香港でマグロの輸入販売などを手がけるゼンフーズが、日本から仕入れた鮮魚専門の小売店を香港島・中環(セントラル)に設けた。東京・豊洲市場からその日のうちに直送し、これまでは「おまかせ」のすし店や高級日本料理店でしか取り扱いがなかった希少な魚なども提供する。客とのコミュニケーションを通じて日本の魚の新たな食べ方を提案し、香港の家庭やパーティーの場への浸透を目指す。【菅原真央、蘇子善】
「魚屋 Uoya ZEN」では日替わりで約20種類の魚介類がディスプレーされている=3月29日、中環(NNA撮影)
「ディスプレーの広島産カキを見て興味が湧いた。初めて日本直送の魚が見られてわくわくした」。家族で来店した王さん(30代女性)は、店の印象をこう語った。鄭さん(30代女性)は夫婦で来店し、ハマチとキンメダイの頭を購入。ハマチは焼いて、キンメダイはスープにして子どもに食べさせるといい、「家族で鮮度の高い魚を楽しめるのがうれしい」と笑顔を見せた。
2月下旬にオープンした日本鮮魚専門店「魚屋 Uoya ZEN」は中環と半山(ミッドレベル)を結ぶミッドレベルズ・エスカレーター(ヒルサイド・エスカレーター)沿いに位置する。同エリアを中心に生活や食事をする富裕層などがターゲットで、ゼンフーズの青田大輔社長は「このエリアは当社が魚を卸す『おまかせ』の店が集中しており、高級住宅地のミッドレベルにもつながる場所。出店はこの一角でしか考えておらず、2年間探した」と説明する。
店内には日替わりでディスプレーされた魚のほか、カキやアワビ、クルマエビなど約20種類の魚介類が並ぶ。価格は魚の場合、1尾当たり98~1,080HKドル(約1,700~1万8,400円、3月29日の価格)。店頭で魚を選ぶと、専門の常駐日本人スタッフがその場でさばいてくれる。刺し身の場合は尾頭付きの盛り付けも可能で、パーティー向けなどに売れているという。処理には7~15分ほどかかるが、その様子をスマートフォンで動画に収める客も多い。
立ち席のイートインスペースも設け、店内で販売しているすしや刺し身の盛り合わせ、生ガキなどをその場で食べることができる。魚とペアリングする日本酒やこだわりの調味料もそろえた。
ゼンフーズは2003年に設立し、香港で20年にわたり魚をメインとした飲食店経営や卸販売を行ってきた。小売店の出店は初めてとなる。青田氏は「香港ではすしや刺し身は日常食になっている。すしネタになった状態の魚はよく知られているが、今後は丸ごと1尾の魚がさばかれて刺し身になっていく工程で新たな市場ができていくと考えた」と出店の経緯を語る。
同店は卸売事業での経験を生かしたスピード感と新鮮さが売りだ。豊洲で午前2時ごろ仕入れた魚が当日の午後4時ごろには店頭に並ぶ。空輸はコストがかかるが、これまでのノウハウである程度抑えることができている。青田氏は「日本の地方に届けるよりも速い」と強調する。
魚種の豊富さにも自信がある。売れ筋は北海道など一部地域でしか取れない「トクビレ(ハッカク)」だ。珍しい魚であるにもかかわらず、「北海道で食べた」という香港人客が多いという。青田氏は「香港の消費者はマグロのトロやキンメダイなど脂の乗った魚が好きだが、淡泊な魚や変わった魚、旬の魚などの素材のおいしさを分かってもらうために、バリエーションを増やすようにしている」と説明した。
■「商店街の魚屋」をイメージ
青田氏が目指しているのは、「昔ながらの日本の商店街にあるような魚屋さん」。香港では日本ほど自炊の文化がなく、日本の魚の調理方法が分からないという客も少なくない。同店はさまざまな食べ方を提案するため、客とのコミュニケーションを重視している。
このため必要不可欠なのが、スタッフの教育だ。知識豊富なプロに対して販売する卸売りと違い、小売りで接する客が持つ魚の知識量にはばらつきがある。世界中の海産物を食べ歩いているという「通」な客から知識を増やそうと興味津々で質問を投げかけてくる客まで、いずれの客にも対応できる態勢を整える必要がある。
卸売りでは意識してこなかったファミリー層への対応も新たな挑戦となった。店頭に立つことが多いという澤原隆司・社長室長は「小売りでは子どもが食べられることも大事なポイントとなる。また飲食店などでの加工・調理を経て客に届く卸売りと違い、直接客の口に入るものを提供することになるため、より安全性が求められる」と指摘する。
■店を拠点に事業拡大へ
今後は同店を拠点として、事業の幅を広げていく計画だ。
