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メガFTA巡る市民対話欠くTPP申請も影響試算に疑問残る

インドネシア政府が大型の自由貿易協定(FTA)を意味する「メガFTA」への参画に積極的になっている。欧州連合(EU)との包括的経済連携協定(CEPA、IEU—CEPA)を早期妥結させる構えを示しているのに続き、9月には環太平洋連携協定(CPTPP)への加盟を申請した。だが、メガFTAの加盟による国内市場への負の影響を懸念する市民団体は、政府と市民団体の政策対話がなされていないと指摘する。エコノミストも加盟の影響試算の精度に疑問を呈し慎重な対応を求めている。

インドネシアのアイルランガ調整相(経済担当、中央)は9月19日付でCPTPPへの加盟を申請したことを明らかにした=9月25日(経済担当調整省提供)

アイルランガ調整相(経済担当)は9月25日にCPTPPへの加盟を申請したと明らかにした。申請書は同月19日に同協定の寄託国のニュージーランドへ送付したという。経済担当調整省の発表では、政府はCPTPPに加盟した場合に◇加盟国への輸出が19%増加◇海外直接投資(FDI)が11%増加◇国内総生産(GDP)が16億米ドル(約2,340億円)増加——すると試算している。
アイルランガ氏は25日にCPTPP加盟国の大使ら外交関係者を招いて会議を開き、インドネシアの加盟に向けた協力を求めた。2018年12月に発効したCPTPPには日本やオーストラリア、カナダ、メキシコなど11カ国が加盟済みで、今年12月中旬までに英国が加わって12カ国体制となる。
自由貿易が抱える問題を提起している市民団体「インドネシア・フォー・グローバル・ジャスティス(IGJ)」は、インドネシア政府のCPTPP加盟表明に対し「われわれは深く失望している」とし、政府は加盟の是非を市民団体と一度も議論していないと述べた。
6月下旬時点で既に交渉の90%を完了したとされるIEU—CEPAでも、IGJは交渉プロセスが市民団体に公開されておらず、人権や経済、社会的影響の包括的な評価が実施されていないと批判していた。



■リスクの試算も実施を
IGJは、インドネシアがCPTPPに加盟しても大きな利益は得られないと指摘する。インドネシアはCPTPP参加12カ国のうち10カ国と、2国間や東南アジア諸国連合(ASEAN)を通じたFTAを締結済みか交渉中だからだ。
IGJは、インドネシア政府がCPTPPへの参加を目指す意図にも疑問が残ると話す。政府はもともとTPPを通じて米国への特恵的アクセスを狙っていたが、米国抜きのCPTPPに関心を示しているのは「驚くべきことだ」としている。米国は当初、TPP交渉に参加していたが17年にトランプ前政権下で離脱した。一方インドネシア政府はCPTPP加盟を通じてカナダやメキシコから間接的に米国市場へアクセスできると主張している。
独立系シンクタンク、経済改革センター(CORE)のモハマド・ファイサル理事長は、メガFTAに加盟した場合の輸出の潜在性だけでなくリスクも計算する必要があるが、インドネシアでは誤った試算や非現実的な試算がよく起きると指摘する。その上で加盟して何を達成したいのか明確にすべきだと主張する。
アイルランガ氏は、CPTPPへの参加はインドネシアが加盟手続きを進めている経済協力開発機構(OECD)に入るための補完だと説明している。

■政策決定余地の縮小への懸念
IGJがCPTPPへの加盟で懸念しているのは、関税の自由化よりもメガFTA特有の政策面への影響だ。政府調達市場の開放、投資の自由化加速、知的財産権の強化などにより、自国の政策決定余地が縮小すると述べている。
例えば政府調達では公開入札を原則とし、入札での内国民待遇(外国と国内の事業者を差別しない)などの適用が求められる。
投資の自由化では、CPTPP加盟国が応じた規制緩和の具体例として、ベトナムがコンビニエンスストアやスーパーなどの小売店の出店前に実施していた地域の店舗数や規模などに基づく審査制度「経済需要テスト(エコノミック・ニーズテスト、ENT)」を廃止し、マレーシアはコンビニへの外資出資を許可(出資禁止から出資上限30%まで認可)した。
知的財産権の強化は、IEU—CEPAの交渉過程でもIGJが問題視してきた植物の新品種の知的財産権を強化する「種子の植物の新品種の保護に関する国際条約(UPOV1991年条約)」の批准が義務付けられている。
このほかIGJが懸念しているのが、CPTPPの投資家対国家の紛争解決(ISDS)条項だという。ISDS条項は、FTA締約国の投資家(企業)が、投資先国との間で紛争が生じた場合、その国を相手取って第三者機関(世界銀行グループの投資紛争解決国際センターなど)に仲裁を付託できる制度だ。
IGJは、インドネシアはCPTPPに加盟していなくても鉱業分野などで外国投資家からの訴訟に直面しており、「(加盟により)この状況がさらに悪化すると懸念している」という。
これらの懸念は裏を返せば、インドネシアがCPTPPに加盟した場合に規制緩和は不可避となり、日本を含む他の加盟国にとっては市場へアクセスしやすくなることを意味する。
一方CPTPPは既に発効済みの協定のため、インドネシア政府が各条項の受け入れ交渉をする余地は小さいとみられている。自国の産業保護とメガFTAの加盟の整合性が図れるのかは今後の課題だ。

