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持続可能な航空燃料に商機日系商社、タイでの事業化を検討

航空業界の二酸化炭素(CO2)排出量削減に向け、タイでの持続可能な航空燃料(SAF)事業に関心を持つ日系商社が増えている。タイはバイオエタノールなどSAFの原料を確保しやすい上に、タイ政府肝いりの「BCG(バイオ・循環型・グリーン)経済」の実現に資する案件でもあり、ビジネスとしての可能性が大きい。今後、各社での事業の具体化が待たれる。【坂部哲生】
SAFはバイオエタノールや廃食油などを原料とし、航空機のジェット燃料と混ぜて燃やす。CO2排出量を8~9割減らせるとされる。日本においても政府が、2030年に航空会社による航空燃料使用量の10%をSAFに置き換えるとの目標を掲げている。
課題はSAFの大規模生産および安定供給だ。日本の格安航空会社(LCC)のPeach(大阪府田尻町)の広報担当者は「商業生産のめどを立てている企業は欧米企業に偏在している上、製造可能な企業が限られており、争奪戦が激化することが大きな課題となる」と懸念した上で、「まずは航空会社がリーダーシップをとり、この課題自体の認知拡大、理解促進やサプライチェーン(供給網)の構築の必要性をしっかり訴えていく必要があると感じている」と話す。
SAFに対するサプライチェーンの構築が急がれる中、タイ日系企業、東洋ビジネスサービスの梅木英徹取締役は「タイでは、バイオエタノールの生産に必要な原料である植物由来の再生可能な生物資源(バイオマス)を入手しやすい」として、日系企業にSAF事業の進出先としてタイの魅力を訴える。
■住商は非可食部を使用
住友商事は、タイ国営石油PTT傘下のバイオケミカル製品メーカー、グローバル・グリーン・ケミカル(GGC)が製造したバイオエタノールのSAF向けを含めた利活用を推進する考えだ。
GGCは今春から北部ナコンサワン県のバイオ産業複合施設「ナコンサワン・バイオコンプレックス(NBC)」でサトウキビの搾り汁を原料とするバイオエタノールの製造を始めており、年内にも日産600キログラムの生産体制を構築できるという。住友商事の広報担当者は「GGCとの合弁設立も視野に入れている」と話す。
両社は、食用や飼育用に適さない部位を使って製造する「第二世代バイオエタノール」の製造も検討しているという。サトウキビやトウモロコシなどの可食部から取り出した糖蜜やでんぷんを用いて製造されている「第一世代バイオエタノール」と違い、第二世代バイオエタノールは食料需要との競合がない上、原料となる穀物価格の影響を受けにくいという利点がある。
両社はバガス(サトウキビの搾りかす)由来のバイオエタノールの製造工場の新設も検討するという。タイはサトウキビの生産で世界4位。バガスは国内の製糖工場では砂糖を生成した後に大量に発生するため、調達しやすい。

GGCがバイオエタノールを製造するナコンサワン・バイオコンプレックス(住友商事提供)

■双日「3年以内に生産」
双日は現在、タイでのバイオマス由来の燃料や化学品などの製造に向けて、現地のパートナー企業との交渉を進めている。原料の調達先は確保できているという。
双日のタイ法人、双日タイの佐塚豊彦社長は「工場建設を含め3年以内をめどにSAFの生産を開始したい」と話す。持続可能な製品であることを証明する国際認証制度の「ISCCプラス認証」を持つ製品として生産する。生産したSAFはタイや東南アジアでの給油を想定している。タイでのSAF事業は、タイ政府が推進するBCG(バイオ・循環型・グリーン)経済の実現に資する案件だけに、佐塚社長は「タイ政府による制度化などの支援を期待している」と話す。
双日がSAF事業に意欲を燃やす背景には、同社が1956年以来65年以上にわたり、米ボーイングの航空機代理店を務めるなど航空分野に強みを持っていることもある。今年9月には、傘下の航空会社が日本産のSAFを使った国際線ビジネスジェットを日本で運航した。

双日がビジネスジェット事業で日本産SAFを使用した初の国際線フライト (同社提供)

