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【新首都】新ゲートウエーに倉庫誘致ヌサンタラ周辺に描く構想(1)

インドネシアのカリマンタン島東部で開発が進む新首都「ヌサンタラ」。2045年まで開発が続く計画で、同年の人口は191万人を見込む。政府は開発に伴い建材や消費財への需要が高まることを見通し、周辺地域に新たな物流ゲートウエー(玄関口)として統合型の倉庫開発などを構想する。国内外から投資誘致を図り、地域一帯を発展させていきたい考えだが、建設候補地の地権者との交渉が待ち受けるなど、一筋縄ではいかなそうだ。本特集では政府が掲げる新首都周辺のプロジェクト構想と現状を伝える。

首都の移転計画は、洪水や地盤沈下などで現在の首都ジャカルタの都市機能が限界を迎えていることや、ジャカルタの位置するジャワ島に経済が一極集中しているなどの問題から、ジョコ・ウィドド前政権下で踏み出した。
新首都の開発は22年から開始し、45年まで5段階(全9地域)に分けて続く計画。総面積は25万2,660ヘクタールで、うち都市部が5万6,159ヘクタールとなる。現在建設が進むのは9地域の1つ、中央行政地区(KIPP、6,671ヘクタール)だ。
総開発予算は466兆ルピア(約4兆4,500億円)で、うち2割を国家予算で、残りは民間投資で賄う方針。
約2年前には森林だった場所に都市を作り出す移転計画に伴い、政府は周辺地域も一帯となって発展させていきたい考えだ。こうした中、投資・下流化省は10月末に日系企業24社を連れて、新首都とその周辺で構想する投資誘致プロジェクト3件の候補地を視察した。


■新首都とバリクパパン間に物流拠点
1件目の構想は、新首都への新しい物流ゲートウエーとして、統合型の物流倉庫施設(コールドストレージ、石油ガス貯蔵庫含む)を開発するプロジェクトだ。石油ガス産業が盛んな物流ハブで商業都市でもある東カリマンタン州バリクパパン市の市街地の北部にある、新首都へ近い場所が候補地に挙げられている。
投資・下流化省の予備事業化調査によると、物流倉庫は工業地域内に設置し、一帯では農業、石油化学、食品産業などを発展させていく。
ただ、候補地の地権者はいずれも地域住民で、開発には交渉が必要となる。また現地を視察した日系不動産開発会社の関係者からは、候補地が谷のようになっていることから造成工事だけでも費用がかかるとの声も漏れた。
政府がここに倉庫を設けたい理由の1つが、約4キロメートル離れたところに東カリマンタン・カリアンガウ・ターミナル(KKT)があるためだ。12年から運営されており、新首都とバリクパパンの間にあることから、建材や食料品、生活必需品などの取扱量の増加が見込まれ、既に桟橋の拡張などの増設を計画している。
貨物取扱量は23年実績の20万8,439TEU(20フィートコンテナ換算)から29年までに4.6倍の約95万2,200TEUまで増加すると見込む。
投資・下流化省によると、現在のバリクパパン市の倉庫占有率は90%を超えている。KKTのソフヤン取締役は、バリクパパン市では倉庫が足りていないと指摘し、小規模な倉庫が各地に散らばっている状況で、統合された倉庫エリアはないと説明した。
一方、東カリマンタン州内で必要とされる物資の多くは島外から運ばれており、新首都の開発も伴いさらに倉庫が必要になっているという。予備事業化調査によるとコメの99.9%がジャワ島から、プレキャストや鉄鋼、セメントなどの建材はスラウェシやジャワ島から輸送されている。
またソフヤン氏は、バリクパパンには石油ガス産業や商業以外の産業が十分でないことから、コンテナが到着しても同ターミナルから積めるものがなく、空の状態で戻ることがありバリクパパンのコンテナ輸送コストが高騰していると指摘。そのため物価も相対的に高くなっているとして、産業の発展が課題と説明した。

新首都とバリクパパンの間に位置する東カリマンタン・カリアンガウ・ターミナル(KKT)=10月、東カリマンタン州(NNA撮影)

統合型の物流倉庫施設の候補地。奥ではアクセス高速道の建設が進められていた=10月、東カリマンタン州(NNA撮影)

