イオンはベトナムで電子商取引(EC)を強化する。2023年にECサイトやシステムを一新し、急速に広がるオンラインショッピングやキャッシュレス決済を囲い込む。現地法人イオンベトナムの古澤康之社長は、現在は売上高の数%にとどまるECの比率を早期に10%に引き上げる目標を掲げており、主役を担うネットスーパーをさらに充実させ、22年に投入した自社ブランドのオリジナル衣料品の販売を強化する方針を明らかにした。
イオンベトナムの古澤社長。競争が激しいベトナム市場で進化する必要性を強調する
——22年の業績をどう総括しているか。
22年1~6月は売上高に当たる営業収益が前年同期比4割増だった。売り上げはコロナ前の水準を上回っており、極めて好調だ。
ただし、2年に及んだ新型コロナ禍で消費者の習慣は変わった。買い物の頻度が減った分、1回当たりの単価が増えた。夜8時以降の来店客数は減った一方で、昼間は増えている。
売れる商品にも変化がある。自宅で簡単に食べられる冷凍食品や総菜、パンなどが伸びている。イオンのプライベートブランド(PB)「トップバリュ」のベトナム向け商品については、専門の開発組織を22年から設置した。新組織が開発したシューマイやソーセージなどの販売を始めており、これからもどんどん商品数を増やしていく。
——若者向けの低価格衣料として「MY CLOSET(マイクローゼット)」という新たなPBを22年にスタートさせた。
反応は非常によく、売上高や粗利率が向上した。現在は2店舗に専用売り場を設置しているが、その他の店舗にも広げていきたい。
——価格帯は競合商品の2~3割程度安く設定している。
安いだけでなくトレンドを追いかけている。いろいろなおしゃれを試したいという若者のニーズにしっかり応えるというのがコンセプトなので、商品はどんどん入れ替わっていく。1カ月前にあった商品はほぼ残っていない。
——5月に首都ハノイで大型食品スーパー「イオン・ザ・ナイン」を開業した。食品スーパーとしてはハノイに展開している「マックスバリュ」の約4倍の1,200平方メートルある新たな店舗形態だ。
ベトナムではショッピングモールのような大規模施設の立地は限られている。マルチフォーマット(多様な形態)で店舗数を増やすという姿勢を見せるためにもザ・ナインという新しいフォーマットに挑戦した。
23年には、南部ビンズオン省でベカメックス東急(東急のベトナム法人)が開発する大型ショッピングセンター「ソラ・ガーデンズSC」内にさらに大きい店舗を開く。出店のチャンスは限られているので柔軟に形を変えて攻めていきたい。
■出店スピード、加速へ
——今後の出店計画は。
ソラ・ガーデンズSC店を皮切りに出店のスピードを上げる。ショッピングモールのイオンモールは現在の6カ所から25年までに16カ所に増える。自転車や化粧品などのイオンの専門店でも入っていく。(現在14店舗の)マックスバリュは100店舗を目指している。
消費者の意識も変化しているので同じことをやっては時代遅れになる。マイクローゼットやスポーツ用品の売り場など新しいコンテンツをどんどん作り出して、今までと違う形で出店できるよう準備していきたい。
——22年は買い物でためたポイントを割引券に変えるサービスをデジタル化した。23年以降はどう進めるのか。
イオンモールや、イオンファンタジーの遊戯施設などグループ共通でポイントを使えるようにして消費者のメリットを大きくすることを考えているが、実現のためには強いECが必要になる。ECがお客さんを呼び込んでくれるからだ。既存のECのシステムは対応できていない店舗があるなど不十分な点が多いので、作り直している。全ての大型店でECでの受注・配送ができるような体制に切り替えていく。23年前半にはスタートさせたい。
——ECの売上比率はどのように高めていくか。
現在は5%にも満たないが、早いうちに10%に引き上げたい。そのためには食品だけではなく「ここでしかない」商品を売る必要がある。切り口となるのがトップバリュなどのPB商品やマイクローゼットなどのオリジナルショップの商品だ。「マイクローゼットの売り場が近くにないからECで買いたい」というようなお客さまを増やしていきたい。
中国・北京イオンの社長を務めた14~18年には、ECやキャッシュレス決済が一気に普及するのを目の当たりにした。たった4年でものすごい勢いで普及した。ベトナムもそうなるのではないか。北京では18年時点でキャッシュレス決済の比率が8割近くあったが、ベトナムでは現時点で3割余りだ。何かのきっかけで爆発的に増える可能性がある。中国での経験を生かしていきたい。
■23年景気、厳しくなる
——23年の景気をどのようにみるか。
景気のトレンドは昨年10~11月に変わっており、1月下旬のテト(旧正月)が明ければ本当に厳しくなるのではないか。22年に始めた3カ月ぐらいの周期で特定の商品を値下げする取り組みが好評で、対象商品の売上構成比率が上がっている。節約志向が高まっているとみている。
一方で、日本産温州ミカンのように高くても順調に売れている商品もある。皮が薄い、種がない、甘いといった特徴があるからだ。お客さんに価値をしっかり説明することが重要になる。(聞き手=渡邉哲也)
◇◇ ◇
2022年はベトナムでウィズコロナへの移行が加速する一方で、ロシアのウクライナ侵攻とエネルギー価格の高騰など新たなリスクが顕在化しました。年末にかけては世界的なインフレや金利の上昇を受けてベトナム経済の減速が鮮明になっており、企業は対応を迫られております。ベトナムで事業展開する日系企業の現地責任者に23年の展望を聞きました。(随時掲載)
<会社概要>
イオンベトナム
