広東省広州市で24~25日、日本の商品や文化の魅力を伝えるイベント「広東ジャパンブランドフェア」が開催された。中国からの訪日客が新型コロナウイルス流行前の水準まで戻らない中、出展した日本の地方自治体は県産品の売り込みに力を入れた。広州市を一大消費地として捉え、県産品の販路拡大につなげようと、商品のPRに力がこもった。【広州・川杉宏行】
広州市で日本フェアが開かれ、大分県のブースではかぼすハイボールを試飲する中国人女性の姿もみられた(写真右)=24日
「日本のかぼすの95%は大分県産です」。大分県上海事務所の後藤純治所長はこう説明し、県名産のかぼすを使ったハイボール「かぼすハイボール」を紹介した。アルコール度数は4%、果汁は8%。一般の果汁入りアルコール飲料と比べて、果汁含有率が高めだ。
大分県のブースでかぼすハイボールを試飲した若い中国人女性は「果汁の味がはっきり分かる」と満足げな様子。その場で2本を購入した。
かぼすハイボールは、全国農業協同組合連合会(JA全農)のグループ会社、ジェイエイフーズおおいたが製造する。JA全農の中国法人で、かぼすハイボールの輸入も手がける全農(上海)貿易の田村雄太郎副総経理は、「かぼすハイボールの販売を拡大することは大分県のかぼす農家の支援につながる」と説明。「中国の若い人たちにぜひ気軽に家飲みしてほしい」と話した。
鹿児島県のブースでは県産の焼酎やリキュールの展示販売を行った。鹿児島県特産品協会上海代表処の宮内二郎首席代表は「焼酎の認知度を高めたい」と意気込んだ。鹿児島県の酒造会社、薩摩酒造の中国法人、薩摩酒造(上海)商貿の戴楠総経理は「中国での焼酎の販売は現在、日本料理店への卸売りが中心」と説明。中でも人気なのが麦焼酎「神の河(かんのこ)」という。神の河は蒸留した原酒をたるで3年以上貯蔵し、熟成させるのが特徴で、自然な琥珀(こはく)色に仕上がり、甘くまろやかな風味が生まれる。戴氏によると、中国人消費者はたるの香りがすることから、神の河を「度数の低いウイスキー」といった感覚で楽しむという。
長崎県も酒類の展示販売を行った。長崎県貿易協会上海代表処の尾上貴将代表は、展示した商品のうち「梅酒が好評だ」と話す。独特の甘みが若い女性に好まれているようだ。
酒類以外では、長野県のブースが同県の食品メーカー、マルコメのみそ製品を販売した。ブースでは、同県でオフィス家具や健康福祉機器の製販を手がけるタカノも高齢者福祉向けのいすを展示。タカノは急速に高齢化が進む中国市場で高齢者福祉分野に商機があるとみて、市場開拓を図る。長野県産業振興機構上海代表処の神林哲也首席代表は「広州市は一定の購買力を持つ市場」とみており、同県メーカーの販路開拓を後押しする方針だ。
■広東省は「巨大商圏」
日本貿易振興機構(ジェトロ)広州事務所の岡田英治所長は、「日本では、中国の巨大消費都市は上海市とのイメージが先行しており、広州市は製造業の都市という印象が強い」と指摘。「広州市単独では上海市に比べ規模感が小さくなるが、今後は広東省全体を大きな市場として捉える必要がある」とみている。
広東省は広州、深センという1級都市(沿海部大都市)を2都市抱え、常住人口が1,000万人を超える東莞のほか、仏山や中山、珠海、恵州など経済力の高い都市が集積している。岡田氏は「広東省全体でみれば日本料理店も上海市より多く、香港の影響もあり日本食や日本文化に理解が深い地域」との見方を示す。
回転ずし「スシロー」を運営するフード&ライフカンパニーズ(FOOD&LIFE COMPANIES)は2021年9月、中国本土1号店を上海市ではなく広州市に設けた。その後中国各地で店舗展開し、順調に中国事業を伸ばしており、岡田氏はこうした事例も参考になると指摘した。
岡田氏は日本企業が中国に食品を輸出する場合の注意点として、賞味期限を挙げた。できれば賞味期限が1年あるもの、最低でも半年あるものを開発するのが好ましいという。「中国は通関などで不確定要素が多く、通関で思わぬ時間がとられてしまう可能性を念頭に置く必要がある」(岡田氏)。日用品の販売に関しては、中国人の好みをうまくつかむことがポイントといい、見栄えのする包装やラベル、中国人の好む色などを意識して商品開発をすることを提案した。
会場の特設ステージでは日中の女性合唱団による合唱も行われた=24日、広州市
広東ジャパンブランドフェアは21年から開催し、今年は4回目。市内天河区の商業施設「東方宝泰購物広場」で開かれた。主催者団体によると、今回は17社・団体が計22ブースを出展。うち大分県や長野県などが初出展した。キリンビールやヤクルト本社の現地法人などの企業もブースを構えた。特設ステージでは日本人と中国人の女性で構成する合唱団による合唱も行われた。
■訪日客の回復鈍く
前年のフェアでは、新型コロナ対策が終了したことから、今後の中国人の訪日観光の回復を見越して、出展した自治体はこぞって観光PRに力を入れたが、1年を経過した今、予想に反して訪日客の回復は鈍い。
長崎県は新型コロナ流行前、多くの中国人観光客が訪れていたが、尾上氏によると「現在は流行前にまで回復していない」。鹿児島県では流行前、香港と上海市との間にそれぞれ直行便が飛んでいたが、現在香港便は再開したものの、上海便は停止したままだ。
日本政府観光局(JNTO)広州事務所の原口健司所長は、中国人の訪日観光客数について、新型コロナ流行前の19年同月を基準とした場合、23年11月の回復率が35%、同年12月が45%、24年1月が55%と、ペースはゆっくりだが着実に回復していると指摘。「今年は桜の季節や夏休み期間に訪日客の回復が進むことを期待している」と話した。ただ今後の回復状況は、中国の経済低迷など複数の要素に左右される可能性を指摘した。
