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試用期間に関する各国の法制度

1.日本

(1)試用期間中の法律関係

判例は、試用期間中の法律関係について、解約権留保付の雇用契約であると解してきました(最高裁昭和48年12月12日・三菱樹脂事件)。そのため、たとえ試用期間中であったとしても、雇用契約自体は成立しているため、本採用を拒否することは解雇にあたります。

採否決定の当初においてはその者の適格性の判定資料が十分にそろっていないため、後日における調査や観察に基づき本採用を拒否することができるよう、試用期間中は、雇用契約の解約権が留保された状態となっています。

(2) 留保解約権行使の限界

先述のとおり、留保解約権を行使して本採用を拒否することは解雇にあたります。この点、試用期間中は解約権が留保されているため、その性質上、通常の解雇よりも広い範囲で解雇の自由が認められます。しかし、まったくの自由ではなく、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合でなければなりません(上記三菱樹脂事件)。

同判例は、留保解約権の行使が許される場合の基準を次のとおり具体化しています。すなわち、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合に、そのような事実に照らしその者を引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨、目的からして、客観的に相当であると認められる場合には、留保解約権を行使することができるとしています。

(3) 試用期間の長さ

試用期間の長さについて格別の制限はありませんが、一般的には3か月としている例が多いようです。た
だし、試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれるため、労働者の労働能力や勤務態度等についての価値判断を行なうのに必要な合理的範囲を越えた長期の試用期間については、公序良俗に反し、その限りにおいて無効となる可能性もあります(名古屋地裁昭和59年3月23日)。

2.タイ

(1) 概要

試用期間は期間の定めのない雇用契約とみなされます(タイ労働者保護法17条2項)。

この点、期間の定めのない雇用契約とは、雇用期間の終了時期が明確に定まっていない雇用契約をいい、解雇にあたっては、原則として、解雇予告、解雇補償金の支払い、有給休暇の買取り(未消化の有給休暇がある場合)、及び解雇が不公正でないことが求められます。

勤続期間の計算は試用期間も含めて雇用開始時点から通算され、試用期間中又は満了時に本採用をしない場合、これは解雇と同様と解され、期間の定めのない雇用契約としての通常の解雇手続きが求められることになります。

なお、不公正解雇との関係では、試用期間中の勤務成績が不十分であることを理由とする解雇について、不公正解雇にはあたらないとされた判例があります(2002年タイ最高裁判決2364号等)。

(2)試用期間の日数

試用期間の日数については、法律上、特に定められていませんが、実務上、119日以内に設定している会社が多いとされます。

タイでは、勤続期間が120日以上の労働者を解雇する場合には、使用者が労働者に対し、解雇補償金を支払わなければならず(タイ労働者保護法118条)、試用期間従業員の解雇時に解雇補償金の支払が発生することを防ぐために、そのような設定がなされていることが多いです。

3.マレーシア

(1) 概要

マレーシアでは、試用期間に関する法律上の定めは存在しません。なお、実務では、試用期間は雇用開始日から3か月間ないし6か月間として定めることが一般的な取り扱いとなっています。また、後述のとおり、判例法理により、試用期間中の従業員を解雇する場合には、正当な理由が求められます。

(2) 試用期間中の従業員に対する解雇規制

会社が試用期間中の従業員を解雇することの当否については、単に試用期間の満了を理由とするのみでは当該解雇は認められず、会社が当該従業員を本採用しないと判断したことについて合理的な理由が存在する等の正当な理由(cause and excuse)が認められない限り、当該解雇は無効と解されています(the Court of Appeal in Khaliah bte Abbas v. Pesaka Capital Corp Sdn Bhd [1997] 3 CLJ 827.)。

もっとも、正当な理由については、本採用された従業員に対するものよりも緩やかに判断され、本採用しないことについて合理的な理由の有無の判断にあたっては、当該従業員の成績だけではなく、性格や勤務態度等についても、考慮要素となると考えられています。