2011年に総合小売業を手がけるイオンの現地法人としてホーチミン市で設立。14年1月にショッピングセンター「イオンモール・タンフーセラドン」内の総合スーパーとして1号店をオープンした。現在はハノイ、北部ハイフォン市、ビンズオン省でイオンモール内の総合スーパーのほか、食品スーパー「マックスバリュ」などを展開する。イオングループのコンビニエンスストア「ミニストップ」などを合わせた国内での店舗数は約200店舗。
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ただし、2年に及んだ新型コロナ禍で消費者の習慣は変わった。買い物の頻度が減った分、1回当たりの単価が増えた。夜8時以降の来店客数は減った一方で、昼間は増えている。
売れる商品にも変化がある。自宅で簡単に食べられる冷凍食品や総菜、パンなどが伸びている。イオンのプライベートブランド(PB)「トップバリュ」のベトナム向け商品については、専門の開発組織を22年から設置した。新組織が開発したシューマイやソーセージなどの販売を始めており、これからもどんどん商品数を増やしていく。
——若者向けの低価格衣料として「MY CLOSET(マイクローゼット)」という新たなPBを22年にスタートさせた。
反応は非常によく、売上高や粗利率が向上した。現在は2店舗に専用売り場を設置しているが、その他の店舗にも広げていきたい。
——価格帯は競合商品の2~3割程度安く設定している。
安いだけでなくトレンドを追いかけている。いろいろなおしゃれを試したいという若者のニーズにしっかり応えるというのがコンセプトなので、商品はどんどん入れ替わっていく。1カ月前にあった商品はほぼ残っていない。
——5月に首都ハノイで大型食品スーパー「イオン・ザ・ナイン」を開業した。食品スーパーとしてはハノイに展開している「マックスバリュ」の約4倍の1,200平方メートルある新たな店舗形態だ。
ベトナムではショッピングモールのような大規模施設の立地は限られている。マルチフォーマット(多様な形態)で店舗数を増やすという姿勢を見せるためにもザ・ナインという新しいフォーマットに挑戦した。
23年には、南部ビンズオン省でベカメックス東急(東急のベトナム法人)が開発する大型ショッピングセンター「ソラ・ガーデンズSC」内にさらに大きい店舗を開く。出店のチャンスは限られているので柔軟に形を変えて攻めていきたい。
■出店スピード、加速へ
——今後の出店計画は。
ソラ・ガーデンズSC店を皮切りに出店のスピードを上げる。ショッピングモールのイオンモールは現在の6カ所から25年までに16カ所に増える。自転車や化粧品などのイオンの専門店でも入っていく。(現在14店舗の)マックスバリュは100店舗を目指している。
消費者の意識も変化しているので同じことをやっては時代遅れになる。マイクローゼットやスポーツ用品の売り場など新しいコンテンツをどんどん作り出して、今までと違う形で出店できるよう準備していきたい。
——22年は買い物でためたポイントを割引券に変えるサービスをデジタル化した。23年以降はどう進めるのか。
イオンモールや、イオンファンタジーの遊戯施設などグループ共通でポイントを使えるようにして消費者のメリットを大きくすることを考えているが、実現のためには強いECが必要になる。ECがお客さんを呼び込んでくれるからだ。既存のECのシステムは対応できていない店舗があるなど不十分な点が多いので、作り直している。全ての大型店でECでの受注・配送ができるような体制に切り替えていく。23年前半にはスタートさせたい。
——ECの売上比率はどのように高めていくか。
現在は5%にも満たないが、早いうちに10%に引き上げたい。そのためには食品だけではなく「ここでしかない」商品を売る必要がある。切り口となるのがトップバリュなどのPB商品やマイクローゼットなどのオリジナルショップの商品だ。「マイクローゼットの売り場が近くにないからECで買いたい」というようなお客さまを増やしていきたい。
中国・北京イオンの社長を務めた14~18年には、ECやキャッシュレス決済が一気に普及するのを目の当たりにした。たった4年でものすごい勢いで普及した。ベトナムもそうなるのではないか。北京では18年時点でキャッシュレス決済の比率が8割近くあったが、ベトナムでは現時点で3割余りだ。何かのきっかけで爆発的に増える可能性がある。中国での経験を生かしていきたい。
■23年景気、厳しくなる
——23年の景気をどのようにみるか。
景気のトレンドは昨年10~11月に変わっており、1月下旬のテト(旧正月)が明ければ本当に厳しくなるのではないか。22年に始めた3カ月ぐらいの周期で特定の商品を値下げする取り組みが好評で、対象商品の売上構成比率が上がっている。節約志向が高まっているとみている。
一方で、日本産温州ミカンのように高くても順調に売れている商品もある。皮が薄い、種がない、甘いといった特徴があるからだ。お客さんに価値をしっかり説明することが重要になる。(聞き手=渡邉哲也)
◇◇ ◇
2022年はベトナムでウィズコロナへの移行が加速する一方で、ロシアのウクライナ侵攻とエネルギー価格の高騰など新たなリスクが顕在化しました。年末にかけては世界的なインフレや金利の上昇を受けてベトナム経済の減速が鮮明になっており、企業は対応を迫られております。ベトナムで事業展開する日系企業の現地責任者に23年の展望を聞きました。(随時掲載)
<会社概要>
イオンベトナム
2011年に総合小売業を手がけるイオンの現地法人としてホーチミン市で設立。14年1月にショッピングセンター「イオンモール・タンフーセラドン」内の総合スーパーとして1号店をオープンした。現在はハノイ、北部ハイフォン市、ビンズオン省でイオンモール内の総合スーパーのほか、食品スーパー「マックスバリュ」などを展開する。イオングループのコンビニエンスストア「ミニストップ」などを合わせた国内での店舗数は約200店舗。"
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