■対岸には工業団地、不動産を構想
2、3件目の構想は、バリクパパンの対岸側に位置する工業団地と不動産開発だ。
投資・下流化省によると、前出の倉庫が位置する工業地域には土地に限りがあるため、新しい工業団地として北プナジャムパセル県プナジャム郡ブルミヌン区に工業団地を構想する。建材や農業、低炭素エネルギー、パーム油を優先産業として誘致したい考え。
特に新首都の開発で建材はプレキャストコンクリートが年間2,664万9,490トン必要になるなど需要は高まっているという。また、同県でトウモロコシとパーム油は主要産品となっており、他地域への供給や加工原料に使用できると見込む。
こうした工業団地や新首都の勤務者の需要を見越して構想されているのが、北プナジャムパセル県プナジャム郡スンガイ・パリット区の不動産(住宅、商業施設、オフィス、スポーツセンター)プロジェクトだ。予備事業化調査によると、同県の人口は20年時点の17万8,060人から30年までに5.1倍の91万6,180人になる見込みだが、23年時点で既に県内ではショッピングモールや住宅の供給が需要に追いついていないという。
いずれのプロジェクトも候補地の主な地権者は地域住民で交渉が必要になる。
工業団地の候補地を視察した日系の産業用不動産開発会社の関係者は、電力が不十分で送電線の引き込みなどインフラ整備の全体的なハードルが高いとの懸念も示した。また、アクセスの改善や対岸の開発がさらに進まないと厳しいとの声も聞こえた。

■新首都には期待感も様子見
視察会では、新首都の中央行政地区も視察した。中央行政地区では、これまでに大統領宮殿やホテル、病院などが完工している。8月には、独立記念日を祝う大規模な式典も執り行われた。
視察会に参加した三菱地所インドネシアの小多康顕社長はNNAに対し「開発状況を実際に目で見て、新首都開発への政府の本気、意気込みを感じた。重要な国家事業として位置付けられていることが実感できた」と述べた。続けて「あとは新政権下でも主要な国家事業として位置付けられていくのか、維持されていくのかというところは時間をかけて見極めていきたいと思っている」との見方を示した。
別の日系企業関係者は「まずは新首都で住宅ビジネス(のニーズ)が最初に来ると感じる。現在建設を進める公務員向けの社宅だけでは将来的には足りないため、低所得層に限らず、中所得層、高所得層など多様な層に向けた住宅ニーズがある」と述べた。
また、別の日系企業関係者は新首都への投資について、政権交代後も国家の重要事業として進んでいくのであれば将来的に事業化を考える余地はあるとしつつも、今後数年単位での検討は難しく、恐らく十数年単位で検討していくことになるとした。

国章の神鳥「ガルーダ」が翼を広げたイメージで設計された「イスタナ・ガルーダ」などが整備されている新首都「ヌサンタラ」の中央行政地区=10月、東カリマンタン州(NNA撮影)

中央行政地区内では、政権交代後も省庁や道路の整備などが進められている=10月、東カリマンタン州(NNA撮影)
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首都の移転計画は、洪水や地盤沈下などで現在の首都ジャカルタの都市機能が限界を迎えていることや、ジャカルタの位置するジャワ島に経済が一極集中しているなどの問題から、ジョコ・ウィドド前政権下で踏み出した。
新首都の開発は22年から開始し、45年まで5段階(全9地域)に分けて続く計画。総面積は25万2,660ヘクタールで、うち都市部が5万6,159ヘクタールとなる。現在建設が進むのは9地域の1つ、中央行政地区(KIPP、6,671ヘクタール)だ。
総開発予算は466兆ルピア(約4兆4,500億円)で、うち2割を国家予算で、残りは民間投資で賄う方針。
約2年前には森林だった場所に都市を作り出す移転計画に伴い、政府は周辺地域も一帯となって発展させていきたい考えだ。こうした中、投資・下流化省は10月末に日系企業24社を連れて、新首都とその周辺で構想する投資誘致プロジェクト3件の候補地を視察した。