裁判例には、会社が従業員に対する評価基準として定めていた7項目のうち、当該従業員が達成したのは3項目であったという点に着目し、解雇を有効と判断したものがあります(Industrial court of Malaysia, Hari Bala R Parasuraman v Johnson Controls(M)Sdn Bhd[CASE NO: 3/4-1299/06])。

ただし、本採用をしない場合においても、会社は従業員に対して、同人の評価が基準以下である旨注意喚起をした上、同人に対して改善の機会を与えることが求められると考えられます。

4.ミャンマー

(1) 試用期間の規制

試用期間自体の法的規制は存在しません。しかし、試用期間中の賃金について最低賃金額よりも低い金額(75%を下回らない額)を設定する場合、3か月を超えてはならない旨規定されています(最低賃金法施行細則43条(l))。当該規定及び労働省が発布しているモデル雇用契約書上も試用期間は3か月を超えないと規定されていることから、ミャンマーにおいては試用期間は3か月間が上限と解されており、雇用開始時から3か月間の試用期間を設けることが一般的です。

(2) 試用期間中の解雇、退職

試用期間中の解雇であっても、使用者は1か月前に通知する必要があります。他方、労働者が退職する場合、モデル雇用契約書上は、7日前の通知で退職可能とされています。

5.メキシコ

(1) 概要

無期雇用又は180日以上の雇用期間となる雇用の場合、試用期間(periodo a prueba)や初期研修期間(relación de trabajo para capacitación inicial)を設けることができます。試用期間や初期研修期間を設ける場合、その旨を契約書に記載しなければなりません。また、無期雇用契約において初期研修期間を設けた場合に、使用者は労働者に対して契約期間終了日を通知する義務がないとした裁判所の判断もあり、具体的な期間を明記することが重要です。

(2) 試用期間(periodo a prueba)

180日を超える期間の雇用契約又は期限の定めのない雇用契約の場合に限り、労働者が業務の遂行に必要な要件と知識を要しているかどうかを確認する目的で、30日を超えない範囲で設定することができます。労働者が経営執行機関や管理を行う立場の役職付の場合や、特別な技術者や専門職である場合は、試用期間を180日とすることが可能です。期間終了時に、Comisión Mixtaと呼ばれる委員会の意見を考慮したうえで使用者が、当該労働者が必要な要件や知識を満たしていないと判断した場合は、使用者はその責任を負うことなく、雇用契約を終了させることができます。試用期間終了後も雇用関係が継続する場合は、無期限の雇用とみなされ、当該試用期間は勤務期間に含められることとなります。

(3) 初期研修期間(capacitación inicial)

労働者が業務を遂行するために必要とされる知識や技能等を獲得するため、最長3カ月を初期研修期間として雇用契約を結ぶことができます。なお、労働者が経営執行機関や管理知る立場の役職付の場合や、専門職である場合、この初期研修期間を最大6カ月と設定することが可能です。研修期間終了時、Comisión Mixtaと呼ばれる委員会の意見と職務を考慮したうえで、労働者が必要レベルに達していないと判断される場合は、使用者は責任を負うことなく雇用契約を終了させることができます。初期研修期間終了後も雇用関係が継続する場合は、無期限の雇用とみなされ、当該初期研修期間は勤務期間に含められることとなります。

(4) 留意点

試用期間及び初期研修期間の延長は認めらません。また、同じ労働者に対して連続してこれらを適用したり、併用したり、たとえ職種や担当業務が異なっている場合においても、複数回適用したりすることは禁止されています。

また、試用期間や初期研修期間中であっても、使用者は、当該労働者が享受すべき法定の社会保障の費用を負担しなければなりません。

6.バングラデシュ

バングラデシュは試用期間について労働法とEPZ労働法にて定められています。バングラデシュ労働法では、事務職の労働者の試用期間は6ヶ月で、他の労働者は3ヶ月とされています。労働法では、熟練労働者については、労働者の技能を最初の3ヶ月の試用期間で正しく把握することができないと判断された場合は、試用期間をさらに3ヶ月延長することが可能とされています(労働法第4条(8))。

