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円借款で米から野菜・果樹へハリヤナ農業を改革せよ(上)

コメを中心とした穀物生産の過剰揚水を背景に、インド北部ハリヤナ州が地下水枯渇に頭を悩ませている。過去40年間で州内の地下水位は平均約6メートル、調査場所によっては約25メートル低下した。こうした問題を解決しようと、国際協力機構(JICA)は2月、162億円余りの円借款貸付契約をインド政府と締結。ハリヤナ州政府組織の一つ、州園芸局(DoH)が今後、円借款と州政府資金をもとに、水使用量が少ない野菜・果樹など園芸作物への転換を支援する。【鈴木健太】

地下水枯渇リスクを受け、ハリヤナ州政府は今後、コメを中心とした穀物から、水使用量が少ない野菜・果樹など園芸作物への転換を支援する。写真の作物はズッキーニ(JICA提供)

JICAによると、円借款で今回支援するのは、「ハリヤナ州における持続可能な園芸農業推進事業」の第1期事業だ。事業実施機関である州園芸局がこの先9年間、園芸作物への転換を支援することに加え、バリューチェーン(価値連鎖)を振興するために施設整備や農家のマーケティング能力強化を実施。持続可能な農業の推進と園芸作物の販売促進による農家の所得向上を図る。
事業期間は2033年1月まで。総事業費は479億2,100万円で、日本は7~8割に当たる約370億円を円借款で支援する予定だ。JICAは事業の進捗(しんちょく)状況を見ながら、2月20日に調印した162億1,500万円と別に、第2期事業として残り200億円余りの円借款貸付契約をインド政府と交わす見込み。27年度(27年4月~28年3月)ごろの調印を想定している。
園芸作物への転換支援では、生産者団体や農家グループの事業計画策定や共同集荷体制の構築を助ける。点滴かんがい設備を整え、節水しながらの園芸農業を推進する。営農計画策定研修も行う。
バリューチェーン構築支援では、集荷や等階級分け、加工、冷蔵を含む貯蔵、梱包(こんぽう)を実施するパックハウス(流通加工センター)を建てたり、電子商取引(EC)や在庫管理システムとのデータ連携基盤を整えたりする。生産者団体と民間企業のマッチングも行う。
支援対象となる農家は約11万2,000人に上る見通しだ。コメから野菜・果樹への転換面積は1万500ヘクタール(35年時)、事業対象地域の地下水使用量は21年比7割減の4,378万5,000立方メートル(同)を目指す。
JICAはこれまでも国内各地の農業を円借款や技術協力を通じて支援してきた。今回支援はJICAが働きかける形で21年ごろから準備が進み、円借款供与が決まった。

JICAは2月20日、「ハリヤナ州における持続可能な園芸農業推進事業(第1期)」など計9事業を巡り、円借款貸付契約をインド政府と結んだ(JICA提供)

■6割の地域で地下水枯渇リスク
インドにおいて、農業は国内総生産(GDP)の15%前後を占め、雇用の6割を担う重要産業だ。1960年代に始まった「緑の革命」による生産性向上もあり、コメや小麦の生産量は世界2位。世界の中でも、主要な食料生産・輸出国の一つになっている。
ハリヤナ州は農業の近代化・大規模化が進み、国内穀物の約15%を生産するなどインド有数の穀倉地帯。コメなど穀物を軸とした農業が主要産業だ。しかし近年、過剰揚水が問題になっており、州内22県のうち約6割の県で地下水枯渇リスクが非常に高いとされる。持続可能な農業を実現するためにも、水使用量が多い穀物から園芸作物への転換や節水農業の導入が課題になっている。
物流インフラも脆弱(ぜいじゃく)だ。園芸作物を出荷する際は、冷蔵を含む貯蔵はじめ、作物・加工品の腐敗、劣化を抑え、鮮度を保つインフラが十分整っていない。流通時に品質および単価が低下したり、作物の生産量の5~15%程度を廃棄したりといった事態が生じている。効果的な集荷や梱包を行うインフラ整備が急務だ。
農家の所得向上を図るためには、農家の価格交渉力アップも重要だ。ハリヤナ州の農家の約7割は経営面積2ヘクタール以下の零細農家で、作物の数量を安定確保できていない。作物を単独で市場に卸すため、市場に対する価格交渉力も低い。スケールメリット(規模効果)が働かず、十分な収入につながらない。農家を組織化したり、そうした農家のマーケティング戦略を立案したりすることが不可欠になっている。
■デリー近郊でポテンシャル大
ハリヤナ州の園芸農業が発展するポテンシャルは大きい。気象は、穀物だけでなく、園芸作物にも適した条件を持つ。生産量でみると、キュウリとニンジン、イチゴは国内35州・連邦直轄地で1位、大根は2位、ピーマンとニガウリは3位、カリフラワーは4位、マスクメロンは5位だ。
州内各県はデリー首都圏(NCR)内または近郊に位置し、市場への出荷も容易だ。園芸作物の付加価値を高め、デリーなど大消費地で収益性が高い取引を行えば、農家の所得を押し上げることができる。
今後のスケジュールについて、JICAインド事務所の加藤麻莉亜氏はNNAの取材に対し、「州園芸局がプロジェクト・マネジメント・コンサルタント(PMC)を12月までに選び、両者が協力し、33年までの細かい事業計画を立てる」と説明。JICAは事業の進み具合を見つつ、第2期分の円借款貸付契約の調印時期や借款額を正式決定することになるという。
JICA南アジア第一課(インド・ブータン)副調査役の安岡春奈氏もNNAの取材に応じ、「パックハウスを建設して終わりにならないよう、年間を通じてどんな作物をどんな順番で貯蔵するか、州政府やコンサルタント、農家に計画をしっかり立ててもらう」と話した。園芸作物を出荷する際の廃棄率は現在の5~15%程度から、野菜は3.7%(35年時)、果物は4.6%(同)を目指してもらう。

