インドでクリーンエネルギーの普及が進む中、三井物産が同国の再生可能エネルギー事業や電動車の部品事業に対し、積極的に投資している。モディ首相が掲げる「2070年までに温室効果ガスの排出実質ゼロ」の目標を意識し、クリーンエネルギー分野でのビジネスチャンス獲得を引き続き模索する。【Atul Ranjan】
日印経済合同委員会会議で、インド事業の概要を説明する三井物産の大久保雅治・インド総代表=9日、インドの首都ニューデリー(NNA撮影)
「1893年にインド進出したころは、インドから日本へ綿を、日本からインドに人力車を輸出するビジネスをしていた。現在、再エネから電動車部品に至るまで、インドで幅広い分野に投資をしている」——。三井物産の大久保雅治・インド総代表は9日、首都ニューデリーで開かれた日印経済合同委員会会議で、同社の事業概要を講演。日印両国から参加した財界人約200人が熱心に耳を傾けた。
大久保総代表が最初に紹介した投資事例は、農業廃棄物からバイオマス燃料を製造するパンジャブ・リニューアブル・エナジー・システムズ(PRESPL、西部ムンバイ)への参画だ。三井物産は同社に約500万米ドル(約6億7,000万円)を投資している。
インドは世界屈指の農業大国。農業廃棄物の野焼きが深刻な大気汚染の主要因の一つになっている。三井物産はPRESPLへの投資が、インドの大気汚染や地球の温暖化など社会課題解決につながると期待する。
PRESPLは今、国内で急拡大するバイオマス燃料の需要に応えているが、いずれは同様のビジネスを国外展開することを視野に入れている。三井物産は今後一層、PRESPLとの提携を強める方針だという。
二つ目に紹介した投資事例は、インフラが整っていない地域で、小型の太陽光発電所から電力を供給するOMCパワー(北部グルガオン)への出資だ。OMCパワーは農村を中心に、携帯電話の基地局や中小企業、商店、学校、家庭に電力を供給。北部ウッタルプラデシュ州と東部ビハール州に約350の発電所を持っている。
このOMCパワーには、三井物産が32.7%、日本の電力大手の中部電力が25%を出資。OMCパワーはPRESPLと同様、国外での事業活動も検討している。
OMCパワーはインフラが整っていない地域で、小型の太陽光発電所から電力を供給している(同社ウェブページより)
■総事業費13.5億ドルの大型事業
三つ目に示したのは大型投資の事例だ。三井物産は22年4月、再エネ大手のリニュー・パワー(グルガオン)と合弁会社を設立し、風力発電所を3カ所(合計の総出力900メガワット)と、蓄電システム(最大100メガワット時)を併設した太陽光発電所(総出力400メガワット)1カ所をインドで建設すると発表した。
この合弁会社には、三井物産が49%、リニュー・パワーが51%を出資。総事業費は13億5,000万米ドルに及ぶ大プロジェクトだ。風力発電所は西部マハラシュトラ州に1カ所、南部カルナタカ州に2カ所、太陽光発電所は西部ラジャスタン州に設置し、23年8月の商業運転開始を目指す。
このプロジェクトは、インド新・再生可能エネルギー省傘下のエネルギー会社ソーラー・エナジー・コーポレーション・オブ・インディア(SECI、ニューデリー)との間で、25年間に及ぶ売電契約を締結済み。従来の再エネ発電は風の状況や日照量により発電量が変わる点が課題だったものの、今回は複数拠点での発電や蓄電技術を通じ、24時間体制の安定供給を約束した。「24時間供給」はSECIとの契約条件にも盛り込んでいる。
■「温暖化ガスゼロに全力」
再エネだけではない。電動車関連の投資も活発だ。
三井物産は21年11月、電動モビリティー向け電池の設計・製造を手がける仏フォーシー・パワーとの資本連携強化を発表。現在、同社に約27%を出資している。
フォーシー・パワーは20年7月、インドで完全子会社を設立。リチウムイオン電池の製造工場をマハラシュトラ州プネで立ち上げ、21年6月から二輪車と三輪車向け電池を生産している。将来的には四輪車やバスにも電池を供給する予定だ。
フォーシー・パワーとは別に、駆動用モーター分野にも投資している。EV用モーターを含む電動パワートレイン(動力機構)を開発・製造する合弁会社テミコ(TEMICO)・インターナショナルへの出資だ。
三井物産は18年4月、台湾の電機大手、東元電機とテミコを設立し、三井物産が40%、東元電機が60%を出資。南部ベンガルール(バンガロール)で建設中の製造工場で、23年4~6月中に電動パワートレインの生産を始める予定だ。工場の建設費など総投資額は約15億円で、初年度は年産11万台を目標にしている。
