浙江省義烏市にある世界最大の雑貨卸売市場「義烏国際商貿城」。1日平均で22万人以上が訪れるこの市場の一角に昨年、日本製品を専門に扱う店舗が誕生した。卸売り・仕入れサイトを運営するオークファン(東京都品川区)が運営する「日本国家館」だ。オンラインとリアルの組み合わせによる強みを生かし、日本の商品を紹介。外国人バイヤーを通して世界各国ともつながる義烏を足がかりに、中国以外の海外向け販路開拓支援もうかがう。
オークファンが義烏国際商貿城で運営する日本国家館の外観=1月、浙江省義烏市
義烏国際商貿城は複数の巨大なビルからなる市場で、現在1区から5区まで5つのブロックがある。1区の1階は玩具問屋街、4区の3階は靴問屋街といった具合に、各ブロックのフロアごとに扱う商品が分かれている。2024年時点で計7万5,000の店舗があり、その面積の合計は約640万平方メートルと、東京ドーム137個分に相当する。
外国製品を扱う店舗は、5区の1階に集中。ワインから食料品、食器類、衣類、民芸品までさまざまな商品が並ぶ。その中には「カナダ国家館」「パキスタン国家館」など、政府機関のお墨付きを得て国家館を名乗る店舗も複数ある。
「日本国家館」はその一角に24年5月のプレオープンを経て、8月に正式オープンした。日本製品を扱う店舗は他にも複数あるが、在中国日本大使館に届け出て「日本国家館」を名乗るのはここだけ。王祺館長によると、現在は生活雑貨から化粧品類、清掃用品、健康食品に至るまで、SKU(最小管理単位)で約1万点の商品を取り扱っている。
■オンラインとリアル双方の強み
「日本国家館」の強みは、オンラインのツールを兼ね備えていること。海外に販路を求めたくても、決済システムの整備や物流コスト、言葉の壁、通関の煩雑さなどから二の足を踏む企業は少なくない。販路を開いてもマーケティングや販促活動を続けていく必要がある。こうした点が壁になり、巨大市場の中国にも未進出の企業はまだ多数ある。
オークファンはこうした企業の中国市場進出を容易にするため、まず23年11月に日本企業と中国の小売店やバイヤーをつなぐ企業間取引(BtoB)輸出オンラインプラットフォーム「NETSEA CHINA」をリリース。「日本国内での販売業務とほとんど変わらない形で中国市場への進出・販路拡大を実現」(同社)できるようにした。
日本国家館の開設はこれと両輪になるリアルでの取り組み。商品の現物を手に取ったり、スタッフに問い合わせたりすることで「より直感的な商品体験」を得ることができるため、商機の拡大が期待できるという。
インテリア関連製品のスミノエインテリアプロダクツ(大阪市西区)は、日本市場が縮小する中、海外輸出の足掛かりをつかむため、日本国家館への出品を決めた。「輸出に関するノウハウがなく困っていたところ、オークファンの担当者から声がかかった。オンラインとリアルの双方で販売できるのが面白いと感じた」(東日本リビング部の石橋謙一部長)。
現在は、マットやラグを出品している。単価が比較的高いこともあり、商品の良さを理解してもらうには時間がかかるとみているが、魅力が伝わるポップを設けるなどしてバイヤーにアピールしていきたい考え。今後はより小さなキッチンマットなども売り込みたいという。
日本国家館で展示する商品を手に取る中国人客=1月、浙江省義烏市
■サンプル商品の販売が可能に
日本国家館では最近、大きな前進があった。一般貿易商品の取り扱いを開始したことだ。当初は企業・消費者間取引(BtoC)向けの電子商取引(EC)サイト運営業者向けに卸すことを前提とした越境EC商品を取り扱っていた。この場合、一定額以内であれば税制面での優遇が受けられるメリットはあるものの、オンライン上でしか決済できないため、店頭でサンプルとなる商品を購入し、実物を確かめるのが難しかった。
一般貿易商品は関税の対象になるものの、取引の上限額はなく、リアルでの決済も可能。このためバイヤーは気に入ったらすぐにサンプルを購入でき、出品企業にとっては顧客獲得の機会が広がる。中国国内に在庫がある一般貿易商品であれば、数日以内で商品の配送も可能になる。今後は商品ラインアップを拡大し、日本の地方の特産品やサブカルチャー関連のグッズなども取り扱いたい考え。