EPZ労働法では、同様の試用期間を定めていますが、職種問わず、当初の試用期間を3ヶ月延長することが認められています(EPZ労働法5条(7))。
試用期間を終了した労働者は、終了証明が発行されなくても、無期雇用労働者とみなされます(労働法第4条(8)、EPZ労働規則8条(2))。
その他、試用期間中の病気休暇の取得や解雇に関する規定は明示的には定められていません。

7.フィリピン

(1) はじめに

従業員を雇用する際、まずは試用期間で働きぶりを見たうえで本採用を決めるということがあります。しかし、フィリピンの労働法(以下、単に「労働法」といいます。)は試用期間に関する定めを置いており、会社はこれを遵守する必要があります。今回は、試用期間に関する概要を紹介します。

(2) 試用期間の概要

労働法において、「試用期間」とは、会社が試用期間として一定期間を設け、さらに雇用時に従業員に対して本採用における合理的な基準を知らせたうえで、当該期間中に本採用の可否を判断することを指します。

(3) 一定期間について

労働法では、試用期間中の雇用は、原則として従業員の就労開始日から6カ月を超えてはならないとされています。判例(Mariwasa Mfg. v. Leogardo GR No. 74246, 1989-01-26)による例外として、試用期間を延長させて6か月を超えた場合でも、当初の期間内で従業員が本採用の基準を満たしていなかったときに、会社が当該従業員に二度目の機会を与えるために試用期間を延長させるという、会社側の寛大な行為(act of liberality)であった場合は、このような延長は有効であるとされています。

(4) 合理的な基準について

会社は、従業員に対して本採用の基準を雇用時に周知する必要があります。仮に周知していなかった場合には、本採用しなければなりません。当然ではありますが、試用期間の存在とその期間についても周知する必要があります。この要件の例外として、職務の性質が”Self-descriptive”(例:運転手、家政婦)である場合には周知の必要がありません。

(5) 試用期間中の解雇

試用期間で従業員を本採用せずに解雇することもあると思います。会社が試用期間内で従業員を解雇するには、以下の2つの条件のうちどちらかを満たしている必要があります。
1. 雇用開始時に周知した合理的な基準を満たさなかった場合
2. 正当な理由がある場合

解雇する際には、適切な手続を経る必要があります。たとえば、「合理的な基準を満たさないこと」を理由に解雇する場合には、会社は解雇する旨の書面を従業員に対して示すだけではなく、どの基準がどのように適用されたかまで示す必要があります。

9.インド

(1) 試用期間に関する法規制について

インドには、連邦法及び州法併せて多くの労働関係法令が存在しますが、試用期間について規定しているものは1946年就業規則に関する産業雇用規則(以下、「本規則」)のみとなります。

本規則では、試用期間中の者(probationer)とは、常用ポストの欠員を埋めるために暫定的に雇用され、試用期間が延長されない限り、そのポストで3カ月の勤務を完了していない人のことをいいます。そして、試用期間中の者は、契約終了について事前の通知や通知に代わる賃金を受領する権利はないと規定されています。3カ月の試用期間が経過していた場合に雇用契約終了するためには、2週間前の通知又はそれに代わる賃金の支払が必要となります。

もっとも、本規則は、100人以上のワークマンを雇用する事業場について適用されます。ワークマンとは、手作業、非熟練・熟練、技術的、運営管理的又は事務管理的作業のために雇用されている者をいいます。

したがって、100人以上のワークマンを雇用する事業場においては、本規則が適用されるため試用期間は3カ月となり、試用期間中であれば契約終了時の事前通知や通知に代わる賃金の支払は必要ありません。

(2) その他、本規則が適用されない場合の試用期間の取り扱い

本規則が適用されない場面の労使間の雇用契約においても試用期間を設定することは裁判例において認められています。そして、インドではオファーレターや雇用契約書において試用期間が設定されることが一般的といえます。試用期間についての規制はないですが、それぞれの州に適用される店舗施設法において、何カ月以上雇用した場合、契約の終了には何カ月前の事前通知が必要である旨定めているため当該店舗施設法の規定を参考にすることが一般的である。

