ミャンマーで、少数民族武装勢力がここ1年で紛争の主役に躍り出てきた。2021年2月の軍事クーデター後、国軍打倒を目指す若者らを支援し勢力拡大の機会を探ってきた結果だ。筆頭は、昨年10月に一斉攻撃「作戦1027」を開始した3勢力で、支配地域を拡大している。ただ、停戦を呼びかける中国の意向と民意のはざまで姿勢を明確にできていない。一方で一部勢力は軍事政権への強硬姿勢を示している。抵抗勢力の「国軍打倒」に温度差がある状況となっている。【小故島弘善】
「兄弟同盟」を結ぶ3勢力(ミャンマー民族民主同盟軍=MNDAA、タアン民族解放軍=TNLA、アラカン軍=AA)は昨年10月、中国国境に接する北東部シャン州北部で対国軍の大規模作戦を開始。複数の町を占拠し、国内に14ある国軍司令部の一つを占拠するなど、停滞していた戦局を変えた。単独組織として軍事力が最も大きい国軍の弱体化を印象付け、クーデター後から武装闘争を続ける抵抗勢力からは歓迎の声が上がった。
兄弟同盟は中国を配慮する姿勢を崩していない。昨年7月に西部ラカイン州と中国を結ぶ天然ガスのパイプライン保護を宣言。作戦開始当日の声明では、「全国民の願望である抑圧的な軍事独裁の根絶」を目標に掲げつつ、中国政府が問題視していた国境付近の特殊詐欺グループ拠点の取り締まりに言及した。
中国は当初、3勢力による国軍に対する攻撃を「容認」していたとされる。兄弟同盟の立場が優勢だった今年1月には双方の一時停戦の交渉をまとめた。このころまで国軍側が中国への不快感を隠さず、昨年11月には軍政が掌握する最大都市ヤンゴンで反中デモが発生した。
兄弟同盟と国軍との緊張関係は続いた。AAは、「一時停戦はシャン州北部のみ」だとして西部ラカイン州での侵攻を継続。シャン州でも国軍が報復として空爆などを続け、今年半ばに再び戦闘が激化した。
紛争がミャンマー各地に波及する中、中国は軍政側と協議を重ねた。6月以降にテインセイン元大統領や軍政ナンバー2が訪中。8月には、王毅(おう・き)外相が訪問先の首都ネピドーで軍政トップのミンアウンフライン総司令官と会談した。国軍主導で来年にも実施する予定の総選挙への「支援」も確認したとされる。
中国は少数民族武装勢力による攻撃を抑えようとしている。武器など軍事物資を供給しているとされるワ州連合軍(UWSA)を通じて兄弟同盟に圧力をかけ、今月に入ってミャンマーとの国境貿易ゲートの閉鎖に踏み切った。国軍と兄弟同盟との衝突に乗じて北部カチン州で、国軍に攻勢をかけていたカチン独立軍(KIA)のけん制にもつなげようとしているとされる。
中国の王毅外相(中央左)とミャンマー軍政トップのミンアウンフライン総司令官(同右)=14日、ミャンマー・ネピドー(国軍公式サイトより)
■中国圧力に反発
中国による停戦への圧力は「軍政寄り」だとして、国軍打倒を望む人々は同国への批判を強める。中国の介入がなければ、兄弟同盟などがミャンマーの第2都市マンダレーなど軍政の要衝に侵攻できたとみているようだ。
民主派系メディア「イラワジ」のアウンゾー編集長は今週の公開議論で、「中国は軍政をかいらい政権にしようとしている」と主張。少数民族武装勢力が米欧と接点を持つことを中国が嫌っており、諸民族と民主派を分断させようとしているとの見方を示した。同国がミンアウンフライン氏を招待しているとも指摘した。一方、今月発生したマンダレーの中国総領事館の建物が爆発物で一部損壊した事件について、国軍側の犯行の可能性があるとアピールした。
ミャンマーではクーデター後、「影の政府」として民主派政治組織「挙国一致政府(NUG)」が発足。正式な政府とは認められていないものの、米欧の支援を受けている。国軍に対する武装闘争を掲げるが、各地に結成された民主派武装組織「国民防衛隊(PDF)」を統率できておらず、長年国軍と戦い続けている少数民族武装勢力の協力が不可欠な状況だ。
■少数民族武装勢力の強大化
国軍は、クーデターとともに非暴力を掲げた民主派指導者アウンサンスーチー氏らを拘束。民意は武力による国軍打倒に傾いた。こうした中で、市民が頼ったのが各地の少数民族武装勢力だ。戦闘訓練を受けた若者らが結成したPDFは合わせて数百に上り、合算すれば構成員は数万人から10万人になるとされる。
ミャンマーには約20の少数民族武装勢力が存在し、民主派への協力姿勢には濃淡がある。だが、PDFを取り込みつつ規模を拡大した勢力もある。北西部チン州のチン民族戦線(CNF)や兄弟同盟の一角であるTNLAなどだ。国際シンクタンク「インターナショナル・クライシス・グループ(ICG)」は昨年9月のTNLAに関する報告で、同勢力がPDFを支援しつつ強大化を図っていると指摘した。
KIAの政治部門カチン独立機構(KIO)のエンバンラー議長は同機構結成から64年を迎えた25日の演説で、国軍打倒の考えをあらためて示し、「戦える者は全員参加してほしい」と話した。同勢力は09年のTNLAとAAの設立を支援し、クーデター後には北部ザガイン地域で活動するPDFなどに協力。中国の圧力を受けながらも民意を尊重する方針を打ち出してきた。
一方、ラウッカイを中核とするコーカン自治区やラショーを掌握したMNDAAは9月中旬、「NUGとは軍事的にも政治的にも協力しない」と表明した。同勢力は、作戦1027に対する中立の立場を表明したワ州連合軍(UWSA)と同じ漢民族系で、中国とのつながりが特に強い。