■海外バイヤーも関心
日本国家館での出品を通して、中国本土だけでなく、海外のバイヤーに対してアピールできるのも特長だ。
義烏市の常住人口は23年時点で190万3,000人、うち常住する外国人バイヤーは2万1,000人。同年に義烏を訪問した外国人バイヤーも延べ36万8,700人に上った。特に中央アジアや中東のバイヤーが多く、中心部には中東料理の店が立ち並び、中国最大級とされるモスクもある。ある意味、北京や上海よりも外国人を身近に感じる町だ。
日本国家館が入居する義烏国際商貿城の5区の建物入り口=1月、浙江省義烏市
日本国家館にも、既に多くの外国人バイヤーや、海外と取引する中国企業が訪れている。王館長によると、「カザフスタンのバイヤーが骨盤サポートクッションに関心を示すなどの反応があった」。ロシアのバイヤーはほうろう製品に、北朝鮮との貿易に従事する中国企業がシャンプーやコンディショナーに関心を抱くなどした。
日本ではあまり知られていないが、義烏は中国屈指の「富裕層が多い町」。都市部の24年の1人当たり可処分所得は9万7,170元(約203万4,000円)で、北京(9万2,464元)や上海(9万3,095元)を上回っている。高品質の日本製品を売り込む「ショーウインドー」としては申し分ない都市でもある。
中国全体では、小売売上高の24年の成長率が23年の7.2%から3.5%に半減するなど景気低迷が続く。義烏の小売売上高は24年の成長率が5.5%と、23年の4.8%からは上向いたが、以前のような勢いには欠ける。王館長も「現在は日用品など単価の安い、比較的リーズナブルな商品への関心が高い」と認める。ただ、化粧品などは、価格は高くても質の良いものを求める傾向があるという。
景気低迷やECの普及もあり、以前ほどのにぎわいはないともいわれる国際商貿城だが、それでも春節(旧正月)連休による休業明け初日の2月9日、昨年を上回る23万5,000人が訪れた。オークファンでは、中国向けの越境EC事業はまだ拡大するとみて、今後中国国際輸入博覧会(CIIE)をはじめ各種展示会でのプロモーションに力を入れるほか、中国の他都市で「日本国家館」を展開していくことも検討するという。
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外国製品を扱う店舗は、5区の1階に集中。ワインから食料品、食器類、衣類、民芸品までさまざまな商品が並ぶ。その中には「カナダ国家館」「パキスタン国家館」など、政府機関のお墨付きを得て国家館を名乗る店舗も複数ある。
「日本国家館」はその一角に24年5月のプレオープンを経て、8月に正式オープンした。日本製品を扱う店舗は他にも複数あるが、在中国日本大使館に届け出て「日本国家館」を名乗るのはここだけ。王祺館長によると、現在は生活雑貨から化粧品類、清掃用品、健康食品に至るまで、SKU(最小管理単位)で約1万点の商品を取り扱っている。
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「日本国家館」の強みは、オンラインのツールを兼ね備えていること。海外に販路を求めたくても、決済システムの整備や物流コスト、言葉の壁、通関の煩雑さなどから二の足を踏む企業は少なくない。販路を開いてもマーケティングや販促活動を続けていく必要がある。こうした点が壁になり、巨大市場の中国にも未進出の企業はまだ多数ある。
オークファンはこうした企業の中国市場進出を容易にするため、まず23年11月に日本企業と中国の小売店やバイヤーをつなぐ企業間取引(BtoB)輸出オンラインプラットフォーム「NETSEA CHINA」をリリース。「日本国内での販売業務とほとんど変わらない形で中国市場への進出・販路拡大を実現」(同社)できるようにした。
日本国家館の開設はこれと両輪になるリアルでの取り組み。商品の現物を手に取ったり、スタッフに問い合わせたりすることで「より直感的な商品体験」を得ることができるため、商機の拡大が期待できるという。