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アイルランガ調整相(経済担当)は9月25日にCPTPPへの加盟を申請したと明らかにした。申請書は同月19日に同協定の寄託国のニュージーランドへ送付したという。経済担当調整省の発表では、政府はCPTPPに加盟した場合に◇加盟国への輸出が19%増加◇海外直接投資(FDI)が11%増加◇国内総生産(GDP)が16億米ドル(約2,340億円)増加——すると試算している。
アイルランガ氏は25日にCPTPP加盟国の大使ら外交関係者を招いて会議を開き、インドネシアの加盟に向けた協力を求めた。2018年12月に発効したCPTPPには日本やオーストラリア、カナダ、メキシコなど11カ国が加盟済みで、今年12月中旬までに英国が加わって12カ国体制となる。
自由貿易が抱える問題を提起している市民団体「インドネシア・フォー・グローバル・ジャスティス(IGJ)」は、インドネシア政府のCPTPP加盟表明に対し「われわれは深く失望している」とし、政府は加盟の是非を市民団体と一度も議論していないと述べた。
6月下旬時点で既に交渉の90%を完了したとされるIEU—CEPAでも、IGJは交渉プロセスが市民団体に公開されておらず、人権や経済、社会的影響の包括的な評価が実施されていないと批判していた。


■リスクの試算も実施を
IGJは、インドネシアがCPTPPに加盟しても大きな利益は得られないと指摘する。インドネシアはCPTPP参加12カ国のうち10カ国と、2国間や東南アジア諸国連合(ASEAN)を通じたFTAを締結済みか交渉中だからだ。
IGJは、インドネシア政府がCPTPPへの参加を目指す意図にも疑問が残ると話す。政府はもともとTPPを通じて米国への特恵的アクセスを狙っていたが、米国抜きのCPTPPに関心を示しているのは「驚くべきことだ」としている。米国は当初、TPP交渉に参加していたが17年にトランプ前政権下で離脱した。一方インドネシア政府はCPTPP加盟を通じてカナダやメキシコから間接的に米国市場へアクセスできると主張している。
独立系シンクタンク、経済改革センター(CORE)のモハマド・ファイサル理事長は、メガFTAに加盟した場合の輸出の潜在性だけでなくリスクも計算する必要があるが、インドネシアでは誤った試算や非現実的な試算がよく起きると指摘する。その上で加盟して何を達成したいのか明確にすべきだと主張する。
アイルランガ氏は、CPTPPへの参加はインドネシアが加盟手続きを進めている経済協力開発機構(OECD)に入るための補完だと説明している。

■政策決定余地の縮小への懸念
IGJがCPTPPへの加盟で懸念しているのは、関税の自由化よりもメガFTA特有の政策面への影響だ。政府調達市場の開放、投資の自由化加速、知的財産権の強化などにより、自国の政策決定余地が縮小すると述べている。
例えば政府調達では公開入札を原則とし、入札での内国民待遇(外国と国内の事業者を差別しない)などの適用が求められる。
投資の自由化では、CPTPP加盟国が応じた規制緩和の具体例として、ベトナムがコンビニエンスストアやスーパーなどの小売店の出店前に実施していた地域の店舗数や規模などに基づく審査制度「経済需要テスト(エコノミック・ニーズテスト、ENT)」を廃止し、マレーシアはコンビニへの外資出資を許可(出資禁止から出資上限30%まで認可)した。
知的財産権の強化は、IEU—CEPAの交渉過程でもIGJが問題視してきた植物の新品種の知的財産権を強化する「種子の植物の新品種の保護に関する国際条約(UPOV1991年条約)」の批准が義務付けられている。
このほかIGJが懸念しているのが、CPTPPの投資家対国家の紛争解決(ISDS)条項だという。ISDS条項は、FTA締約国の投資家(企業)が、投資先国との間で紛争が生じた場合、その国を相手取って第三者機関(世界銀行グループの投資紛争解決国際センターなど)に仲裁を付託できる制度だ。
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これらの懸念は裏を返せば、インドネシアがCPTPPに加盟した場合に規制緩和は不可避となり、日本を含む他の加盟国にとっては市場へアクセスしやすくなることを意味する。
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