トヨタ自動車はインドネシアで、新車販売以外のアフターサービス、中古車販売、金融などからなる「バリューチェーン」に注力している。バリューチェーンはトヨタ全社の収益構造の約3分の1から半分近くを占める重要要素で、現地販売会社トヨタ・アストラ・モーター(TAM)は新車購入後3年間のメンテナンス提供や、純正に次ぐ第2ブランドの部品展開など、中長期的な顧客接点を拡大・強化している。足元の新車市場が伸び悩む中でも、直近10年で約330万台を販売した最大手トヨタは、バリューチェーンの増強でブランド力や競争力の向上を図る。
TAMは7月、バリューチェーン強化の新たな取り組みの一つとして、純正部品に次ぐ第2ブランド部品「T—OPT」の立ち上げを発表した。ブレーキパッド、燃料フィルター、エアフィルター、ワイパーブレードなど8品目53品番を展開する。正規ディーラーでは引き続きトヨタの純正部品を取り扱うが、トヨタの正規ディーラー出資の部品販売会社TASTIを通じて、パートナーとなる部品販売店や車両整備店など1,000店以上にT—OPTを広く流通させる。
TAMの大出浩之マーケティングディレクターは、メンテナンス部品は価格競争が激しいが、「十分に対応できる価格に設定できた」と自信を見せる。価格競争力があり品質も保たれたT—OPTで「お客さまへの安心感も提供したい」とした。
念頭にあるのは、特に新車購入4年目以降の顧客との接点を増やし、いかに高いリテンション率(既存顧客の維持率)を保てるかだ。TAMは2022年7月から「T—CARE」という名称で、購入後3年間で計7回の無料点検を含めたメンテナンスパッケージを、新車販売時に自動付帯して提供している。類似のサービスは以前からあったものの、分かりやすい名称に変更してディーラーでのメンテナンスを強化した。結果、現在までに定期点検の利用率は9割近くに達するなど、既存顧客の維持に貢献しているという。
ただ、インドネシアでは10年近くもしくはそれ以上同じ車に乗り続けることも珍しくない。新たに導入されたT—OPTの効果について、TAMの小林康一エグゼクティブコーディネーター(アフターセールスビジネス担当)は、「長くトヨタの車を乗っている人にも、一定以上の品質の部品を求めやすい価格で提供できる。お客さまの選択肢を増やしたことは大きい」と話す。
保有年数が長くなれば部品交換の際も、高品質で価格の高い純正部品を敬遠する傾向が強くなるという。また、オンライン販売など格安で流通している粗悪な部品に交換してしまい、かえって故障の原因にもなるリスクも懸念されるため、TAMは、T—OPTのような取り組みから、トヨタが関わるネットワークの中で中長期的な顧客接点の維持につながることを期待しているという。
バリューチェーンについて、トヨタ本社は決算資料の中で、全世界で1億台の車が保有されているという強みを生かし、「クルマ(車)の一生の中で、お客さまとのつながりを増やし、長期の関係を構築。クルマが社会インフラの一部になることで、新しい価値を高める」という方針を掲げている。車を取り囲む補給部品、金融、サービスなどの領域をバリューチェーンとして強化する。
■中古車販売、マインドセットを変える
バリューチェーンを強化する上で欠かせない要素が中古車事業だ。インドネシアでは現在、正規ディーラーによる資本で構成され、認定中古車の取り扱いも行う中古車販売会社「TRUST」が事業を展開。トヨタの合弁パートナーである複合企業のアストラ・インターナショナル傘下の「OLXmobbi」も独自の販売チャンネルを築いている。それぞれ58店舗、31店舗の店舗網をもつ。
TAMのシニアエグゼクティブコーディネーターの松村俊明氏は、「インドネシアの中古車市場はSNSなどを通じた個人間での取引や、地場事業者などによる取り扱いが多い」と解説する。そのため、今後、正規ディーラーが主導し、品質や価格の透明性を向上させて中古車への安心感を提供することのニーズは大きいとみている。
ただ、「これまで新車販売事業に注力してきたディーラーのマインドセットを変えていくことが重要」(松村氏)で、TAMがディーラーを教育するなど連携を強化している。新型コロナウイルスの影響で新車市場が落ち込む時期を経験したこともあり、中古車を含めたバリューチェーンの事業強化の必要性については、ディーラーからの理解も進んでいるという。
中古車販売事業では、まずディーラーが顧客の保有する車を適切に下取りすることが必要となる。現在はディーラーの査定能力を高めている段階にある。また、車両購入から数年が経過し関係が途絶えがちな顧客との接点を維持し、下取りにつなげるという点でも、前述のT—CAREやT—OPTは効果を発揮できると期待する。
■残価生かした金融サービスも視野
自動車ローンなど金融面を支える、トヨタ・アストラ・ファイナンシャル・サービス(TAFS)は、自動車ローン、ディーラー向け在庫融資といった主要ビジネスのほか、自動車担保融資「Siap Dana(シアップ・ダナ)」、フルサービスリース「KINTO」も展開する。
KINTOは、トヨタが掲げる伝統的な自動車メーカーから人やモノの移動全般を手がける「モビリティーカンパニー」への転換を見据え、新しい車の乗り方や買い方を提供するための取り組みで、インドネシアでは現在、車両メンテナンスや保険などを一括で提供するリースサービスを展開している。イスラム教徒の多いインドネシアに対応したシャリア(イスラム法)型も用意する。
このほかTAFSは、本体価格の一部をあらかじめ残価として据え置き、残りの金額を返済する「残価型ローン」も導入。毎月の返済額を抑えた支払いのしやすさと次の車への乗り換えのしやすさを訴求し、将来の代替需要喚起につなげる狙いがあるが、インドネシアではまだなじみの薄い仕組みで、今後の理解促進が必要とみている。
また、金融サービス提供時に必要となる保険もバリューチェーンの一環と位置付けている。事故に遭った車両をトヨタの純正部品で修理するトヨタ保険や、死亡時に残存債務返済を保証する信用生命保険などを取り扱っている。
TAFSの松下朋平副社長は、T—OPTなどの取り組みについて、「車両の品質維持に活用することができれば再販価格を維持でき、再販価格を維持できれば将来の車の残価にもつながる」と指摘。順調に進めば、残価を基に金融面でもより求めやすい形で車を提供するサポートができると述べた。ただ、知見やノウハウの蓄積が必要な段階であり、将来のバリューチェーンの発展につながることに期待を示した。
TAFSはトヨタ・ダイハツユーザー約25万人の顧客を有し、全国に40拠点を持つ。融資残高は現在、約3,000億円。23年の国内自動車ローン市場のうち、全体の融資額の8%程度がTAFSによるものだが、新車と中古車で分けると新車のシェアが11%、中古車が4%程度。今後はカバーしきれていない中古車向けの融資にも注力し、保有顧客データの拡大を狙う方針だ。
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