作物の集荷や等階級分け、加工、冷蔵を含む貯蔵、梱包を実施するパックハウス(JICA提供)
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JICAによると、円借款で今回支援するのは、「ハリヤナ州における持続可能な園芸農業推進事業」の第1期事業だ。事業実施機関である州園芸局がこの先9年間、園芸作物への転換を支援することに加え、バリューチェーン(価値連鎖)を振興するために施設整備や農家のマーケティング能力強化を実施。持続可能な農業の推進と園芸作物の販売促進による農家の所得向上を図る。
事業期間は2033年1月まで。総事業費は479億2,100万円で、日本は7~8割に当たる約370億円を円借款で支援する予定だ。JICAは事業の進捗(しんちょく)状況を見ながら、2月20日に調印した162億1,500万円と別に、第2期事業として残り200億円余りの円借款貸付契約をインド政府と交わす見込み。27年度(27年4月~28年3月)ごろの調印を想定している。
園芸作物への転換支援では、生産者団体や農家グループの事業計画策定や共同集荷体制の構築を助ける。点滴かんがい設備を整え、節水しながらの園芸農業を推進する。営農計画策定研修も行う。
バリューチェーン構築支援では、集荷や等階級分け、加工、冷蔵を含む貯蔵、梱包(こんぽう)を実施するパックハウス(流通加工センター)を建てたり、電子商取引(EC)や在庫管理システムとのデータ連携基盤を整えたりする。生産者団体と民間企業のマッチングも行う。
支援対象となる農家は約11万2,000人に上る見通しだ。コメから野菜・果樹への転換面積は1万500ヘクタール(35年時)、事業対象地域の地下水使用量は21年比7割減の4,378万5,000立方メートル(同)を目指す。
JICAはこれまでも国内各地の農業を円借款や技術協力を通じて支援してきた。今回支援はJICAが働きかける形で21年ごろから準備が進み、円借款供与が決まった。
[caption id="attachment_19285" align="aligncenter" width="620"]JICAは2月20日、「ハリヤナ州における持続可能な園芸農業推進事業(第1期)」など計9事業を巡り、円借款貸付契約をインド政府と結んだ(JICA提供)[/caption]
■6割の地域で地下水枯渇リスク
インドにおいて、農業は国内総生産(GDP)の15%前後を占め、雇用の6割を担う重要産業だ。1960年代に始まった「緑の革命」による生産性向上もあり、コメや小麦の生産量は世界2位。世界の中でも、主要な食料生産・輸出国の一つになっている。
ハリヤナ州は農業の近代化・大規模化が進み、国内穀物の約15%を生産するなどインド有数の穀倉地帯。コメなど穀物を軸とした農業が主要産業だ。しかし近年、過剰揚水が問題になっており、州内22県のうち約6割の県で地下水枯渇リスクが非常に高いとされる。持続可能な農業を実現するためにも、水使用量が多い穀物から園芸作物への転換や節水農業の導入が課題になっている。
物流インフラも脆弱(ぜいじゃく)だ。園芸作物を出荷する際は、冷蔵を含む貯蔵はじめ、作物・加工品の腐敗、劣化を抑え、鮮度を保つインフラが十分整っていない。流通時に品質および単価が低下したり、作物の生産量の5~15%程度を廃棄したりといった事態が生じている。効果的な集荷や梱包を行うインフラ整備が急務だ。
農家の所得向上を図るためには、農家の価格交渉力アップも重要だ。ハリヤナ州の農家の約7割は経営面積2ヘクタール以下の零細農家で、作物の数量を安定確保できていない。作物を単独で市場に卸すため、市場に対する価格交渉力も低い。スケールメリット(規模効果)が働かず、十分な収入につながらない。農家を組織化したり、そうした農家のマーケティング戦略を立案したりすることが不可欠になっている。
■デリー近郊でポテンシャル大
ハリヤナ州の園芸農業が発展するポテンシャルは大きい。気象は、穀物だけでなく、園芸作物にも適した条件を持つ。生産量でみると、キュウリとニンジン、イチゴは国内35州・連邦直轄地で1位、大根は2位、ピーマンとニガウリは3位、カリフラワーは4位、マスクメロンは5位だ。
州内各県はデリー首都圏(NCR)内または近郊に位置し、市場への出荷も容易だ。園芸作物の付加価値を高め、デリーなど大消費地で収益性が高い取引を行えば、農家の所得を押し上げることができる。
今後のスケジュールについて、JICAインド事務所の加藤麻莉亜氏はNNAの取材に対し、「州園芸局がプロジェクト・マネジメント・コンサルタント(PMC)を12月までに選び、両者が協力し、33年までの細かい事業計画を立てる」と説明。JICAは事業の進み具合を見つつ、第2期分の円借款貸付契約の調印時期や借款額を正式決定することになるという。
JICA南アジア第一課(インド・ブータン)副調査役の安岡春奈氏もNNAの取材に応じ、「パックハウスを建設して終わりにならないよう、年間を通じてどんな作物をどんな順番で貯蔵するか、州政府やコンサルタント、農家に計画をしっかり立ててもらう」と話した。園芸作物を出荷する際の廃棄率は現在の5~15%程度から、野菜は3.7%(35年時)、果物は4.6%(同)を目指してもらう。
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