インテリア関連製品のスミノエインテリアプロダクツ(大阪市西区)は、日本市場が縮小する中、海外輸出の足掛かりをつかむため、日本国家館への出品を決めた。「輸出に関するノウハウがなく困っていたところ、オークファンの担当者から声がかかった。オンラインとリアルの双方で販売できるのが面白いと感じた」(東日本リビング部の石橋謙一部長)。
現在は、マットやラグを出品している。単価が比較的高いこともあり、商品の良さを理解してもらうには時間がかかるとみているが、魅力が伝わるポップを設けるなどしてバイヤーにアピールしていきたい考え。今後はより小さなキッチンマットなども売り込みたいという。
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日本国家館では最近、大きな前進があった。一般貿易商品の取り扱いを開始したことだ。当初は企業・消費者間取引(BtoC)向けの電子商取引(EC)サイト運営業者向けに卸すことを前提とした越境EC商品を取り扱っていた。この場合、一定額以内であれば税制面での優遇が受けられるメリットはあるものの、オンライン上でしか決済できないため、店頭でサンプルとなる商品を購入し、実物を確かめるのが難しかった。
一般貿易商品は関税の対象になるものの、取引の上限額はなく、リアルでの決済も可能。このためバイヤーは気に入ったらすぐにサンプルを購入でき、出品企業にとっては顧客獲得の機会が広がる。中国国内に在庫がある一般貿易商品であれば、数日以内で商品の配送も可能になる。今後は商品ラインアップを拡大し、日本の地方の特産品やサブカルチャー関連のグッズなども取り扱いたい考え。
■海外バイヤーも関心
日本国家館での出品を通して、中国本土だけでなく、海外のバイヤーに対してアピールできるのも特長だ。
義烏市の常住人口は23年時点で190万3,000人、うち常住する外国人バイヤーは2万1,000人。同年に義烏を訪問した外国人バイヤーも延べ36万8,700人に上った。特に中央アジアや中東のバイヤーが多く、中心部には中東料理の店が立ち並び、中国最大級とされるモスクもある。ある意味、北京や上海よりも外国人を身近に感じる町だ。
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日本国家館にも、既に多くの外国人バイヤーや、海外と取引する中国企業が訪れている。王館長によると、「カザフスタンのバイヤーが骨盤サポートクッションに関心を示すなどの反応があった」。ロシアのバイヤーはほうろう製品に、北朝鮮との貿易に従事する中国企業がシャンプーやコンディショナーに関心を抱くなどした。
日本ではあまり知られていないが、義烏は中国屈指の「富裕層が多い町」。都市部の24年の1人当たり可処分所得は9万7,170元(約203万4,000円)で、北京(9万2,464元)や上海(9万3,095元)を上回っている。高品質の日本製品を売り込む「ショーウインドー」としては申し分ない都市でもある。
中国全体では、小売売上高の24年の成長率が23年の7.2%から3.5%に半減するなど景気低迷が続く。義烏の小売売上高は24年の成長率が5.5%と、23年の4.8%からは上向いたが、以前のような勢いには欠ける。王館長も「現在は日用品など単価の安い、比較的リーズナブルな商品への関心が高い」と認める。ただ、化粧品などは、価格は高くても質の良いものを求める傾向があるという。
景気低迷やECの普及もあり、以前ほどのにぎわいはないともいわれる国際商貿城だが、それでも春節(旧正月)連休による休業明け初日の2月9日、昨年を上回る23万5,000人が訪れた。オークファンでは、中国向けの越境EC事業はまだ拡大するとみて、今後中国国際輸入博覧会(CIIE)をはじめ各種展示会でのプロモーションに力を入れるほか、中国の他都市で「日本国家館」を展開していくことも検討するという。"
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