。香港の中心地である金鐘の高級オフィスビルに自販機を置いたのは「オフラインで消費者に見せる『顔』がほしかった」からだと説明する。
■プロモーションに威力
張氏が桜川を立ち上げたのは2020年。新型コロナ禍による健康意識の高まりと巣ごもり需要にサラダチキンの商品特性、さらにはネット主体のマーケティング戦略がマッチし、販売は急速に伸びた。一方でオンラインだけのプロモーションには限界も感じ、多くの消費者に商品の実物を見て試してもらえる場がほしいと考えていた。そこで思いついたのが、店員を置かずに商品を展示、販売できる自販機だ。
22年に設置した金鐘の自販機では、毎日約200個のサラダチキンが売れるという。販売自体は好調で、通常の実店舗に比べれば人件費がかからない強みもあるが、設置スペースの賃料が高額なため赤字運営は免れない。張氏は「自販機だけでは赤字だが、ここから通販への誘導や新たなビジネスチャンスにつながればいい」と割り切っている。
実際、金鐘の自販機は大きな商談を呼び込んだ。香港鉄路(MTR)から、駅構内での自販機設置について引き合いがあったのだ。
「こちらから声をかけても難しかっただろうが、向こうから誘われたのですぐに話が進んだ」と張氏。火炭や九龍塘、香港と中国本土を結ぶ高速鉄道「広深港高鉄」の起点となる西九龍など、MTR駅にサラダチキンの自販機が相次いで設置されている。一等地の金鐘に赤字覚悟で無人店舗を出したことが、消費者だけでなく事業者に対するプロモーションでも効果を発揮した。
■根付き始めたセルフサービス文化
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MTRは近年、駅構内に自販機の設置を加速している。同社の香港旅客輸送サービス部門で商務担当ゼネラルマネジャー(GM)を務める朱鳳娟(マーガレット・チュー)氏は「新型コロナ禍で市民の消費スタイルが変化し、日常にセルフサービスが浸透した」と説明する。自販機はそうした需要を前提に乗客の利便性を高めるとともに、駅のスペースを有効活用して賃料収入を増やすことができるツールだ。
同社では昨年、日本の鉄道各社を視察して自販機の設置方法について理解を深めたという。「日本を参考に、より多くの選択肢を乗客に提供したい」と朱氏は話す。
朱氏によると、MTRの施設内に設置された自販機は年初時点で220台余り。自販機で買い物をする乗客は市民、旅行者を問わず増えており、今年は10~20%の増設を目標にしている。飲料や食品といった一般的な商品だけでなく、駅限定の記念品や季節商品も充実させていく計画だ。
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■「企業の福利厚生にも」提案
桜川の張氏は「香港の自販機文化を変えたい」と話す。香港では日本に比べ自販機で販売される商品の種類が少なく、設置場所も従来は冷遇されていた。「自販機にはチープなイメージがあった」と指摘する。
MTR駅への進出もあって同社の自販機は9台に増えたが、将来は30台程度まで展開できるとみる。新型コロナ禍で学食を閉鎖してしまった学校からも、学生が食べ物を購入するための代替手段として引き合いが来ているという。
サラダチキンの購入者は健康意識が高く、比較的高所得の女性が多い。今後はターゲット層に効率的に訴求できるオフィス街への設置を増やしていきたい考えで、大手企業に福利厚生としてオフィス内への設置を働きかけるアイデアも練っている。「体に良い物を従業員に食べてもらい、健康を維持してもらうことは会社にとってもメリットがある」との考えからだ。
少子高齢化が進む香港では、飲食店や小売店の人手不足が深刻になっている。大きな実店舗を構えるには家賃負担も大きい。「これからは香港も自販機の新時代を迎えるのではないか」。張氏は自販機を活用した事業拡大の可能性を見据えている。
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