中国と日本の観光往来の本格再開を見据え、中国オンライン旅行会社(OTA)大手の携程集団(トリップドットコム・グループ)が日本旅行のPRに本腰を入れている。日本の旅行商品を紹介するライブ配信では、流通取引総額(GMV)が2,300万元(約4億5,500万円)に上った。6月までに「訪日旅行の客足が戻る」とみて、日本のアニメ人気にあやかり「聖地巡礼」などを盛り込んだ商品開発も検討している。【山川冬子、吉野あかね】
トリップドットコムは1日、東京都多摩市のテーマパーク「サンリオピューロランド」でライブ配信を行い、九州の観光地や春におすすめの旅行先などをPRした。
「ついにPCR検査なしでも日本に行けるようになりました!」。日本が中国からの渡航者への水際対策を緩和した1日の夜、トリップドットコムの孫天旭副総裁はライブ配信で日本の旅行商品をPRした。
ライブ配信の会場となった東京都多摩市のテーマパーク「サンリオピューロランド」から、孫氏が同テーマパークの世界観やアクセスの利便性などを紹介。サンリオの人気キャラクター「ハローキティ」も登場し、視聴者にサンリオピューロランドの魅力を伝えた。
ライブ配信では、大阪市のテーマパーク「ユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)」の入場券や、世界文化遺産に登録されている岐阜県白川村の白川郷の日帰りツアーなど日本各地の観光商品もPR。訪日外国人向けの乗り放題切符「JR九州レールパス」や「JR九州ホテル ブラッサム那覇」のホテル予約も特別価格で販売した。
1日のライブ配信の視聴者数は700万人に上り、配信中に紹介した日本旅行商品のうち18商品が完売。通年使える商品が主体で、大阪や京都の宿泊商品を中心に人気が集まった。USJに隣接する「オリエンタルホテル ユニバーサル・シティ」や京都市にある「ホテル京阪 京都八条口」の予約は発売開始から10秒で売り切れたという。日本旅行の人気が依然高いことを印象付けた形だ。
JR九州の広報担当者は「新型コロナウイルスの流行前には中国からの観光客が九州にもたくさん訪れていた。新型コロナ禍の3年の間に新しくなった観光地や新たに運行を始めた新幹線、観光列車などの情報を発信し、九州のファンになってもらうことを期待している」と話した。
■「聖地巡礼」の商品開発も
トリップドットコムによると、日本のアニメやキャラクターに関心の高い「90後(1990年代生まれ)」や「00後(2000年代生まれ)」の会員が増えていることを受け、今後はアニメに登場した実際の場所をファンが訪れる「聖地巡礼」を狙った商品開発にも力を入れる。
中国本土では今月24日から、新海誠監督のアニメ映画最新作「すずめの戸締まり」が上映される。作品は九州の町で暮らす女子高生が主人公で、トリップドットコムは「舞台とされる九州各地への旅行が人気になる」と見込む。
4月には人気バスケットボール漫画「スラムダンク」のアニメ映画「THE FIRST SLAM DUNK」も上映される見通し。“聖地”とされる神奈川県鎌倉市の踏切などを訪れる人も多いと指摘する。
トリップドットコムの会員数は約4億人で、このうち3億人は中国国内の会員。同社は日本の47都道府県の半数以上と連携し、現地の観光情報発信や、地方の観光資源を掘り起こす商品開発なども手がけている。
■水際緩和で高まる訪日意欲
日本は1日、中国本土からの渡航者を対象とする水際対策を緩和した。出国前72時間以内の陰性証明の提示は今後も続けるものの、渡航者全員に義務付けてきた検査をなくし、無作為に抽出するサンプル検査に切り替えた。
日本が先月27日に水際対策の緩和を発表した直後、中国では日本旅行の検索数が急増。トリップドットコムによると、同社の旅行サイトでの日本旅行の検索数は前日比で76%増加した。
訪日意欲が高いことを裏付ける調査結果もある。GMOリサーチが昨年10月末、中国人330人に行った調査では、「近い将来最も行きたい国」として日本が25.8%を占めて首位だった。訪日旅行の検討時期は「23年3月まで」(20.3%)、「23年8月まで」(24.8%)、「23年内」(20.4%)を合わせて6割以上が年内に検討すると答えた。
日本への旅行を計画しているという30代の中国人男性は「新型コロナ前は東京や大阪に3回以上行ったことがある。まだ行ったことのない金沢や長野など、地方にも足を運んで美食を楽しみたい」と観光再開に期待感を示した。
■人手や空路の不足が課題に
一方、急速に回復するインバウンドを取りこぼさないためには、日本側の受け入れ態勢の再構築が急務になる。
特に観光業の人手不足は深刻だ。帝国データバンクの調査(全国1万1,719社対象)によると、今年1月時点で「正社員の人手が不足している」と回答した旅館・ホテルは77.8%で、前年同月から35.9ポイント上昇し、全業種を通じて最も高かった。
地方自治体の関係者は「中国以外のインバウンドが増えているが、人気の観光地では人手不足などを理由に宿泊客に対応しきれていない」と説明。1~3カ月前から予約が埋まっている施設もあるといい、「まだ知られていない観光地をPRし、観光客を分散化する必要がある」と話した。
