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【メトロ開通】初の地下鉄、随所に匠の技日本式メトロ、ついに開業(上)

ベトナム南部ホーチミン市で初の都市鉄道(メトロ、地下鉄)1号線が22日、開業した。都市鉄道は首都ハノイの2路線に次ぎ同国で3路線目だが、地下鉄が開通するのは初めて。2000年代半ばの計画当初から日本の官民が支援しており、円借款による資金支援だけでなく、設計から施工、運営会社の設立などを一貫して支えた。駅舎や車両など至るところに日本の技術の粋がちりばめられた初の都市鉄道の登場に、大勢の市民が競うように試乗に訪れた。

ホーチミン市都市鉄道1号線が開通した=22日、ホーチミン市

1号線の起点は観光地として有名な1区ベンタイン市場の地下にあるベンタイン中央駅。三井住友建設などが手がけた駅舎には地上部分にベトナムの国花であるハスの花を模した天窓があり、地下1階の改札前の広場に陽光を降りそそぐ。
ベトナム文化を象徴するような内装は1号線の至るところに取れ入れられており、地場メディアは開通前から話題に取り上げた。日本の技術者たちが趣向を凝らしたデザインを、国際協力機構(JICA)ベトナム事務所の福田千尋次長は「まるで美術館のようで東南アジア随一ではないか」と胸を張る。
地下駅のプラットホームには転落防止のためのホーム柵が設置されている。ハノイのメトロ2路線にはホーム柵はなく、ベトナムで初。3両編成の列車が乗り入れドアが開くと、待ち構えていた乗客たちが一斉になだれ込んだ。
■車両は山口県で製造

ベンタイン駅の天窓の下でライブ演奏が開かれた=22日、ホーチミン市

車両は、瀬戸内海に面した山口県下松市にある日立製作所笠戸事業所で製造された。外観は日本で見慣れた色彩だが、座席は固いプラスチック製で、頭上の網棚がないなどの独自の仕様もある。清掃の容易さや乗客の忘れ物防止などが目的だ。日本では1両1台の空調は常夏の気候に合わせて2台設置した。
地下区間は市街地にあるオペラハウスなどの下を通る。日立ホーチミン都市鉄道1号線プロジェクトオフィスの永澤一彦プロジェクトマネジャーは、「騒音や振動を抑えたいというホーチミン市都市鉄道管理局(MAUR)の強い要望があった」と振り返る。日立は、枕木をゴム製の防振箱を介して固定する日本式の騒音・防振技術を採用し、走行音や揺れを抑えた。
海抜が低く川に囲まれた市街地の軟弱地盤の地下の掘削も難工事だった。清水建設と前田建設工業の共同事業体(JV)は、受け持ったオペラハウス駅舎からバーソン駅舎(ホーチミン市1区)までの工区で、「シールド機」と呼ばれる日本製の大型掘削機を使って上下線2本のトンネルを781メートルずつくりぬいた。フランス統治時代からの歴史的建造物を避けながらの掘進で2本の貫通には1年余りがかかった。国土の狭い日本で発達を遂げた掘削技術であるシールド工法がベトナムで生きた。
列車はベンタインから2駅目のバーソンを過ぎると地上に出て、住友商事などが建設した高架を走る。ハノイ・ハイウエー沿いに外国人が数多く住むタオディエンやアンフー、サイゴン・ハイテクパーク(SHTP)を通過し、終着駅のスオイティエン駅に着く。
1号線の総延長は19.7キロで、14駅を29分で結ぶ。車であれば40分はかかる距離だ。アンフー駅周辺に住みバーソン駅近くで働いているという女性(40)は「開業を楽しみにしていた。通勤で使いたい。車両の内装も色使いもとてもいい」と語った。

1号線の車両内。日本製だが独自の仕様も盛り込まれている=22日、ホーチミン市

■日本の鉄道技術を承継
1号線の総事業費は約2,120億円。日本は政府開発援助(ODA)として07年以降、4期に分けて総額1,966億円を上限とした借款を供与した。ベトナムに対する日本の円借款事業としては最大のプロジェクトとなる。
当初は15年1月の開業を目指したが、度重なる遅れで10年近く後ろ倒しされての開業となった。
工事が長引いた間に時代は進んだ。券売機は今はほぼ流通していない硬貨に対応している一方で、QRコードによる決済はできない。それでも工事受注の営業段階だった06年から1号線に関わってきた日立の永澤氏は「世界にも通用する鉄道システムを納入した」と強調する。信号システムには列車位置など各種情報を無線で伝送する「CBTC方式」を採用することで、将来の過密運転ダイヤにも対応できるという。
日立は最盛期には日本人や外国人も含めて350人体制で工事を続けた。永澤氏は工事受注から開通までの12年近い年月を振り返り、「ベトナム人スタッフたちはどこの海外の現場でも通用する人材になった。それが一番の財産」と力を込めた。
1号線の乗車料金は現金決済が片道7,000~2万ドンで、当初1カ月間は無料になる。