デリー準州の店舗施設法、ハリアナ州が適用されるパンジャブ州の店舗施設法では、3カ月以上勤務している従業員に対しては、少なくとも30日前の事前通知又は通知に代わる給与が必要であるとしています。また、カルナータカ州及びタミルナドゥ州の店舗施設法では、合理的な理由がなければ6か月以上勤務した従業員を解雇することはできず、1カ月前の事前通知も必要であると規定しています。したがって、試用期間は、一般的に3~6カ月で設定されることが多いとされています。

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

アラブ首長国連邦(UAE)での労働法制については、公的機関と私企業に分かれて規定されていて、フリーゾーン独自の規則が適用される2か所のフリーゾーン(Abu Dhabi Global Market及びDubai International Financial Center)で設立された会社以外の私企業については、私企業における労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)及び労働関係に関する2021年連邦令第33号の施行に関する2022年内閣決定第1号(以下「施行規則」といいます。)によって、規定されています。

(1) 試用期間の規制

試用期間について、連邦労働法第9条に以下の通り規定されています。

試用期間は、勤務開始日から6ヵ月を超えてはなりません(第1項)。同じ使用者の下では試用期間は1度しか定めてはならず、試用期間が満了して勤務を継続するときは、雇用契約は有効となり、試用期間は労働期間に算入されます(第2項)使用者が労働者を試用期間中に解雇する場合には、解雇日の14日前までに書面でその旨を通知しなければなりません(第1項)。他方、労働者が試用期間中に辞職する場合、UAE内の他社で働くためのときは、辞職希望日の1月以上前に書面で使用者に通知しなければならず、労働者の新たな使用者は、元の使用者に対して、求人または労働者との契約に要した費用を賠償しなければなりません(第3項)。外国人労働者がUAE国外に移動することを理由として試用期間中に辞職する場合には、辞職希望日の14日前までに書面で通知しなければならず、出国日から3月以内にUAEに再入国して就労許可を得ようとするときは、元の使用者と労働者の間で別段の定めがない限り、新たな使用者は第3項規定の賠償を支払う必要があります(第4項)。使用者または労働者が、これらの規定に反して、契約を解除したときは、通知期間または通知期間の残余の日数の労働者の賃金と同額を他方に支払わなければなりません(第5項)。外国人労働者が規定に反して出国したときには、出国日から1年間は就労許可を付与されません(第6項)。なお、外国人労働者のうち①需要のある必須の技能・職能・知識を有する、②家族がスポンサーする居住ビザを有する、③ゴールデン・ビザを有する、④内閣が承認する労働者の分類に基づき、国内労働市場の必要に従って労働相が決定する職能を有する者については、上記の就労許可に関する規定からは除外されます(第7項、施行規則第11条)。

(2) 試用期間中の休暇

試用期間中の有給休暇ついて、労使間で合意することができ、試用期間満了による契約終了の場合は、未使用の有給休暇の残数について労働者は補償されます(第29条第3項)。

試用期間中の病気休暇は、原則、認められませんが、その必要があることを記載した診断書が提出された場合には、使用者は無給での病気休暇を認めることができます(第31条第2項)。

