シンガポールのスタートアップで、「アップサイクル」商品の企画・開発から販売までを手がけるセーブ・ア・クラストが、飲食品市場で存在感を示し始めている。世界的にフードロス削減への動きが加速する中、廃棄原料をベースとしたビールやソフトドリンクなどの開発・製造に着手。日本にも進出し、国内外で売り上げを伸ばしている。今後は飲料だけでなく、フードテック(先端食品技術)企業としてアップサイクルのリーダーを目指す。【大友賢】
クラスト・グループのアップサイクルビールを紹介する事業開発部長の平野宏幸氏=シンガポール中心部の同社メインオフィスにて(NNA撮影)
セーブ・ア・クラスト(以下、クラスト・グループ)は、2019年にトラヴィン・シン最高経営責任者(CEO)が創業した、アップサイクルの飲食料品を専門とするシンガポールのスタートアップだ。
アップサイクルとは、従来は廃棄されていた原料や商品などを(再)加工し、新たな付加価値(=製品)を創り出すことで環境負荷低減に貢献する考え方を指す。別の新しい商品に生まれ変わるという点で、廃棄物のリサイクルとは大きく異なる。
クラスト・グループは現在、3種類のビールを市場に流通させている。原料は、小麦の代わりに現地の大手ベーカリーから出るパンの切れ端を使用。原料の品質を確保するため、上流工程で廃棄となるもののみを使用する。品質管理も含め、原料の仕入れ先企業の理解と協力が必要だ。
定番ビール商品とともに、イベント企画会社などとのコラボ商品も数多く手がける。今年、シンガポールで3年ぶりに開催された自動車レース「F1グランプリ」の主催者とも共同企画の新しいビールを開発した。
同社のビールへの需要は高級ホテルにもある。ホテル業界もさまざまな環境への取り組みを行っているが、利用客への訴求は容易ではない。アップサイクルビールを提供することで、利用客に環境や食料問題への取り組みをアピールすることができる。
■初の海外進出先は日本
クラスト・グループは創業後間もなく、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に見舞われた。その中でも次の市場を目指し、たどり着いたのが日本だ。現在はビールだけでなくカットフルーツの生産工程から出る皮を使った清涼飲料を開発し、先月からコンビニ系列の店舗で販売を開始した。
大手企業からの原材料調達の話も進んでいる。年間約100トンのトマトが廃棄される工場から使用可能なトマトを仕入れ、他の地元企業と共同で新製品を開発する計画だ。
日本でのさまざまな可能性を探るうち、日本貿易振興機構(ジェトロ)や農業協同組合(JA)を通じ、アップサイクル商品の企画や開発といった案件が多く入るようになった。
クラスト・グループの平野宏幸事業開発部長は、「日本では『もったいない』や『リサイクル』といった概念が定着しているが、それを横展開(=事業化)することには疎い」と指摘。ただ同社の活動に多くの食品事業者や農業生産者などが関心を寄せているため、日本のアップサイクル市場のポテンシャルは高いとみている。
■頼られるフードテック企業へ
クラスト・グループは飲料だけでなく、食品の開発も進めている。第1弾としてビール製造で使用した大麦麦芽のカスを、小麦粉の代替穀粉にしてパンケーキなどに生まれ変わらせる手法を研究中だ。
使用済み大麦麦芽は日々大量に廃棄されるか、牛や豚の飼料または有機肥料として使用される程度に用途が限られてきた。既に同様のコンセプトで製品化している企業もあるが、まだ市場は小さい。自社商品としてだけでなく、他社と協業しながら開発を進めることも視野に入れている。
原料の調達から生産、保管、販売というサプライチェーン(供給網)のどのステージでも、要求に応じて対応できる体制の構築を目指している。例えば、生鮮品の生産者が使用可能な廃棄品を使えないか相談に来れば、企画を考え、生産・販売まで支援する。製造技術はあるが原料などを必要とする企業には、ネットワークを駆使して調達を手助けする。「アップサイクルのフードテック企業」が同社のビジネスモデルだ。
■世界のフードロスの1%削減目標
アップサイクル市場に参入する企業は今後増えることが予想される。その中で勝ち抜くためには、クラスト・グループと組むことにメリットを感じてもらう必要があるため、「この先2~3年が勝負の時期」(平野氏)と見込む。
今年5月には、社会や環境に配慮した公益性の高い企業への国際的な民間認証制度である「Bコーポレーション」認証を取得した。これにより、欧州系の企業や各国の大使館などに自社の企画などが受け入れられやすくなるという。30年までに世界のフードロスの1%を削減するという目標を掲げており、来年には台湾にも進出する計画だ。
フードロス削減や環境保護を考えるにあたり、アップサイクルは有益かつ有望なアプローチの一つと言える。一方、事業として成立しなければ継続しない。どのような付加価値を創造し、事業化できるのか。クラスト・グループの力量が試されそうだ。
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クラスト・グループは現在、3種類のビールを市場に流通させている。原料は、小麦の代わりに現地の大手ベーカリーから出るパンの切れ端を使用。原料の品質を確保するため、上流工程で廃棄となるもののみを使用する。品質管理も含め、原料の仕入れ先企業の理解と協力が必要だ。
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同社のビールへの需要は高級ホテルにもある。ホテル業界もさまざまな環境への取り組みを行っているが、利用客への訴求は容易ではない。アップサイクルビールを提供することで、利用客に環境や食料問題への取り組みをアピールすることができる。
■初の海外進出先は日本
クラスト・グループは創業後間もなく、新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)に見舞われた。その中でも次の市場を目指し、たどり着いたのが日本だ。現在はビールだけでなくカットフルーツの生産工程から出る皮を使った清涼飲料を開発し、先月からコンビニ系列の店舗で販売を開始した。
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日本でのさまざまな可能性を探るうち、日本貿易振興機構(ジェトロ)や農業協同組合(JA)を通じ、アップサイクル商品の企画や開発といった案件が多く入るようになった。
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■頼られるフードテック企業へ
クラスト・グループは飲料だけでなく、食品の開発も進めている。第1弾としてビール製造で使用した大麦麦芽のカスを、小麦粉の代替穀粉にしてパンケーキなどに生まれ変わらせる手法を研究中だ。
使用済み大麦麦芽は日々大量に廃棄されるか、牛や豚の飼料または有機肥料として使用される程度に用途が限られてきた。既に同様のコンセプトで製品化している企業もあるが、まだ市場は小さい。自社商品としてだけでなく、他社と協業しながら開発を進めることも視野に入れている。
原料の調達から生産、保管、販売というサプライチェーン(供給網)のどのステージでも、要求に応じて対応できる体制の構築を目指している。例えば、生鮮品の生産者が使用可能な廃棄品を使えないか相談に来れば、企画を考え、生産・販売まで支援する。製造技術はあるが原料などを必要とする企業には、ネットワークを駆使して調達を手助けする。「アップサイクルのフードテック企業」が同社のビジネスモデルだ。
■世界のフードロスの1%削減目標
アップサイクル市場に参入する企業は今後増えることが予想される。その中で勝ち抜くためには、クラスト・グループと組むことにメリットを感じてもらう必要があるため、「この先2~3年が勝負の時期」(平野氏)と見込む。
今年5月には、社会や環境に配慮した公益性の高い企業への国際的な民間認証制度である「Bコーポレーション」認証を取得した。これにより、欧州系の企業や各国の大使館などに自社の企画などが受け入れられやすくなるという。30年までに世界のフードロスの1%を削減するという目標を掲げており、来年には台湾にも進出する計画だ。
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