日本と中国を結ぶ直行便の復活も課題。新型コロナの流行前には花巻(岩手県)や富山、静岡など日本の地方と中国の主要都市を結ぶ直行便が運航されていた。中国との直行便を成田、羽田、関西、中部の4空港に限定する措置は1日に解除されたが、現在も地方空港では運休が続いている。
上海との直行便の運休が続くある県の関係者は「(運休は)県内の観光業界にとって大きな打撃になった。今年の冬季シーズンまでに再開できるように働きかけていきたい」と述べた。
日本政府観光局(JNTO)によると、新型コロナが流行する前の19年に日本を訪問した中国人観光客は過去最多の959万4,394人だった。トリップドットコムは「フライト数が増えて航空券の価格が新型コロナ前の水準に戻れば、日本への観光需要が一気に伸びる」と見込んでいる。
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1日のライブ配信の視聴者数は700万人に上り、配信中に紹介した日本旅行商品のうち18商品が完売。通年使える商品が主体で、大阪や京都の宿泊商品を中心に人気が集まった。USJに隣接する「オリエンタルホテル ユニバーサル・シティ」や京都市にある「ホテル京阪 京都八条口」の予約は発売開始から10秒で売り切れたという。日本旅行の人気が依然高いことを印象付けた形だ。
JR九州の広報担当者は「新型コロナウイルスの流行前には中国からの観光客が九州にもたくさん訪れていた。新型コロナ禍の3年の間に新しくなった観光地や新たに運行を始めた新幹線、観光列車などの情報を発信し、九州のファンになってもらうことを期待している」と話した。
■「聖地巡礼」の商品開発も
トリップドットコムによると、日本のアニメやキャラクターに関心の高い「90後(1990年代生まれ)」や「00後(2000年代生まれ)」の会員が増えていることを受け、今後はアニメに登場した実際の場所をファンが訪れる「聖地巡礼」を狙った商品開発にも力を入れる。
中国本土では今月24日から、新海誠監督のアニメ映画最新作「すずめの戸締まり」が上映される。作品は九州の町で暮らす女子高生が主人公で、トリップドットコムは「舞台とされる九州各地への旅行が人気になる」と見込む。
4月には人気バスケットボール漫画「スラムダンク」のアニメ映画「THE FIRST SLAM DUNK」も上映される見通し。“聖地”とされる神奈川県鎌倉市の踏切などを訪れる人も多いと指摘する。
トリップドットコムの会員数は約4億人で、このうち3億人は中国国内の会員。同社は日本の47都道府県の半数以上と連携し、現地の観光情報発信や、地方の観光資源を掘り起こす商品開発なども手がけている。
■水際緩和で高まる訪日意欲
日本は1日、中国本土からの渡航者を対象とする水際対策を緩和した。出国前72時間以内の陰性証明の提示は今後も続けるものの、渡航者全員に義務付けてきた検査をなくし、無作為に抽出するサンプル検査に切り替えた。
日本が先月27日に水際対策の緩和を発表した直後、中国では日本旅行の検索数が急増。トリップドットコムによると、同社の旅行サイトでの日本旅行の検索数は前日比で76%増加した。
訪日意欲が高いことを裏付ける調査結果もある。GMOリサーチが昨年10月末、中国人330人に行った調査では、「近い将来最も行きたい国」として日本が25.8%を占めて首位だった。訪日旅行の検討時期は「23年3月まで」(20.3%)、「23年8月まで」(24.8%)、「23年内」(20.4%)を合わせて6割以上が年内に検討すると答えた。
日本への旅行を計画しているという30代の中国人男性は「新型コロナ前は東京や大阪に3回以上行ったことがある。まだ行ったことのない金沢や長野など、地方にも足を運んで美食を楽しみたい」と観光再開に期待感を示した。
■人手や空路の不足が課題に
一方、急速に回復するインバウンドを取りこぼさないためには、日本側の受け入れ態勢の再構築が急務になる。
特に観光業の人手不足は深刻だ。帝国データバンクの調査(全国1万1,719社対象)によると、今年1月時点で「正社員の人手が不足している」と回答した旅館・ホテルは77.8%で、前年同月から35.9ポイント上昇し、全業種を通じて最も高かった。
地方自治体の関係者は「中国以外のインバウンドが増えているが、人気の観光地では人手不足などを理由に宿泊客に対応しきれていない」と説明。1~3カ月前から予約が埋まっている施設もあるといい、「まだ知られていない観光地をPRし、観光客を分散化する必要がある」と話した。
日本と中国を結ぶ直行便の復活も課題。新型コロナの流行前には花巻(岩手県)や富山、静岡など日本の地方と中国の主要都市を結ぶ直行便が運航されていた。中国との直行便を成田、羽田、関西、中部の4空港に限定する措置は1日に解除されたが、現在も地方空港では運休が続いている。
上海との直行便の運休が続くある県の関係者は「(運休は)県内の観光業界にとって大きな打撃になった。今年の冬季シーズンまでに再開できるように働きかけていきたい」と述べた。
日本政府観光局(JNTO)によると、新型コロナが流行する前の19年に日本を訪問した中国人観光客は過去最多の959万4,394人だった。トリップドットコムは「フライト数が増えて航空券の価格が新型コロナ前の水準に戻れば、日本への観光需要が一気に伸びる」と見込んでいる。"
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