ヤクルト本社によれば2021年、インドネシアでの乳酸菌飲料「ヤクルト」の販売本数が過去最多を記録した。その数は1日平均で732万本超。同年では日本を除き、世界で巨大な市場の一つとなった。業績を支えるのは、顧客との対話を重ねて着実に売り上げる販売員「ヤクルトレディ」。問屋を介さずに店舗に直接納品して、細やかな対応に気を配る社員の存在も欠かせない。ヤクルトレディと、小売市場の中心的な存在である個人商店「ワルン」に納品するスタッフの営業活動を追いながら、好業績の秘訣(ひけつ)に迫った。【山本麻紀子】
ヤクルトレディ(右)が常連客にも丁寧に商品を説明して手渡しする(NNA撮影)
インドネシアで「ヤクルト」の21年の販売本数は前年比9%増となり、海外では最も多かった。現地法人インドネシアヤクルトの川口博史社長は、販売増の要因について「新型コロナウイルスの影響で人々の健康意識への関心が高まった」ことを最初に挙げる。
だが販売増を支えたのは、一時的な「コロナ特需」だけではない。現地への進出以来30年の販売を支えてきたのが「ヤクルトレディ」だ。21年12月末時点で1万1,626人が営業活動をしている。前年末から806人増えた。ヤクルトレディは自分の居住地域を担当するため、すでに誰かが活動している地域では新たな人員を補充していない。担当者がいない地域では、インドネシアヤクルトの社員が家庭を一軒一軒訪問して人材を採用している。
インドネシアヤクルトの川口社長(NNA撮影)
■常連客から300本の注文も
ヤクルトレディが販売する「ヤクルト」は、インドネシアでの売り上げ本数の約52%を占める。1人当たり1日平均で347本。5本入りパックを1日平均70パック売っている計算だ。
「こんにちは。お変わりないですか?」。ヤクルトレディが訪問した常連の家庭では、そんな何げないあいさつから会話が始まる。「孫が遊びに来て1日に2本も飲みたいと言うのだけど、大丈夫?」。お客さんの素朴な疑問にもヤクルトレディは丁寧に答え、最後に「奥さんも毎日1本、飲んでくださいね」とにっこり笑顔で伝える。
ヤクルトレディの手には「ヤクルト」の商品説明が詰まったマニュアル手帳。ただ単に商品を届けるのではなく、この手帳に記された商品に関する図解を示しながら毎回丁寧に説明する。地味な営業活動に見えるが、インドネシアでは日々築いた顧客との関係が大きな商談に結びつく。ジャカルタ南部を担当するアニさんは「宗教行事の日に大勢の来客があるからと、300本を予約してくれる常連さんもいる」と話す。
■代理店介さず「直納」
ヤクルトレディは住宅地の細い路地裏にある家庭も訪問している(NNA撮影)
小売店などの取引店数を堅調に伸ばしたことも、好業績を支えている。取引店数は3月末時点で27万2,580店。4年余り前の17年12月末に比べて8万7,000店以上も増えた。インドネシアでは昨今、ミニマーケット(小型スーパー)などの近代小売店が急速に増えているが、インドネシアヤクルトの取引店は、「ワルン」と呼ばれるトラディショナルマーケットが全体の6割を占める。
インドネシアヤクルトの社員が「ワルン」に納品する際には必ず、店内の冷蔵庫の掃除も行う(NNA撮影)
飲食品や日用品は通常、卸売業者を介して小売店に商品を納入するが、インドネシアヤクルトは、スーパーなどの近代小売店だけでなく、ワルンを含む全ての取引店舗を社員が訪れて直接納品する体制を取っているのが大きな特徴だ。時間と手間はかかるが、ヤクルトレディと同じく、社員が取引店を訪問するたびに、店主に細やかに商品知識を伝えるのがルーティン業務となっている。
社員2人1組で毎日40~50軒の店を巡回し、1週間で担当する店舗全てを回る。在庫状況を直接確認できるほか、常に新鮮な「ヤクルト」を店頭に置くためだ。ワルンでは店主と世間話をしながらも、冷蔵庫のガラス戸や庫内を掃除して、商品を整えて陳列することも欠かさない。
■値上げも影響は軽微
今年1月には、3年ぶりに1本当たり100ルピア(約1円)の値上げをしたものの、川口社長によれば「事前に周知したこともあり、販売本数への影響は軽微」という。ジャカルタ中心部で営業するワルンの店主は「1本2,000ルピアでばら売りしている。子どもがお小遣いで買えるし、たばこを買いに来たお客さんで釣り銭を受け取る代わりに1本買っていく人もいる」と話す。
一方で、近代小売店向けには8月から10本入りパックの販売を開始した。スーパーなどでは従来の5本入りを一度に2パック以上購入する人が少なくなかったからという。