まずは小売り向けのデリバリーサービスを開始する。このほか、日本のかす漬け店や料理教室との提携、オープン前の時間を活用した店舗での仲卸しなども考えている。イートイン需要が高いことから、座席を設けた店舗の展開も視野に入れる。
青田氏は「いつ来ても変わっていて楽しい、選ぶ楽しみがある、そんな店を作っていきたい」と力を込めた。
店内で買い物を楽しむ人たち=3月29日、中環(NNA撮影)
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2月下旬にオープンした日本鮮魚専門店「魚屋 Uoya ZEN」は中環と半山(ミッドレベル)を結ぶミッドレベルズ・エスカレーター(ヒルサイド・エスカレーター)沿いに位置する。同エリアを中心に生活や食事をする富裕層などがターゲットで、ゼンフーズの青田大輔社長は「このエリアは当社が魚を卸す『おまかせ』の店が集中しており、高級住宅地のミッドレベルにもつながる場所。出店はこの一角でしか考えておらず、2年間探した」と説明する。
店内には日替わりでディスプレーされた魚のほか、カキやアワビ、クルマエビなど約20種類の魚介類が並ぶ。価格は魚の場合、1尾当たり98~1,080HKドル(約1,700~1万8,400円、3月29日の価格)。店頭で魚を選ぶと、専門の常駐日本人スタッフがその場でさばいてくれる。刺し身の場合は尾頭付きの盛り付けも可能で、パーティー向けなどに売れているという。処理には7~15分ほどかかるが、その様子をスマートフォンで動画に収める客も多い。
立ち席のイートインスペースも設け、店内で販売しているすしや刺し身の盛り合わせ、生ガキなどをその場で食べることができる。魚とペアリングする日本酒やこだわりの調味料もそろえた。
ゼンフーズは2003年に設立し、香港で20年にわたり魚をメインとした飲食店経営や卸販売を行ってきた。小売店の出店は初めてとなる。青田氏は「香港ではすしや刺し身は日常食になっている。すしネタになった状態の魚はよく知られているが、今後は丸ごと1尾の魚がさばかれて刺し身になっていく工程で新たな市場ができていくと考えた」と出店の経緯を語る。
同店は卸売事業での経験を生かしたスピード感と新鮮さが売りだ。豊洲で午前2時ごろ仕入れた魚が当日の午後4時ごろには店頭に並ぶ。空輸はコストがかかるが、これまでのノウハウである程度抑えることができている。青田氏は「日本の地方に届けるよりも速い」と強調する。
魚種の豊富さにも自信がある。売れ筋は北海道など一部地域でしか取れない「トクビレ(ハッカク)」だ。珍しい魚であるにもかかわらず、「北海道で食べた」という香港人客が多いという。青田氏は「香港の消費者はマグロのトロやキンメダイなど脂の乗った魚が好きだが、淡泊な魚や変わった魚、旬の魚などの素材のおいしさを分かってもらうために、バリエーションを増やすようにしている」と説明した。
■「商店街の魚屋」をイメージ
青田氏が目指しているのは、「昔ながらの日本の商店街にあるような魚屋さん」。香港では日本ほど自炊の文化がなく、日本の魚の調理方法が分からないという客も少なくない。同店はさまざまな食べ方を提案するため、客とのコミュニケーションを重視している。
このため必要不可欠なのが、スタッフの教育だ。知識豊富なプロに対して販売する卸売りと違い、小売りで接する客が持つ魚の知識量にはばらつきがある。世界中の海産物を食べ歩いているという「通」な客から知識を増やそうと興味津々で質問を投げかけてくる客まで、いずれの客にも対応できる態勢を整える必要がある。
卸売りでは意識してこなかったファミリー層への対応も新たな挑戦となった。店頭に立つことが多いという澤原隆司・社長室長は「小売りでは子どもが食べられることも大事なポイントとなる。また飲食店などでの加工・調理を経て客に届く卸売りと違い、直接客の口に入るものを提供することになるため、より安全性が求められる」と指摘する。
■店を拠点に事業拡大へ
今後は同店を拠点として、事業の幅を広げていく計画だ。
まずは小売り向けのデリバリーサービスを開始する。このほか、日本のかす漬け店や料理教室との提携、オープン前の時間を活用した店舗での仲卸しなども考えている。イートイン需要が高いことから、座席を設けた店舗の展開も視野に入れる。
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