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1.日本

(1)試用期間中の法律関係 判例は、試用期間中の法律関係について、解約権留保付の雇用契約であると解してきました(最高裁昭和48年12月12日・三菱樹脂事件)。そのため、たとえ試用期間中であったとしても、雇用契約自体は成立しているため、本採用を拒否することは解雇にあたります。 採否決定の当初においてはその者の適格性の判定資料が十分にそろっていないため、後日における調査や観察に基づき本採用を拒否することができるよう、試用期間中は、雇用契約の解約権が留保された状態となっています。 (2) 留保解約権行使の限界 先述のとおり、留保解約権を行使して本採用を拒否することは解雇にあたります。この点、試用期間中は解約権が留保されているため、その性質上、通常の解雇よりも広い範囲で解雇の自由が認められます。しかし、まったくの自由ではなく、解約権留保の趣旨、目的に照らして、客観的に合理的な理由が存し社会通念上相当として是認されうる場合でなければなりません(上記三菱樹脂事件)。 同判例は、留保解約権の行使が許される場合の基準を次のとおり具体化しています。すなわち、企業者が、採用決定後における調査の結果により、または試用中の勤務状態等により、当初知ることができず、また知ることが期待できないような事実を知るに至った場合に、そのような事実に照らしその者を引き続き雇用しておくのが適当でないと判断することが、解約権留保の趣旨、目的からして、客観的に相当であると認められる場合には、留保解約権を行使することができるとしています。 (3) 試用期間の長さ 試用期間の長さについて格別の制限はありませんが、一般的には3か月としている例が多いようです。た だし、試用期間中の労働者は不安定な地位に置かれるため、労働者の労働能力や勤務態度等についての価値判断を行なうのに必要な合理的範囲を越えた長期の試用期間については、公序良俗に反し、その限りにおいて無効となる可能性もあります(名古屋地裁昭和59年3月23日)。

2.タイ

(1) 概要 試用期間は期間の定めのない雇用契約とみなされます(タイ労働者保護法17条2項)。 この点、期間の定めのない雇用契約とは、雇用期間の終了時期が明確に定まっていない雇用契約をいい、解雇にあたっては、原則として、解雇予告、解雇補償金の支払い、有給休暇の買取り(未消化の有給休暇がある場合)、及び解雇が不公正でないことが求められます。 勤続期間の計算は試用期間も含めて雇用開始時点から通算され、試用期間中又は満了時に本採用をしない場合、これは解雇と同様と解され、期間の定めのない雇用契約としての通常の解雇手続きが求められることになります。 なお、不公正解雇との関係では、試用期間中の勤務成績が不十分であることを理由とする解雇について、不公正解雇にはあたらないとされた判例があります(2002年タイ最高裁判決2364号等)。 (2)試用期間の日数 試用期間の日数については、法律上、特に定められていませんが、実務上、119日以内に設定している会社が多いとされます。 タイでは、勤続期間が120日以上の労働者を解雇する場合には、使用者が労働者に対し、解雇補償金を支払わなければならず(タイ労働者保護法118条)、試用期間従業員の解雇時に解雇補償金の支払が発生することを防ぐために、そのような設定がなされていることが多いです。

3.マレーシア

(1) 概要 マレーシアでは、試用期間に関する法律上の定めは存在しません。なお、実務では、試用期間は雇用開始日から3か月間ないし6か月間として定めることが一般的な取り扱いとなっています。また、後述のとおり、判例法理により、試用期間中の従業員を解雇する場合には、正当な理由が求められます。 (2) 試用期間中の従業員に対する解雇規制 会社が試用期間中の従業員を解雇することの当否については、単に試用期間の満了を理由とするのみでは当該解雇は認められず、会社が当該従業員を本採用しないと判断したことについて合理的な理由が存在する等の正当な理由(cause and excuse)が認められない限り、当該解雇は無効と解されています(the Court of Appeal in Khaliah bte Abbas v. Pesaka Capital Corp Sdn Bhd [1997] 3 CLJ 827.)。 もっとも、正当な理由については、本採用された従業員に対するものよりも緩やかに判断され、本採用しないことについて合理的な理由の有無の判断にあたっては、当該従業員の成績だけではなく、性格や勤務態度等についても、考慮要素となると考えられています。 裁判例には、会社が従業員に対する評価基準として定めていた7項目のうち、当該従業員が達成したのは3項目であったという点に着目し、解雇を有効と判断したものがあります(Industrial court of Malaysia, Hari Bala R Parasuraman v Johnson Controls(M)Sdn Bhd[CASE NO: 3/4-1299/06])。 ただし、本採用をしない場合においても、会社は従業員に対して、同人の評価が基準以下である旨注意喚起をした上、同人に対して改善の機会を与えることが求められると考えられます。