■新首都とバリクパパン間に物流拠点
1件目の構想は、新首都への新しい物流ゲートウエーとして、統合型の物流倉庫施設(コールドストレージ、石油ガス貯蔵庫含む)を開発するプロジェクトだ。石油ガス産業が盛んな物流ハブで商業都市でもある東カリマンタン州バリクパパン市の市街地の北部にある、新首都へ近い場所が候補地に挙げられている。
投資・下流化省の予備事業化調査によると、物流倉庫は工業地域内に設置し、一帯では農業、石油化学、食品産業などを発展させていく。
ただ、候補地の地権者はいずれも地域住民で、開発には交渉が必要となる。また現地を視察した日系不動産開発会社の関係者からは、候補地が谷のようになっていることから造成工事だけでも費用がかかるとの声も漏れた。
政府がここに倉庫を設けたい理由の1つが、約4キロメートル離れたところに東カリマンタン・カリアンガウ・ターミナル(KKT)があるためだ。12年から運営されており、新首都とバリクパパンの間にあることから、建材や食料品、生活必需品などの取扱量の増加が見込まれ、既に桟橋の拡張などの増設を計画している。
貨物取扱量は23年実績の20万8,439TEU(20フィートコンテナ換算)から29年までに4.6倍の約95万2,200TEUまで増加すると見込む。
投資・下流化省によると、現在のバリクパパン市の倉庫占有率は90%を超えている。KKTのソフヤン取締役は、バリクパパン市では倉庫が足りていないと指摘し、小規模な倉庫が各地に散らばっている状況で、統合された倉庫エリアはないと説明した。
一方、東カリマンタン州内で必要とされる物資の多くは島外から運ばれており、新首都の開発も伴いさらに倉庫が必要になっているという。予備事業化調査によるとコメの99.9%がジャワ島から、プレキャストや鉄鋼、セメントなどの建材はスラウェシやジャワ島から輸送されている。
またソフヤン氏は、バリクパパンには石油ガス産業や商業以外の産業が十分でないことから、コンテナが到着しても同ターミナルから積めるものがなく、空の状態で戻ることがありバリクパパンのコンテナ輸送コストが高騰していると指摘。そのため物価も相対的に高くなっているとして、産業の発展が課題と説明した。

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[caption id="attachment_23829" align="aligncenter" width="620"]統合型の物流倉庫施設の候補地。奥ではアクセス高速道の建設が進められていた=10月、東カリマンタン州(NNA撮影)[/caption]
■対岸には工業団地、不動産を構想
2、3件目の構想は、バリクパパンの対岸側に位置する工業団地と不動産開発だ。
投資・下流化省によると、前出の倉庫が位置する工業地域には土地に限りがあるため、新しい工業団地として北プナジャムパセル県プナジャム郡ブルミヌン区に工業団地を構想する。建材や農業、低炭素エネルギー、パーム油を優先産業として誘致したい考え。
特に新首都の開発で建材はプレキャストコンクリートが年間2,664万9,490トン必要になるなど需要は高まっているという。また、同県でトウモロコシとパーム油は主要産品となっており、他地域への供給や加工原料に使用できると見込む。
こうした工業団地や新首都の勤務者の需要を見越して構想されているのが、北プナジャムパセル県プナジャム郡スンガイ・パリット区の不動産(住宅、商業施設、オフィス、スポーツセンター)プロジェクトだ。予備事業化調査によると、同県の人口は20年時点の17万8,060人から30年までに5.1倍の91万6,180人になる見込みだが、23年時点で既に県内ではショッピングモールや住宅の供給が需要に追いついていないという。
いずれのプロジェクトも候補地の主な地権者は地域住民で交渉が必要になる。
工業団地の候補地を視察した日系の産業用不動産開発会社の関係者は、電力が不十分で送電線の引き込みなどインフラ整備の全体的なハードルが高いとの懸念も示した。また、アクセスの改善や対岸の開発がさらに進まないと厳しいとの声も聞こえた。

■新首都には期待感も様子見
視察会では、新首都の中央行政地区も視察した。中央行政地区では、これまでに大統領宮殿やホテル、病院などが完工している。8月には、独立記念日を祝う大規模な式典も執り行われた。
視察会に参加した三菱地所インドネシアの小多康顕社長はNNAに対し「開発状況を実際に目で見て、新首都開発への政府の本気、意気込みを感じた。重要な国家事業として位置付けられていることが実感できた」と述べた。続けて「あとは新政権下でも主要な国家事業として位置付けられていくのか、維持されていくのかというところは時間をかけて見極めていきたいと思っている」との見方を示した。
別の日系企業関係者は「まずは新首都で住宅ビジネス(のニーズ)が最初に来ると感じる。現在建設を進める公務員向けの社宅だけでは将来的には足りないため、低所得層に限らず、中所得層、高所得層など多様な層に向けた住宅ニーズがある」と述べた。
また、別の日系企業関係者は新首都への投資について、政権交代後も国家の重要事業として進んでいくのであれば将来的に事業化を考える余地はあるとしつつも、今後数年単位での検討は難しく、恐らく十数年単位で検討していくことになるとした。
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