兄弟同盟の中で、独自路線が際立つのはAAだ。西部ラカイン州全域の掌握を図っているが、同州内でAAが唯一の軍事組織だと表明。中国がインフラ開発を支援したチャウピューを占拠するかどうかなど、今後の動向が焦点となる。
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「兄弟同盟」を結ぶ3勢力(ミャンマー民族民主同盟軍=MNDAA、タアン民族解放軍=TNLA、アラカン軍=AA)は昨年10月、中国国境に接する北東部シャン州北部で対国軍の大規模作戦を開始。複数の町を占拠し、国内に14ある国軍司令部の一つを占拠するなど、停滞していた戦局を変えた。単独組織として軍事力が最も大きい国軍の弱体化を印象付け、クーデター後から武装闘争を続ける抵抗勢力からは歓迎の声が上がった。
兄弟同盟は中国を配慮する姿勢を崩していない。昨年7月に西部ラカイン州と中国を結ぶ天然ガスのパイプライン保護を宣言。作戦開始当日の声明では、「全国民の願望である抑圧的な軍事独裁の根絶」を目標に掲げつつ、中国政府が問題視していた国境付近の特殊詐欺グループ拠点の取り締まりに言及した。
中国は当初、3勢力による国軍に対する攻撃を「容認」していたとされる。兄弟同盟の立場が優勢だった今年1月には双方の一時停戦の交渉をまとめた。このころまで国軍側が中国への不快感を隠さず、昨年11月には軍政が掌握する最大都市ヤンゴンで反中デモが発生した。
兄弟同盟と国軍との緊張関係は続いた。AAは、「一時停戦はシャン州北部のみ」だとして西部ラカイン州での侵攻を継続。シャン州でも国軍が報復として空爆などを続け、今年半ばに再び戦闘が激化した。
紛争がミャンマー各地に波及する中、中国は軍政側と協議を重ねた。6月以降にテインセイン元大統領や軍政ナンバー2が訪中。8月には、王毅(おう・き)外相が訪問先の首都ネピドーで軍政トップのミンアウンフライン総司令官と会談した。国軍主導で来年にも実施する予定の総選挙への「支援」も確認したとされる。
中国は少数民族武装勢力による攻撃を抑えようとしている。武器など軍事物資を供給しているとされるワ州連合軍(UWSA)を通じて兄弟同盟に圧力をかけ、今月に入ってミャンマーとの国境貿易ゲートの閉鎖に踏み切った。国軍と兄弟同盟との衝突に乗じて北部カチン州で、国軍に攻勢をかけていたカチン独立軍(KIA)のけん制にもつなげようとしているとされる。
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■中国圧力に反発
中国による停戦への圧力は「軍政寄り」だとして、国軍打倒を望む人々は同国への批判を強める。中国の介入がなければ、兄弟同盟などがミャンマーの第2都市マンダレーなど軍政の要衝に侵攻できたとみているようだ。
民主派系メディア「イラワジ」のアウンゾー編集長は今週の公開議論で、「中国は軍政をかいらい政権にしようとしている」と主張。少数民族武装勢力が米欧と接点を持つことを中国が嫌っており、諸民族と民主派を分断させようとしているとの見方を示した。同国がミンアウンフライン氏を招待しているとも指摘した。一方、今月発生したマンダレーの中国総領事館の建物が爆発物で一部損壊した事件について、国軍側の犯行の可能性があるとアピールした。
ミャンマーではクーデター後、「影の政府」として民主派政治組織「挙国一致政府(NUG)」が発足。正式な政府とは認められていないものの、米欧の支援を受けている。国軍に対する武装闘争を掲げるが、各地に結成された民主派武装組織「国民防衛隊(PDF)」を統率できておらず、長年国軍と戦い続けている少数民族武装勢力の協力が不可欠な状況だ。
■少数民族武装勢力の強大化
国軍は、クーデターとともに非暴力を掲げた民主派指導者アウンサンスーチー氏らを拘束。民意は武力による国軍打倒に傾いた。こうした中で、市民が頼ったのが各地の少数民族武装勢力だ。戦闘訓練を受けた若者らが結成したPDFは合わせて数百に上り、合算すれば構成員は数万人から10万人になるとされる。
ミャンマーには約20の少数民族武装勢力が存在し、民主派への協力姿勢には濃淡がある。だが、PDFを取り込みつつ規模を拡大した勢力もある。北西部チン州のチン民族戦線(CNF)や兄弟同盟の一角であるTNLAなどだ。国際シンクタンク「インターナショナル・クライシス・グループ(ICG)」は昨年9月のTNLAに関する報告で、同勢力がPDFを支援しつつ強大化を図っていると指摘した。
KIAの政治部門カチン独立機構(KIO)のエンバンラー議長は同機構結成から64年を迎えた25日の演説で、国軍打倒の考えをあらためて示し、「戦える者は全員参加してほしい」と話した。同勢力は09年のTNLAとAAの設立を支援し、クーデター後には北部ザガイン地域で活動するPDFなどに協力。中国の圧力を受けながらも民意を尊重する方針を打ち出してきた。
一方、ラウッカイを中核とするコーカン自治区やラショーを掌握したMNDAAは9月中旬、「NUGとは軍事的にも政治的にも協力しない」と表明した。同勢力は、作戦1027に対する中立の立場を表明したワ州連合軍(UWSA)と同じ漢民族系で、中国とのつながりが特に強い。
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ビジネス全般人事労務