同フェアの前回の来場者数は延べ11万1,899人。
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大分県のブースでかぼすハイボールを試飲した若い中国人女性は「果汁の味がはっきり分かる」と満足げな様子。その場で2本を購入した。
かぼすハイボールは、全国農業協同組合連合会(JA全農)のグループ会社、ジェイエイフーズおおいたが製造する。JA全農の中国法人で、かぼすハイボールの輸入も手がける全農(上海)貿易の田村雄太郎副総経理は、「かぼすハイボールの販売を拡大することは大分県のかぼす農家の支援につながる」と説明。「中国の若い人たちにぜひ気軽に家飲みしてほしい」と話した。
鹿児島県のブースでは県産の焼酎やリキュールの展示販売を行った。鹿児島県特産品協会上海代表処の宮内二郎首席代表は「焼酎の認知度を高めたい」と意気込んだ。鹿児島県の酒造会社、薩摩酒造の中国法人、薩摩酒造(上海)商貿の戴楠総経理は「中国での焼酎の販売は現在、日本料理店への卸売りが中心」と説明。中でも人気なのが麦焼酎「神の河(かんのこ)」という。神の河は蒸留した原酒をたるで3年以上貯蔵し、熟成させるのが特徴で、自然な琥珀(こはく)色に仕上がり、甘くまろやかな風味が生まれる。戴氏によると、中国人消費者はたるの香りがすることから、神の河を「度数の低いウイスキー」といった感覚で楽しむという。
長崎県も酒類の展示販売を行った。長崎県貿易協会上海代表処の尾上貴将代表は、展示した商品のうち「梅酒が好評だ」と話す。独特の甘みが若い女性に好まれているようだ。
酒類以外では、長野県のブースが同県の食品メーカー、マルコメのみそ製品を販売した。ブースでは、同県でオフィス家具や健康福祉機器の製販を手がけるタカノも高齢者福祉向けのいすを展示。タカノは急速に高齢化が進む中国市場で高齢者福祉分野に商機があるとみて、市場開拓を図る。長野県産業振興機構上海代表処の神林哲也首席代表は「広州市は一定の購買力を持つ市場」とみており、同県メーカーの販路開拓を後押しする方針だ。
■広東省は「巨大商圏」
日本貿易振興機構(ジェトロ)広州事務所の岡田英治所長は、「日本では、中国の巨大消費都市は上海市とのイメージが先行しており、広州市は製造業の都市という印象が強い」と指摘。「広州市単独では上海市に比べ規模感が小さくなるが、今後は広東省全体を大きな市場として捉える必要がある」とみている。
広東省は広州、深センという1級都市(沿海部大都市)を2都市抱え、常住人口が1,000万人を超える東莞のほか、仏山や中山、珠海、恵州など経済力の高い都市が集積している。岡田氏は「広東省全体でみれば日本料理店も上海市より多く、香港の影響もあり日本食や日本文化に理解が深い地域」との見方を示す。
回転ずし「スシロー」を運営するフード&ライフカンパニーズ(FOOD&LIFE COMPANIES)は2021年9月、中国本土1号店を上海市ではなく広州市に設けた。その後中国各地で店舗展開し、順調に中国事業を伸ばしており、岡田氏はこうした事例も参考になると指摘した。
岡田氏は日本企業が中国に食品を輸出する場合の注意点として、賞味期限を挙げた。できれば賞味期限が1年あるもの、最低でも半年あるものを開発するのが好ましいという。「中国は通関などで不確定要素が多く、通関で思わぬ時間がとられてしまう可能性を念頭に置く必要がある」(岡田氏)。日用品の販売に関しては、中国人の好みをうまくつかむことがポイントといい、見栄えのする包装やラベル、中国人の好む色などを意識して商品開発をすることを提案した。
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広東ジャパンブランドフェアは21年から開催し、今年は4回目。市内天河区の商業施設「東方宝泰購物広場」で開かれた。主催者団体によると、今回は17社・団体が計22ブースを出展。うち大分県や長野県などが初出展した。キリンビールやヤクルト本社の現地法人などの企業もブースを構えた。特設ステージでは日本人と中国人の女性で構成する合唱団による合唱も行われた。
■訪日客の回復鈍く
前年のフェアでは、新型コロナ対策が終了したことから、今後の中国人の訪日観光の回復を見越して、出展した自治体はこぞって観光PRに力を入れたが、1年を経過した今、予想に反して訪日客の回復は鈍い。
長崎県は新型コロナ流行前、多くの中国人観光客が訪れていたが、尾上氏によると「現在は流行前にまで回復していない」。鹿児島県では流行前、香港と上海市との間にそれぞれ直行便が飛んでいたが、現在香港便は再開したものの、上海便は停止したままだ。
日本政府観光局(JNTO)広州事務所の原口健司所長は、中国人の訪日観光客数について、新型コロナ流行前の19年同月を基準とした場合、23年11月の回復率が35%、同年12月が45%、24年1月が55%と、ペースはゆっくりだが着実に回復していると指摘。「今年は桜の季節や夏休み期間に訪日客の回復が進むことを期待している」と話した。ただ今後の回復状況は、中国の経済低迷など複数の要素に左右される可能性を指摘した。
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