4.ミャンマー

(1) 試用期間の規制 試用期間自体の法的規制は存在しません。しかし、試用期間中の賃金について最低賃金額よりも低い金額(75%を下回らない額)を設定する場合、3か月を超えてはならない旨規定されています(最低賃金法施行細則43条(l))。当該規定及び労働省が発布しているモデル雇用契約書上も試用期間は3か月を超えないと規定されていることから、ミャンマーにおいては試用期間は3か月間が上限と解されており、雇用開始時から3か月間の試用期間を設けることが一般的です。 (2) 試用期間中の解雇、退職 試用期間中の解雇であっても、使用者は1か月前に通知する必要があります。他方、労働者が退職する場合、モデル雇用契約書上は、7日前の通知で退職可能とされています。

5.メキシコ

(1) 概要 無期雇用又は180日以上の雇用期間となる雇用の場合、試用期間(periodo a prueba)や初期研修期間(relación de trabajo para capacitación inicial)を設けることができます。試用期間や初期研修期間を設ける場合、その旨を契約書に記載しなければなりません。また、無期雇用契約において初期研修期間を設けた場合に、使用者は労働者に対して契約期間終了日を通知する義務がないとした裁判所の判断もあり、具体的な期間を明記することが重要です。 (2) 試用期間(periodo a prueba) 180日を超える期間の雇用契約又は期限の定めのない雇用契約の場合に限り、労働者が業務の遂行に必要な要件と知識を要しているかどうかを確認する目的で、30日を超えない範囲で設定することができます。労働者が経営執行機関や管理を行う立場の役職付の場合や、特別な技術者や専門職である場合は、試用期間を180日とすることが可能です。期間終了時に、Comisión Mixtaと呼ばれる委員会の意見を考慮したうえで使用者が、当該労働者が必要な要件や知識を満たしていないと判断した場合は、使用者はその責任を負うことなく、雇用契約を終了させることができます。試用期間終了後も雇用関係が継続する場合は、無期限の雇用とみなされ、当該試用期間は勤務期間に含められることとなります。 (3) 初期研修期間(capacitación inicial) 労働者が業務を遂行するために必要とされる知識や技能等を獲得するため、最長3カ月を初期研修期間として雇用契約を結ぶことができます。なお、労働者が経営執行機関や管理知る立場の役職付の場合や、専門職である場合、この初期研修期間を最大6カ月と設定することが可能です。研修期間終了時、Comisión Mixtaと呼ばれる委員会の意見と職務を考慮したうえで、労働者が必要レベルに達していないと判断される場合は、使用者は責任を負うことなく雇用契約を終了させることができます。初期研修期間終了後も雇用関係が継続する場合は、無期限の雇用とみなされ、当該初期研修期間は勤務期間に含められることとなります。 (4) 留意点 試用期間及び初期研修期間の延長は認めらません。また、同じ労働者に対して連続してこれらを適用したり、併用したり、たとえ職種や担当業務が異なっている場合においても、複数回適用したりすることは禁止されています。 また、試用期間や初期研修期間中であっても、使用者は、当該労働者が享受すべき法定の社会保障の費用を負担しなければなりません。

6.バングラデシュ

バングラデシュは試用期間について労働法とEPZ労働法にて定められています。バングラデシュ労働法では、事務職の労働者の試用期間は6ヶ月で、他の労働者は3ヶ月とされています。労働法では、熟練労働者については、労働者の技能を最初の3ヶ月の試用期間で正しく把握することができないと判断された場合は、試用期間をさらに3ヶ月延長することが可能とされています(労働法第4条(8))。 EPZ労働法では、同様の試用期間を定めていますが、職種問わず、当初の試用期間を3ヶ月延長することが認められています(EPZ労働法5条(7))。 試用期間を終了した労働者は、終了証明が発行されなくても、無期雇用労働者とみなされます(労働法第4条(8)、EPZ労働規則8条(2))。 その他、試用期間中の病気休暇の取得や解雇に関する規定は明示的には定められていません。