大久保総代表は日印会議の講演で、紹介した5事例以外にも、グリーン水素やグリーンアンモニア、バイオガスなど、クリーンエネルギー分野でのビジネスチャンスを探し続けていると説明。「インドの明るい未来を築くため、持続可能なビジネスに取り組む。温室効果ガス排出量を70年までに実質ゼロにするインドの目標達成に向け、全力を尽くしたい」と述べた。
三井物産の大久保・インド総代表の講演に約200人が熱心に耳を傾けた=9日、ニューデリー(NNA撮影)
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大久保総代表が最初に紹介した投資事例は、農業廃棄物からバイオマス燃料を製造するパンジャブ・リニューアブル・エナジー・システムズ(PRESPL、西部ムンバイ)への参画だ。三井物産は同社に約500万米ドル(約6億7,000万円)を投資している。
インドは世界屈指の農業大国。農業廃棄物の野焼きが深刻な大気汚染の主要因の一つになっている。三井物産はPRESPLへの投資が、インドの大気汚染や地球の温暖化など社会課題解決につながると期待する。
PRESPLは今、国内で急拡大するバイオマス燃料の需要に応えているが、いずれは同様のビジネスを国外展開することを視野に入れている。三井物産は今後一層、PRESPLとの提携を強める方針だという。
二つ目に紹介した投資事例は、インフラが整っていない地域で、小型の太陽光発電所から電力を供給するOMCパワー(北部グルガオン)への出資だ。OMCパワーは農村を中心に、携帯電話の基地局や中小企業、商店、学校、家庭に電力を供給。北部ウッタルプラデシュ州と東部ビハール州に約350の発電所を持っている。
このOMCパワーには、三井物産が32.7%、日本の電力大手の中部電力が25%を出資。OMCパワーはPRESPLと同様、国外での事業活動も検討している。
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■総事業費13.5億ドルの大型事業
三つ目に示したのは大型投資の事例だ。三井物産は22年4月、再エネ大手のリニュー・パワー(グルガオン)と合弁会社を設立し、風力発電所を3カ所(合計の総出力900メガワット)と、蓄電システム(最大100メガワット時)を併設した太陽光発電所(総出力400メガワット)1カ所をインドで建設すると発表した。
この合弁会社には、三井物産が49%、リニュー・パワーが51%を出資。総事業費は13億5,000万米ドルに及ぶ大プロジェクトだ。風力発電所は西部マハラシュトラ州に1カ所、南部カルナタカ州に2カ所、太陽光発電所は西部ラジャスタン州に設置し、23年8月の商業運転開始を目指す。
このプロジェクトは、インド新・再生可能エネルギー省傘下のエネルギー会社ソーラー・エナジー・コーポレーション・オブ・インディア(SECI、ニューデリー)との間で、25年間に及ぶ売電契約を締結済み。従来の再エネ発電は風の状況や日照量により発電量が変わる点が課題だったものの、今回は複数拠点での発電や蓄電技術を通じ、24時間体制の安定供給を約束した。「24時間供給」はSECIとの契約条件にも盛り込んでいる。
■「温暖化ガスゼロに全力」
再エネだけではない。電動車関連の投資も活発だ。
三井物産は21年11月、電動モビリティー向け電池の設計・製造を手がける仏フォーシー・パワーとの資本連携強化を発表。現在、同社に約27%を出資している。
フォーシー・パワーは20年7月、インドで完全子会社を設立。リチウムイオン電池の製造工場をマハラシュトラ州プネで立ち上げ、21年6月から二輪車と三輪車向け電池を生産している。将来的には四輪車やバスにも電池を供給する予定だ。
フォーシー・パワーとは別に、駆動用モーター分野にも投資している。EV用モーターを含む電動パワートレイン(動力機構)を開発・製造する合弁会社テミコ(TEMICO)・インターナショナルへの出資だ。
三井物産は18年4月、台湾の電機大手、東元電機とテミコを設立し、三井物産が40%、東元電機が60%を出資。南部ベンガルール(バンガロール)で建設中の製造工場で、23年4~6月中に電動パワートレインの生産を始める予定だ。工場の建設費など総投資額は約15億円で、初年度は年産11万台を目標にしている。
大久保総代表は日印会議の講演で、紹介した5事例以外にも、グリーン水素やグリーンアンモニア、バイオガスなど、クリーンエネルギー分野でのビジネスチャンスを探し続けていると説明。「インドの明るい未来を築くため、持続可能なビジネスに取り組む。温室効果ガス排出量を70年までに実質ゼロにするインドの目標達成に向け、全力を尽くしたい」と述べた。
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