販売本数は堅調に伸びているが、川口社長は「まだまだ満足していない」と話す。インドネシアは人口2億5,000万人以上を抱える巨大市場。日本を除けば世界最大の販売本数でも、人口の3%未満が1日1本購入しているに過ぎない。川口社長は「なるべく早い時期に、1日当たりの販売本数1,000万本を実現させたい」と意欲を見せている。
ワルンの店主(左)に商品説明を行うインドネシアヤクルトの社員(NNA撮影)
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インドネシアで「ヤクルト」の21年の販売本数は前年比9%増となり、海外では最も多かった。現地法人インドネシアヤクルトの川口博史社長は、販売増の要因について「新型コロナウイルスの影響で人々の健康意識への関心が高まった」ことを最初に挙げる。
だが販売増を支えたのは、一時的な「コロナ特需」だけではない。現地への進出以来30年の販売を支えてきたのが「ヤクルトレディ」だ。21年12月末時点で1万1,626人が営業活動をしている。前年末から806人増えた。ヤクルトレディは自分の居住地域を担当するため、すでに誰かが活動している地域では新たな人員を補充していない。担当者がいない地域では、インドネシアヤクルトの社員が家庭を一軒一軒訪問して人材を採用している。
[caption id="attachment_9693" align="aligncenter" width="620"]インドネシアヤクルトの川口社長(NNA撮影)[/caption]
■常連客から300本の注文も
ヤクルトレディが販売する「ヤクルト」は、インドネシアでの売り上げ本数の約52%を占める。1人当たり1日平均で347本。5本入りパックを1日平均70パック売っている計算だ。
「こんにちは。お変わりないですか?」。ヤクルトレディが訪問した常連の家庭では、そんな何げないあいさつから会話が始まる。「孫が遊びに来て1日に2本も飲みたいと言うのだけど、大丈夫?」。お客さんの素朴な疑問にもヤクルトレディは丁寧に答え、最後に「奥さんも毎日1本、飲んでくださいね」とにっこり笑顔で伝える。
ヤクルトレディの手には「ヤクルト」の商品説明が詰まったマニュアル手帳。ただ単に商品を届けるのではなく、この手帳に記された商品に関する図解を示しながら毎回丁寧に説明する。地味な営業活動に見えるが、インドネシアでは日々築いた顧客との関係が大きな商談に結びつく。ジャカルタ南部を担当するアニさんは「宗教行事の日に大勢の来客があるからと、300本を予約してくれる常連さんもいる」と話す。
■代理店介さず「直納」
[caption id="attachment_9694" align="aligncenter" width="620"]ヤクルトレディは住宅地の細い路地裏にある家庭も訪問している(NNA撮影)[/caption]
小売店などの取引店数を堅調に伸ばしたことも、好業績を支えている。取引店数は3月末時点で27万2,580店。4年余り前の17年12月末に比べて8万7,000店以上も増えた。インドネシアでは昨今、ミニマーケット(小型スーパー)などの近代小売店が急速に増えているが、インドネシアヤクルトの取引店は、「ワルン」と呼ばれるトラディショナルマーケットが全体の6割を占める。
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社員2人1組で毎日40~50軒の店を巡回し、1週間で担当する店舗全てを回る。在庫状況を直接確認できるほか、常に新鮮な「ヤクルト」を店頭に置くためだ。ワルンでは店主と世間話をしながらも、冷蔵庫のガラス戸や庫内を掃除して、商品を整えて陳列することも欠かさない。
■値上げも影響は軽微
今年1月には、3年ぶりに1本当たり100ルピア(約1円)の値上げをしたものの、川口社長によれば「事前に周知したこともあり、販売本数への影響は軽微」という。ジャカルタ中心部で営業するワルンの店主は「1本2,000ルピアでばら売りしている。子どもがお小遣いで買えるし、たばこを買いに来たお客さんで釣り銭を受け取る代わりに1本買っていく人もいる」と話す。
一方で、近代小売店向けには8月から10本入りパックの販売を開始した。スーパーなどでは従来の5本入りを一度に2パック以上購入する人が少なくなかったからという。
販売本数は堅調に伸びているが、川口社長は「まだまだ満足していない」と話す。インドネシアは人口2億5,000万人以上を抱える巨大市場。日本を除けば世界最大の販売本数でも、人口の3%未満が1日1本購入しているに過ぎない。川口社長は「なるべく早い時期に、1日当たりの販売本数1,000万本を実現させたい」と意欲を見せている。
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