7.フィリピン

(1) はじめに 従業員を雇用する際、まずは試用期間で働きぶりを見たうえで本採用を決めるということがあります。しかし、フィリピンの労働法(以下、単に「労働法」といいます。)は試用期間に関する定めを置いており、会社はこれを遵守する必要があります。今回は、試用期間に関する概要を紹介します。 (2) 試用期間の概要 労働法において、「試用期間」とは、会社が試用期間として一定期間を設け、さらに雇用時に従業員に対して本採用における合理的な基準を知らせたうえで、当該期間中に本採用の可否を判断することを指します。 (3) 一定期間について 労働法では、試用期間中の雇用は、原則として従業員の就労開始日から6カ月を超えてはならないとされています。判例(Mariwasa Mfg. v. Leogardo GR No. 74246, 1989-01-26)による例外として、試用期間を延長させて6か月を超えた場合でも、当初の期間内で従業員が本採用の基準を満たしていなかったときに、会社が当該従業員に二度目の機会を与えるために試用期間を延長させるという、会社側の寛大な行為(act of liberality)であった場合は、このような延長は有効であるとされています。 (4) 合理的な基準について 会社は、従業員に対して本採用の基準を雇用時に周知する必要があります。仮に周知していなかった場合には、本採用しなければなりません。当然ではありますが、試用期間の存在とその期間についても周知する必要があります。この要件の例外として、職務の性質が”Self-descriptive”(例:運転手、家政婦)である場合には周知の必要がありません。 (5) 試用期間中の解雇 試用期間で従業員を本採用せずに解雇することもあると思います。会社が試用期間内で従業員を解雇するには、以下の2つの条件のうちどちらかを満たしている必要があります。 1. 雇用開始時に周知した合理的な基準を満たさなかった場合 2. 正当な理由がある場合 解雇する際には、適切な手続を経る必要があります。たとえば、「合理的な基準を満たさないこと」を理由に解雇する場合には、会社は解雇する旨の書面を従業員に対して示すだけではなく、どの基準がどのように適用されたかまで示す必要があります。

9.インド

(1) 試用期間に関する法規制について インドには、連邦法及び州法併せて多くの労働関係法令が存在しますが、試用期間について規定しているものは1946年就業規則に関する産業雇用規則(以下、「本規則」)のみとなります。 本規則では、試用期間中の者(probationer)とは、常用ポストの欠員を埋めるために暫定的に雇用され、試用期間が延長されない限り、そのポストで3カ月の勤務を完了していない人のことをいいます。そして、試用期間中の者は、契約終了について事前の通知や通知に代わる賃金を受領する権利はないと規定されています。3カ月の試用期間が経過していた場合に雇用契約終了するためには、2週間前の通知又はそれに代わる賃金の支払が必要となります。 もっとも、本規則は、100人以上のワークマンを雇用する事業場について適用されます。ワークマンとは、手作業、非熟練・熟練、技術的、運営管理的又は事務管理的作業のために雇用されている者をいいます。 したがって、100人以上のワークマンを雇用する事業場においては、本規則が適用されるため試用期間は3カ月となり、試用期間中であれば契約終了時の事前通知や通知に代わる賃金の支払は必要ありません。 (2) その他、本規則が適用されない場合の試用期間の取り扱い 本規則が適用されない場面の労使間の雇用契約においても試用期間を設定することは裁判例において認められています。そして、インドではオファーレターや雇用契約書において試用期間が設定されることが一般的といえます。試用期間についての規制はないですが、それぞれの州に適用される店舗施設法において、何カ月以上雇用した場合、契約の終了には何カ月前の事前通知が必要である旨定めているため当該店舗施設法の規定を参考にすることが一般的である。 デリー準州の店舗施設法、ハリアナ州が適用されるパンジャブ州の店舗施設法では、3カ月以上勤務している従業員に対しては、少なくとも30日前の事前通知又は通知に代わる給与が必要であるとしています。また、カルナータカ州及びタミルナドゥ州の店舗施設法では、合理的な理由がなければ6か月以上勤務した従業員を解雇することはできず、1カ月前の事前通知も必要であると規定しています。したがって、試用期間は、一般的に3~6カ月で設定されることが多いとされています。

