香港の建築士業界が苦境を訴えている。域内と中国本土の景気低迷を背景に、民間の不動産開発事業が縮小。大手の建築設計事務所が従業員の「無給休暇」を実施したり、人員削減を余儀なくされたりといった状況が伝えられる。業界団体は政府に対し、一部の事務所は既に「生死の境目」にあるとして、公共事業の発注を増やすよう求めた。
人工島の廃棄物処理施設「I・パーク1」建設現場。建築士業界は公共事業を増やすよう求めている=23年12月(香港政府提供)
15日付明報、星島日報などによると、業界団体の建築師事務所商会(AAP)がこのほど、劉栄広(デニス・ラウ)主席名義で政府発展局の寧漢豪(バーナデット・リン)局長に陳情書を送った。計画が滞っている公共事業を推進し、コンサルタント業務のアウトソーシングを増やすよう要望する内容だ。
同団体は陳情書の中で、今年は政府が実施してきた住宅投機抑制策が全面的に撤廃されたものの、市場は依然として「極度に慎重」で、民間の不動産開発事業がわずかしか行われていないと指摘。さらに、香港の業界にとってこれまでは本土の不動産開発プロジェクトからの依頼も主要な収益源の一つだったが、本土事業に至っては現状「ほとんど存在しない」と嘆いた。業界は少ない仕事を「不合理な低価格」で受注することを余儀なくされているという。
劉氏は、業界の老舗で大手の劉栄広伍振民建築師有限公司(DLN)を率いている。業界の不況は大手にも深刻な影響が及んでおり、DLNも来月から、従業員に対して給与を支払わず休暇を強制取得させる無給休暇を少なくとも月3日導入する見通しだ。
■川下に影響拡大も
明報などによると、香港建築師学会(HKIA)の陳沢斌(ベニー・チャン)会長は、無給休暇を導入したり給与の減額を行ったりしている事務所は1社にとどまらず、人員を減らしたり退職者が出ても補充を行わなかったりといった事務所もあると説明。長期的には新界地区で新都心として開発される「北部都会区」構想など大型プロジェクトが控えているものの、短期的には民間市場の冷え込みが深刻なことから業界には政府の支援が必要だと主張した。
同学会の陳沐文(マービン・チャン)前会長は、景気低迷でオフィスビルの需要が減り、海外移住に伴う児童・生徒の減少で校舎の需要も減った一方で、新しい建設需要はあまり生まれていないと指摘。中小の建築設計事務所は小規模な事業を臨機応変にこなすことで比較的対応が容易だが、大手の事務所ほど市場縮小の影響を受けていると分析した。
陳沢斌氏は、建設プロジェクトの減少に伴う影響が現在は建築士業界で顕在化しているが、このまま問題を放置すれば川下にも波及することになり「1~2年後には下請け建設業者の番だ」と予言した。政府は計画段階の病院や学校など公共施設の建設を早めるべきだと提言している。
政府発展局は業界からの訴えに対し、足元の苦境は「短期的なもの」との姿勢だ。2024/25年度(24年4月~25年3月)は過去5年の平均を17%上回る900億HKドル(約1兆7,000億円)のインフラ投資予算を計上しており、今後5年間は同水準の投資を見込んでいると説明。マクロ経済が徐々に改善すれば「業界の前途は明るい」との認識を示した。
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15日付明報、星島日報などによると、業界団体の建築師事務所商会(AAP)がこのほど、劉栄広(デニス・ラウ)主席名義で政府発展局の寧漢豪(バーナデット・リン)局長に陳情書を送った。計画が滞っている公共事業を推進し、コンサルタント業務のアウトソーシングを増やすよう要望する内容だ。
同団体は陳情書の中で、今年は政府が実施してきた住宅投機抑制策が全面的に撤廃されたものの、市場は依然として「極度に慎重」で、民間の不動産開発事業がわずかしか行われていないと指摘。さらに、香港の業界にとってこれまでは本土の不動産開発プロジェクトからの依頼も主要な収益源の一つだったが、本土事業に至っては現状「ほとんど存在しない」と嘆いた。業界は少ない仕事を「不合理な低価格」で受注することを余儀なくされているという。
劉氏は、業界の老舗で大手の劉栄広伍振民建築師有限公司(DLN)を率いている。業界の不況は大手にも深刻な影響が及んでおり、DLNも来月から、従業員に対して給与を支払わず休暇を強制取得させる無給休暇を少なくとも月3日導入する見通しだ。
■川下に影響拡大も
明報などによると、香港建築師学会(HKIA)の陳沢斌(ベニー・チャン)会長は、無給休暇を導入したり給与の減額を行ったりしている事務所は1社にとどまらず、人員を減らしたり退職者が出ても補充を行わなかったりといった事務所もあると説明。長期的には新界地区で新都心として開発される「北部都会区」構想など大型プロジェクトが控えているものの、短期的には民間市場の冷え込みが深刻なことから業界には政府の支援が必要だと主張した。
同学会の陳沐文(マービン・チャン)前会長は、景気低迷でオフィスビルの需要が減り、海外移住に伴う児童・生徒の減少で校舎の需要も減った一方で、新しい建設需要はあまり生まれていないと指摘。中小の建築設計事務所は小規模な事業を臨機応変にこなすことで比較的対応が容易だが、大手の事務所ほど市場縮小の影響を受けていると分析した。
陳沢斌氏は、建設プロジェクトの減少に伴う影響が現在は建築士業界で顕在化しているが、このまま問題を放置すれば川下にも波及することになり「1~2年後には下請け建設業者の番だ」と予言した。政府は計画段階の病院や学校など公共施設の建設を早めるべきだと提言している。
政府発展局は業界からの訴えに対し、足元の苦境は「短期的なもの」との姿勢だ。2024/25年度(24年4月~25年3月)は過去5年の平均を17%上回る900億HKドル(約1兆7,000億円)のインフラ投資予算を計上しており、今後5年間は同水準の投資を見込んでいると説明。マクロ経済が徐々に改善すれば「業界の前途は明るい」との認識を示した。"
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