中国の李強首相は5日、北京市で開かれた第14期全国人民代表大会(全人代、国会に相当)第3回会議で政府活動報告(施政方針演説に相当)を行い、今年の国内総生産(GDP)の実質成長率目標を「前年比5%前後」に設定したと発表した。同じ目標値の設定は3年連続となった。GDPに対する財政赤字率は4%前後と定め、前年の3%から引き上げた。内需拡大策などを含む景気下支えに向けた資金投入を強める方針だ。
中国政府は2000年代初期から全人代でその年の成長率目標を発表することを習慣化。近年は中国経済の成長力が峠を越したことを背景に目標を引き下げる傾向にある中で、3年連続で同じ目標を掲げた。市場の事前予測通りの目標設定になった。
李氏は24年の経済規模が着実に拡大したと成果を肯定したものの、国内外で困難と試練に直面しているとも説明。ただ経済が長期的に堅調に推移するという基調に変化はなく、需要の高度化などをはじめ経済が大きく成長する余地はあると述べた。
中国国家発展改革委員会(発改委)は同日に行った25年度国民経済・社会発展計画案の報告で、25年の成長率目標は「雇用の安定やリスクの防止、民生の改善などを考慮して設定した」と説明した。
今年は積極的な財政政策を実施することを目的に、GDPに対する財政赤字率を4%前後に設定。前年の3%から引き上げた。政府債券の増発などを通じて財政面からの支援を強めることで、経済の押し上げを図る考えだ。今年の政府債務の新規増加分は計11兆8,600億元(約245兆円)。前年から2兆9,000億元増える。
今年の政府活動の任務としては「消費押し上げと投資効果の向上に力を入れ、内需を全面的に拡大する」ことを第一の項目に掲げた。
内需拡大に向けた措置の資金を増やす。一般会計に計上されない「超長期特別国債」は今年1兆3,000億元発行し、前年から3,000億元積み増す。超長期特別国債で調達した資金のうち消費財の買い替え補助には2倍の3,000億元を投じる計画。自動車や家電などの購入支援が拡大することになる。
消費の押し上げに向けては消費能力の向上、消費環境の改善などに関する特別措置を実施する。耐久財消費の安定、サービス消費の拡大、新しいタイプの消費の開拓、公共消費の合理的な増加を図り、消費の高度化を推進する。
都市ごとに不動産消費の制限措置を調整・削減するなどして住宅需要を喚起するほか、自動車取得制限管理政策の改善や充電インフラの整備などを通じて自動車消費を促す。
サービス消費の開拓加速では文化・観光、健康、高齢者サービス、保育、家事代行、デジタルの分野を列挙。休暇制度の実施と改善に取り組み、スポーツなどの潜在需要を喚起する。インバウンド(訪中旅行)の消費拡大も推進する。
効果的な投資にも力を入れる。超長期特別国債の調達資金の残りは大規模な設備更新に前年比500億元増の2,000億元、「国家重要戦略の実施と重点分野の安全保障能力整備」に8,000億元をそれぞれ充てる。中央予算枠内投資は350億元増の7,350億元とする。鉄道や原子力発電、水利、環境保護、貯蔵・物流、新型インフラ、公共サービスなどの分野で民間資本の参加を誘致する重要事業を展開するほか、官民連携(PPP)の新たな仕組みをつくる。
特別国債は5,000億元発行し、国有大型商業銀行の資本注入に充てる。不動産分野などに積極的な融資を促す考えとみられる。「専項債券(レベニュー債、各地の省級政府がインフラ関連などの事業目的別に発行する債券)」の発行枠は前年から5,000億元増やして4兆4,000億元に設定。建設投資や土地収用・住宅在庫の買い上げ、企業への未払い金支払いに調達資金を重点的に充てる。
国内景気に関わる指標の目標は、◇消費者物価指数(CPI)の上昇率:2%前後◇個人所得の増加率:経済成長と同ペース◇都市部新規就業者数:1,200万人以上◇都市部調査失業率:5.5%前後——などと定めた。前年とほぼ同じ設定だが、CPI上昇率は24年目標の3%前後から引き下げた。デフレ圧力が強まっている現状を反映した形だ。
■適度な金融緩和策を
今年は適度な金融緩和策を実施する。預金準備率(中央銀行が金融機関から強制的に預かる預金の割合)と政策金利を適時に引き下げ、潤沢な流動性を維持すると表明。企業・個人の資金調達総額と通貨供給量(マネーサプライ)が経済成長率、物価水準の目標とつり合うようにして、民間の資金調達のコスト減を推し進める。関連政策によって不動産市場と株式市場の健全発展を促すことにも触れた。
民生重視というマクロ政策の方向性を強化し、雇用拡大、住民の収入増・負担減の促進と消費奨励の強化を支援。経済成長と民生改善の好循環を形成する。
今年のその他の政府任務としては、◇人工知能(AI)や第6世代(6G)移動通信システムを含む新興・未来産業の成長・育成◇AIを活用した次世代スマート端末とインテリジェント製造装置の発展◇在来産業の高度化推進◇基幹核心技術・先端技術・破壊的技術の研究開発強化(ハイレベルの科学技術の自立自強推進)◇人材の質向上◇民間経済の発展を促す政策措置の実行◇ハイレベルな対外開放の拡大◇貿易の安定化——などに取り組むと表明した。
不動産市場の下落に歯止めをかけることや地方政府の債務リスクを穏当に解消すること、外資の投資を奨励することも盛り込んだ。
幅広い業界で広がる「内巻式」と呼ばれる行き過ぎた価格競争に対しては、「過当競争の総合対策を行う」と強調した。
■全国予算収入ほぼ横ばい