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1号線の起点は観光地として有名な1区ベンタイン市場の地下にあるベンタイン中央駅。三井住友建設などが手がけた駅舎には地上部分にベトナムの国花であるハスの花を模した天窓があり、地下1階の改札前の広場に陽光を降りそそぐ。
ベトナム文化を象徴するような内装は1号線の至るところに取れ入れられており、地場メディアは開通前から話題に取り上げた。日本の技術者たちが趣向を凝らしたデザインを、国際協力機構(JICA)ベトナム事務所の福田千尋次長は「まるで美術館のようで東南アジア随一ではないか」と胸を張る。
地下駅のプラットホームには転落防止のためのホーム柵が設置されている。ハノイのメトロ2路線にはホーム柵はなく、ベトナムで初。3両編成の列車が乗り入れドアが開くと、待ち構えていた乗客たちが一斉になだれ込んだ。
■車両は山口県で製造[caption id="attachment_23954" align="aligncenter" width="620"]ベンタイン駅の天窓の下でライブ演奏が開かれた=22日、ホーチミン市[/caption]
車両は、瀬戸内海に面した山口県下松市にある日立製作所笠戸事業所で製造された。外観は日本で見慣れた色彩だが、座席は固いプラスチック製で、頭上の網棚がないなどの独自の仕様もある。清掃の容易さや乗客の忘れ物防止などが目的だ。日本では1両1台の空調は常夏の気候に合わせて2台設置した。
地下区間は市街地にあるオペラハウスなどの下を通る。日立ホーチミン都市鉄道1号線プロジェクトオフィスの永澤一彦プロジェクトマネジャーは、「騒音や振動を抑えたいというホーチミン市都市鉄道管理局(MAUR)の強い要望があった」と振り返る。日立は、枕木をゴム製の防振箱を介して固定する日本式の騒音・防振技術を採用し、走行音や揺れを抑えた。
海抜が低く川に囲まれた市街地の軟弱地盤の地下の掘削も難工事だった。清水建設と前田建設工業の共同事業体(JV)は、受け持ったオペラハウス駅舎からバーソン駅舎(ホーチミン市1区)までの工区で、「シールド機」と呼ばれる日本製の大型掘削機を使って上下線2本のトンネルを781メートルずつくりぬいた。フランス統治時代からの歴史的建造物を避けながらの掘進で2本の貫通には1年余りがかかった。国土の狭い日本で発達を遂げた掘削技術であるシールド工法がベトナムで生きた。
列車はベンタインから2駅目のバーソンを過ぎると地上に出て、住友商事などが建設した高架を走る。ハノイ・ハイウエー沿いに外国人が数多く住むタオディエンやアンフー、サイゴン・ハイテクパーク(SHTP)を通過し、終着駅のスオイティエン駅に着く。
1号線の総延長は19.7キロで、14駅を29分で結ぶ。車であれば40分はかかる距離だ。アンフー駅周辺に住みバーソン駅近くで働いているという女性(40)は「開業を楽しみにしていた。通勤で使いたい。車両の内装も色使いもとてもいい」と語った。
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■日本の鉄道技術を承継
1号線の総事業費は約2,120億円。日本は政府開発援助(ODA)として07年以降、4期に分けて総額1,966億円を上限とした借款を供与した。ベトナムに対する日本の円借款事業としては最大のプロジェクトとなる。
当初は15年1月の開業を目指したが、度重なる遅れで10年近く後ろ倒しされての開業となった。
工事が長引いた間に時代は進んだ。券売機は今はほぼ流通していない硬貨に対応している一方で、QRコードによる決済はできない。それでも工事受注の営業段階だった06年から1号線に関わってきた日立の永澤氏は「世界にも通用する鉄道システムを納入した」と強調する。信号システムには列車位置など各種情報を無線で伝送する「CBTC方式」を採用することで、将来の過密運転ダイヤにも対応できるという。
日立は最盛期には日本人や外国人も含めて350人体制で工事を続けた。永澤氏は工事受注から開通までの12年近い年月を振り返り、「ベトナム人スタッフたちはどこの海外の現場でも通用する人材になった。それが一番の財産」と力を込めた。
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