10.アラブ首長国連邦(ドバイ)

アラブ首長国連邦(UAE)での労働法制については、公的機関と私企業に分かれて規定されていて、フリーゾーン独自の規則が適用される2か所のフリーゾーン(Abu Dhabi Global Market及びDubai International Financial Center)で設立された会社以外の私企業については、私企業における労働関係に関する規則(2021年連邦令第33号。以下、「連邦労働法」といいます。)及び労働関係に関する2021年連邦令第33号の施行に関する2022年内閣決定第1号(以下「施行規則」といいます。)によって、規定されています。 (1) 試用期間の規制 試用期間について、連邦労働法第9条に以下の通り規定されています。 試用期間は、勤務開始日から6ヵ月を超えてはなりません(第1項)。同じ使用者の下では試用期間は1度しか定めてはならず、試用期間が満了して勤務を継続するときは、雇用契約は有効となり、試用期間は労働期間に算入されます(第2項)使用者が労働者を試用期間中に解雇する場合には、解雇日の14日前までに書面でその旨を通知しなければなりません(第1項)。他方、労働者が試用期間中に辞職する場合、UAE内の他社で働くためのときは、辞職希望日の1月以上前に書面で使用者に通知しなければならず、労働者の新たな使用者は、元の使用者に対して、求人または労働者との契約に要した費用を賠償しなければなりません(第3項)。外国人労働者がUAE国外に移動することを理由として試用期間中に辞職する場合には、辞職希望日の14日前までに書面で通知しなければならず、出国日から3月以内にUAEに再入国して就労許可を得ようとするときは、元の使用者と労働者の間で別段の定めがない限り、新たな使用者は第3項規定の賠償を支払う必要があります(第4項)。使用者または労働者が、これらの規定に反して、契約を解除したときは、通知期間または通知期間の残余の日数の労働者の賃金と同額を他方に支払わなければなりません(第5項)。外国人労働者が規定に反して出国したときには、出国日から1年間は就労許可を付与されません(第6項)。なお、外国人労働者のうち①需要のある必須の技能・職能・知識を有する、②家族がスポンサーする居住ビザを有する、③ゴールデン・ビザを有する、④内閣が承認する労働者の分類に基づき、国内労働市場の必要に従って労働相が決定する職能を有する者については、上記の就労許可に関する規定からは除外されます(第7項、施行規則第11条)。 (2) 試用期間中の休暇 試用期間中の有給休暇ついて、労使間で合意することができ、試用期間満了による契約終了の場合は、未使用の有給休暇の残数について労働者は補償されます(第29条第3項)。 試用期間中の病気休暇は、原則、認められませんが、その必要があることを記載した診断書が提出された場合には、使用者は無給での病気休暇を認めることができます(第31条第2項)。" ["post_title"]=> string(42) "試用期間に関する各国の法制度" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(126) "%e8%a9%a6%e7%94%a8%e6%9c%9f%e9%96%93%e3%81%ab%e9%96%a2%e3%81%99%e3%82%8b%e5%90%84%e5%9b%bd%e3%81%ae%e6%b3%95%e5%88%b6%e5%ba%a6" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2024-04-08 11:41:38" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2024-04-08 02:41:38" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=19353" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
 TNY国際法律事務所
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世界11か国13拠点で日系企業の進出及び進出後のサポート

世界11か国13拠点(東京、大阪、佐賀、ミャンマー、タイ、マレーシア、メキシコ、エストニア、フィリピン、イスラエル、バングラデシュ、ベトナム、イギリス)で日系企業の進出及び進出後のサポートを行っている。具体的には、法規制調査、会社設立、合弁契約書及び雇用契約書等の各種契約書の作成、M&A、紛争解決、商標登記等の知財等各種法務サービスを提供している。

堤雄史(TNYグループ共同代表・日本国弁護士)、永田貴久(TNYグループ共同代表・日本国弁護士)

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