財政省が同日行った25年度中央・地方予算案の報告によると、25年の中央と地方を合わせた全国の一般公共予算(一般会計)の収入は前年の執行額に比べ0.1%増の21兆9,850億元とする。内訳は中央が3.5%減の9兆6,960億元、地方が3%増の12兆2,890億元。
全国の一般公共予算に他予算からの繰入金、前年からの繰越金などを加えた歳入は24兆405億元となる。
全国の一般公共予算の歳出は前年比4.4%増の29兆7,005億元で、5兆6,600億元の財政赤字となる。赤字額は前年比で1兆6,000億元増える。
■次の5カ年計画編成へ
李氏は今年が第14次5カ年計画(21~25年)の最終年であることを踏まえ、年内に第15次5カ年計画(26~30年)の編成を開始すると表明した。発展目標を科学的に設定し、重要な戦略的任務、重要な政策措置、重要プロジェクトをしっかりと企画・立案すると説明した。

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李氏は24年の経済規模が着実に拡大したと成果を肯定したものの、国内外で困難と試練に直面しているとも説明。ただ経済が長期的に堅調に推移するという基調に変化はなく、需要の高度化などをはじめ経済が大きく成長する余地はあると述べた。
中国国家発展改革委員会(発改委)は同日に行った25年度国民経済・社会発展計画案の報告で、25年の成長率目標は「雇用の安定やリスクの防止、民生の改善などを考慮して設定した」と説明した。
今年は積極的な財政政策を実施することを目的に、GDPに対する財政赤字率を4%前後に設定。前年の3%から引き上げた。政府債券の増発などを通じて財政面からの支援を強めることで、経済の押し上げを図る考えだ。今年の政府債務の新規増加分は計11兆8,600億元(約245兆円)。前年から2兆9,000億元増える。
今年の政府活動の任務としては「消費押し上げと投資効果の向上に力を入れ、内需を全面的に拡大する」ことを第一の項目に掲げた。
内需拡大に向けた措置の資金を増やす。一般会計に計上されない「超長期特別国債」は今年1兆3,000億元発行し、前年から3,000億元積み増す。超長期特別国債で調達した資金のうち消費財の買い替え補助には2倍の3,000億元を投じる計画。自動車や家電などの購入支援が拡大することになる。
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都市ごとに不動産消費の制限措置を調整・削減するなどして住宅需要を喚起するほか、自動車取得制限管理政策の改善や充電インフラの整備などを通じて自動車消費を促す。
サービス消費の開拓加速では文化・観光、健康、高齢者サービス、保育、家事代行、デジタルの分野を列挙。休暇制度の実施と改善に取り組み、スポーツなどの潜在需要を喚起する。インバウンド(訪中旅行)の消費拡大も推進する。
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特別国債は5,000億元発行し、国有大型商業銀行の資本注入に充てる。不動産分野などに積極的な融資を促す考えとみられる。「専項債券(レベニュー債、各地の省級政府がインフラ関連などの事業目的別に発行する債券)」の発行枠は前年から5,000億元増やして4兆4,000億元に設定。建設投資や土地収用・住宅在庫の買い上げ、企業への未払い金支払いに調達資金を重点的に充てる。
国内景気に関わる指標の目標は、◇消費者物価指数(CPI)の上昇率:2%前後◇個人所得の増加率:経済成長と同ペース◇都市部新規就業者数:1,200万人以上◇都市部調査失業率:5.5%前後——などと定めた。前年とほぼ同じ設定だが、CPI上昇率は24年目標の3%前後から引き下げた。デフレ圧力が強まっている現状を反映した形だ。
■適度な金融緩和策を
今年は適度な金融緩和策を実施する。預金準備率(中央銀行が金融機関から強制的に預かる預金の割合)と政策金利を適時に引き下げ、潤沢な流動性を維持すると表明。企業・個人の資金調達総額と通貨供給量(マネーサプライ)が経済成長率、物価水準の目標とつり合うようにして、民間の資金調達のコスト減を推し進める。関連政策によって不動産市場と株式市場の健全発展を促すことにも触れた。
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不動産市場の下落に歯止めをかけることや地方政府の債務リスクを穏当に解消すること、外資の投資を奨励することも盛り込んだ。
幅広い業界で広がる「内巻式」と呼ばれる行き過ぎた価格競争に対しては、「過当競争の総合対策を行う」と強調した。
■全国予算収入ほぼ横ばい
財政省が同日行った25年度中央・地方予算案の報告によると、25年の中央と地方を合わせた全国の一般公共予算(一般会計)の収入は前年の執行額に比べ0.1%増の21兆9,850億元とする。内訳は中央が3.5%減の9兆6,960億元、地方が3%増の12兆2,890億元。
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■次の5カ年計画編成へ
李氏は今年が第14次5カ年計画(21~25年)の最終年であることを踏まえ、年内に第15次5カ年計画(26~30年)の編成を開始すると表明した。発展目標を科学的に設定し、重要な戦略的任務、重要な政策措置、重要プロジェクトをしっかりと企画・立案すると説明した。
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