■三井物産「検討する」
泰国三井物産エネルギー部の渡邊健介部長は「パートナー企業とのSAF事業を検討していきたい」とコメントした。三井物産は、高効率でSAFを大規模生産できる技術を持つ米ランザジェットに出資するなど、SAFに関連した知見があるのが強みだ。
また業界関係者によると、化学関連の専門商社もタイでのSAF事業参入の検討に入ったもよう。早ければ来年初めにも正式発表があるという。
■地場は廃食油を利用

「タイはSAF事業の進出先としては最適地」と話す梅木氏(本人提供)

地場企業も参入を目指す。タイ政府系製油・給油所運営バンチャーク・コーポレーションが傘下のエタノールメーカーのタナチョーク・オイル・ライトと共同出資で設立した新会社は、廃食油を原料にSAFを生産する。バンチャークのチャイワット社長兼最高経営責任者(CEO)は11月上旬に協力会社などを対象にしたセミナーで、「5カ月以内に工場が完成する見込み」と話した。きょう21日からは、タイ国内44カ所のガソリンスタンドで廃食油を有料回収する事業を始める。
タイ工業省エネルギー政策企画事務局によると、タイでは2022年に約1億1,500万リットルの廃食油が発生する見通し。10年前と比べて55%の増加だ。廃食油の一部はバイオディーゼル燃料に加工されて再利用されるものの、ほとんどは生活排水として公共用水域に排出されている。タイ国営石油PTTの精油子会社タイオイルも、廃食油からSAFを生産する計画を明らかにしている。
再生可能エネルギー事業を手がけるエナジー・アブソリュートは、パーム油由来のバイオディーゼル燃料を使ったSAFの研究開発を進めている。現在、同社のパーム由来の脂肪酸メチルエステル(FAME)の生産能力は日産80万リットル。バイオディーゼル事業は同社の収益の約2割を占める。

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SAFはバイオエタノールや廃食油などを原料とし、航空機のジェット燃料と混ぜて燃やす。CO2排出量を8~9割減らせるとされる。日本においても政府が、2030年に航空会社による航空燃料使用量の10%をSAFに置き換えるとの目標を掲げている。
課題はSAFの大規模生産および安定供給だ。日本の格安航空会社(LCC)のPeach(大阪府田尻町)の広報担当者は「商業生産のめどを立てている企業は欧米企業に偏在している上、製造可能な企業が限られており、争奪戦が激化することが大きな課題となる」と懸念した上で、「まずは航空会社がリーダーシップをとり、この課題自体の認知拡大、理解促進やサプライチェーン(供給網)の構築の必要性をしっかり訴えていく必要があると感じている」と話す。
SAFに対するサプライチェーンの構築が急がれる中、タイ日系企業、東洋ビジネスサービスの梅木英徹取締役は「タイでは、バイオエタノールの生産に必要な原料である植物由来の再生可能な生物資源(バイオマス)を入手しやすい」として、日系企業にSAF事業の進出先としてタイの魅力を訴える。
■住商は非可食部を使用
住友商事は、タイ国営石油PTT傘下のバイオケミカル製品メーカー、グローバル・グリーン・ケミカル(GGC)が製造したバイオエタノールのSAF向けを含めた利活用を推進する考えだ。
GGCは今春から北部ナコンサワン県のバイオ産業複合施設「ナコンサワン・バイオコンプレックス(NBC)」でサトウキビの搾り汁を原料とするバイオエタノールの製造を始めており、年内にも日産600キログラムの生産体制を構築できるという。住友商事の広報担当者は「GGCとの合弁設立も視野に入れている」と話す。
両社は、食用や飼育用に適さない部位を使って製造する「第二世代バイオエタノール」の製造も検討しているという。サトウキビやトウモロコシなどの可食部から取り出した糖蜜やでんぷんを用いて製造されている「第一世代バイオエタノール」と違い、第二世代バイオエタノールは食料需要との競合がない上、原料となる穀物価格の影響を受けにくいという利点がある。
両社はバガス(サトウキビの搾りかす)由来のバイオエタノールの製造工場の新設も検討するという。タイはサトウキビの生産で世界4位。バガスは国内の製糖工場では砂糖を生成した後に大量に発生するため、調達しやすい。
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■双日「3年以内に生産」
双日は現在、タイでのバイオマス由来の燃料や化学品などの製造に向けて、現地のパートナー企業との交渉を進めている。原料の調達先は確保できているという。
双日のタイ法人、双日タイの佐塚豊彦社長は「工場建設を含め3年以内をめどにSAFの生産を開始したい」と話す。持続可能な製品であることを証明する国際認証制度の「ISCCプラス認証」を持つ製品として生産する。生産したSAFはタイや東南アジアでの給油を想定している。タイでのSAF事業は、タイ政府が推進するBCG(バイオ・循環型・グリーン)経済の実現に資する案件だけに、佐塚社長は「タイ政府による制度化などの支援を期待している」と話す。
双日がSAF事業に意欲を燃やす背景には、同社が1956年以来65年以上にわたり、米ボーイングの航空機代理店を務めるなど航空分野に強みを持っていることもある。今年9月には、傘下の航空会社が日本産のSAFを使った国際線ビジネスジェットを日本で運航した。
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■三井物産「検討する」
泰国三井物産エネルギー部の渡邊健介部長は「パートナー企業とのSAF事業を検討していきたい」とコメントした。三井物産は、高効率でSAFを大規模生産できる技術を持つ米ランザジェットに出資するなど、SAFに関連した知見があるのが強みだ。
また業界関係者によると、化学関連の専門商社もタイでのSAF事業参入の検討に入ったもよう。早ければ来年初めにも正式発表があるという。
■地場は廃食油を利用[caption id="attachment_10810" align="aligncenter" width="450"]「タイはSAF事業の進出先としては最適地」と話す梅木氏(本人提供)[/caption]
地場企業も参入を目指す。タイ政府系製油・給油所運営バンチャーク・コーポレーションが傘下のエタノールメーカーのタナチョーク・オイル・ライトと共同出資で設立した新会社は、廃食油を原料にSAFを生産する。バンチャークのチャイワット社長兼最高経営責任者(CEO)は11月上旬に協力会社などを対象にしたセミナーで、「5カ月以内に工場が完成する見込み」と話した。きょう21日からは、タイ国内44カ所のガソリンスタンドで廃食油を有料回収する事業を始める。
タイ工業省エネルギー政策企画事務局によると、タイでは2022年に約1億1,500万リットルの廃食油が発生する見通し。10年前と比べて55%の増加だ。廃食油の一部はバイオディーゼル燃料に加工されて再利用されるものの、ほとんどは生活排水として公共用水域に排出されている。タイ国営石油PTTの精油子会社タイオイルも、廃食油からSAFを生産する計画を明らかにしている。
再生可能エネルギー事業を手がけるエナジー・アブソリュートは、パーム油由来のバイオディーゼル燃料を使ったSAFの研究開発を進めている。現在、同社のパーム由来の脂肪酸メチルエステル(FAME)の生産能力は日産80万リットル。バイオディーゼル事業は同社の収益の約2割を占める。" ["post_title"]=> string(81) "持続可能な航空燃料に商機日系商社、タイでの事業化を検討" ["post_excerpt"]=> string(0) "" ["post_status"]=> string(7) "publish" ["comment_status"]=> string(4) "open" ["ping_status"]=> string(4) "open" ["post_password"]=> string(0) "" ["post_name"]=> string(198) "%e6%8c%81%e7%b6%9a%e5%8f%af%e8%83%bd%e3%81%aa%e8%88%aa%e7%a9%ba%e7%87%83%e6%96%99%e3%81%ab%e5%95%86%e6%a9%9f%e6%97%a5%e7%b3%bb%e5%95%86%e7%a4%be%e3%80%81%e3%82%bf%e3%82%a4%e3%81%a7%e3%81%ae%e4%ba%8b" ["to_ping"]=> string(0) "" ["pinged"]=> string(0) "" ["post_modified"]=> string(19) "2022-12-21 04:00:05" ["post_modified_gmt"]=> string(19) "2022-12-20 19:00:05" ["post_content_filtered"]=> string(0) "" ["post_parent"]=> int(0) ["guid"]=> string(34) "https://nnaglobalnavi.com/?p=10807" ["menu_order"]=> int(0) ["post_type"]=> string(4) "post" ["post_mime_type"]=> string(0) "" ["comment_count"]=> string(1) "0" ["filter"]=> string(3) "raw" }
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